狼少年と夏物語

Kamishiro Dai

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狼少年と夏物語

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俺は大神結哉(おおがみゆいや)。高校2年生だ。夏休み、俺は弟たちと祖父母の家に来ていた。俺には近所に住む小日向夏希(こひなたなつき)という幼馴染みがいる。毎年の如く俺と夏希は神社で行われている祭りに行く約束をしていた。今年は俺が帰る前日のようだ。

数日前、俺が縁側でアイスを食べていると道路側から柵の上に顔を出した夏希がこっちを見てきた。
「ど、どうした。夏希?」
「アイス!」
「......同じのでいい?」
「うん!」
俺が冷凍庫からアイスを取って戻ってくると、夏希は縁側に座っていた。
「ありがとー。」
そう言うとすぐに夏希はアイスを食べ出した。そして思い出したかのように、
「あ、そうだ。夏祭り、行くよね?」
と言ってきた。
「もちろん。」
弟たちはじいちゃんたちが連れてってくれるので、俺は夏希と2人で行く。
「チャリでいいよね?」
「あー、うん。」
ほんとは浴衣で来て欲しい。でも、まあ、言えないんだよな、そういうこと。今年もチャリで祭りか...。
「...待て。思っていることは言わなきゃわかんないぞ?狼。」
狼。と夏希がつけたのは、自分に嘘をつく、つまり自分に対して狼少年になっている、といいたいからである。...やっぱり夏希は誤魔化せない。
「浴衣で、来て欲しい、です。」
「仕方ないなー。結哉のために浴衣を来て行ってやろうじゃないかぁ!じゃ、歩きね。」
「おう。」
という会話の末、俺と夏希は今年も祭りに行くのだった。

そして当日。
「遅い!」
おかしい。まだ待ち合わせ5分前だぞ...。
「はいはい、ごめんなさい。」
なぜか夏希はどや顔だ。...理解できない。
いや、楽しみでニヤついてるだけだな...。
「じゃ、行こっか!」
そう言って歩き出した。

神社へは夏希の家から20分くらいで着く。
「食い荒らしに行くぞぉー!」
俺が階段を上り終える前に夏希が走り出した。
「あ、おい...待て、馬鹿。」
「馬鹿ゆーな!アホ結哉!」
奢らせるくせに上からだな。食い意地張りすぎだろ。

「うーんと、まずは、暑いからかき氷かな。もちろんブルーハワイで。」
「...はい。」
やっぱり俺の奢りかよ。買いに行く気もないのかよ。
夏希のブルーハワイと、俺のメロンを持って夏希の元へ戻った。
「おー!ありがとー、やっぱこれだよねー!」
何を語っているんだ、夏希は。頭が痛くなりそうなくらいのペースで食べる夏希をぼーっと眺めていると、
「メロンいただきぃ!」
夏希が大きめの一口を取っていった。食欲、怖い。それからも、焼きそば、リンゴ飴、綿菓子などを食べた(夏希が)。射的や輪投げもした。そしてその景品のおやつとかも食べた(夏希が)。やっと落ち着くと、花火が上がるまであと10分ほどとなっていた。
「そろそろ行くか?いつもの花火のとこ。」
「んー、待って!これだけは食べさせて!」
「...待ってるから、詰まらせるなよ。」
30秒もかからず、夏希はもんじゃ1パックを平らげた。
「ん!ふぉっふぇー(おっけー)!」
...まだ口に入ってるけどな。

移動中またリンゴ飴を買った。
「何個目だよ、それ。」
「いいじゃん。可愛いし、美味しいし」
拗ねるなよ、俺が買ってやったんだから。
「それに、ゆ............か......。」
「え?」
「結哉が、初めて買ってくれたやつだから。」
そこまで覚えてたのかよ。突然可愛く見えてきたんだけど、いや、突然でもないのかもしれない。とりあえず、神がいる。ここに天使がいるっ!!!(矛盾)
「...花火だっ!」
「おー、今年もすげーな。」
「ね、ほんと!」
言わなきゃ。伝えなきゃ、今年こそは。
「また...。」
夏希が花火の方を向いたまま、口を開いた。
「...何か言いたそうだね?」
ほんと、誤魔化せない。
「図星、聞きたい?」
「結哉が言いたいなら。」
なんだよ、それ。他人事だと思いやがって。俺はばれない程度に深呼吸をして夏希の方を向いた。
「...夏希。」
「ん?」
夏希は顔を俺の方に向けた。
「好きだ。」
夏希は目を見開いた。相当驚いてるな、これ。
「え、え?」
「俺は、夏希が、好きだ。」
「え、」
「幼馴染みとか友達とかじゃなくて、恋愛的な意味で、夏希が好きだ。」
「......ほぁ。」
勇気を出していった返事が「ほぁ」かよ。なんか、馬鹿みたいだ、俺。自然と笑みがこぼれた。夏希はアホみたいな顔してキョトンとしている。
「ほら、俺は伝えたから。返事、言ってよ。俺に。」
「え、うぁ、うぇ?えっと、あの...うぅ!?」
やばい、天然でこれはツボる。
「えっ、あーっと、その、い、いつから?」
夏希がやっと絞り出して言ってきた。
「いつからだろ。ずーっと、前からだな。」
「と、どこが?」
聞くまでもない。当たり前に
「可愛いから。」
だろ。躊躇もなく俺が言うと、夏希の顔が耳まで赤くなった。そういうところも可愛い。
「あ、アホ結哉っ...!」
照れ隠しのツンデレ、そこも可愛い。
分かっちゃうんだよ。お前の性格とか、行動とか。
今のツンデレは夏希から「yes」をもらったも同然てことも。でも、
「返事は?言わなきゃわかんないぞ?」
「...っ!私だって、結哉が好きだよ!ずっと、前から!」
花火はもうクライマックスのようだ。夏希の顔が鮮やかに彩られている。
「...綺麗。」
無意識で呟いた。
「え、」
「え、あ、い、いや。花火ね?花火。クライマックス凄いなて。」
慌てて取り繕うと、夏希が笑いながら、
「アホ。」
「うるせ。」
花火じゃなく、夏希が赤くなっていた。

翌日、冷静になると恥ずかしくなる。そんなものなのだろう。そして、俺が帰る日がやってきた。夏希がチャリで走ってきた。
「結哉!」
「夏希!」
夏希の行きが整うのを待って、俺は一言、
「今度、こっち来いよ。」
「うん。行く。」
「来たこと無かったよな。」
「うん。」
「まあ、まだ先だけど、卒業したら独り暮らし始めるし。」
「そこは、2人じゃないの?」
意味を理解...。
「...馬鹿。」
「はぁ!?」
「まあ、待ってるからな。」
「うん!」
「じゃ。」
「うん、じゃあね。」
夏希との会話を終え、俺は祖父が運転する軽トラの助手席に乗り込んだ。

fine.
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