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幕引きは血塗られる
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「自分勝手に迎えられた伴侶を殴るヤツの家だなんて、ご勘弁ですねー」
「……そ、そんな事はしない」
侯爵は思わず吃りながらも否定する。そんな彼に、階段上の『ドロシー』は燭台の灯りに照らされながら、可憐にニッコリと微笑った。
笑顔を向けてくれるドロシーは自分を愛している。そう感極まった侯爵は取り繕った。
「勘違いだ。ああ、ドロシー愛して」
「可哀想なマーシャル侯爵サマ。叔母様の偉業の前に霞んで消えちゃいそうなボンクラ坊っちゃんさん。聞きましたよ、色々とー。おおー怖ーい」
「ドロシー……! 貴様……」
「妬ましいのよねえ? 分っかるわあ。
あたしもお勉強サッパリだもの! でもね、其処までバカにされてお嫁に行くなんて真っ平よ」
「女なんてモノは馬鹿だ! お前のように可愛らしく愚かでいればいいんだと褒めてやってるんだ!」
「ヤダ、アタマ悪うい? 妹様へのコンプレックスたっぷりの負け犬お父様からのご教育かしら」
侯爵は、頭に血が上っているのか『ドロシー』の正体に気付きもしない。
しかし、とんでもない事をやれと言われたけれど、やれるものね……。と彼女は心の中で呟いた。
「あたしに逃げられたら、次はドレニスを手に入れようとして。
気持ち悪いったら!」
「元々お前は私の婚約者だ! その娘も所有物だろう! あの愚かな男の血が混じっていても許してやろうと言うのだ!」
勝手な事を。
お前の方が愚かな男の癖にね、と内心怒り狂いながらも『ドロシー』は間延びした声で語りかける。
「でもー、ドレニスはアナタの嫌いなタイプに育ったでしょ? 頭のいい女のコ、嫌いだものねー?」
「小賢しかろうと、私が教育してやれば、直ぐに大人しくなる」
「まー! 怖い怖ーい!
貴方の非道なお父様がコゼット様を痛めつけたように? あたし、聞いてたのよー。其の辺で威張ってたもんねー」
「……!」
身に覚えが有るらしく、侯爵は一瞬身を強張らせる。
そんな彼に、『ドロシー』は、ニンマリと笑いかける。そして、急にふいっと顔を背けた。そして、悲しげに顔を覆う。
「あたしが一目惚れして、婚約を望んだのに……なーんて、どうして皆が信じるのー?
あたし、そんなにワガママ通せるような権力も無いのに……悲しかったわー」
「全ては君への愛故だと、何故分からない!? ドロシー、お前を、馬鹿で愚かしいお前の全てを! 愛してやっているのに!」
「だから、奥様とご令息を甚振ったの?」
「あんなものは、ドロシーが戻る迄のスペアだ! 叔母と同じように、棄ててやる! 早く戻れ、ドロシー!」
「嘘つき」
激高した侯爵の足元でバリ、と鳴る。
糊が弱かったか、ヒヤリとしたが未だ剥がれていないようだ。
もうあまり時間はないか、と『ドロシー』は急ぐことにした。未だ少し、『恨み言』は残っているのだが許して貰おう。
「貴方みたいなゴミばっかりくれる人、ドロシーは大っ嫌い」
「……!? ご、ゴミ!?」
「鉄屑より邪魔なプレゼントに、腐ったご飯みたいな言葉。割れたカップ以上に傷付けるんでしょー?」
「わ、私の……私の、私の……」
「それにね、侯爵。あたし、優しくしてくれるお馬鹿さんが好きなの。タイプじゃないの」
「ふ、ふ……」
ブルブルと、侯爵が震えだす。
そろそろ頃合いだろうか。チラリと侯爵の後ろを見ると、控えている影が揺らいだ。今の頃合いで丁度良いだろうかと少し気を抜いてしまったのだろうか。
「ふざけるなあああ! 貴様、ドロシー、殺してやる! 今直ぐ殺してその戯けた中身を抜いて、私の傍にいいい!」
「えっ」
マーシャル侯爵が、腰に差していた短剣か何かを投げたらしく銀色の塊が、2階を目掛けて飛んできた。
「っ!」
「ドレニス嬢!」
流石に避けきれない! とせめて目を閉じたその時に体を引き倒された。
倒れ込む衝撃は有ったが、刺し傷の痛みはない。
……誰か、控えさせて居ただろうか?
と、『ドロシーに扮していたドレニス』が目を開けると……ヌルリと生暖かい感触が顔に降りかかる。
「キャッ!? ……!! ろ、ロベルト……ロベルト様!」
「よ、良かっ……」
血だ。
ロベルトの血だ。
ドレニスの顔に、髪に降りかかるのは……。メイクだけ伝授して貰ってからやはり無理をしないで、と奥の部屋に居て貰った筈の彼から流れる血だった。
何時の間に出てきてしまったのか。
「い、いやあああ!」
「さ、殺人だ! その侵入者を早く捕まえろ!」
「何をする! 私は私の女を迎えに来ただけだ! 私はマーシャル侯爵だぞ! 離せ、離せええええ!」
祖父の声に、待機させていた警備騎士の声が響き渡る中。
ドレニスは意識をなくしたロベルトを抱え叫び続けていた。
「……そ、そんな事はしない」
侯爵は思わず吃りながらも否定する。そんな彼に、階段上の『ドロシー』は燭台の灯りに照らされながら、可憐にニッコリと微笑った。
笑顔を向けてくれるドロシーは自分を愛している。そう感極まった侯爵は取り繕った。
「勘違いだ。ああ、ドロシー愛して」
「可哀想なマーシャル侯爵サマ。叔母様の偉業の前に霞んで消えちゃいそうなボンクラ坊っちゃんさん。聞きましたよ、色々とー。おおー怖ーい」
「ドロシー……! 貴様……」
「妬ましいのよねえ? 分っかるわあ。
あたしもお勉強サッパリだもの! でもね、其処までバカにされてお嫁に行くなんて真っ平よ」
「女なんてモノは馬鹿だ! お前のように可愛らしく愚かでいればいいんだと褒めてやってるんだ!」
「ヤダ、アタマ悪うい? 妹様へのコンプレックスたっぷりの負け犬お父様からのご教育かしら」
侯爵は、頭に血が上っているのか『ドロシー』の正体に気付きもしない。
しかし、とんでもない事をやれと言われたけれど、やれるものね……。と彼女は心の中で呟いた。
「あたしに逃げられたら、次はドレニスを手に入れようとして。
気持ち悪いったら!」
「元々お前は私の婚約者だ! その娘も所有物だろう! あの愚かな男の血が混じっていても許してやろうと言うのだ!」
勝手な事を。
お前の方が愚かな男の癖にね、と内心怒り狂いながらも『ドロシー』は間延びした声で語りかける。
「でもー、ドレニスはアナタの嫌いなタイプに育ったでしょ? 頭のいい女のコ、嫌いだものねー?」
「小賢しかろうと、私が教育してやれば、直ぐに大人しくなる」
「まー! 怖い怖ーい!
貴方の非道なお父様がコゼット様を痛めつけたように? あたし、聞いてたのよー。其の辺で威張ってたもんねー」
「……!」
身に覚えが有るらしく、侯爵は一瞬身を強張らせる。
そんな彼に、『ドロシー』は、ニンマリと笑いかける。そして、急にふいっと顔を背けた。そして、悲しげに顔を覆う。
「あたしが一目惚れして、婚約を望んだのに……なーんて、どうして皆が信じるのー?
あたし、そんなにワガママ通せるような権力も無いのに……悲しかったわー」
「全ては君への愛故だと、何故分からない!? ドロシー、お前を、馬鹿で愚かしいお前の全てを! 愛してやっているのに!」
「だから、奥様とご令息を甚振ったの?」
「あんなものは、ドロシーが戻る迄のスペアだ! 叔母と同じように、棄ててやる! 早く戻れ、ドロシー!」
「嘘つき」
激高した侯爵の足元でバリ、と鳴る。
糊が弱かったか、ヒヤリとしたが未だ剥がれていないようだ。
もうあまり時間はないか、と『ドロシー』は急ぐことにした。未だ少し、『恨み言』は残っているのだが許して貰おう。
「貴方みたいなゴミばっかりくれる人、ドロシーは大っ嫌い」
「……!? ご、ゴミ!?」
「鉄屑より邪魔なプレゼントに、腐ったご飯みたいな言葉。割れたカップ以上に傷付けるんでしょー?」
「わ、私の……私の、私の……」
「それにね、侯爵。あたし、優しくしてくれるお馬鹿さんが好きなの。タイプじゃないの」
「ふ、ふ……」
ブルブルと、侯爵が震えだす。
そろそろ頃合いだろうか。チラリと侯爵の後ろを見ると、控えている影が揺らいだ。今の頃合いで丁度良いだろうかと少し気を抜いてしまったのだろうか。
「ふざけるなあああ! 貴様、ドロシー、殺してやる! 今直ぐ殺してその戯けた中身を抜いて、私の傍にいいい!」
「えっ」
マーシャル侯爵が、腰に差していた短剣か何かを投げたらしく銀色の塊が、2階を目掛けて飛んできた。
「っ!」
「ドレニス嬢!」
流石に避けきれない! とせめて目を閉じたその時に体を引き倒された。
倒れ込む衝撃は有ったが、刺し傷の痛みはない。
……誰か、控えさせて居ただろうか?
と、『ドロシーに扮していたドレニス』が目を開けると……ヌルリと生暖かい感触が顔に降りかかる。
「キャッ!? ……!! ろ、ロベルト……ロベルト様!」
「よ、良かっ……」
血だ。
ロベルトの血だ。
ドレニスの顔に、髪に降りかかるのは……。メイクだけ伝授して貰ってからやはり無理をしないで、と奥の部屋に居て貰った筈の彼から流れる血だった。
何時の間に出てきてしまったのか。
「い、いやあああ!」
「さ、殺人だ! その侵入者を早く捕まえろ!」
「何をする! 私は私の女を迎えに来ただけだ! 私はマーシャル侯爵だぞ! 離せ、離せええええ!」
祖父の声に、待機させていた警備騎士の声が響き渡る中。
ドレニスは意識をなくしたロベルトを抱え叫び続けていた。
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