麗紗ちゃんは最狂メンヘラ

吉野かぼす

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最終章 最狂の愛

デュフフフ

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「ここどこだよ? ていうか壁が全部鏡になってるのすげーな」
「何の部屋なのかしら……」

 漢野と千歳は鏡が張り巡らされている部屋に飛ばされていた。

 遊園地のミラーハウスのようなその部屋は、あちこちから視線が反射しておりひどく薄気味悪さがある。

 その部屋の隅の方から、不気味な引き笑いが響いた。

「デュフ……デュフフフフ! まずい……まずいですぞ……地球の方々がそれがしの魅力に狂わされて大変なことになってしまいますぞ……! か、隠れていなくては……!」

「ん? 誰だお前?」
「私達をここに連れてきて、何が目的なのかしら?」

 二人は部屋の隅にいたそれに気付き声を掛ける。

 それ……声の主は平安貴族のように長く伸ばした艶やかな黒い髪をしており、白い無地のドレスらしきものを身に付けていた。

 後ろ姿なので顔は見えないが、細く柔らかな体格からしてまだ幼女であることがわかる。

 すると、その幼女は鈴のような透き通った声を陰気に拗らせて言った。

「デュフフフ!? み、見つかってしまったでござる! そ、それがしの可愛さが地球にも伝染して尊さのパンデミックを引き起こしてしまうでござる! ち、地球の方々! 今すぐそれがしから目を離してくだされーーっ!」

「な、何言ってんだお前……?」
「ええ……」

 幼女は大慌てで自らの顔を両手で覆う。
 あまりに自己肯定感の高い言葉に、二人は困惑せざるを得なかった。

「な、なら……目を離すから出口がどこにあるのか教えて?」

「それは出来ないのですぞ! それがしは我が主からそなたらをここに留めるよう命を受けているのです! ゆえに我が命に代えてもそなたらをここから出す訳にはいかんのです!」

「じゃあ穴が開くぐらい見てあげるわよ……あなたの可愛い顔……!」

「のわーーーっ! そ、そんなことをすればそなたは……そなたは……尊死してしまうのですぞーーっ!」

「ふん……そういうセリフは人が一人でも死んでから言う事ね」
「うおう……」

 顔を覆っている幼女の両手を、無理矢理引き剥がそうとする千歳。

 漢野はそんな千歳を見て驚き、ぽかんと口を開けて硬直した。

 しかし幼女の力はその細腕とは裏腹に力強く、なかなか顔から手が離れない。

「うーん……意外と力が強いわね……漢野ちゃん! ちょっと手伝って!」

「お、おう!?」

 漢野も勢いで千歳に手を貸す。
 するとようやく幼女の顔から両手が離れた。

 あどけなさが残る人形のように美しい顔が露わになる。

 驚くべきことに彼女の目には黒目がなく真っ白だったが、それが不思議と神秘的な雰囲気を醸し出していた。

「し、しまったぁ! 殺すつもりはなかったのですぞ! お許しくだされーっ!」

「あら……かわいいじゃない」
「い、生きていらっしゃる!? な、何ですとぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「そりゃそうだろーよ……」

 なんともない千歳を見て、顎の骨が外れるほど口を開けて驚く幼女。

「……地球の方々がどのくらいお強いのか分からなかったのですが……それがしの想像以上でしたな……地球の方々はなかなかにお強いのですぞ」

「そうよ。地球人を舐めないで頂戴」
「そうだそうだ! え? てかお前宇宙人なのか?」

 漢野がふとその事に気付いて幼女に聞く。
 すると幼女ははっきりと答えた。

「そなたらからすればその通りですな。それがし達から見ればそなたらの方こそ宇宙人でござるが」

「なぁんだってぇ!? て、てことはよ! 当然強い奴もいるってことだよな!」

 漢野は目をきらきらと星のように輝かせて幼女に詰め寄る。

 幼女は若干引きながらも頷く。

「も、もちろんですぞ! それがし達ヘルル族は強者の集まりでござる! ヘルル族一人で一国が、ヘルル族二人で惑星滅ぼせますぞ!」

「そいつぁすげえな! なあお前! 俺と戦ってくれ! 頼む!」

「なぬっ……! それがしに決闘を申し込むとは……!」

「ちょっと漢野ちゃん……?」

 戦いの道を突き進む漢野を止めようとする千歳だったが、この漢が、止まる筈もなかった。

「そなたはそれがしの美貌にも一切揺るがぬところを見るになかなか骨があると見えますぞ……! それがしの相手として申し分なし! その勝負、受けて立ちましょうぞ!」

「ありがてえ! お前ってやつは最高だよ!」

「知れたことですぞ……! 尊き闘いの前に、名を聞いてもよろしいですかな? それがしの名はナルミーユ。すべての者に慈しまれすべての者を慈しむ者!」

「いいぜぇ……! 俺の名前は漢野力也……! 生涯を懸けて闘いを楽しむ漢だ!」

「カンノ……リキヤ……いい響きですな! それでは参りますぞ!」
「おう! 全力で行くぜぇ!」

「え、ええ……」

 神聖な闘いが幕を開ける。
 千歳を置いてけぼりにして……。



「どうなってんだよここ……!」
「部屋を移動しようとしたら戻されるなんて……! どうしようもないじゃない……!」

「困ったものだな……意地でも俺達をここから出さないつもりか」

 右近とつみれ、そして親睦会の出席を断っていたが船を見に来たせいで巻き込まれた晴衣。

 彼らは今、部屋の中央から部屋の端へ移動しようとしてもすぐに瞬間移動で戻されるという悪循環に陥っていた。

「多分俺達だけじゃなくみんなもここに移動させられてる可能性があるな……」

「だとしたらはやくここを抜け出して合流しないといけないわね……」

「でもどうやってこの能力から抜け出すんだ? 特色者本体も見つからないんじゃどうしようもできないぞ……」

「そこなのよね……どうしたら特色者が出てきてくれるか考えないと……」
「フッ、その必要はない」

「えっ? 晴衣さん?」

 頭を抱える二人に、晴衣が言う。

「今こそが、我が力を使う時ッ!」





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