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第18話:3年1組 心堂 凰陽(4)

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ひとしきりスマホの機能でワイワイした後で、賽原は心堂会長の家が今どういったことになっているか、ネットで検索することにした。

「え~とそれでは今から調べることにするけど、どのワードで検索かければいいか・・・」

「ここはやっぱり、心堂会長の家がやってる会社名にするのはどうだろうか。」

魅守部長の提案で、賽原は「おっ!」と唸った。

「それがいいですね!心堂さん、会社名なんていうんですか?」

「“心堂製薬”です。」

心堂会長から会社名を聞き出し、賽原は〇ーグル先生の検索バナーを指でタップする。

「早っ!!いきなしトップに出てきましたよ!」

「当たり前ですっ。我が国の国民の健康を一挙に引き受ける製薬会社なのですから!」

心堂会長、製薬会社の御令嬢なんだぁ・・・

確かにいいトコの子ではあるわな。

僕が感心するのを余所に、どうも画面と睨み合う賽原の顔が浮かない。

「賽原さん・・・どったの?」

「みんな・・・心堂さんの会社、潰れてた・・・」

「「「えええええええええええええええええ!!?」」」」

三人とも、一斉に驚愕した。

「つっ、潰れたって、どういうことだよ!?」

「倒産してしまったのか!?」

「そ・・・そんな・・・う、ウソよ・・・」

心堂会長は、口元を押さえて、膝から崩れ落ちた。

「あっ、ゴメンナサイ。名称変更しただけだった・・・」

「「「え・・・?」」」

どうやら賽原の早とちりだったらしく、僕達は安心したあまりヘナヘナと座り込んだ。

「賽原よぉ~縁起でもないこと言うじゃねぇよ~!」

「いやぁ~失敬っ!検索結果で“他社と合併”とかなんとかあったからてっきり潰れてるもんだと・・・あがっ!?」

賽原の胸倉を、魅守部長が真顔で掴んで、まるで人形を扱うように持ち上げて、ぐわんぐわん揺らし始めた。」

「る・な・くぅ~ん?今度相談者のメンタル折るようなことぬかしたら、どうなると思う~?」

「どっ、どうなると申すので、しょう・・・?」

「ずっと科学のコンクールに出したかった人間レールガンのモニターやってもらうからね~♪」

それ撃った瞬間賽原の肉体は灰塵と化すんじゃね?

魅守部長の鬼のような宣告によって、賽原の精神のブレーカーは見事にショートしたみたいだ。

何故か笑いながら白目を剥いて気絶する賽原を、魅守部長はぞんざいに床に放り投げた。

「それで、心堂会長の家の会社の今の会社の状況は?縁人君、ちょっと流那君のスマホを拾って見てくれ。」

「はっ・・・はい!!ん~っと、“心堂製薬は、平成に入ると数多くの健康系の会社と合併し、巨大化。名称をSHG(Shindo Health for future Group)に変更。医薬品のみならず、医療機器、健康食品、スポーツクラブ事業等、国民の健康福祉に幅広く貢献”って書いてます。」

心堂会長は、とめどなく感動しているように見えた。

まさか自分の家がやってた会社が、ここまで大きく、そして活躍しているなんて夢にも思わなかったのだ。

「あっ、なんか今の代表の名前も書いてます。心堂しんどう 澪彦みおひこ会長・・・」

「え・・・」

代表者の名前を聞いた途端、心堂会長は、口を半開きにしたまま固まってしまった。

「心堂会長?」

「ミオ・・・」

「知ってるんですか?」

「わたくしの・・・弟、です・・・」

「「っっっ!?」」

僕と魅守部長も驚きを隠せなかった。

心堂会長に最も近い続柄の家族が、まだ存命していたとは・・・

「ミオは身体が小さくて、よくわたくしの背中にピタッとくっついて離れない子でした・・・そうなのですね、あの子、立派に家を継いでくれたのですね・・・」

立派になった弟を知り、心堂会長は感極まったように見えた。

僕は会社のHPから、澪彦さんの写真をさらって見せた。

「こ、これが、今の弟さんです。」

「・・・・・・・。」

「心堂、会長・・・?」

「フフッ、なんだか不思議ですね。」

「え?」

「こんなにシワだらけになったお顔なのに、すごく面影が残ってて、あの頃と変わらないなんて・・・」

目元と潤々とさせてスマホの画面を指でなぞる心堂会長に、こっちまで目頭が熱くなってしまった。

「会いたいなぁ・・・」

そう呟く心堂会長を見て、僕はを見せるため、急いでスマホを取り上げた。

「なっ、何を・・・!?」

「ちょっと待ってくださいっ。確か・・・あっ!!あった。」

「どうしたのだ、縁人君?」

「明日からオープンする大規模健康施設の除幕式に、心堂会長の弟さん、代表として来るみたいですよ!!ちょうど土曜だから、みんなで見に行きましょうよ!?」

明るい表情で顔を上げた心堂会長だったが、すぐにまた俯いてしまった。

「それは嬉しいご提案ですね。でも、ごめんなさい。わたくしには、できません。」

「どうしてですか!?」

「わたくしは死んでから、一度も学校の外から出られた試しがないのです。ですから、ご一緒に行くことは・・・」

そうだった。

心堂会長は、自分が死んでから七十年以上も、学校の外から出ることができなかった。

だから、今の弟の顔を見ることなんて・・・

「そんなの大丈夫ですよ!」

二人して落ち込んでいるところ、魅守部長が胸を拳でポン!っと叩きながら声高らかに言ってみせた。

「私達の手にかかれば、心堂会長を学校の外に出すことなんて容易いですよ!!」

「それは本当ですか、魅守部長!?」

「私を誰だと思ってるんだ?」

「暴力脳筋霊感ノッポJK。」

「なっ!?縁人君!それはあまりにもひどすぎるだろ!?」

「本当のことだから?」

「何だと貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

取っ組み合いをおっぱじめる僕達を見て、心堂会長は口に手を添えながらまた微笑んだ。

「なんだかあなたたちを見てると“何でも大丈夫”って思えてきますね。分かりました。でしたら、明日のことは是非あなたたちにお任せしたいと思います。」

心堂会長が了承してくれて、僕と魅守部長は「やったー!!」と大声で喜んだ。

「私も何故だか、“何が合っても問題ない”って思えてきたぞ!!」

「そうですねっ。」

「これで謝礼まで、大幅にリードしたぞぉ~」

「アンタの脳みそはそれしか詰まってないのか!?」

心堂会長が「何のことですか?」と聞いてきたので、僕はあたふたしながら「何でもないです!!」と誤魔化した。

相変わらず前途多難な気もするが、僕も明日は、大変有意義な休日になりそうだとなんとなくだが思った。
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