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番外編
カナエールの学生時代 現在
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私はミサとアイリスに告白されていたことと最後の話だけ話さず一息ついてから口を開いた。
「まぁ、私たちの学生時代は非常に酷いものだったよ。ロキたちに会えていなかったら通った意味すらない無価値なものでね。入学した当初は両親に申し訳ない気持ちの方が大きかったかな」
苦笑いでそう言うとシンヤが口を開く。
「なぁ、カナって当然人間界に行ったことあるんだろ?それになんで神格剥奪されたんだよ?」
「あ、あぁ、確かに行ったことはあるけれど……多い方ではないよ。神格が剥奪されたのはちょっと禁忌を犯してしまってね。そして、落ち着いた頃にまた問題を起こして指名手配されちゃって……それでロキに頼んで死んだことにしてもらってここに隠れ住んでいるんだよ。ミサたちにはいつか本当のことを言おうと思っているんだけど会わせる顔がなくてね……ほら、私の話なんてつまらないだろう?」
本当は人間界にはこれでもかってくらい行っていたけれど嘘を吐いた。
それ以降のことに嘘はない。
ふと外を見ると暗くなり始めている。
私は再び口を開いた。
「さて、ちゃんと話したしもう暗くなるからミライヤくんたちはもう帰った方が良いよ。ミサもアイリスも心配するだろう?あんまり心配かけちゃいけないよ。ね?」
僕がそう言うと三人は渋々と言った感じで帰る。
残ったシンヤはまだ何か言いたそうな顔をしていた。
「どうしたんだい?シンヤ」
「……別に。まだ何か隠してんなって思っただけだ」
その言葉に苦笑いを浮かべる。
「まぁ、俺が神格得たら洗い浚い話してもらうから今はまだ秘密で良いけどな」
「うん。約束する。そのときは包み隠さずシンヤには話せていないことを話すよ」
シンヤはニッと笑うと自分の部屋に戻っていった。
その日の夜、突然、ロキが何の連絡も無しに私の前に現れる。
「やぁ、カナエール。元気かい?」
「……勝手に来るなと何度言ったら理解してくれるのかな」
「ははっ!そう怒るなよ。ちゃんとフォレストール君たちが寝たのを確認してから来ているんだからね」
「それは有難いけどね。僕もそろそろ寝るから大した用じゃないなら帰ってくれないかな」
「残念ながら強制参加だ。みんな待っているからね」
「え?みんな?」
僕の疑問は他所にロキは僕の手を掴みどこかに連れて行く。
慌てて目を瞑った。
移動は終わったみたいで恐る恐る目を開けるとそこにはみんながいた。
「久し振り!カナエール!アリシアがお世話になったみたいだね!」
「ミラとミレイもだ。カナエールが死んだことは信じていなかったがこんな形で再会することになるとはな」
「我も少々複雑な気持ちだぞ。元指名手配犯が目の前にいるのだからな。取り締まり隊最高指揮官として捕まえなければならぬだろう?」
「まぁまぁ、ヴォルス。今日は久し振りの再会なんだから目を瞑っておくれよ。それにカナエールが火事を起こすなんてことする訳ないだろう?」
「あぁ、信じているとも。だから、カナエールの死亡偽装を手伝っただろう?我があれを提出しなければカナエールは今も指名手配犯のままだ。まぁ、当時の上層部はカナエールを良く思っていない奴らが多かったからな。妬み僻みで充分な証拠もなくただそこの現場にいたと言うだけで犯人扱いし指名手配までしたのだ。あのときは腸が煮えくり返りそうで危なかったぞ」
僕を他所にみんなが喋る。
「あたし、あれ見てびっくりしたよ。カナエールに限ってそんなことするはずないって」
「あぁ、私も驚いた。注目を浴びることが嫌いなカナエールがそんな事件起こす訳がない」
「でも、寿命延ばしたって言う禁忌はカナエールらしいなって思ったけど。カナエールは優しいからね」
「神格剥奪で済んだのはロキのお陰だろう?私はそのときの判決に参加させてもらえなかったからな。まぁ、何はともあれ元気そうで何よりだ」
「あぁ、あのときは本当に骨を折ったよ。審判員の誰よりも早く神格を得たのに人間型になれないと言う理由だけで死刑にしようとする奴らが多くて。今思えばそれも妬み僻みだろうね。そいつら全員を論破して神格剥奪と言う罰で最終決定」
「我も最高指揮官になってすぐにカナエールを妬み僻んでいる奴を解雇したな。もう少し早くなれていれば指名手配さえさせていなかったんだが……我の力不足ですまん」
僕は話に全然ついていけず口を開いた。
「……ロキ、とりあえず、説明してほしい。僕には何が何だか分からないしミサたちには会いたくないって言ってあったはずだけれど?」
「あぁ、確かに言っていたね。しかし、しょうがないだろう?ミサとアイリスの耳にお前が生きているとバレてしまったんだから」
「えっ!?どうして!?」
「ノヴァ先生だよ。アリシアたちの担任でヴォルスの甥っ子」
「偶然この間、ノヴァに会って聞いたんだ」
「悪いな。ノヴァにはカナエールの凄さを武勇伝のように毎日語っていたせいでカナエールの大ファンになってしまったのだ」
そう言うとヴォルスはがっはっはっ!と笑う。
僕は項垂れるしかなかった。
「……ベルゼン家が嫌いになりそうだ。あぁ、でも、シンヤから僕の話を聞かれると聞いていた時点で記憶抹消でもしておけば良かった。詰めが甘いとはまさにこのことだね」
「そうだね。まぁ、あたしもカナエールの立場だったら会わす顔なくて同じことミサにお願いしただろうしあたしは責めないよ」
「私はロキにだけ頼ったことに少し腹を立てている。私にだってカナエールを助ける力はあったはずだ。私はそんなに頼りなかったか?」
「え?い、いや、そんなことは……」
「なら、今度からは私のことも頼れ!頼ってもらえなかった上に自分の子どもの世話までしてもらって申し訳ないくらいなんだ。ミラもミレイも好奇心旺盛でカナエールを尊敬しているから扱いが大変だっただろう?」
「いや、二人はミサに似て礼儀正しかったよ。大して困らなかった。アイリスの娘も。本当に困ったのはヴォルスの甥だけだ……でも、そうだね。今度……と言うのも可笑しいけれど困ったときはロキだけでなくミサにもアイリスにも頼ることにするよ」
僕がそう言うと二人はニコッと笑う。
するとヴォルスが口を開く。
「我にも頼ってくれていいぞ!」
「……偽装を手伝ってくれただけで充分だよ」
そう言ってヴォルスから顔を背けてロキを睨んだ。
「ははっ!カナエールは本当にヴォルスが嫌いだな。流石に死亡偽装は俺一人じゃどうしようもなくてヴォルスにも協力してもらっていたんだ。黙っていたのは謝るよ。すまなかった。でも、黙っていないとカナエールは無実なのに自首しかねないからね。分かってくれ」
「……うん」
「ところで、カナエール。俺は前々から聞きたいことがあったんだが」
「何?」
「どうして神格を取り戻さないんだい?永久剥奪にした覚えはないよ?」
ロキの質問に苦笑いを零す。
「あぁ、神格をまた手に入れたら同じことを繰り返しそうで。僕には向いていなかったんだよ。神様なんて無能も良いところだ。何のための力だか分からないし僕は力の使い方を知らなかった。誰も教えてくれなかったから。だから、間違えちゃったんだよ」
「……俺はカナエールの力の使い方が間違っていると思ったことはないよ。禁忌に触れはしたけれど俺は間違っているとは思わない。だからって正しいかと聞かれたら分からないけれどね」
「ありがとう。その言葉だけでも充分だよ」
「ミサのとこの長男は神格を得たそうだが心配はしていないのか?」
「あぁ、何の心配もしていない。ミラはロキと同じタイプだからな。優しい訳じゃない。だから、ロキが次の学園長に選んだんだろう?」
「何だ、もう聞いていたのかい?」
「もちろん。長にもなろうとしているから困っているくらいだ。ミラは無理をし過ぎるからな」
僕たちはミサとアイリスの子どもの話を聞く。
その後にはヴォルスの話も聞いた。
もうすぐ取り締まり隊最高指揮官の地位から外されるらしいと言うこと。
ヴォルスは平気そうに話していたがすごく悔しいそうなのも見ていて分かったが誰も慰めたりはせず笑い飛ばす。
そして、久し振りに長い時間、みんなと共に他愛のない時間を過ごした。
みんなあの頃と変わらず笑顔が絶えなくて楽しそうで僕は安心する。
しばらくしてお開きになった。
みんなが解散する前に僕はみんなを呼び止める。
不思議そうな顔をするみんなに僕は笑って口を開いた。
「みんな、久しぶりに会えて良かった。僕を信じていてくれてありがとう。また、こうやって集まりたいね」
僕がそう言うとみんなが頷いてくれて。
そのまま解散になる。
自分の部屋に帰った僕は思わずクスッと笑う。
一人称も戻っていたな……
なんて思いながら心の中の蟠りが軽くなった気がして目を閉じる。
僕は幸せ者だね。
いつかシンヤにもそんな日が訪れますように。
ミレイユさんと結婚とかしたりするのかな?
そんな未来を想像しながら眠った――――
Fin
「まぁ、私たちの学生時代は非常に酷いものだったよ。ロキたちに会えていなかったら通った意味すらない無価値なものでね。入学した当初は両親に申し訳ない気持ちの方が大きかったかな」
苦笑いでそう言うとシンヤが口を開く。
「なぁ、カナって当然人間界に行ったことあるんだろ?それになんで神格剥奪されたんだよ?」
「あ、あぁ、確かに行ったことはあるけれど……多い方ではないよ。神格が剥奪されたのはちょっと禁忌を犯してしまってね。そして、落ち着いた頃にまた問題を起こして指名手配されちゃって……それでロキに頼んで死んだことにしてもらってここに隠れ住んでいるんだよ。ミサたちにはいつか本当のことを言おうと思っているんだけど会わせる顔がなくてね……ほら、私の話なんてつまらないだろう?」
本当は人間界にはこれでもかってくらい行っていたけれど嘘を吐いた。
それ以降のことに嘘はない。
ふと外を見ると暗くなり始めている。
私は再び口を開いた。
「さて、ちゃんと話したしもう暗くなるからミライヤくんたちはもう帰った方が良いよ。ミサもアイリスも心配するだろう?あんまり心配かけちゃいけないよ。ね?」
僕がそう言うと三人は渋々と言った感じで帰る。
残ったシンヤはまだ何か言いたそうな顔をしていた。
「どうしたんだい?シンヤ」
「……別に。まだ何か隠してんなって思っただけだ」
その言葉に苦笑いを浮かべる。
「まぁ、俺が神格得たら洗い浚い話してもらうから今はまだ秘密で良いけどな」
「うん。約束する。そのときは包み隠さずシンヤには話せていないことを話すよ」
シンヤはニッと笑うと自分の部屋に戻っていった。
その日の夜、突然、ロキが何の連絡も無しに私の前に現れる。
「やぁ、カナエール。元気かい?」
「……勝手に来るなと何度言ったら理解してくれるのかな」
「ははっ!そう怒るなよ。ちゃんとフォレストール君たちが寝たのを確認してから来ているんだからね」
「それは有難いけどね。僕もそろそろ寝るから大した用じゃないなら帰ってくれないかな」
「残念ながら強制参加だ。みんな待っているからね」
「え?みんな?」
僕の疑問は他所にロキは僕の手を掴みどこかに連れて行く。
慌てて目を瞑った。
移動は終わったみたいで恐る恐る目を開けるとそこにはみんながいた。
「久し振り!カナエール!アリシアがお世話になったみたいだね!」
「ミラとミレイもだ。カナエールが死んだことは信じていなかったがこんな形で再会することになるとはな」
「我も少々複雑な気持ちだぞ。元指名手配犯が目の前にいるのだからな。取り締まり隊最高指揮官として捕まえなければならぬだろう?」
「まぁまぁ、ヴォルス。今日は久し振りの再会なんだから目を瞑っておくれよ。それにカナエールが火事を起こすなんてことする訳ないだろう?」
「あぁ、信じているとも。だから、カナエールの死亡偽装を手伝っただろう?我があれを提出しなければカナエールは今も指名手配犯のままだ。まぁ、当時の上層部はカナエールを良く思っていない奴らが多かったからな。妬み僻みで充分な証拠もなくただそこの現場にいたと言うだけで犯人扱いし指名手配までしたのだ。あのときは腸が煮えくり返りそうで危なかったぞ」
僕を他所にみんなが喋る。
「あたし、あれ見てびっくりしたよ。カナエールに限ってそんなことするはずないって」
「あぁ、私も驚いた。注目を浴びることが嫌いなカナエールがそんな事件起こす訳がない」
「でも、寿命延ばしたって言う禁忌はカナエールらしいなって思ったけど。カナエールは優しいからね」
「神格剥奪で済んだのはロキのお陰だろう?私はそのときの判決に参加させてもらえなかったからな。まぁ、何はともあれ元気そうで何よりだ」
「あぁ、あのときは本当に骨を折ったよ。審判員の誰よりも早く神格を得たのに人間型になれないと言う理由だけで死刑にしようとする奴らが多くて。今思えばそれも妬み僻みだろうね。そいつら全員を論破して神格剥奪と言う罰で最終決定」
「我も最高指揮官になってすぐにカナエールを妬み僻んでいる奴を解雇したな。もう少し早くなれていれば指名手配さえさせていなかったんだが……我の力不足ですまん」
僕は話に全然ついていけず口を開いた。
「……ロキ、とりあえず、説明してほしい。僕には何が何だか分からないしミサたちには会いたくないって言ってあったはずだけれど?」
「あぁ、確かに言っていたね。しかし、しょうがないだろう?ミサとアイリスの耳にお前が生きているとバレてしまったんだから」
「えっ!?どうして!?」
「ノヴァ先生だよ。アリシアたちの担任でヴォルスの甥っ子」
「偶然この間、ノヴァに会って聞いたんだ」
「悪いな。ノヴァにはカナエールの凄さを武勇伝のように毎日語っていたせいでカナエールの大ファンになってしまったのだ」
そう言うとヴォルスはがっはっはっ!と笑う。
僕は項垂れるしかなかった。
「……ベルゼン家が嫌いになりそうだ。あぁ、でも、シンヤから僕の話を聞かれると聞いていた時点で記憶抹消でもしておけば良かった。詰めが甘いとはまさにこのことだね」
「そうだね。まぁ、あたしもカナエールの立場だったら会わす顔なくて同じことミサにお願いしただろうしあたしは責めないよ」
「私はロキにだけ頼ったことに少し腹を立てている。私にだってカナエールを助ける力はあったはずだ。私はそんなに頼りなかったか?」
「え?い、いや、そんなことは……」
「なら、今度からは私のことも頼れ!頼ってもらえなかった上に自分の子どもの世話までしてもらって申し訳ないくらいなんだ。ミラもミレイも好奇心旺盛でカナエールを尊敬しているから扱いが大変だっただろう?」
「いや、二人はミサに似て礼儀正しかったよ。大して困らなかった。アイリスの娘も。本当に困ったのはヴォルスの甥だけだ……でも、そうだね。今度……と言うのも可笑しいけれど困ったときはロキだけでなくミサにもアイリスにも頼ることにするよ」
僕がそう言うと二人はニコッと笑う。
するとヴォルスが口を開く。
「我にも頼ってくれていいぞ!」
「……偽装を手伝ってくれただけで充分だよ」
そう言ってヴォルスから顔を背けてロキを睨んだ。
「ははっ!カナエールは本当にヴォルスが嫌いだな。流石に死亡偽装は俺一人じゃどうしようもなくてヴォルスにも協力してもらっていたんだ。黙っていたのは謝るよ。すまなかった。でも、黙っていないとカナエールは無実なのに自首しかねないからね。分かってくれ」
「……うん」
「ところで、カナエール。俺は前々から聞きたいことがあったんだが」
「何?」
「どうして神格を取り戻さないんだい?永久剥奪にした覚えはないよ?」
ロキの質問に苦笑いを零す。
「あぁ、神格をまた手に入れたら同じことを繰り返しそうで。僕には向いていなかったんだよ。神様なんて無能も良いところだ。何のための力だか分からないし僕は力の使い方を知らなかった。誰も教えてくれなかったから。だから、間違えちゃったんだよ」
「……俺はカナエールの力の使い方が間違っていると思ったことはないよ。禁忌に触れはしたけれど俺は間違っているとは思わない。だからって正しいかと聞かれたら分からないけれどね」
「ありがとう。その言葉だけでも充分だよ」
「ミサのとこの長男は神格を得たそうだが心配はしていないのか?」
「あぁ、何の心配もしていない。ミラはロキと同じタイプだからな。優しい訳じゃない。だから、ロキが次の学園長に選んだんだろう?」
「何だ、もう聞いていたのかい?」
「もちろん。長にもなろうとしているから困っているくらいだ。ミラは無理をし過ぎるからな」
僕たちはミサとアイリスの子どもの話を聞く。
その後にはヴォルスの話も聞いた。
もうすぐ取り締まり隊最高指揮官の地位から外されるらしいと言うこと。
ヴォルスは平気そうに話していたがすごく悔しいそうなのも見ていて分かったが誰も慰めたりはせず笑い飛ばす。
そして、久し振りに長い時間、みんなと共に他愛のない時間を過ごした。
みんなあの頃と変わらず笑顔が絶えなくて楽しそうで僕は安心する。
しばらくしてお開きになった。
みんなが解散する前に僕はみんなを呼び止める。
不思議そうな顔をするみんなに僕は笑って口を開いた。
「みんな、久しぶりに会えて良かった。僕を信じていてくれてありがとう。また、こうやって集まりたいね」
僕がそう言うとみんなが頷いてくれて。
そのまま解散になる。
自分の部屋に帰った僕は思わずクスッと笑う。
一人称も戻っていたな……
なんて思いながら心の中の蟠りが軽くなった気がして目を閉じる。
僕は幸せ者だね。
いつかシンヤにもそんな日が訪れますように。
ミレイユさんと結婚とかしたりするのかな?
そんな未来を想像しながら眠った――――
Fin
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