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第12話 戦いのサーカス(1)
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翌朝、香取家の裏山。敷地内に武術の稽古に使われた芝生の広場。武命は幼い頃、ここで父親と稽古した記憶がある。
「はよーん」 「おはようございます」 「おはよ~!」
タツトラと青年とアリスがやってくる。
「おはよう」 「お、おはようございます」 「おはー!」
武命と篝とアビーが待っていた。
「武命、泊めてくれてありがとう! 私はチームに戻るね! ここからは敵だよ!」
アビーはタツトラの元へ帰って行った。これから決闘だと言うのに、まるでスポーツの試合のような清々しさだ。
「余計なおしゃべりは無しだ。 早速で悪いが、ぶっ殺されてくれ」
タツトラが棒を構える。剣のような構え方だ。
「ああ。 俺も遠慮なくやらせてもらう」
武命は木刀を構える。お互いに青眼の構え(剣先が相手の目の高さ)だ。
背の丈は武命の方が少々高い。タツトラは正面で撃ち合う事を嫌い、脇構え(持ち手を右脇へ、剣先を後ろへ向けて半身を曝け出す構え)に構え直す。
剣道などではまず見られない構えに武命は戸惑う。 正面の相手から武器の長さを悟られないようにする為とか、背後への防御の為とかそう言う類の構えだと思っていたが、一対一でやる意味がわからない。 しかし、防御の構えで間違いないだろうと考えた。
だが、タツトラは前へ進み出した。姿勢を低くしたまま、左右にも上下にも全くぶれない、隙のない足運びだ。
武命は一瞬迷ったが、最速の面打ちに対応できるとは思えなかった。即座にタツトラの額へ木刀を打ち込む!
しかし、その打ち込みを知っていたかのように、先にタツトラが棒で武命の小手へ打ち込んでくる! まるでタツトラの肩から生えてきたかのような棒の軌道で戸惑うが、青眼の構えは対応力が高いため、木刀で受けて防ぐ。
肩や脇からの小さい動作での打ち方は香取家の技にもあるので、対応しやすかったと言うのもあった。それにしても、体の使い方からして隙が無い。
武命は剣先を上げて、上段の構えをとった。撃剣の威力と距離は伸びるが胴体は無防備になる。ジリジリと間合いを詰める。
しかし近づくにつれて、タツトラにはますます隙が無い。 武命の上段の構えは、八相の構え(左自然体で右手が右肩の前)に変化する。 より自在に動きやすい構えになる。
ピタリ。と間合いが合った。武命は跳ねず、地面を蹴らず、予備動作のない、しかし爆発的な打ち込みでタツトラの額に打ち込む。
タツトラも同時に動いていた。タツトラは武命の打ち込みを棒で受けながら体捌きで受け流し、返す刀(棒であるが)で武命の横面を打とうとした。
しかし、受けた武命の剣は速くて重かった! 受け流せねば鎖骨か、脚の腱を撃ち切られるかもしれないと感じて、防御に徹して一度離れた。
((こいつ、強い!!)) ピリピリとした緊張感が走る。
二人は充実した緊張感を味わっていた。 しかし、その二人の時間を邪魔する者が現れる。
「お二人ともー! 待ってくださーい!」 山中の茂みから声をかける者が現れる。
「はあ!?」 「ああ!?」 武命とタツトラは水を差され、怒りを覚える。
「あー!! おっさん!! 出てっちゃダメだってえ!!」
いかにも「ギャル」といった感じの、緊張感のない声が続いて響く。
見ると、見知らぬ中年男性と、霧島燈が茂みから出てくる。
「おっさん! 武命と龍虎が潰し合った後で、勾玉を奪うのが一番効率いいんだよ!」
「私の望みは強い人と戦う事です。ここで二人が潰し合っては困ります」
どうやら、燈と男性が手を組んでいることが分かる。この私有地を突き止めたのは霧島家の情報力だろう。
しかし、今の問題はそんな事ではない。盛り上がり切った武命とタツトラは戦いに水をさされたことに怒りを覚えていた。 奇妙な共感だった。
「テメエ! 何、決闘の邪魔しくさってんだァ!? 殺すぞ!」
「おお、素晴らしい闘志です! 僕は宮城航平。貴方達と戦う為に来ました」
「はあああ!?」 タツトラがブチ切れる。そこへアビーと同僚の青年が駆け寄る。
「兄貴、ここは俺達に任せて決着をつけてください」 青年が言う。
「太助、アビー! 気をつけろ! そいつ、なんか変な感じだ!」
「ボス! こいつは私とタスケに任せて!」 アビーも戦う気、満々だ。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
青年こと太助と、アビーは総合格闘技の構えだ。 航平は嬉しそうにする。
「間に合ったようで良かったです。 皆、まとめてかかってきて下さい」
「おじさんさ! なめんじゃねって!!」 太助が啖呵を切って殴りかかる。
航平の太い腕が太助のパンチを軽々といなす。航平の腕がまるでへばりつくように太助の腕を押さえつける。
「こ、これは!? 中国拳法!? 化勁(相手の力をコントロールする技術)!?」
太助は航平に逆らわず、むしろ密着して反撃技から逃れようとする。頭を航平の胸に着け、両腕を航平の背中に回し手を組んでロックする。
「タスケ、ナイス!! 逃しちゃダメよ!」
太助が捕まえた航平の側頭部にアビーが飛び蹴りを放つ。
航平がつま先から体を捻ると、密着している太助は大きく崩されてしまう。太助は航平に振り回されて、飛んできたアビーに衝突する。
「痛あい! タスケ!! 何やってんのよお!!」 アビーが叫ぶ。
(今のは纏絲勁!? このおっさん、空手だけでは無い!)
アビーは続けざま踏み込んで、航平にローリングソバットを放つ!
対して航平は後ろ回し蹴りで対抗する。膂力でアビーを弾き返す。
「痛たぁ。 こいつはかなりのタフガイだね。 タスケ、ここは同時に攻めよう! 二人の愛のツープラトンだよ!」
「ああ。 愛は余計だが、やってみよう!」
太助がアビーと息を合わせる。二人で航平を挟むように立ち回る。
正面から太助がローキックを仕掛ける。 アビーは後ろからハイキックを放つ。どう対処してもどっちかが当たるはずだ。
しかし、航平は避けるどころか前に出る。太助のローキックに蹴りを入れて、足を着地させる。足が止まった太助の腹に両掌の一撃を打ち込む!
太助は膝をつき、胃液を吐く。
ハイキックのタイミングを失ったアビーは、航平に後ろから抱きつき、首に絞め技をかける。 航平が体を捻ると、やはりアビーも吹き飛ばされそうになる。 首や胴体に抱きつくと、とんでもない膂力(航平は勁力と呼ぶ)に吹き飛ばされてしまう。
アビーは絞め技を諦め、関節技狙いに変更した。
なんとか耐えたアビーは、航平の肩に飛びつく。 航平の腕を内腿に挟み、肘関節を伸ばす。 飛びつきの腕挫十字固の形になり、航平の腕にぶら下がる形だ。
「取った!!」 アビーは勝利を確信した。航平の腕はまだ動くが、完全に決まった腕挫が外されるとは思えなかった。
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
それを見ていたタツトラが武命に言う。
「すまねえ、武命! 俺たちの決闘はまた今度だ! アビーがやべえ!!」
武命も篝の事が気になっていた。
「わかった。 また今度場所を設けよう!」
二人はお互いの仲間を助けに行った。
「はよーん」 「おはようございます」 「おはよ~!」
タツトラと青年とアリスがやってくる。
「おはよう」 「お、おはようございます」 「おはー!」
武命と篝とアビーが待っていた。
「武命、泊めてくれてありがとう! 私はチームに戻るね! ここからは敵だよ!」
アビーはタツトラの元へ帰って行った。これから決闘だと言うのに、まるでスポーツの試合のような清々しさだ。
「余計なおしゃべりは無しだ。 早速で悪いが、ぶっ殺されてくれ」
タツトラが棒を構える。剣のような構え方だ。
「ああ。 俺も遠慮なくやらせてもらう」
武命は木刀を構える。お互いに青眼の構え(剣先が相手の目の高さ)だ。
背の丈は武命の方が少々高い。タツトラは正面で撃ち合う事を嫌い、脇構え(持ち手を右脇へ、剣先を後ろへ向けて半身を曝け出す構え)に構え直す。
剣道などではまず見られない構えに武命は戸惑う。 正面の相手から武器の長さを悟られないようにする為とか、背後への防御の為とかそう言う類の構えだと思っていたが、一対一でやる意味がわからない。 しかし、防御の構えで間違いないだろうと考えた。
だが、タツトラは前へ進み出した。姿勢を低くしたまま、左右にも上下にも全くぶれない、隙のない足運びだ。
武命は一瞬迷ったが、最速の面打ちに対応できるとは思えなかった。即座にタツトラの額へ木刀を打ち込む!
しかし、その打ち込みを知っていたかのように、先にタツトラが棒で武命の小手へ打ち込んでくる! まるでタツトラの肩から生えてきたかのような棒の軌道で戸惑うが、青眼の構えは対応力が高いため、木刀で受けて防ぐ。
肩や脇からの小さい動作での打ち方は香取家の技にもあるので、対応しやすかったと言うのもあった。それにしても、体の使い方からして隙が無い。
武命は剣先を上げて、上段の構えをとった。撃剣の威力と距離は伸びるが胴体は無防備になる。ジリジリと間合いを詰める。
しかし近づくにつれて、タツトラにはますます隙が無い。 武命の上段の構えは、八相の構え(左自然体で右手が右肩の前)に変化する。 より自在に動きやすい構えになる。
ピタリ。と間合いが合った。武命は跳ねず、地面を蹴らず、予備動作のない、しかし爆発的な打ち込みでタツトラの額に打ち込む。
タツトラも同時に動いていた。タツトラは武命の打ち込みを棒で受けながら体捌きで受け流し、返す刀(棒であるが)で武命の横面を打とうとした。
しかし、受けた武命の剣は速くて重かった! 受け流せねば鎖骨か、脚の腱を撃ち切られるかもしれないと感じて、防御に徹して一度離れた。
((こいつ、強い!!)) ピリピリとした緊張感が走る。
二人は充実した緊張感を味わっていた。 しかし、その二人の時間を邪魔する者が現れる。
「お二人ともー! 待ってくださーい!」 山中の茂みから声をかける者が現れる。
「はあ!?」 「ああ!?」 武命とタツトラは水を差され、怒りを覚える。
「あー!! おっさん!! 出てっちゃダメだってえ!!」
いかにも「ギャル」といった感じの、緊張感のない声が続いて響く。
見ると、見知らぬ中年男性と、霧島燈が茂みから出てくる。
「おっさん! 武命と龍虎が潰し合った後で、勾玉を奪うのが一番効率いいんだよ!」
「私の望みは強い人と戦う事です。ここで二人が潰し合っては困ります」
どうやら、燈と男性が手を組んでいることが分かる。この私有地を突き止めたのは霧島家の情報力だろう。
しかし、今の問題はそんな事ではない。盛り上がり切った武命とタツトラは戦いに水をさされたことに怒りを覚えていた。 奇妙な共感だった。
「テメエ! 何、決闘の邪魔しくさってんだァ!? 殺すぞ!」
「おお、素晴らしい闘志です! 僕は宮城航平。貴方達と戦う為に来ました」
「はあああ!?」 タツトラがブチ切れる。そこへアビーと同僚の青年が駆け寄る。
「兄貴、ここは俺達に任せて決着をつけてください」 青年が言う。
「太助、アビー! 気をつけろ! そいつ、なんか変な感じだ!」
「ボス! こいつは私とタスケに任せて!」 アビーも戦う気、満々だ。
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青年こと太助と、アビーは総合格闘技の構えだ。 航平は嬉しそうにする。
「間に合ったようで良かったです。 皆、まとめてかかってきて下さい」
「おじさんさ! なめんじゃねって!!」 太助が啖呵を切って殴りかかる。
航平の太い腕が太助のパンチを軽々といなす。航平の腕がまるでへばりつくように太助の腕を押さえつける。
「こ、これは!? 中国拳法!? 化勁(相手の力をコントロールする技術)!?」
太助は航平に逆らわず、むしろ密着して反撃技から逃れようとする。頭を航平の胸に着け、両腕を航平の背中に回し手を組んでロックする。
「タスケ、ナイス!! 逃しちゃダメよ!」
太助が捕まえた航平の側頭部にアビーが飛び蹴りを放つ。
航平がつま先から体を捻ると、密着している太助は大きく崩されてしまう。太助は航平に振り回されて、飛んできたアビーに衝突する。
「痛あい! タスケ!! 何やってんのよお!!」 アビーが叫ぶ。
(今のは纏絲勁!? このおっさん、空手だけでは無い!)
アビーは続けざま踏み込んで、航平にローリングソバットを放つ!
対して航平は後ろ回し蹴りで対抗する。膂力でアビーを弾き返す。
「痛たぁ。 こいつはかなりのタフガイだね。 タスケ、ここは同時に攻めよう! 二人の愛のツープラトンだよ!」
「ああ。 愛は余計だが、やってみよう!」
太助がアビーと息を合わせる。二人で航平を挟むように立ち回る。
正面から太助がローキックを仕掛ける。 アビーは後ろからハイキックを放つ。どう対処してもどっちかが当たるはずだ。
しかし、航平は避けるどころか前に出る。太助のローキックに蹴りを入れて、足を着地させる。足が止まった太助の腹に両掌の一撃を打ち込む!
太助は膝をつき、胃液を吐く。
ハイキックのタイミングを失ったアビーは、航平に後ろから抱きつき、首に絞め技をかける。 航平が体を捻ると、やはりアビーも吹き飛ばされそうになる。 首や胴体に抱きつくと、とんでもない膂力(航平は勁力と呼ぶ)に吹き飛ばされてしまう。
アビーは絞め技を諦め、関節技狙いに変更した。
なんとか耐えたアビーは、航平の肩に飛びつく。 航平の腕を内腿に挟み、肘関節を伸ばす。 飛びつきの腕挫十字固の形になり、航平の腕にぶら下がる形だ。
「取った!!」 アビーは勝利を確信した。航平の腕はまだ動くが、完全に決まった腕挫が外されるとは思えなかった。
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それを見ていたタツトラが武命に言う。
「すまねえ、武命! 俺たちの決闘はまた今度だ! アビーがやべえ!!」
武命も篝の事が気になっていた。
「わかった。 また今度場所を設けよう!」
二人はお互いの仲間を助けに行った。
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