LOVE FRIEND~今、伝えたい想いがある~

雪原華覧

文字の大きさ
3 / 5

貴女と私の小さな嘘

しおりを挟む
    「ねえ、ミズキ。どの人と付き合うの?」

    これまでミズキに告白した男子生徒のリストを挟んで、困り顔のミズキに視線を送り、私は問い詰めた。

    「誰とって、言われても……ヒナだったら誰と付き合う?」

   私は、普段ミズキに対して抱かない感情が何処からか沸きだしているのを感じた。

    「私は関係ないでしょ?ミズキの考えを聞いてるの」

    この感情と言うか、感覚は何なの?私、一体何に対して。

    「ごめん。ただ、ヒナはどう思ってるのかな、って聞きたくて」

    「ん、ん?どうって……」

    ミズキは、伏し目がちに首を横に振って呟く。

    「あ、ああ、いいの。何でもない」

    ミズキとそんなやり取りをしていると、教室のドアが開き、クラスメイトの男子が顔を覗かせ話し掛けてきた。

    「おい、水城、お前と話したいって奴がいてさ、ちょっと来れるか?」

    私は、またミズキ目的の男子からの相談かと思って「はい、はい、今行くから待ってと伝えて。じゃ、ミズキちょっと行ってくるから」

    そう言って席を立った。

    先程の男子から教えられた場所は、屋上に上がる階段の踊り場だった。

    そこで待っている私の前に、思いがけない人物が現れた。私はその相手をよく知っている。その人は私の家の近所に住む幼馴染みだったから。

    彼にいつもの馴れ馴れしさはなく、表情を固くして緊張している様だった。

    「何?どうしたの?まさか、ミズキのことを……」言いかけた時、彼は何かを吐き出す様に言い放った

    「水城、俺と付き合ってくれ」

    「へ?嘘でしょ?え、えええぇぇぇ!」
   
    席を立ってから十五分後、私はミズキの待つ教室に戻った。

    言葉を無くして椅子にへたり込む様に座った私を見て、ミズキが心配そうに顔を覗き込んできた。

    「どうしたの?ヒナ?何かあったの?」

    私は直ぐに答える事が出来なかった。この直前に起きた事を自分の中で整理してから、やっと言葉が口から出た。

    「……告白された。近所の幼馴染みの子から。いや、有り得ないよ。ね、そうでしょ?ミズキなら分かるけど選りに選って私だよ?いや、有り得ない」

    ちょっと前に私に告白した彼みたいに、一気に吐き出す様に言った。ミズキに言ってるのか、自分に言ってるのかよく分からないままに。

    ミズキは口を僅かに開け、瞬きを忘れた様に私に視線を向けている。いや、正確に言うなら私ではない、何処かを見ている様だった。

    「ミズキ?ミズキ、大丈夫?」

    今度は私が、心配になりミズキに声を掛けた。

    私の声にミズキは、童話のお姫様が目を覚ました様に、その綺麗な瞳を瞬きした。

    夢から覚めたお姫様は、何か言おうとしてみたが、言葉が出てこない様子で艶のある唇を震わせている。

    そして漸く言葉を見つけたミズキは、震える様に呟いた。

    「よ、良かったじゃない。私もあの幼馴染み君はヒナの事好きなんじゃないかなって思ってたんだ」

    「どうしたらいいの?ミズキ……」

    「ヒナが決める事だよ……さっき、私に言った事と同じだよ」

    俯いて呟く様にミズキは、言った。

    「いいんじゃない。二人がはしゃぐの見て、私、羨ましかった……付き合えば……いいじゃない」

    今まで聞いた事のない、ミズキのローテンションな言葉に、私は一瞬、言葉も無く、呼吸する事すら忘れた。

    「どうしたの?ミズキ……私、何か言った?ひょっとして怒ってる?」

    一瞬、息を飲んだ後、私は漸くか細い声を 振り絞って聞いた。

     知り合ってからの約一年の間、聞いた事もない言葉だし、見た事もない態度だった。

    「怒ってる訳じゃないよ、ヒナ。ヒナには素敵なアオハルしてほしいな……ってね」

    ミズキはニッコリとした笑顔で、少し小首を傾げて答える。

    でも、私には分かる。ミズキの笑顔は無理に作っているものだと。「ミズキの本当の気持ちじゃないでしょ?」そう言おうと口を開こうとした時、ミズキは言葉を続けた。

    「私も決めたから……クラス委員長の彼と付き合ってみる……ヒナにも迷惑掛けたくないし」

    「ちょ、ちょっと待ってよ。私、別に迷惑なんて思ってないよ」

    「ヒナは、私に素敵な恋愛して欲しいんでしょ?私も同じ……ヒナにいっぱい、いっぱい、いい恋して欲しいもん。幸せになって欲しいもん。本当だよ……」

    ミズキは、言いながら口元を歪め、潤ませた綺麗な瞳で私を真っ直ぐ見詰めている。

    「……分かった。それがミズキの気持ちなんだね。私も……ミズキが選んだんなら何も言わない。言わないよ。ごめん……なんで私、謝ってるんだろ……なんで……泣いてるんだろ」

    私達は、その後各々、彼氏を作って交際を始めた。私は幼馴染み君と、ミズキはクラス委員長のイケメン君と。

     私は、ミズキに対して抱き始めていた親友以上、と言うか友情とはまた違う想いを胸の中に閉じ込めた。
    
    ミズキにとって私はどんな存在なんだろう?という思いはあったが、今の関係を壊してしまう事が怖かった。

     それから卒業までの間、私達はどちらがという訳ではなく、何となく距離を置くようになった。

    卒業後は、何回かメールや電話でのやり取りをしたが、お互いから「会おう」という言葉が出る事はなかった。

    私は卒業から半年後、幼馴染み君とは別れた。彼が大学のサークルで新しい彼女を作ったからだ。私はその事実を前にしても、別に悲しくはなかった。むしろ、「この辺が潮時かな」くらいの、何処か他人事のように受け止めていた。

    かつてのクラスメイトから聞いた話しでは、ミズキもイケメンクラス委員長と別れたそうだ。

    そして、ミズキは留学のため旅立って行った。

    あれから十年、今、私の隣にはミズキがいる。

    昔なら、単純でごく当たり前のその事実が、私の胸の一番奥にあるもの優しく包んでいた。



    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

真実の愛ならこれくらいできますわよね?

かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの でもそれは裏切られてしまったわ・・・ 夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。 ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

処理中です...