魔女の子、異端審問官になる。

ハニィビィ=さくらんぼ

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第2章:異端審問官の学び舎

44:弾ける笑顔

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 感情がなく、突き刺すようなリリーの目に睨まれ、エディスはたじろぐ。

(このガキ、なんだ?とても神に身を捧げるヤツには見えない・・・。)

 リリーの放つ言い様がない威圧感に、エディスは恐怖に似た違和感を覚えた。

「おっ、大人を下に見やがって!糞尿ぶちまけて後悔しちまえ!!」

 怒りで虚勢を張り、エディスは毒犬たちにリリーを噛み殺すよう仕掛けてきた。

 壁を駆けて滞空するリリーに迫る毒犬たち。

 リリーは両サイドから襲ってきた犬二匹の脇腹を、身体を捻ってダガーナイフで斬りつけ着地した。

 リリーの攻撃に『キャウン!!』と悲鳴を上げた犬だったが、すぐに立て直して牙を剥いて飛び掛かってきた。

 リリーは地面を滑るように飛び、ダガーを構えてエディスに突撃する。

「ちっ・・・!!」

 エディスがリリーに手を向けると、リリーの後ろにいた犬たちが猛スピードで戻ってきてエディスをガードする。

 リリーは咄嗟に空中で一回転して後方に下がった。

「あたしの犬どもはあたしの命令だったら何でも聞くのさ!!どう近づくつもりだい!?」

 エディスはそう豪語するが、守りに入った犬たちの腱から血が噴き出ている。

「操縦術で動物の出せる力の限界まで無理やり出させてるんだ。」

『グルルルルルルルルルルルルル・・・!!』

『ガルルルルルルルルルルルルル・・・!!』

 牙を剥いてリリーを威嚇するエディスの犬たちであったが、バフォメルマウスで犬の言葉が解るリリーには聞こえる。

 苦痛に満ちた彼らの声が

 ❝足が痛い。❞

 ❝身体中が苦しい。❞

 ❝群れに戻りたい。❞

 ❝もうこんな奴の言うことなんか聞きたくない。❞

 ❝お願いだから森に帰らせて。❞

 ❝助けて・・・。❞

「・・・・・・サクァヌエル。」

『何だいリリー?』

「さっき切った子たちから操獣術の解き方を調べて。ボクにはまだできないから。」

『君が望むなら。リリーは?』

試す!!」

 ステップで身体をほぐし、リリーはダガーを構えて再度エディスにアタックを試みる。

「もうちょっと頑張って!!今助けるから!!」

 エディスを守る犬の猛攻を回避しつつ、リリーはエディスの隙を探った。

「アイツ・・・もう魔女とあんなに戦えて・・・。」

 リリーとエディスの戦いを安全なところから覗き見ていたディアナは、入学して二日目で魔女と渡り合っているリリーに目を奪われる。

「だっ、だけどこれで、二人は隙だらけになりましたわね。こっ、この隙に・・・。」

 二人が戦いに夢中になっているのチャンスに、ディアナは当初予定していたリリーとエディスの同時殺害を実行に移すことにした。

「まっ、まずは・・・毒犬使いの魔女を・・・。」

 エディスを先に殺せば、リリーは混乱するか安堵するはず。

 そこを突いてリリーを殺せばいいと考えたディアナは、エディスにじりじりと近づく。

 翼を展開し突進すればエディスの首をハンドクローで突けるくらいの距離まで近づいた。

「よっ、よし!いっ、今・・・」

「奇襲は感心しないな。」

 リリーと交戦していたはずのエディスが犬十頭全てを集中させ、ディアナのところまで跳躍した。

「ばぁっ!!」

「ひっ・・・!?!?」

 目の前まで来たエディスに驚き、ディアナはその場で腰を抜かした。

「まっず・・・!!ディアナ!!!」

 ディアナを助けに行きたいリリーだったが、犬たちに邪魔され近づくことができない。

「どうした?殺してみろよ?ん?」

「あっ・・・あっ・・・。」

 エディスの気迫に圧倒されたディアナは足の力を失ってしまい、立つことができない。

「なんだぁ?声がひっくり返っちまってるじゃないか!全然度胸足りてないじゃねぇかお前!!」

 悦に浸った邪悪な笑みで煽ってくるエディスに、ディアナの下半身は弛緩し、股間を濡らす。

「やっば!!ちびってるよ!!いいお家に生まれたお嬢様が勿体ないでちゅね~?」

 ゲラゲラと笑って、エディスはディアナの顔の前で片足を上げる。

 上げられるエディスの足をスローで感じる中、ディアナは心の中で悲鳴を上げた。

(お父様やお母様、家の者みんな・・・魔女のことを虫けら同然に見ていたけど、こんなの虫けらじゃない。人間わたくしたちじゃ全然相手にならない化け物じゃない・・・!!!)

 初めて魔女と相対したディアナは、そのオーラを全身で感じて痛感した。

 と。

「はいサヨナラ!!」

 恐怖が極限に達し目を見開くディアナに、エディスは容赦なく剛脚を振り下ろす。

(わたくし・・・死んだ。)

 ・・・・・・・。

 ・・・・・・・。

「え・・・?」

 もうダメかと思ったその時、リリーが滑り込んできてディアナを突き飛ばした。

「あっ、あな・・・。」

「ふぅ~、ギリギリセー・・・」

 うつぶせで安堵の笑みを浮かべるリリーの頭をエディスは躊躇なく踏み潰した。

 リンゴのように弾けたリリーの頭部が散らばり、血で瑞々しい細かい肉片がディアナの顔に『ピチョ・・・!!』と飛んでへばりつく。
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