私、これからいきます。

蓮ヶ崎 漣

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亀裂

ある日の仕事終わり。
私は葉月くんに声をかけられた。
 
「栗山さん!お疲れ様!ちょっと、お願いがあるんだけれど良いかな?」
 
「あぁ、葉月くん。お疲れ様。何かしら?私に出来ることなら別に良いわよ」
 
「良かった!今度の日曜日にちょっと買い物に付き合ってほしくて。良いかな?」
 
「買い物?別に良いけれど……私より別の人に頼んだ方が良いんじゃない?」
 
「そんなことないよ!栗山さんの意見が聞きたいんだ!それじゃあ、今度の日曜日、昼の三時に駅前で待ち合わせってことでよろしく!」
 
「え、えぇ。分かったわ」
 
そう約束をして葉月くんと別れる。
その直後、誰かに抱き付かれた。
犯人は分かっているけれど。
 
「何々~?莉恵ったら浮気~?」
 
「なっ!?失礼ね!浮気なんてしてないわ!」
 
「え~?だって、葉月とデートするんでしょ?」
 
「で、デート!?いつ!?誰が!?」
 
「だから~莉恵が葉月と今度の日曜日デートするんでしょ?」
 
「なんでそうなるの!?私は今度の日曜日、葉月くんの買い物に付き合うだけよ!」
 
「二人きりで?」
 
「え?」
 
「二人きりでしょ?」
 
「え?聖来も誘われたんじゃないの?」
 
「あたしは誘われてませ~ん!ついでに葉月が誘ってたのは莉恵だけで~す!」
 
「えぇっ!?ど、どうしよう!?」
 
「まぁ、葉月とデートしてくれば?年下彼氏くんより良いかもよ?最近、その年下彼氏くんとはデートすらしてないんでしょ?」
 
「だめよ!確かに最近、大虎くんとはデートしてないけれど……」
 
大虎くんは基本、休みの日はレポートをやっているため私からデートしようとはどうしても言えなかった。
 
「そもそも、一緒に暮らしてるからってそういうの怠る彼氏ってどうかと思うんだよね。あたし」
 
「も、もしかして、聖来……大虎くんのこと、嫌い?」
 
「見た目はかなりタイプ!葉月に負けず劣らずって感じ!第一印象もかなり好印象だったけど莉恵の話聞いてるとないなーって思うわ」
 
「そ、そうかしら?」
 
「いくら大学生だからってそんな毎日毎日レポートなんかある訳ないでしょ!絶対なんか裏があるって!」
 
「そ、そんなことはないと思うけれど……」
 
「莉恵は信用しすぎ!若いんだよ!?まだまだ色んな子と遊びたいでしょう!男って生き物は!」
 
「そ、そんなことない……」
 
「そんなことないなんてことはない!」
 
「せ、聖来ぁ!なんでそんな不安にさせるのよ!」
 
「あたし、莉恵には幸せになってほしいから。正直、莉恵には年下彼氏くんより葉月の方が合ってると思う」
 
「え?」
 
「とにかく!日曜日の件は年下彼氏くんには内緒にしなさいよ?」
 
そう言われ落ち込みながら帰る。
家に入るといつもはない靴がすでにあった。
 
「(いつも帰りが遅い大虎くんがもう帰ってきている!)」
 
そう思った私は急いでリビングのドアを開ける。
 
「あ、莉恵さん。お帰り、お疲れ様。今日は早く終わったから俺がご飯作ってみようと思って!お風呂は沸いてるから先に入ってもいいよ?」
 
「う、ううん!私、大虎くんと一緒が良いから」
 
「……え?」
 
「え?」
 
大虎くんは何故か顔を赤くしていた。
けれど、私の反応を見てひとつ咳払いをしてから口を開く。
 
「んん……えっと?莉恵さん?今、自分が何を言ったか分かってないね?」
 
「私は何か問題のあることでも言ったの?」
 
「そうだね。解釈の仕方を間違えたらとんでもないことを言ったけど自覚なしか……」
 
大虎くんにそう言われ自分が言った言葉を思い返してみたけれどやっぱり分からない。
私が首を傾げると大虎くんはやれやれという感じで説明してくれた。
 
「俺は今、お風呂は沸いてるから先に入ってもいいよ?って言ったよね?」
 
「えぇ。そうだったわね」
 
「それに対して莉恵さんは俺と一緒がいいって言った訳だけど」
 
その言葉を聞いて私は顔を真っ赤に染める。
そして、慌てて否定した。
 
「ち、違っ!一緒に入りたいって意味じゃなくて……っ!一緒にいたいってことでっ!」
 
「……莉恵さんの反応で分かってるけど。そうハッキリ否定されると複雑。俺、莉恵さんの彼氏だよ?別に一緒に入ってもいいと思うけどなー」
 
彼氏という単語を聞いて思わず疑問が浮かび上がってしまう。
 
「(聖来とあんな話をしていたせいかしら?
彼氏ならデートくらいしてくれても良いでしょう?
なのに、いつもレポートがあるからって構ってくれないくせにこういうときにばっかり……
彼氏らしいことしてから言ってよ)」
 
「………………………から………よ」
 
「え?莉恵さん?」
 
「……何よ!いつもいつも構ってくれないくせに!こういうときだけ彼氏って言葉使って!少しは彼氏らしいことしてよ!」
 
「ちょ、何でそんなに怒ってるの?」
 
「だって、いつもレポートがあるからってデートもしてくれないじゃない!私とレポートどっちが大事なの!?」
 
言ってから後悔した。
慌てて顔を上げると大虎くんは思った通り少し怒っている顔をしている。
 
「……それ、本気で聞いてる?」
 
すぐに謝ろうとしているのに謝罪の言葉が出てこない。
やっと出てきた言葉は謝罪ではなかった。
 
「あ、当たり前でしょ!?いくら大学生だからってそんなに毎日レポートが出る訳ないじゃない!本当は浮気しているんじゃないの!?」
 
「(違う!
違うの!
こんなことが言いたかった訳じゃないのに!
何で、私、こんなこと!)」
 
けれど、出てしまった言葉はもう取り消すことはできない。
しばらく沈黙が続く。
大虎くんの言葉を待っていると大虎くんは何も言わず私を無視して料理の続きを始めた。
その行動に驚きと戸惑いを隠せない。
 
「(どうして……?
どうしていつもみたいに否定してくれないの?
浮気なんかしている訳ないでしょって。
ねぇ、どうして……)」
 
「……っ!どうして何も言わないのよ!?浮気しているってこと!?」
 
私がそう怒鳴っても大虎くんは私を無視して料理を続ける。
大虎くんの背中は、さっきより少しだけ遠く感じた。
ぐちゃぐちゃした感情が渦巻いて動けずにいると大虎くんの携帯が鳴る。
大虎くんは液晶画面を見ると怪訝そうな顔をしつつも料理を続けながら電話に出た。
 
「……もしもし?」
 
その行動にショックを受ける。
 
「(なんで?
私のことは無視するのに何で電話には出るの?
大虎くんなんか……
大虎くんなんか……
もう知らない!!)」
 
「……大虎くんの馬鹿!もう知らないわ!」
 
そう大きな声で言い放ち私は家を飛び出した。
 
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