ホラ貝

すぷふら

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プロローグ

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 今はかつて未来と呼ばれた時代、たくさんの人が一度は夢見たあの時代。産業革命から数百年が経つと世界の産業はこんなにも発展し、人間はこんなにも弱く小さくなっていく。現代人はこのどうしようもない皮肉に押し潰されそうになりながら生活しているのだから、そこかしこにいるギャハハと笑う若者もたまには褒めてやらねばならない。

 3年前、俗に言うタイムマシーンが完成した。あなたも知らないとは言うまい。時代を過去へ未来へ自由に行き来できる、魔法のような機械だ。しかし実は今の技術ではそこまでたどり着けていない。様々な漫画や小説で言われてきた通り、未来というのは不安定なのである。つまり、3年前できたそのタイムマシーンは―過去にしか行けないのだ。

 とはいえ、完成当初それは夢の機械に変わりなかった。日本政府と自分の利益のためなら何でもすると噂の大手企業「モシュコ」が手を組み発案から約10年で完成させたタイムマシーンは風の知らせで公表前から話題を呼び、公式に完成が発表されると報道や関連グッズにより世間の期待が加速して、社会現象にまでなった。

その3年前の好印象を一転させたのは、それからおよそ1年後の「実用に向けての規則等」の発表だった。
多くのメディアで発信されたこの文書。冒頭ではまず、私たちが過去に行くのにかかる値段、タイムマシーンを利用できる施設、その他挨拶や開発に至った経緯等が記してあった。それはそれぞれ、海外旅行より少し高価な値段で、また世界各地に点在しており、利用を待ちに待った富裕層の笑顔をいっそう醜くさせるようで――期待を上回っていると多くの人が感じていた。
しかし読み進めていくうちに人々は絶望していくことになる。

「四、注意事項
なおこのサービスをご利用頂くにあたって安全上の理由によりいくつか制限を設けさせて頂きましたので、厳守頂きますようお願い申し上げます。

・政府により保護された時間域への侵入は禁止します。

・なお政府による保護とは、過去が変えられた際にも影響されない、時間という概念がない特別な空間において歴史に関する書類を保管し、それに基づいた調査、歴史維持、現代維持を意味します。 

・本サービスの利用には、歴史的事実の時間域及び政府により保護された時間域へ侵入した際の強制的罰則への同意が不可欠です。」


「五、罰則について
・無賃タイムリープ、従業員への妨害、またはこちら側が違反とみなした行為につきましては罰金もしくは懲役刑が科されます。

・強制的罰則は、政府により保護された時間域へ侵入した者のみに発生する罰則で、本社の提携するにより施行されます。この際、本社は利用者の生命においても責任を負いかねます。」

言い訳のような文章の最後を締めくくった一言がついに多くの人の、いや、ほとんど全員の神経を逆撫でする事態に発展した。

「七、おわりに
ご覧頂いたように本サービスには多くの制限がございますが、みなさまには十分に楽しんでいただけるよう一般文化については規制が緩くなっております。快適な時間の旅をお楽しみください。
モシュコ」

 始めのうちは、この文書の真意を解せない人もいないことはなかった。ある認識を世界に浸透させたのは、数人のSNSでの投稿だった。

「つまり、あれだろ。大事な(大事だとされている?)歴史はどんなことをしても守り抜くけど、おまえら庶民の過去なんてどうでもいいから自由にしろよってことだろ。どんなに酷いことなったとしてもモシュコも政府も知らないよってことだろ。」

「この罰則専門企業ってやつ?ヤバいらしいよ!調べてみたら拷問に近いことも報酬さえ貰えればやるし、タイムマシーンと手を組んだからには法的に裁かれることもないみたい…」

「酷すぎる。楽しみにしてたのに、制限きつすぎて快適な時間の旅なんかじゃないじゃん。お金の無駄でしかない。」

この年にあるコメンテーターが言った、「一人の人間の歴史と価値を否定する機械」という言葉は流行語として年末に何度も取り沙汰された。
 これが、タイムマシーンが夢の機械から批判の的へ変身した経緯である。



 タイムマシーンに関する騒動から1年。私は1年前とほとんど変わらない落ち着いた生活を送っていた。タイムマシーンという言葉が自分の口から出たこともないのに、ある大きな計画に組み込まれていることも知らずに。 
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