ぼく、パンダ

山城木緑

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12.ありがとう

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 前日まで降っていた雪が姿を消し、うそのように暖かな日となった。
 パンダ舎を囲むように花束が添えられていた。

「うちのお客さんは世界一だよ。シェンシェンも、そして早坂さんのこともちゃんと見てくれていたんだ」

 木下は誰に言うともなく、空を見上げながら呟いた。
 堂ヶ芝動物園は誇り高き飼育員、早坂祐吾を失った。それでも祐吾が望んだように堂ヶ芝動物園は明るさを保った。花束が寄せられたパンダ舎の周りには「早坂飼育員、ありがとう」と書かれたアーチが掲げられ、シェンシェンに顔を近づけて満面の笑みを浮かべる祐吾の写真が飾られていた。

 佐々木は祐吾と会えなくなった日以降、周囲の心配をよそに淡々と毎日の仕事をこなしていた。
 祐吾に言われた通り、面倒な掃除を丁寧にこなすようになった。
 掃いているうちに表層の土がふん尿で汚れを溜めているのにやっと気付いた。今日はその土を入れ替える予定にしている。

「シェンシェン、今日はねぇ、ふかふかの土に入れ替えるからちょっと狭いとこ入っといてもらうんだ。だいじょぶ?」

 ワウッとシェンシェンが吠えた。嬉しそうにくるくると回った。
 小型のショベルカーが土を削って積み上げていく。飼育舎でシェンシェンの相手をしながら、土が入れ替わるのを待った。
 昼を過ぎた頃、作業員がノックして入ってきた。

「すんません、もう土入れてってんねんけど、これ……ほんまに埋めてええんやろか?」

 はて? 佐々木は何だろうと扉を開け、作業員が指さす足もとを見た。

「あんた、佐々木さんやろ。あんた宛てや」

 足もとには土が一掃された岩盤が広がっている。その大きな岩を三つほど使って、そのメッセージは描かれていた。

『佐々木へ
やっとこさ土を入れ替えおったな。今、何年経ってんねや? 何ヵ月か? 何ヵ月やったら、褒めたるわ。シェンシェンを、動物たちを頼んだぞ』

「このメッセージ、シェンシェンを見とった飼育員さんやろ? なんか、ええなあ」

作業員が隣で小さく言い、佐々木は小さく頷いた。

「たった一ヶ月っすよ…………偉いでしょ」
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