ぼく、パンダ

山城木緑

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4.ゆるさねえ

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「すげえ怒られるんやろうな、俺」

「そりゃ怒られるでしょう。どうするんすか。すんごい金額ですよ。プロ野球のスター選手並みの。早坂さんが百年働いても無理な金額ですよ」

 祐吾は苦笑いを浮かべた。祐吾を責めた佐々木だったが、その表情は穏やかだった。四六時中泣いているが、動物を心から愛する後輩を祐吾は心強く思った。

「でも、独りで暮らしていけるかな。それが心配です」

「そうだな、ここからはシェンシェン次第や。でも、野生では今回みたいな子育て放棄はざらにある。それでも生きていかなあかんねや。そう考えたらうちでのびのび育ってほしいと思っとったけど、ここまで人間を怖がってんなら、ここで逞しく独りの方がええと思う」

 祐吾と佐々木は地面に片膝をついて、シェンシェンを撫でた。シェンシェンは交互に二人を見上げている。故郷に戻ったからなのか、やっと慣れてきたのか、こんなに目を見てくれると離れるのがつらくなってくる。

「元気でいるんだぞ。寂しくなったら、日本海泳いで大阪まで来いよ」

 佐々木がなに言ってるんすかと、小突きながらまた目に涙を浮かべている。
 祐吾がリードを外すと、シェンシェンは勢いよく竹林の中へ駆けていった。
 祐吾と佐々木はしばらくシェンシェンが走り去った方を静かに見守っていた。草を掻き分ける音が聞こえなくなるまで。

「これからどうするんすか。あたし、園によう帰らないです」

「佐々木……実は俺もこれからのことはあんま考えてへん。今な、ことの重大さに気付いたところや」

 二人して静かな山の中で大声を出して笑った。竹の伸びるその先、空の彼方まで笑い声は上がっていった。

「……ほな、いこか」

「……はい」

 二人が踵を返して山を降りようとしたその時だった。

『キャン、キャンキャンキャンキャンキャンキャン。キャンキャンキャン』

「シェンシェンだ」

 佐々木が振り返って嬉しそうに鳴き声のほうを見る。祐吾は耳を澄ませていた。

「遊んでるんですかね?」

「しっ。ちょっと静かにしてろ」

 祐吾は佐々木の会話を止めて、またシェンシェンの鳴き声を待った。

『キャン。キャンキャンキャン。キャンキャンキャンキャンキャン。キャンキャン』

 祐吾は身体を反転させた。絡みつく雑草を避け、佐々木の手を引っ張った。

「……ちがう。ちがうぞ、佐々木。俺らを呼んでる。シェンシェンが俺らを呼んでんだ。行くぞ」
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