私、これからいきます。

蓮ヶ崎 漣

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絡まれる

家を飛び出した私は完全に後悔していた。
 
「(そもそもあんな風に言うつもりもなかったし喧嘩なんかするはずじゃなかったのに。
どうしてこうなったんだろう?)」
 
どう思い返しても悪いのは私だ。
あんな風に喧嘩口調で言われたら誰だって腹を立てる。
 
「(只でさえ、葉月くんとデート?することになって後ろめたいのに大虎くんと喧嘩するなんて最悪……
私が素直に謝ればこんなことにならないで済んだのに……
私って本当に馬鹿……)」
 
トボトボと当てもなく歩いていると酔っ払ったおじさん二人に声をかけられる。
 
「おぉ、お姉ちゃん、一人か~?」
 
「良かったら俺たちと飲むかい?奢ってあげるよ~」
 
「い、いえ!私は結構ですので……」
 
「そんなこと言わないでさ~」
 
「ちょーっと俺たちの話し相手になってくれればいいからさ~いいだろ~?」
 
そう言いながらおじさんたちは私の腕を掴んできた。
指が強く食い込み、思わず息が詰まる。
それでも必死で口を開いた。
 
「ちょ!本当に止めて下さい!迷惑です!」
 
私がそう言うとおじさんたちの目の色が変わる。
 
「あぁ?俺たちが下手に出てりゃ何だよ、その態度はっ!」
 
「自分が上だとでも思ってんのか?舐めた口利いてんじゃねぇぞ!このアマ!」
 
「きゃっ」
 
無理矢理引っ張られどこかに連れて行かれそうになり必死に抵抗しても意味がなかった。
周りの人は我関せずといったように見て見ぬフリをされる。
その中には私の知った人物もいたが目が合ってもすぐに逸らされた。
私は怖くて思わず泣き出すがそれでも誰も助けてくれずおじさんたちも止まらない。
 
「(嫌だ、誰か助けて!
大虎くん!!)」
 
そう心の中で呟いたとき聞き覚えのある声がした。
 
「はいはーい。オニーサンたち?嫌がる女性を無理矢理連れてったらお巡りさんに捕まっちゃうぜー?」
 
「はぁ?なんだ、ガキ。そこを退け!この女は俺たちを侮辱したんだぞ!」
 
「そうだ!サツに捕まるのは名誉毀損したこの女だろうが!」
 
「た、田原さん!?」
 
「いやー……俺、一部始終見てたけどさーどう見てもオニーサンたちがナンパしてフラれた腹いせにしか見えねぇなぁ」
 
「何だと!?」
 
「このクソガキが!」
 
そう言っておじさんの一人が田原さんに殴りかかる。
田原さんは難なくそれを避けた。
 
「こらこら、殴っちゃったら暴行罪だぜ?それに早くその人放した方が身のためだと思うんだよなーその人の彼氏、正当防衛で自分よりデカい男を病院送りにしたことあるからさ?オニーサンたちがナンパしてるときに呼んじゃったからもうそろそろ着くんじゃないかなー?」
 
それを聞いたおじさんたちが怯んだのと同時に私の腕を掴んでいたおじさんの腕が離れる。
 
「……じゃあ、これも正当防衛ってことでよろしく」
 
その声に驚いて振り向くと大虎くんがいた。
大虎くんはおじさんの腕を笑みを浮かべて捻り上げている。
 
「いだだだだっ!」
 
「お、おい!?」
 
「三秒やるから今すぐ消えろよ?オッサン共」
 
そう言うと大虎くんはおじさんの腕を放して数を数え始めた。
 
「いーち、にい……」
 
「「う、うわぁぁぁぁあっ!!」」
 
おじさんたちは一目散に逃げ出す。
 
「……で、誰が病院送りにしたって?」
 
「まぁ、嘘も方便って言うだろ?」
 
「……今回は助かったから大目に見てやるよ」
 
そう言う大虎くんに田原さんはやれやれといった感じで肩をすくめた。
大虎くんは心配そうに私の顔を覗き込む。
 
「莉恵さん、怪我とかしてない?怖かったでしょ?ごめんね、俺のせいで……」
 
その言葉に涙が再び溢れ首を横に振った。
 
「ち、ちが……っ、大虎くんのせいじゃっ、ないよっ」
 
それ以上は言葉にならず泣き出す私を大虎くんは優しく抱き締めて頭を撫でてくれる。
 
「……うん、分かった。もう大丈夫だからね」
 
私は大虎くんに甘えるように抱き締め返した。
すると大虎くんの心臓はバクバクと激しく音がしていてよく聴くと息切れもしている。
 
「……走って、きたの?」
 
「え?そりゃあ、ナンパオヤジに無理やり拉致られそうになってるって聞いたら飛び出すよね……戸締りしてないや……ドアは閉めたはず……」
 
途中から独り言をブツブツと呟き始めて思わず笑ってしまった。
涙もどこかに行ってしまいクスクス笑う。
すると、大虎くんが安心したように笑った。
 
「もう、何で笑ってんの?早く帰らないと泥棒の餌食だよ?」
 
「ふふっ、それは困るわ。でも、何だかおかしくて」
 
「じゃあ、とりあえず、帰ろっか……夕飯と鍋、だめにしちゃったからちゃんと戸締りして外で食べよ」
 
「えっ!?お鍋だめにしちゃったの!?」
 
「……うん、ごめん。焦がした。真っ黒に」
 
「もう!電話なんかするからよ!」
 
「……返す言葉もございません」
 
「じゃあ、今度、新しいのを買いに行くのについてきてくれる……?」
 
「もちろん。いつでもいいよ。ちゃんと空けるから。今度の日曜日とか?」
 
「あ!こ、今度の日曜日は予定が……その、葉月く……じゃなかった、聖来と買い物に行くの!」
 
「……ふーん?そっか!じゃあ、別の日だね。あ。そういえば、今度の日曜日は俺も外せない用があったんだった。ごめんね?言っておいて」
 
「う、ううん!良いの!」
 
私はそう言って大虎くんから離れて田原さんのところに行く。
 
「田原さん!」
 
「ん?あぁ、どうも。栗山さん。怪我がないようで何よりです。すみません、すぐに助けなくて……」
 
「いえ!良いんです。大虎くんに連絡してくれたしちゃんと助けてくれましたから。ありがとうございます」
 
「いや、大したことはしてないっすよ。警察として当然のことをしただけです。それより、トラとは仲直りできました?アイツに限って浮気とか絶対してないんで信用してやってください。でも、ないとは思いますけどもし仮に浮気してたら俺に言ってくださいね!俺がどんな手を使ってでも捕まえるんで!」
 
「ふふっ、もし仮にそうなったらお願いしますね?」
 
「任せて下さい!」
 
「何?二人して楽しそうに話して。早く帰ろうよ、莉恵さん。泰仁はもういいからさ」
 
「お、お前なぁ!俺に感謝してるならもっと態度で表せよ!」
 
「えー?泰仁だし。まぁ、とにかく、今回は本当に助かった。ありがとう」
 
「う、うわぁ……素直なトラは気色が悪い……」
 
「……お前には二度と感謝してやるもんか」
 
「嘘嘘!悪かったって!」
 
「知るか。帰ろう、莉恵さん」
 
そう言って私の手を引く大虎くん。
その顔は照れているのか拗ねているのか分からなかったけれど赤かった。
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