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燈の婚約者 雲丹亀玄静登場
雲丹亀玄静 その5
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「ちっ」
自然に漏れた舌打ちを抑えることなく、玄静は怒りに任せて歩く。
━━━くそっくそっくそ!
壱覇によってかき乱された心が。自分の状態を自分でコントロールできない不快感が。なぜ怒っているのか理解できない自分が。玄静をより早歩きにさせる。
━━━何やってんだろうね、僕は。
感情に任せて壱覇少年にとんでもない発言をしてしまった。
傷付けたかったわけじゃない。子供にもわかりやすく説明しようとしたつもりが、自分の感情をぶちまけてしまうとは。
━━━未熟だな。
足を止め、自分の不甲斐なさに大きくため息をつく。
「……どこだよ、ここ」
気づけば見知らぬ場所にぽつんと立っていた。闘技場の敷地内ではあるのだろうが、同じ形をした宿舎が四方にあるだけだ。自分がどこにいるのか見当もつかない。
━━━ああ、もう!
心臓に手を当てて鼓動を鎮める。息を限界まで吸って限界まで吐く動作を三回繰り返すとようやく整ってきた。
「よし」
じっとしていても仕方がないので当てもなくふらつく。
すると掛け声が聞こえてきたので、声のするほうへ足を運ぶと第五と書かれた大きな訓練場があった。
皐月杯において第五訓練場から出場した剣闘士は一回戦で外部参加者に倒された。次の大会に備え、道場で剣闘士たちが一対一の模擬戦をしている。
「オラァ! 声出せ声! ボサっとしてんじゃねーぞ!」
「押忍!」
監督と思しき男が剣闘士たちに檄を飛ばしている。暑苦しいことこの上ない。
━━━なんでそんなに必死になるんだよ。
玄静は自身の心が急激に冷めていくのを感じた。
ひたすらに頑張って、ガムシャラに努力して。
強くなるためなんだろうが、結果はたかが知れてる。この第五訓練場にいる三十人近い剣闘士びうち、大会があっても活躍できるのは数名。監督や副監督になれるのは多くても二人だ。
汗を描いて券を握る心境は理解できないし、したくもなかった。
「馬鹿馬鹿しい」
吐き捨てるようにつぶやいて玄静は端末を取り出す。第五訓練場から帰路の目星をつけたところでどこからか子供の声がした。
「にいちゃ~ん!」
壱覇と同い年くらいの少年が手を振っている。訓練場にいる少年の兄は声援にこたえて手を振る。
闘技場ではよくある景色なのだろう。周りの剣闘士は何も言わないどころか、むしろ歓迎していた。
ありふれた日常の一場面。目を閉じるとフラッシュバックして過去の記憶が瞼の裏に投影される。
━━━ああ、なんだ。
ふと、玄静の胸に納得感があふれる。
なぜ年端もいかぬ少年にあたってしまったのか。理解できてしまった。
何ということはない。単純だ。
自分もかつて、壱覇少年と何ら変わらなかったのだから。
自然に漏れた舌打ちを抑えることなく、玄静は怒りに任せて歩く。
━━━くそっくそっくそ!
壱覇によってかき乱された心が。自分の状態を自分でコントロールできない不快感が。なぜ怒っているのか理解できない自分が。玄静をより早歩きにさせる。
━━━何やってんだろうね、僕は。
感情に任せて壱覇少年にとんでもない発言をしてしまった。
傷付けたかったわけじゃない。子供にもわかりやすく説明しようとしたつもりが、自分の感情をぶちまけてしまうとは。
━━━未熟だな。
足を止め、自分の不甲斐なさに大きくため息をつく。
「……どこだよ、ここ」
気づけば見知らぬ場所にぽつんと立っていた。闘技場の敷地内ではあるのだろうが、同じ形をした宿舎が四方にあるだけだ。自分がどこにいるのか見当もつかない。
━━━ああ、もう!
心臓に手を当てて鼓動を鎮める。息を限界まで吸って限界まで吐く動作を三回繰り返すとようやく整ってきた。
「よし」
じっとしていても仕方がないので当てもなくふらつく。
すると掛け声が聞こえてきたので、声のするほうへ足を運ぶと第五と書かれた大きな訓練場があった。
皐月杯において第五訓練場から出場した剣闘士は一回戦で外部参加者に倒された。次の大会に備え、道場で剣闘士たちが一対一の模擬戦をしている。
「オラァ! 声出せ声! ボサっとしてんじゃねーぞ!」
「押忍!」
監督と思しき男が剣闘士たちに檄を飛ばしている。暑苦しいことこの上ない。
━━━なんでそんなに必死になるんだよ。
玄静は自身の心が急激に冷めていくのを感じた。
ひたすらに頑張って、ガムシャラに努力して。
強くなるためなんだろうが、結果はたかが知れてる。この第五訓練場にいる三十人近い剣闘士びうち、大会があっても活躍できるのは数名。監督や副監督になれるのは多くても二人だ。
汗を描いて券を握る心境は理解できないし、したくもなかった。
「馬鹿馬鹿しい」
吐き捨てるようにつぶやいて玄静は端末を取り出す。第五訓練場から帰路の目星をつけたところでどこからか子供の声がした。
「にいちゃ~ん!」
壱覇と同い年くらいの少年が手を振っている。訓練場にいる少年の兄は声援にこたえて手を振る。
闘技場ではよくある景色なのだろう。周りの剣闘士は何も言わないどころか、むしろ歓迎していた。
ありふれた日常の一場面。目を閉じるとフラッシュバックして過去の記憶が瞼の裏に投影される。
━━━ああ、なんだ。
ふと、玄静の胸に納得感があふれる。
なぜ年端もいかぬ少年にあたってしまったのか。理解できてしまった。
何ということはない。単純だ。
自分もかつて、壱覇少年と何ら変わらなかったのだから。
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