夜櫻に輝く君を想う。

18話

「…もしもし」
 

恐る恐る電話に出た。
怖かった。
でも
出るしか無かった。


「あの、櫻野大翔くんですか？」


女の人の声だった。
ハッキリと聞こえた。
でも、少し声が震えてるようだった。

「はい。」
「緋山和樹の母です。」
「あぁ。櫻野です。」
「急にごめんなさい。和樹のことで」
「はい」
「今、和樹の容態が急変して、なんとか一命は取り留めたんだけど、今日が山場だって言われたの。」
「えっ、、」

早い。
そう思った。
余命はまだ残ってた。
退院して、また遊ぼうって思ってた。
遊べるって。

もう俺の頭の中には、彼女の事が無くなっていた。
忘れたんじゃない。
和樹の事でいっぱいになってしまった。

雲に包まれた空は、まるで俺の心を表しているように漆黒の闇に包まれる。
神様は、俺の事なんてお見通しだな。

だったらさ。


和樹のことを助けてよ。。。


「大翔くん。」
「あ、ごめん。」

そうだ。
俺は彼女との話の途中だった。

「和樹くんの事だよね。」
「うん。あの。美月は知ってるんでしょ。和樹がいなくなる日」
「うん。でも、言えないよ。私は助言しか出来ない。」
「じゃあ、助言してよ。ねえ！教えてよ！和樹の事。俺がどうすればいいのか！！」

俺の声は公園中に響いた。
どうしても知りたくて。
どうしても後悔したくなくて。
だから。

どうしても、怒りが湧いてしまった。

「大翔くん。」

彼女からの呼び掛けに、返事をすることは無かった。

「私は助言しか出来ないけど、今は助言することは無い。正直言って、大翔くんが出来ることはない。和樹くんは、もう助からない。それは、決まってる。私にも出来ることは何もない、」

何も出来ない。
そんな。もう。時間が無い。。
その現実を突きつけられている。
それを理解した時には、俺の顔は涙で溢れていた。


何分たっただろうか。


落ち着くまで、しばらくの時間を要した。
いつの間にか、外をあかりはほとんど消えていた。


「美月。」


周りを見渡しても、誰もいなかった。


彼女はいつもそうだ。


急に来て、急に居なくなる。



                                                 『未来人』



彼女の正体の候補は、これだけだった。