法螺貝

すぷふら

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第2話

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「ねぇ、こんな話ありえる?訴えられるかな?うっ…なんでなのよ。なんで私…」

人は、意外と30代になっても、嫌なことがあるとバカみたいに泣くものだ。

「まぁまぁ、落ち着いて。弁護士紹介しようか?アンタの会社に勝てる弁護士なんかこの国にはいなさそうだけどさ。」

幼なじみの三花は、伊達に私の友だちをこう30年近くやっている訳じゃない。的確に、私を慰めてくれている。三花との通話が、私が生きる意味といったって過言ではないが、気持ち悪がられるので秘密にしている。


「だってタイムマシーンって、あの、タイムマシーンだよ?あんなの開発されなきゃ良かったのに。」

「やめな、仮にもアンタの会社でしょうよ。盗聴でもされてみ。社会的に抹殺されるよ?」

そう、私の就職した会社はとんでもないバケモノグループなのである。「モシュコ」は国内屈指の大手企業で、良い意味ではない話題を呼んでいるタイムマシーンの開発元である。政府が開発を始めるに当たって、最初に候補に上がったのがモシュコだったという事実だけでも、どれほど大きな会社か十分に分かって頂けるだろう。
モシュコは自動車産業、IT分野、食品化学、不動産等々とにかく何にでも手を出すうえに全てにおいて成功するので、メディアでは雑食だの百獣の王だの勝手な言われようだ。


私はその中の不動産を操る部門のビルに8年前に晴れて初出社した。そこそこの進学校を、高校大学とこつこつ単位を貯めて卒業したら、人並みの苦労はしたが案外簡単に内定が決まった。日本はいつまでたっても、私のようなロボットというか奴隷のような人間を好んでいる。地道に努力をし、これと言って良いところはないが悪いところだって無い、仕事をこなせる「The 普通」をさがしているんだ。普通に生きることは十分にすごいことだって、皆言いたいのかもしれない。

「ってか最近モシュコおかしくない?熱々大陸で取り上げられてたスケジュールプランナーの人いるじゃん?」

「あぁ、助六さん?」

「あ、その人。あの人も何か最近休業中だって言うじゃん。なにか関係あるの?」

助六さんはここ数年で急成長している職業、スケジュールプランナーの第一人者で、多くの大手企業のスケジュール管理を徹底的にこなしてきた人物だ。タイムマシーン計画の開始でモシュコ専任になり、完成発表後に突然休業を宣言した。人々は助六さんがこの騒動の責任をとって自粛しているのか、もしくは挽回を狙っているのだろうと噂した。
「助六さんはね…なんか社内でも触れないのが暗黙のルールになってるって感じかな。よく分からないの。」
ふーん、と三花は気のない返事をした。

ところでそろそろ、何がこんなにタイムマシーンの評判を下げたのか、話さねばなるまい。
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