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第三話 拒絶の月明かり
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図書館でのあの日以来、フィリップとクレアの間には深い沈黙が続いていた。
フィリップはクレアに幾度となく声をかけようとしたが、彼女の冷静な態度や、その瞳に漂う何かを拒むような雰囲気に、時間だけが静かに過ぎていき、結局彼は何もできずにいた。
そんな中、彼女と話せないままの日々が続き、いつの間にか、大学で開かれる最後の卒業パーティーの日が訪れていた。
夜空に輝く星と、キャンパスを彩るイルミネーションが美しいコントラストを描いていた。
大学の庭園で開かれたパーティーには、多くの学生たちが集まり、華やかな服に身を包みながら談笑や音楽を楽しんでいた。
しかし、フィリップの心はその喧騒とは裏腹に落ち着かないままだった。
その理由は、一人庭園の隅で静かに夜空を見上げている女性――クレア・ウィンスレットの存在だった。フィリップは、彼女を見つけた瞬間、胸の奥から湧き上がる感情を抑えることができなかった。彼女の存在は、ずっと彼の中で特別なものだったからだ。
彼は意を決して彼女のもとへ向かうと、少し緊張した声で話しかけた。
「クレア、少し時間をもらえないかな?」
クレアは驚いたように振り返り、目の前に立つフィリップを見て戸惑いの表情を浮かべた。
「フィリップ王子」
その言葉に、フィリップの心が一瞬締め付けられた。「フィリップ王子」。クレアの口から出たその言葉には、どこか距離感が漂っていた。
彼は彼女に自分の肩書きで呼ばれ、心の奥にある孤独が膨らむのを感じていた。
「王子としてではなく、ただのフィリップとして君と話したいことがあるんだ」
フィリップは力なく笑みを浮かべた。
「だから、僕を"王子"と呼ぶ必要はないよ」
彼女は一瞬考えるように目を伏せたが、近くのベンチを指差した。
「わかったわ。ここでは立ち話になるし、座りましょう」
二人が並んで腰を下ろすと、フィリップは深呼吸をし、胸に抱えていた思いを言葉にした。
「クレア……僕は子どもの頃からずっと君のことが好きだった。君は僕にとって特別で、憧れで……今でもその気持ちは変わらない」
クレアの瞳がわずかに揺れたが、彼女はそれを隠すように視線を外し、静かにため息をついた。
「フィリップ、あなたの気持ちは嬉しいわ。でも……私には応えられない」
「どうして?」フィリップは少し声を上げた。
「僕は本気だ。子どもの頃からずっと君のことだけを想ってきたんだ」
クレアは少し考え込み、やがてゆっくりと話し始めた。
「あなたは王子よ。私はあなたの世界に属していないわ。あなたには、王子としての責任がある。そしてその世界は、私にとっては遠いものなの」
フィリップは言葉を失い、彼女を見つめた。
「それはただ僕が王子だから?そんな理由で僕を拒むのか?」
「フィリップ、それはあなたが生きる世界そのものよ。私にはその世界が眩しすぎる。だから……私はそこに入るつもりはないの」
フィリップはその言葉にさらに胸が締め付けられるのを感じた。
彼が憧れていたクレアは、彼に向き合ってくれるどころか、彼を“王子”としてしか見ていなかった。それが彼女との間に越えられない壁を作っているのだと痛感した。
「クレア、僕はただの一人の男として君に――」
「フィリップ」クレアはその言葉を遮るように静かに言った。
クレアは彼の真剣な眼差しに耐えきれないように、ゆっくりと首を振った。
「フィリップ……あなたにはキャサリンがいる」
その名前を聞いた瞬間、フィリップは動揺を隠せなかった。
「キャサリンは……」
「彼女はあなたの恋人でしょう?」クレアは遮るように言った。
「彼女と一緒にいる時のあなたを、私は何度も見ているわ。幸せそうに笑って、彼女を大切にしているあなたを」
「それでも……君は僕にとって特別なんだ!」フィリップは思わず声を荒げた。「君がいてくれれば、僕には……キャサリンなんて――」
その言葉に、クレアは一瞬だけ目を見開いた。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、静かに言葉を紡いだ。
「キャサリンのことをそんなふうに言うべきじゃないわ、フィリップ」
「キャサリンは……いや、彼女は大切だ。でも、君がいると、僕の心は君に――」
「もうやめて」クレアはその言葉を遮るように言った。
「そんなの、ただのわがままよ」彼女は冷静な声で続けた。
「キャサリンのことを大切にしていると言いながら、他の人に想いを告げるなんて、彼女を裏切る行為だわ」
フィリップは反論しようと口を開いたが、クレアの厳しい視線に遮られた。
「それだけじゃない。私はもっと自由に生きたいの。誰にも縛られず、自分の選んだ道を歩みたい。だけど、あなたと一緒にいたら、それはきっと叶わない」
彼女の言葉は冷静でありながら、どこか寂しげでもあった。
そんな彼女の言葉は、鋭くフィリップの胸を刺した。彼は何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
クレアは立ち上がり、フィリップに最後の言葉を告げた。
「フィリップ、あなたは素敵な人よ。だから、私のことはもう忘れて、私に囚われないで」
フィリップは何も言えず、ただ呆然とするしかなかった。
「ありがとう、フィリップ。私を想ってくれて」
クレアは立ち上がり、もう一度彼に微笑みかけると、静かにその場を去っていった。
フィリップはその背中を見つめながら、月明かりの下で一人立ち尽くしていた。
胸の奥には初恋の痛みと、自分が "王子" であることへのどうしようもない悲しみが渦巻いていた。
フィリップはクレアに幾度となく声をかけようとしたが、彼女の冷静な態度や、その瞳に漂う何かを拒むような雰囲気に、時間だけが静かに過ぎていき、結局彼は何もできずにいた。
そんな中、彼女と話せないままの日々が続き、いつの間にか、大学で開かれる最後の卒業パーティーの日が訪れていた。
夜空に輝く星と、キャンパスを彩るイルミネーションが美しいコントラストを描いていた。
大学の庭園で開かれたパーティーには、多くの学生たちが集まり、華やかな服に身を包みながら談笑や音楽を楽しんでいた。
しかし、フィリップの心はその喧騒とは裏腹に落ち着かないままだった。
その理由は、一人庭園の隅で静かに夜空を見上げている女性――クレア・ウィンスレットの存在だった。フィリップは、彼女を見つけた瞬間、胸の奥から湧き上がる感情を抑えることができなかった。彼女の存在は、ずっと彼の中で特別なものだったからだ。
彼は意を決して彼女のもとへ向かうと、少し緊張した声で話しかけた。
「クレア、少し時間をもらえないかな?」
クレアは驚いたように振り返り、目の前に立つフィリップを見て戸惑いの表情を浮かべた。
「フィリップ王子」
その言葉に、フィリップの心が一瞬締め付けられた。「フィリップ王子」。クレアの口から出たその言葉には、どこか距離感が漂っていた。
彼は彼女に自分の肩書きで呼ばれ、心の奥にある孤独が膨らむのを感じていた。
「王子としてではなく、ただのフィリップとして君と話したいことがあるんだ」
フィリップは力なく笑みを浮かべた。
「だから、僕を"王子"と呼ぶ必要はないよ」
彼女は一瞬考えるように目を伏せたが、近くのベンチを指差した。
「わかったわ。ここでは立ち話になるし、座りましょう」
二人が並んで腰を下ろすと、フィリップは深呼吸をし、胸に抱えていた思いを言葉にした。
「クレア……僕は子どもの頃からずっと君のことが好きだった。君は僕にとって特別で、憧れで……今でもその気持ちは変わらない」
クレアの瞳がわずかに揺れたが、彼女はそれを隠すように視線を外し、静かにため息をついた。
「フィリップ、あなたの気持ちは嬉しいわ。でも……私には応えられない」
「どうして?」フィリップは少し声を上げた。
「僕は本気だ。子どもの頃からずっと君のことだけを想ってきたんだ」
クレアは少し考え込み、やがてゆっくりと話し始めた。
「あなたは王子よ。私はあなたの世界に属していないわ。あなたには、王子としての責任がある。そしてその世界は、私にとっては遠いものなの」
フィリップは言葉を失い、彼女を見つめた。
「それはただ僕が王子だから?そんな理由で僕を拒むのか?」
「フィリップ、それはあなたが生きる世界そのものよ。私にはその世界が眩しすぎる。だから……私はそこに入るつもりはないの」
フィリップはその言葉にさらに胸が締め付けられるのを感じた。
彼が憧れていたクレアは、彼に向き合ってくれるどころか、彼を“王子”としてしか見ていなかった。それが彼女との間に越えられない壁を作っているのだと痛感した。
「クレア、僕はただの一人の男として君に――」
「フィリップ」クレアはその言葉を遮るように静かに言った。
クレアは彼の真剣な眼差しに耐えきれないように、ゆっくりと首を振った。
「フィリップ……あなたにはキャサリンがいる」
その名前を聞いた瞬間、フィリップは動揺を隠せなかった。
「キャサリンは……」
「彼女はあなたの恋人でしょう?」クレアは遮るように言った。
「彼女と一緒にいる時のあなたを、私は何度も見ているわ。幸せそうに笑って、彼女を大切にしているあなたを」
「それでも……君は僕にとって特別なんだ!」フィリップは思わず声を荒げた。「君がいてくれれば、僕には……キャサリンなんて――」
その言葉に、クレアは一瞬だけ目を見開いた。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、静かに言葉を紡いだ。
「キャサリンのことをそんなふうに言うべきじゃないわ、フィリップ」
「キャサリンは……いや、彼女は大切だ。でも、君がいると、僕の心は君に――」
「もうやめて」クレアはその言葉を遮るように言った。
「そんなの、ただのわがままよ」彼女は冷静な声で続けた。
「キャサリンのことを大切にしていると言いながら、他の人に想いを告げるなんて、彼女を裏切る行為だわ」
フィリップは反論しようと口を開いたが、クレアの厳しい視線に遮られた。
「それだけじゃない。私はもっと自由に生きたいの。誰にも縛られず、自分の選んだ道を歩みたい。だけど、あなたと一緒にいたら、それはきっと叶わない」
彼女の言葉は冷静でありながら、どこか寂しげでもあった。
そんな彼女の言葉は、鋭くフィリップの胸を刺した。彼は何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
クレアは立ち上がり、フィリップに最後の言葉を告げた。
「フィリップ、あなたは素敵な人よ。だから、私のことはもう忘れて、私に囚われないで」
フィリップは何も言えず、ただ呆然とするしかなかった。
「ありがとう、フィリップ。私を想ってくれて」
クレアは立ち上がり、もう一度彼に微笑みかけると、静かにその場を去っていった。
フィリップはその背中を見つめながら、月明かりの下で一人立ち尽くしていた。
胸の奥には初恋の痛みと、自分が "王子" であることへのどうしようもない悲しみが渦巻いていた。
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