私、これからいきます。

蓮ヶ崎 漣

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番外編② 大虎捜索 前編

大虎くんが美琴さんの家にお呼ばれしてから数週間。
元々しばらくは帰れないと言われていたけれど連絡もつかなくてどんどん不安になっていきついに美琴さんに連絡してしまった。
いつものカフェで美琴さんと会うことになり行くとすでに美琴さんは来ていて田原さんも一緒にいる。
私は急いで二人に駆け寄った。
 
「すみません!呼び出しておいて待たせてしまうなんて……」
 
「気にしないでください。それより、トラが帰ってこないって本当ですか?」
 
「はい。美琴さんと会うと言った日に元々しばらくは帰れないって言われていたんですけど……連絡も取れないので不安になってしまって……てっきり、美琴さんの家にいるのかと思っていたんですけど……」
 
私の言葉に美琴さんと田原さんが顔を合わせる。
 
「……トラはその日、普通に帰りましたよ。それからずっと帰ってないってことですね。こんなこと言いたくないんですけど……実は僕たちもトラと連絡が取れないんです」
 
「えっ!?」
 
美琴さんたちも連絡が取れないとは思っていなくて驚きを隠せない。
美琴さんは何かを考えながら口を開いた。
 
「ないとは思いますけど実家の方にいる可能性も捨て切れないですね。そっちには連絡しました?」
 
「あ、そっちはまだ……」
 
「じゃあ、行ってみましょう。仮にトラがいなくても執事を捕まえて吐かせます。アイツがトラの居場所が分からないことはないですから」
 
そう言われて三人で結城家にお邪魔をすると瀬羽さんが迎え入れてくれる。
 
「いらっしゃいませ。栗山様、白河様、田原様。大虎様はご一緒ではないのですね?怒られても知りませんよ」
 
「白々しい。僕たちが来た理由くらい察してるでしょ?」
 
「さぁ?何のことか分かりかねます」
 
そう言ってニコニコしている瀬羽さんの胸ぐらを美琴さんが掴んだ。
 
「トラの居場所を教えろって言ってんだよ。さっさと吐いてくんないかな?」
 
瀬羽さんはニコニコ笑ったまま美琴さんの手を掴む。
 
「放していただけませんか?大虎様のご友人に手を上げることはできないので」
 
その言葉に美琴さんはギロッと瀬羽さんを睨み田原さんが二人の間に入った。
 
「……美琴、少し落ち着け。執事のこの人は何も教えてくれない。だから、清秀さん。ちょっと俺たちの買い物に付き合ってもらえねぇかな」
 
「……一時間でよろしければお供いたしましょう」
 
「十分だ。じゃあ、準備してくれよ」
 
「かしこまりました」
 
瀬羽さんはそういうと頭を下げてその場を離れる。
田原さんは美琴さんの肩を掴みながら外に向かった。
私はそれについて行く。
外に出ると美琴さんは納得がいかないような顔をしていた。
田原さんが宥めていると私服に着替えた瀬羽さんが車を用意して後部座席を開けてくれる。
 
「どうぞ、お乗りください」
 
全員が乗り後部座席を閉めてから瀬羽さんが運転席に乗り込み動き出した。
 
「……それで?どこに行くつもりだ?泰仁」
 
敬語を使っていない瀬羽さんは初めてで内心驚く。
 
「じゃあ、個室のある飯屋で。当然、奢りっすよね?」
 
「何でだよ。俺の休憩時間を奪っておきながら奢らせる気か?」
 
「それくらいしてくれても良いんじゃない?僕たちはともかく栗山さんにまで隠してるんだからさ」
 
美琴さんがそういうと瀬羽さんはチラッと私を見た。
 
「……美琴、お前、女嫌いじゃなかったか?それとも彼女が大虎の恋人だから?」
 
「アンタに関係ないよね」
 
「美琴、喧嘩売ってる場合じゃないだろ。清秀さんもわざと喧嘩売るようなこと言わないでください。それに清秀さんならトラの居場所知ってるっすよね?教えてください」
 
「知らねぇよ。GPSも外されてお手上げ状態だ。詮索するなとも言われてる。他には三ヶ月経っても連絡すらなければ死んだと思えって言われたな」
 
その言葉に言葉を失い口元を覆う。
 
「……はぁ?ちょっと、それ、どういうこと?」
 
「だから、俺も何も聞かされてねぇから知らねぇんだよ。本当に大虎は自分の肝心なとこだけは話しやがらねぇし俺だって帰ってきたら問い詰めようとしてたんだ。それに……」
 
「それに?」
 
田原さんがオウム返しに口を開くとちょうど信号が赤になり車が止まった。

 
車が止まると瀬羽さんは振り返り私を見る。
睨みつけられているようで思わず肩を竦めると瀬羽さんが口を開いた。
 
「仮に俺が大虎の居場所を知っていたとして栗山さん、アンタはどうするつもりなんだ?」
 
「え……?」
 
「大虎はアンタに何も伝えずに出て行ったんだろ?何で大虎は何も言わずに出て行ったのかとか考えたのか?考えもせず大虎を探してるならそれでもアンタは大虎の恋人かと言いたい」
 
「なっ……!」
 
思わず怒鳴りそうになるのを必死に堪え話の続きを促す。
 
「……恋人を名乗るなら大虎の嘘も何もかも見破れって話だ。自分のことはいつも二の次にしてほかの誰かのためを考えてる。大虎の些細な変化にも気づけないなら大虎とは別れてくれ」
 
私は何も言えずに俯いた。
瀬羽さんの言っていることは正しいと思う。
大虎くんのためを思うなら別れた方が良いのかもしれない。
そう思うのに言葉が出なかった。
車内は静まり返り誰も何も言わない。
その沈黙が耐えられなくなったのか瀬羽さんがため息を吐く。
それとほぼ同時に助手席のドアが開いた。
乗り込んで来たのは大虎くんでますます言葉を失う。
大虎くんはチラッと私たちを見ると頭を抱えながら口を開いた。
 
「……連れてくるなんて聞いてないんだけど」
 
「連れて行かないと言った記憶はないな」
 
「……何?オフモードなの?」
 
「コイツらが来た瞬間から迎えはオフモードで行こうって決めたからな。まぁ、自分で弁解でも何でもしろよ」
 
その言葉を聞いて深いため息を吐く大虎くん。
話すことを考えているのかしばらく考え込んでいる様子の大虎くんに美琴さんが先に口を開く。
 
「早く説明してもらおうか。大虎、今回は結構本気で腹立ってるから数発殴られるくらいは覚悟しておきなよ」
 
「トラ、今回は俺も美琴の肩を持つからな」
 
「……心配かけたのは謝る。悪かった。でも、やっぱり、一番最初に話を聞くべきなのは莉恵さんだと思うから美琴たちに話すのはまた今度にさせてほしい」
 
「それではい、分かりましたというとでも?」
 
「……思わない」
 
「なら簡単だよね?栗山さんもいるし事の始まりから今までを話せば良いだけでしょ?むしろ、後日説明される方が面倒臭いんだけど」
 
「……まとめる時間もらってもいい?」
 
大虎くんはそう言って美琴さんを見るけれど美琴さんは笑顔で何も言わない。
つまりは駄目と言うことなんだと思う。
大虎くんも察したのか小さく息を吐くと話し始めた。
 
「……体に違和感があったから自分で自分の検査をしてみたんだよ。そしたら、再発の疑いが出て情けないんだけどパニックになったんだよね。過呼吸になって倒れたのを偶然来てた外科の先生に助けてもらったから大事には至らなかった訳だけど。で、ちゃんと診てみないことには再発したかも分からないから診てもらうことになったんだけど忙しい人だからすぐには無理でちょうど美琴に呼ばれた日に時間ができたって連絡もらって美琴の家を出てからそのまま診てもらいに行ったんだ」
 
「……で、結果は?」
 
「至って健康。問題なし。問題があったのは俺の心の方だった」
 
「はぁ?どういうこと?」
 
「要は全部俺の想像だったって話。色んな患者を診てるうちにストレスが溜まってそれが原因で心身共に疲れてただけだったのに自分で勝手に再発したかもって思い込んでただけで再発なんかしてないし悪いところもない」
 
それを聞いた私はホッとしたけれどそれと同時に大虎くんが疲れていることに気づいてあげられなかった自分が悔しくて思わずポロポロと涙が溢れ出す。
それを見た田原さんは慌てながらも私の背中をさすってくれて美琴さんは大虎くんを睨みつけた。
大虎くんも動揺したのか慌てたように口を開く。
 
「り、莉恵さん?ごめんね、心配かけて……泣かないで……って、無理だよね……何も言わずに行ったのは心配をかけたくないとかじゃなくてただ俺が怖かっただけなんだ。不安で押し潰されそうで……でも、誰かに話したらそれこそもう生きていられなくなるような気がして誰にも言えなかった。だから、ちゃんと結果が出るまで誰とも連絡を取らないようにして……」
 
大虎くんはそこまで言うと一度息を吐いた。
 

チラッと私たちを見ると再び口を開く。
 
「いや、もういいや。美琴たちに聞かせる気はなかったけど本音を言うよ。俺ね、どっちだろうと莉恵さんと別れるつもりでいたんだ」
 
「えっ……?」
 
大虎くんの言葉に驚いて涙が引っ込んだ。
美琴さんたちも驚いたみたいで目を見開いていたけれど瀬羽さんは知っていたかのように顔色一つ変えない。
私は恐る恐る口を開いた。
 
「……嘘、だよね?」
 
「嘘じゃないよ。再発してたら死ぬことが確定してるのに莉恵さんと一緒にいるつもりはなかったししてなくても本当のことを言わずに出たんだから一緒にいる資格はないなって。莉恵さんの気持ちなんか考えずに全部勝手に決めた。本当は誰とも会わないでメッセージで済ませようとしてた。ここにいる全員と縁を切るつもりでいたのに瀬羽が余計なことをしてくれたもんだから俺の計画が全部水の泡」
 
大虎くんが何を言っているのか分からなくて声が出ない。
美琴さんたちは大虎くんを睨むように唇を噛む。
 
「瀬羽なら俺のやりたいようにやらせてくれると思って連絡したのに俺の期待を裏切ってこの三人をわざわざ連れてきた理由は何?」
 
大虎くんはそんな私たちを気に留めず瀬羽さんを睨んだ。
瀬羽さんはチラッと私たちの方を見るとため息を吐く。
そして、車を路肩に止めた。
 
「あのなぁ……大虎は一人で抱えすぎなんだよ。時間が経てば経つほど気まずくなるだけだし何より、嫌われたくねぇくせにわざと嫌われるような言い方をするんじゃねぇよ。本当にいくつになっても手がかかる奴だな」
 
瀬羽さんがそういうと大虎くんはカッと顔を赤く染めて慌てたように口を開く。
 
「ちょっ……!本当に止めろ!どうしようと俺の勝手だろ!?兄貴面すんな!」
 
「俺に電話かけてきたときみたいに泣けばいいだろ?何でそこで強がるんだよ?」
 
「黙れ!!泣いてないし!!強がってもない!!」
 
「はぁ?どうしよう、自分から壊した、嫌われる、会わせる顔がないって泣きついてきただろ」
 
「~~っ!!もう本当にお願いだから黙って!!何で瀬羽は隠しておきたいことをペラペラ喋るの!?今の一番知られたくなかったやつだよ!?隠し事できないタイプな訳!?」
 
「……」
 
「そこは喋れよ!!お前のオフモード本当に嫌い!!」
 
「……大虎がお願いだから黙ってって言うから黙ったのに理不尽だな……おーおー、恥ずかしさが最高潮のせいか顔も真っ赤で今にも泣きそうだなぁ?」
 
「うるさい!!お前のせいだ!!馬鹿!!もうこの空間にいたくない!!一人で適当に時間潰す!!」
 
大虎くんはそう言うとシートベルトを外そうと手をかけるがそれを美琴さんと田原さんに止められた。
 
「まぁまぁ、トラ。少し落ち着こうぜ?」
 
「そうだよ、トラ。ゆっくり詳しくその話聞かせてもらおうか」

満面の笑みを浮かべる二人に青ざめていく大虎くん。
瀬羽さんはそんな大虎くんに追い討ちをかけるように車を発進させる。
 
「っ!?瀬羽!!何で発進させたんだよ!?この二人の表情見てみろ!!新しい玩具見つけたいじめっ子みたいな顔してるぞ!!こうなるのが嫌だったからいてほしくなかったのに!!」
 
それから結局大虎くんは洗いざらい全てを話すことになった。
美琴さんと田原さんは満足そうに黙って聞いて瀬羽さんはニヤニヤしながらその光景を眺める。
私は何も言わず黙って聞いていると遠慮がちに声をかけられた。
 
「……あの、莉恵さん」
 
少し驚きながらも顔を上げて首を傾げると大虎くんは顔色を窺うように続ける。
 
「……その……俺、莉恵さんの傍にいても、いい……?」
 
正直、別れようとしていたと聞いて複雑な気持ちになっていた。
 
大虎くんは簡単に私を手放せるんだ、と。
 
不安でしょうがなかった大虎くんに気づいてあげられなかった私が悪いとは思うけれどそれでも悲しくなった。
でも、一緒にいたい。
どう言おうか迷っていると私たちの家に着いたといわれ大虎くんと一緒に車から降りて家に入った――――
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