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椎名薫 ー輝 sideー

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 放課後になってワクワクしながらミキを待つ。

でも、どれだけ待ってもミキは来なくて。

もしかしてまた何かされてるんじゃ……と心配になってミキの教室まで行くとミキは教室で一人座っていた。

近付いてもミキが俺に気付くことはなくて声をかける。



「ミキ?」



ミキは我に返ったようにハッとして俺を見た。



「あ、輝!?な、なんで!?」


「え?あぁ、いつまで待ってもミキが来ないからどうしたのかなって。待てなくて来ちゃった」



俺はごめんと言いながら笑う。

するとミキは辺りを見回す。

俺たち以外誰もいないことに気付いたのか泣きそうな顔になっていって俺は慌てて口を開いた。



「み、ミキ?どうしたの?具合でも悪い?」



俺がそう言うとミキは俺を睨みながら何かを考え始めた。

しばらくしてようやく口を開いたと思ったら予想外な言葉を並べられる。



「輝」


「ん?」


「私より優先しなきゃいけない相手がいるんじゃないの?」


「え?」


「輝には恋人がいるでしょう?」


「な、何言ってるの?恋人なんかいないよ!」



なんでいきなりそんな話に!


そう思っていたら追い打ち。



「……そう言って、今まで何人も女と付き合ってきたんでしょ?」


「っ!」


「私を他の女と同じにしないで!」



そう言ってミキは駆け出してしまって。

少し唖然としながらミキを見送ってハッと我に返る。

慌ててミキを追いかけようと教室を出たら誰かに腕を掴まれた。


誰だよ!こんなときに!


掴まれた腕を睨むとそこには椎名がいた。

クスクス笑いながら椎名は口を開く。



「そんな必死な顔してどうしたの?」


「五月蝿いな!放せよ!俺は今お前なんかと話してる暇ない!」


「え?まさかみのりんを追おうとしてるの?止めといたら?君、何も言い返せなかったじゃない」


「っ!関係ないだろ!」


「でもさー、みのりんって優しいよねー?ボクが君と帰るから邪魔しないでって言ったら今日一日ずっとボーっとしちゃってさ。挙句、ボクのために君との約束を破るんだもん。笑えるわー」


「……お前のせいかよ……ミキが変なこと言い出したのも!全部お前のっ!」


「何とでも言えばいいよ。ボクはみのりんを危険にさらしたくないだけだ。ちょっとみのりんを傷付けちゃったけどちゃんとフォローするし」


「は?どういうことだよ?」


「ねぇ、君さー昨日、全員と縁を切ったって言ってるけど本当に全員と切れたの?まだ残ってるんじゃない?」


「お前には関係ないだろ」



なんでコイツがそんなこと知ってるんだと内心焦りながらも平静を装った。



「ボクに隠し事は無駄だよ?だって、その子はボクの知り合いだから。君が彼女を振るとき、実は僕も近くにいたんだよねー」


「は……?」



何言ってるんだ、コイツ……

俺のことからかおうとしてるのか?



「ずっと前からその子に相談受けててさ、輝くんが他の女とも仲良くしてるみたいなのとか輝くんは私だけのものなのにって五月蝿くて。他の女を殺しかける勢いだったなー止めたけどね?で、卒業してからも相談受けてたら君から呼び出されたって言うからさ。ボクも付き合わされたんだよね。まぁ、優しくされたくらいで恋人扱いした彼女も彼女だけど他校の女にも手を出す君も君だよねー自業自得」


「……つまり、何が言いたいんだよ」


「彼女の本当の彼氏になってって言いたいんだよ。正直、もう彼女の相手するの疲れちゃってさーボクが君と同じ学校だって知られちゃったみたいでさ、ここ最近、毎日のように連絡が来るんだよね。輝くんは輝くんはって。ウザいったらないよ。それに彼女、君と別れた気になってないから。すぐにでも自分のところに戻ってくるって思ってるよ?」


「……ふざけるなよ。俺はミキ以外と付き合う気はない」


「ふざけてるのはどっちだよ?自分の後始末の悪さが招いたことだろ?もし仮にこの状態でみのりんと付き合い始めたりなんかしたら確実にみのりんは刺されるね。今はボクがフォローしてあげてるから大丈夫なだけだよ?みのりんの存在は彼女に知られてるし本当に危ないのはみのりんなんだからね」



鳥肌が立った。

ミキが俺のせいで酷い目に遭うと思ったら怖くて怖くて仕方がなくて。

思わずその場にしゃがみ込んだ。



「輝くん?」


「……正直、覚えてないんだ、名前……」


「はぁ?」


「確かにたまにメールが来るけど家族とミキ、親しい男友達以外の連絡先を消したから誰だか分からなくて」


「ねぇ、君さ、連絡先を消したからわかなくなったんじゃなくて最初から覚える気もなかったんでしょ?だって、彼女を呼び出したとき一回も彼女の名前呼ばなかったもんね?君のためを思ってだとか君君言ってたし」



俺は恥ずかしさとコイツが嘘を吐いてないことを確信して半ばやけくそに叫ぶ。



「俺が悪かったって!!本当にそう思ってるけどしょうがないだろ!?ミキ以外に興味なかったんだから!!」


「開き直る気?君って本当、最低な男だよねー」


「……俺が本当に悪かったです。反省してます。けじめもつけます。なので、ミキのためにもその子の名前、教えてもらえないでしょうか」


「棒読みかよ。まぁ、ボクは当事者じゃなくて第三者だしね。しかも、みのりんのためなら仕方ないなー」



上から目線なのに腹が立ったけど俺のせいなのは確かだから必死に我慢した。



園田未希子そのだみきこ。少しは思い出したかな?」



園田……未希子……

そう言えば、そんな名前の子と連絡先を交換した気がする……



「……ありがとう。ところで、お前もミキのこと好きなのか?」


「はぁ?好きに決まってんじゃん!あんな優しくて良い子いないよ!?毒舌だけど」



俺は立ち上がり、ため息を吐いた。



「……感謝はしてるけどミキは渡さないからな」



椎名は首を傾げた後、納得したように手をポンと叩いた。



「……あぁ!そっか!まだ君には言ってなかったね!ボク、女だよ」


「はぁっ!?」



女!?

ボクっ娘って奴か?

いや、でも……



「お前、その制服は男だろ!」


「あぁ、これ?男兄弟が多いせいかスカート苦手で。先生にちゃんと許可取ってこっち着てるんだよ」



この学校の教師甘いな!!!

でも、そっか……

女か……

じゃあ、心配することもないか……



「ちなみにみのりんのことは入学する前から知ってて嫌な子だったから彼女にどうされちゃってもいいやーって思ってリサーチのために近付いた」


「おい!ふざけるなよ!」


「まぁまぁ、結果的にボクはみのりんを気に入って彼女の友達でいるよりみのりんの友達でいたいって思ったんだからいいじゃん?」


「結果的にって言ってるじゃねぇか!……って待てよ?お前が女だってことは……まさかミキの奴……」


「あぁ、あの口振りじゃボクらが付き合ってると思ってるよね」


「うわぁぁぁぁぁあっ!!どうしてくれるんだよ!!ミキに変な誤解させやがって!」


「自業自得でしょ?でも、しばらくはその設定のままの方がいいと思うんだよねー。彼女にけじめつけるんでしょ?」


「うっ……」


「みのりんは絶対にボクらの邪魔はしないし。みのりんの安全のためにもこのままがいいって」



ミキの安全のためと言われて俺は渋々頷いた。



「……分かった」


「じゃあ、善は急げ。明日、彼女と会う約束しておくね」


「はぁっ!?俺、まだ思い出してないからな!!」


「それ、威張ることじゃないからね?もう少し思い出す努力をするべきだと思うんだ。みのりんは今までこんな奴の相手を毎日……同情するよ」


「そうだな!ミキはすげぇよ!分かってた!だから、仮にも彼女のフリするならもう少し優しい目で見てもらえませんかね!」


「あぁ、ごめん、それは期待しないで。ボク、ぶっちゃけ、君のことどちらかと言うと嫌いだし」


「……それも分かってたよ、気付いてたよ……男の俺相手に喧嘩腰だったもんな……俺もお前が女って知っても嫌いなままだよ」


「それはありがたいね!君に少しでも好かれようものなら自殺を考えてたところだよ」


「そこまでかよ!?よくそんな相手と仮でもカップル出来るな!?」


「え?死にたくなるほど嫌ですけど?でも、みのりんのためならボクは命さえも投げ出すよ!」


「ご立派だけど重い覚悟だな!つーか、俺、もうお前に付き合うの疲れたんだけど!」


「勘違いしないでもらっていいかな?付き合ってあげてるのはボクの方だから。彼女との問題は君が一人で解決すべき問題なんだけど。それを手伝ってあげるのは?」


「……俺が生意気でした。すみません。もうしばらく付き合って下さい」


「わかればよろしい。じゃあ、明日、準備しておいてね!」



そう言って渋々椎名と連絡先を交換して別れた。

家に帰るとミキが丁度階段から降りてきて目が合う。

ミキはあからさまに俺を無視。

そのままリビングに入っていった。

俺は小さくため息を吐いて自分の部屋に上がる。

携帯を見るとメールが二件届いていて、一件は椎名から。

もう一件は多分、園田未希子だろう……

先に園田未希子のメールから読む。



 From: xxx.xxx-xx@xxx.ne.jp
Subject: 明日が楽しみです♡
―――――――――――――――
しーちゃんから聞きました。
明日、楽しみです!
二人きりが恥ずかしいなんて
輝くんはシャイだったんですね!
新しい輝くんの一面を知れて
嬉しいです♡
しーちゃんが邪魔だけど…
輝くんの頼みなら我慢します。
私はデートだと思って行くので
お洒落して行きますね!
輝くんの私服も楽しみです!
P.S.
輝くんはどんな服が
好きですか?



うわぁ……

何て言って約束したんだ……

ますます誤解が激しくなってる気がするんだけど……


返事はせず気を取り直して椎名からのメールを読もうとしたら父さんに呼ばれる。

すぐ戻るだろうとメール画面はそのままに部屋を出た。



From: 椎名薫
Subject: 明日
――――――――――
朝十時、駅前集合。



夕食後、戻ってから読んだ椎名のメールは園田とは真逆で簡潔だった。

簡潔過ぎるほどに。

ミキがお風呂空いたと声をかけてきたのでメール画面を消し、携帯を閉じる。

準備をしてからミキにお礼を言おうと部屋を出るとミキはもう自分の部屋に戻っていて。


やっぱり機嫌悪いのか……


と思いながらお風呂に入り、部屋に戻るとすぐに寝た――――
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