無冠の皇帝

有喜多亜里

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【01】連合から来た男

26 大佐会議しました

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 〝大佐会議〟が行われる予定の会議室は、先日〝幹部会議〟が行われたそれと同じだった。
 前回の反省を踏まえて、開始予定時刻の二十分前にドレイクとイルホンは入室したが、またしても他の大佐たちはすでに全員集合していた。
 ただし、前回とは大きく変わった点があった。〝大佐〟が二人減って、ドレイクを含めて五人になったことは言うまでもないが、ドレイクたちが入室すると、ダーナ以外の〝大佐〟は目礼してきたのだ。それに二人は反射的に会釈で返した。

「何か、この前とは違って、雰囲気が和やかになりましたね」

 イルホンが小声で言うと、ドレイクも囁き声で返してきた。

「自分たちは切られずに残れてほっとしてるか、他の四人もあの二人を邪魔に思ってたか。……それより、ほんとに何分前行動なんだ?」
「二十分でも最後になるということは、やはり他の大佐たちは大佐より集合時刻を早めにされてるんじゃないですかね」
「何のために?」
「大佐が他の大佐と顔を合わせる時間を極力短くして揉めないようにするためとか……大佐が迷わず自分の席に座れるようにするためとか……」

 今回も空いている席は、ドレイクいわく〝転入生席〟だった。もっとも、左隣はマクスウェルからパラディンに変わっていて、彼はドレイクと目が合うと、改めて会釈した。

「ウェーバー大佐とマクスウェル大佐が抜けただけで、席順は以前と同じですね」
「でも、アルスター大佐の左隣が〝特別席〟みたいになってるな。殿下はたぶん、今回はあそこに座るんだな」
「……遠くなりましたね」
「そのかわり、顔は正面から見られるぞ」
「本当にあの席に座ってくれるなら見られますけどね」

 今回の〝議長〟であるアルスターは、会議の資料らしき書類に目を通していた。今いる五人の大佐たちの中では、彼がいちばん年長だろう。あのウェーバーと同年代のようだったが、黒髪に白髪はなく、落ち着きがあり、剛健そうに見える。だが、イルホンはあえてそれ以上の推察は避けた。思いこみは人を判断する妨げになる。昨日そう学んだばかりだ。
 そして、会議開始時刻の五分前。
 幹部会議のときと同じように、司令官とその側近が入室してきた。
 〝大佐〟とその副官たちはやはり立ち上がろうとしたが、司令官は今度は何も言わずに右手を挙げて制した。ドレイクは最初から腰を浮かせようともしなかった。
 ドレイクの読みどおり、アルスターの隣の〝特別席〟に司令官は着席した。ヴォルフはいつもどおり、彼の背後に立ちつづけている。司令官はドレイクを一瞥はしたが、その後は特に注意を払わなかった。意外なことに、ドレイクも今度は司令官を見てにやつくことはなかった。距離があったからかもしれない。
 司令官に制止されても、アルスターだけは立ち上がっていた。彼は何事か司令官に話しかけてから、幹部会議のときには司令官が座っていた中央の〝議長席〟についた。咳払いを一つして、おもむろに口を開く。

「本日はお忙しい中、司令官殿をはじめとして、皆様方にお集まりいただき、まことに恐縮……」

 ――やっぱり面倒くさい!
 イルホンがそう思ったとき、司令官が眉をひそめて言った。

「アルスター大佐。すまないが、私は本当に忙しい。早く本題に入ってくれ」

 このとき、心の中でこう叫んだのは、イルホンだけではないはずだ。

(殿下! ありがとうございます!)

 しかし、イルホンの斜め前では、ドレイクがぼそぼそと呟いていた。

「〈ワイバーン〉の映像編集してたから、仕事溜まっちゃったのかねえ……」

 幸い、司令官にはその呟きは届かなかったようで、不機嫌の一歩手前の無表情は崩れなかった。

「あ……殿下、まことに申し訳ございません。それでは、さっそく本題に入らせていただきます。……今回、私が大佐会議を申請いたしましたのは、ウェーバー大佐隊とマクスウェル大佐隊の処遇について、皆様方と協議の場を持ちたかったからです。私個人の考えといたしましては、ここはやはり、同じ砲撃担当のドレイク大佐に、マクスウェル大佐隊の一〇〇隻、ウェーバー大佐隊の五十隻、計一五〇隻を指揮していただき……」
「アルスター大佐」

 ドレイクがアルスターを遮って右手を挙げた。

「申し訳ありませんが、それは無理です。俺は自分の軍艦ふねを含めて三隻までしか指揮できません。ことに今は乗組員を育成中なので、〈ワイバーン〉一隻しか面倒見きれません。ウェーバー大佐とマクスウェル大佐の計二〇〇隻は、アルスター大佐にお引き受けいただきたいんですが」

 アルスターはあっけにとられたようにドレイクを見ていた。が、はっと我に返って反論する。

「いや、しかし、私一人で三〇〇隻というのは……あまりにもバランスが……」
「おっしゃりたいことはよくわかりますが、無理なもんは無理なんで。俺の希望としましては、左翼は今までどおりアルスター大佐で、ウェーバー大佐隊の五十隻だけ引き取っていただく。残りの一五〇隻は右翼で、アルスター大佐が信頼されている部下の方に指揮していただく。中央はいりません」

 会議室内にざわめきが湧き起こった。イルホンはとっさに司令官を見たが、彼は驚いた顔一つしていなかった。ドレイクの希望は想定済みだったらしい。

「中央はいらないと?」
「はい。無人艦六〇〇隻とうちの〈ワイバーン〉だけで充分です。うち以外の有人艦はむしろ邪魔。……ということが、先日よくわかりました」
「それは……確かに。しかし、それなら右翼の指揮官を殿下に任命していただいて……」
「私はこれ以上、〝大佐〟を増やす気はないぞ」

 アルスターは今度は司令官に遮られた。

「あくまで〝大佐会議〟だから口を挟みたくはないが、それだけは言っておく」
「大佐が言ってたとおり、やっぱり五人にしたかったんですね」

 イルホンがそう囁くと、ドレイクは軽くうなずいた。

「初給料もらいに行ったとき、好きな数字訊いたら、やっぱり『5』だって。……どうにか俺の案でまとまってくれりゃいいんだが」
「左様でございますか……」

 実質皇帝軍元帥に意見することは、アルスターをもってしても難しいようだ。助けを求めるように、ドレイク以外の大佐たちの顔を見渡す。

「ドレイク大佐の希望は希望として、他の皆様方のご意見も拝聴したい。どなたか……」

 そのとき、あのダーナが右手を挙げた。
 一瞬にして、会議室内が静まり返る。

「ダーナ大佐……何か?」

 アルスターがとまどったようにうながすと、彼はあからさまにドレイクを睨みつけながら言った。

「私が、その右翼の一五〇隻を指揮します」

 議長役のアルスターが唖然としていた。イルホンはアルスターと同じ状態だったが、ドレイクはうっかり普通の濃さのコーヒーを飲んでしまったような顔をしていて、向かい側の司令官はかすかに笑っていた。これもまた司令官には想定済みだったらしい。驚いたことにはドレイクにも。

「し、しかし、ダーナ大佐。貴官はすでに護衛艦一〇〇隻を指揮している。それはいったいどうするつもりだ」

 ようやく自分の役目を思い出したアルスターがあわてて問いただす。ダーナはドレイクから彼に目線を移した。

「私の隊をマクスウェル大佐隊とそっくり入れ替えます。ウェーバー大佐隊は五十隻をアルスター大佐にお引き受けいただき、残りの五十隻を私が引き受けます」
「い……入れ替える?」
「私の隊なら私の意のままに動かせますが、マクスウェル大佐隊はそういうわけにはまいりません。実質的には、コールタン大佐とパラディン大佐に、マクスウェル大佐隊五十隻ずつをお引き受けいただく形になるかと」

 それを聞いて、ダーナと同年代と思われるコールタンとパラディンは、おいおい俺たちも巻きこむのかよと言いたそうな顔をして、左右からダーナを見た。だが、ダーナはまっすぐアルスターを見つめたまま、彼らを一瞥もしなかった。

「いや……だが、貴官はこれまで護衛艦を指揮していただろう。砲撃艦の指揮経験はなかったはずだ」
「それでも、マクスウェル大佐ほど無能ではありません」

 ――何だろう……その自信の根拠。
 仕事ができるかできないかは、実際にやらせてみなくてはわからないとドレイクは言った。第一印象でダーナのことを〝できる人間〟と思ってしまっただけに、イルホンは自分がそう言っているような気がして、恥ずかしくなってしまった。
 ドレイクはまたダーナを馬鹿にしているだろう。そう思い、再び彼を見てみると、イルホンの予想に反し、感心したようにダーナを見ていた。
 今、心の中ではどう思っているのだろう。イルホンがそう考えたとき、司令官の涼やかな声が響いた。

「マクスウェル大佐ほど無能ではないことを、どうやって証明する?」

 大佐たちの注目を浴びた司令官は、かすかだった笑みをさらに深めていた。

「実戦で……というのではあまりにもリスクが高すぎる。おまえのつまらぬ見栄と意地のために、我が艦隊は敗北するわけにはいかんのだ」
「私個人の見栄や意地のためではありません。あくまで、我が艦隊が勝利しつづけるために必要な策を講じたまでです」

 ダーナの顔は紅潮していたが、司令官から視線をそらせたりはしなかった。

(実力はともかく、度胸だけはあるな)

 イルホンはダーナのその態度に感心した。

「では、こうしよう」

 司令官がそう言った瞬間、ドレイクはにわかに顔色を変えた。

「うわ、そう来たか」

 その言葉の意味は、司令官のセリフを聞き終えてから、イルホンにもわかった。

「ダーナ大佐。おまえが今言った編制で、一度模擬戦を行ってみる。『連合』側は無人艦で代行しよう。……ドレイク大佐。おまえは『連合』側の指揮をとれ。おまえの言うとおりに無人艦を動かしてやる」

 ――悪魔だ……いろんな意味で悪魔だ……
 一同が言葉を失っている間に、司令官はすばやく椅子から立ち上がる。

「模擬戦は四日後に行う。時間や場所は追って通知する。後はおまえたちだけで自由に話しあえ。……アルスター大佐。結果だけ私に報告を」

 一方的にそう言い残し、司令官は側近と共に会議室を出ていった。

「大佐……あの人は本当に悪魔ですね……」

 イルホンが呆然と呟くと、ドレイクは額を抱えて呻いた。

「ああ、悪魔だ……俺ら一隻のために〈フラガ〉を動かすつもりなのかと思ってたが、まさか、模擬戦からめてくるとはな……だから、〝幹部会議〟じゃなくて〝大佐会議〟か。もう言いたいこと言えたから、さっさと帰っちまったよ。恐ろしい……でも、楽しい」
「……え?」

 聞き間違いではないかと顔を向けたときにはしかし、ドレイクは席を離れていて、予想外の展開についていけず〝議長席〟の後ろで立ちつくしているアルスターに歩み寄っていた。あわててイルホンも立ち上がり、ドレイクの後を追う。

「アルスター大佐」
「あ……ああ、ドレイク大佐。今まで直接挨拶できなくて申し訳なかった」
「いえいえ。いつぞやはうちの副官がご迷惑をおかけしまして。でも、大変助かりました。ありがとうございました」

 ドレイクはにやにやしながらイルホンの頭を下げさせたが、耳許で『ごめんね』と囁くことは怠らなかった。

「いや、こちらこそ助かった。君に直接説明することはできないからな。……メールもチェックされているんだ」

 ――アルスター大佐は、本当に俺が自分の判断で、あのメールを出したと思っているんだろうか……
 ついそう訊ねてみたくなったイルホンだった。

「今日は自由に話しあえるそうだから、ついでに訊いちゃいますけど、いつからここって、大佐同士が交流できなくなっちゃったんですか?」
「ああ、それか。もうずいぶん前だ……二十年近く前になるかな。当時の大佐たちが共謀して先代皇帝を暗殺しようとした。結局、計画段階で露見して、先代皇帝に秘密裏に処分されたが……以来、ここでは大佐たちが司令官の同席なしに会議等を行えないようになった。だから、今日の事態は異例中の異例なんだ。……驚いている」

 ――ああ……やっぱり。
 イルホンはドレイクと目顔めがおでこっそりうなずきあった。

「それにしても、ダーナ大佐があのようなことを言い出すとは……君への対抗意識かな」

 そのダーナは腕組みをして椅子に座ったまま、左からコールタン、右からパラディンに責められているようだったが、まったく応えている様子はなかった。

「まあ、そうなんでしょうがね。言ってることはまっとうだと思いますよ。今から他人の隊を自分の手足のように動せるようにするには、時間と手間がかかります。それならダーナ大佐が言うように、自分の隊をそっくりそのまま持ってきてしまったほうが早い。問題は、護衛と砲撃は役割がまったく違うってことです」
「そう。それがいちばんの問題だ。……やはり君には、有人艦一五〇隻を引き受ける気はないのか?」
「ないです。さっきも言ったでしょ。俺の限界は自分の軍艦ふねを含めて三隻まで。ので、ダーナ大佐の申し出は正直言ってありがたい。……揉めてるみたいなんで、話しあいしにいきませんか? あとで殿下に結果報告しなきゃならないんでしょ?」

 ドレイクにダーナたちのほうを指さされ、アルスターは思い出したように首肯する。

「あ、ああ……しかし、君もまた殿下に皮肉なことをされたな。仮想とはいえ、『連合』の指揮をとれとは」
「いやいや、ものすごく妥当で合理的ですよ。『連合』のことをいちばんよく知ってるのは元『連合』の俺だし、今回の模擬戦に俺は必要ないですからね。殿下が確認したいのは、ダーナ大佐が敵の左翼を潰せるか、二人の大佐だけで〈フラガラック〉の護衛ができるかの二点くらいでしょ。極論すると、左翼だけの戦いです」
「左翼……」
「そう……〈ワイバーン〉がいた左翼です」

 イルホンとアルスターは、思わずドレイクを見た。
 彼の顔には、わずかに苦笑が浮かんでいた。

「……あのとき、右翼を攻撃していた私には、あれは見られなかった。あれを見ることができたのは、〈フラガラック〉と君の〈ワイバーン〉の乗組員たちだけだっただろう」
「こっちは必死でやってただけなんですがねえ。……アルスター大佐もご覧になりたいですか?」
「見られるものならぜひ。殿下はそのために君に〈ワイバーン〉を与えたんだろうしな」
「そこまでおわかりなら、ご協力をお願いいたしますよ」

 ドレイクはにやりと笑うと、今度はパラディンのほうに向かって歩いていった。きっとまたアルスターのときと同じことをするつもりなのだろう。イルホンは小走りで彼の後をついていき、案の定、同じ目にあった。

「パラディン大佐、コールタン大佐。いつぞやはうちの副官がご迷惑をおかけしました。でも、大変助かりました。ありがとうございました」

 ドレイクは、今度は『たびたびごめんね』とイルホンに囁いた。

「いえ……ああするしかないですよね」
「副官あてにしていただいて、こちらも助かりました」

 パラディンもコールタンも苦笑いして応じる。

(よかった……この人たちはわかってくれてる)

 ドレイクに頭を下げさせられながら、イルホンはひそかに安堵した。

「で、ダーナ大佐――いや、〝浅はか野郎〟」
「おまえに〝浅はか野郎〟と言われる筋合いはない!」

 条件反射のように、ダーナはドレイクに言い返す。普段はそのようなことをする人物ではないらしく、ドレイク以外の三大佐が飛び離れていた。ちなみに、彼らの副官たちはそれぞれ安全と思われる場所にすでに退避済みである。

「いきなり〝馬鹿野郎〟メール送りつけてくる奴には〝浅はか野郎〟で充分だ! おまえ、俺が返信しなかったら、護衛しないで自分も動くつもりでいただろ! 俺の忠告のおかげで今ここにいられるんだ! ありがたく思え!」
「余計なお世話だ! なぜ私には敬語を使わん!」
「おまえに敬語なんざ使う価値はねえからだ! 砲撃なめんな、この〝浅はか野郎〟!」
「た、大佐……お願いですから、会議室で〝戦闘モード〟はやめてください……」

 少し涙目になりながら、イルホンはドレイクの腕を引っ張った。長身で筋肉質な男なので、本気で暴れられたら、イルホンにはとても止められない。

「砲撃をなめているわけではない! だが、ウェーバー大佐、マクスウェル大佐よりは私のほうがましだ! あいつらは本当に邪魔だった!」

 ドレイクは真顔になり、他の大佐たちを振り返る。

「俺、こっち来てから、あいつら出撃してるの見たの、二回しかなかったんですけど……その前から邪魔でした?」

 コールタンとパラディンは、声をそろえて答えた。

「邪魔でした!」
「邪魔でも〝全艦殲滅〟できてしまっていたからな。本隊に飛ばしたくても飛ばせなかった」

 さすがにアルスターは他の二人のように叫んだりはしなかったが、同じ砲撃担当ゆえに本気で〝邪魔〟だったのだろう。彼にしては辛辣なことを口にした。

「ああそう……じゃあ俺、いいことしたんだ……」
「そもそも、おまえが一五〇隻、素直に指揮すると言えば何の問題もなかった!」
「うるせえ! 俺は少数精鋭派なんだよ! できねえものはできねえ!」
「大佐! 戦闘モード解除! 戦闘モード解除!」
「ならば! 私がやるしかないだろう!」

 ヤケを起こしたようにダーナが叫ぶ。また何か怒鳴り返すかと思いきや、ドレイクはあっさり言った。

「ま、そういうことだ」
「は?」

 ダーナだけでなく、他の大佐もイルホンも、毒気を抜かれてドレイクを見る。

「しかし、ここは話しあいしにくい場所ですな。ええと……」

 ドレイクは〝議長席〟を見やると、跳ねるように走っていって、〝議長席〟の机上を両手で叩いた。

「いいですか! ここが〈フラガラック〉だとします!」
「はあ」

 ドレイク以外、呆けたようにうなずく。

「パラディン大佐! ぐるっと回って殿下が座ってた席に来てください! ダッシュ!」
「え? あ、はい!」

 ドレイクの勢いに押されたのか、パラディンは言われるまま彼の後ろを通って、司令官が座っていた席の後ろに立った。

「これから……?」
「とりあえず、そこに立っててください。……今度はコールタン大佐! 俺が座ってた席に来てください! ダッシュ!」
「え、ええ?」

 コールタンもなぜか素直に走っていって、ドレイクの席の後ろに立つ。二人が指定した位置に立ったのを確認してから、ドレイクは机上に手を置いたまま言った。

「円卓なので実際とはズレがありますが、これが〈フラガラック〉の新護衛体制。これからはあんたたち二人で、ここの〈フラガラック〉を守るんです。あんたたちは〈フラガラック〉の最後の盾だ。無人艦が使えなくなったら、あんたたちが〈フラガラック〉を守ってただちに撤退しなきゃならない。マクスウェル大佐隊の扱いはくれぐれも慎重に。うまく持ち上げつつ、上手に利用してください」
「は、はい……」

 同じ〝大佐〟のはずなのに、二人は指導されている部下のように軽く頭を下げる。

「次にアルスター大佐。パラディン大佐の席に移動してもらえますか?」

 年長者を敬う精神は一応持っているらしく、ドレイクはアルスターには丁寧に依頼した。

「はいはい」

 ドレイクの意図を理解したアルスターは、笑ってパラディンの席の後ろに立った。

「最後に〝浅はか野郎〟! コールタン大佐の席に行けや!」
「私にも敬語を使え!」

 文句を言いつつも、意外なことにダーナは立ち上がり、コールタンの席の後ろに移動する。ドレイクは再び走って、ダーナの隣で止まった。

「〝浅はか野郎〟。これからはおまえがここで、左翼のアルスター大佐と連動して砲撃するんだ。どんな隊でも使える奴らは必ずいる。そいつらを一刻も早く見つけ出して、おまえの隊の教育係にしろ。何のかんの言っても、奴らは砲撃のプロだ。でも、利用されるな。利用しろ」
「な……」

 ダーナは何事か言いかけたが、ドレイクはまた走り出して、先ほどまでダーナが座っていた席の後ろに立つ。

「で、俺らの〈ワイバーン〉は円卓の中央、無人艦群の最後尾にいます。旗艦を落とす。敵艦艇を一隻でも多く撃ち落とす。それらが俺らの二大使命。でも、四日後の模擬戦ではこっち側」

 ドレイクは先ほどと同じように、両手で机上を叩いた。

「『連合』の軍艦ふねの一隻として、あんたたちの敵になる」

 しばらく、沈黙が続いた。非常に子供じみたやり方ではあったが、ドレイクは新しい編制を立体的に説明し、彼なりの助言もした。そして、次の模擬戦では、そんな自分が仮想の敵になることも改めて告知したのだった。

「というわけで、俺はあんたたちの〝敵〟なので、自分の手のうちは明かしません。……〝浅はか野郎〟、今度の模擬戦で試されるのはおまえだぞ? せっかく俺が助けてやったのに、これで本隊送りにされんなよな?」
「うるさい、〝馬鹿野郎〟!」
「語彙力ねえなあ。幹部会議のときのおまえはどこに行ったんだ? ……それじゃあ、皆さん、四日後までごきげんよう。イルホンくん、帰るよー」
「あ、はい!」

 会議室の隅にいたイルホンはあわてて返事を返し、自動ドアに向かって悠然と歩いていくドレイクの広い背中を追った。

「……なるほど。あの男一人で〝大佐〟二人分以上の価値は十二分にあるな」

 アルスターは独りごちると、今は誰もいない〝議長席〟を見つめた。
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