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憧れの人

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「私の憧れはレティーシャさまですわ」
 憧れという言葉に反応して、母さまが信者っぷりを見せてくる。
「あらありがとう。私はそうねえ、やっぱりリーゼさまかしら。エルトリアさまも捨てがたいわね」
 レティーシャさまもレティーシャさまで、百合百合モードである。
 エルトリアさまは知らないが、リーゼさまの噂なら聞いたことがある。
 辺境伯家ゆかりの方で『白銀の雷帝』という二つ名持ちの魔術師である。それまで女性魔術師の戦闘能力は低いとされていたのを、その実力で覆した人らしい。
 二つ名通り、雷魔法を得意とする銀髪の美女らしいのだが、美女には逸話がつきものである。男尊女卑思想が強いどこぞの令息が、その活躍を妬んで学生時代のリーゼさまに不埒な真似をしようとして鼻っ柱をへし折られたという話が、御婦人方の間では英雄譚のように語られている。実力もないのに上から目線でゴリ押してくるような男には、みんな鬱憤が溜まっているのだろう。
 この話、慣用句的な意味でも、物理的な意味でも鼻がへし折られたらしい。
 何それ恐い。


「リーゼさまは相変わらず御活躍ですよねえ」
 母さまも、リーゼさまに好意的である……父さまに何か不満があるのだろうか。
 というか、リーゼさまの御活躍とは一体。今日もどこかで男の鼻っ柱をへし折っているのだろうか。
「そうなのよ、つい先日もお願いしていた魔獣を仕留めてきてくださって」
 直々に届けてくださったのよ、というレティーシャさまの目は、母さまがレティーシャさまを見る目と同じく、熱が籠っている。
「魔獣、ですか?」
 男ではなく魔獣をぶっ飛ばしているようだ。辺境なら魔獣のいる森があるけど、魔獣狩りがお仕事なのだろうか。
「ええ、他の冒険者が捕獲してきたものだとぐちゃぐちゃになっていることも多いのに、リーゼさまが仕留めた魔獣はとても状態が良くて」
 レティーシャさまは、魔獣の研究をしているので、研究素材として仕入れているのだろう。
「ちょっと見てみる? 保存魔法が掛かってるからほやほやよ」
 レティーシャさまが、いそいそと立ち上がる。
 死にたてほやほや、ということだろうか。
「え、待って」
 そんなものを見たくない私は、ひいいっとなる。
 レティーシャさま的には『いいもの見せてあげる』という親切心なのだろう。
 でも、新鮮な魔獣の死体を見ても、五歳女児は喜ばないからね!?


「レティーシャさま、デイジーはまだ五歳ですから、それはちょっと」
 母さまが、やんわりと止めに入る。
 そうですよレティーシャさま、そう言うのは15Rですよ。それにしてもレティーシャ教の信者である母さまがレティーシャさまに物申すなんて、私、愛されてる?
「そう? フレイズは平気だけど? 最終処理で燃やすのも手伝ってくれるし」
 四歳のフレイズ嬢に何させてんのレティーシャさま。火力は充分かもしれないけど。魔獣研究者の母を持っていれば、平気になるのかもしれないけど。
 私は普通の令嬢なので無理です!
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