無冠の皇帝

有喜多亜里

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【04】始まりの終わり(上)

01 あと一回になりました(前)

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「戦闘終了しました」

 〈フラガラック〉からの通達を、ティプトリーが簡潔に報告した。
 イルホンの近くで腕組みをして立っていたドレイクは、険しい表情のまま、独り言のように呟いた。

「あと一回」

 何が『あと一回』なのかは訊くまでもなかった。おそらく、これから入るだろう映像通信でも、司令官はこの話題を口にするに違いない。
 ドレイクと司令官は、それを〝在庫処分〟と称している。何ともふざけたネーミングだが、その処分方法は恐ろしい。旧型の無人突撃艦群を「連合」の中央に突っこませた上、全艦自爆させるのだから。
 今回の戦闘を含めると、その〝在庫処分〟はこれまで四回行われた。
 ドレイクが司令官から訊き出したところによれば、旧型の〝在庫〟は約五〇〇〇隻あった。単純に毎回約一二〇〇隻を〝処分〟していたなら、今回でもう最後ということになる。実際、二回目の〝在庫処分〟をしたときに、司令官は映像通信で『あと二回』と言っていた。
 それを一回増やさせたのはドレイクだ。真の狙いは別にあったのかもしれないが、例によって進言とは思えない進言をして、左翼のアルスターの猶予期間を一回分延長させてやったのだった。
 しかし、アルスターは今回もドレイクを失望させた。おそらくは、司令官も。
 二回目の〝在庫処分〟が行われたとき、アルスターは〝第一分隊〟ことアルスター大佐隊一〇〇隻を「連合」の右翼後方に回りこませ、よりにもよって〈ワイバーン〉のいる中央に追い立てるという、正気を疑いたくなるような作戦をとった。
 そのときには、前もって無人砲撃艦群の中に潜ませておいた〈旧型〉と、左翼に待機させられていた〝第二分隊〟こと元ウェーバー大佐隊一〇〇隻とが察しあい、「連合」右翼を挟撃して何とか殲滅できた。だが、その次の三回目で、アルスターはさらに悪手を打った。
 よりにもよって、元ウェーバー大佐隊を左翼の中央寄りに配し、今度はそちらに「連合」右翼を押しつけたのだ。
 いくらアルスター大佐隊と無人砲撃艦群が背面と側面から攻撃を仕掛けても、「連合」の右翼は約七〇〇隻。そうそう数は減らせない。むしろ、アルスターたちの攻撃を避けるため、通常よりも前進速度を上げる。おそらく一般人でもそれくらいの想像はつくだろう。
 しかし、アルスターはその約七〇〇隻の殲滅を、元ウェーバー大佐隊一〇〇隻と彼らを援護する無人砲撃艦群約二〇〇隻――その中には二回目同様、〈旧型〉が潜んでいた――にさせようとしたのである。
 幸い、ドレイクはアルスターがそうする可能性も予期していた。二回目の〝在庫処分〟の翌日、アルスターには絶対に知らせないことを条件に、元ウェーバー大佐隊出身者であるオールディスを使って、元ウェーバー大佐隊に〝在庫処分〟のことを教えた。
 オールディスが古巣の誰にそのことを伝えたのかは不明だが、ウェーバーの無謀な命令を無視して生き残った彼らは、さすがに愚鈍ではなかった。
 〝在庫処分〟によって「連合」の中央は必ず薄くされる。ならば、そこはドレイク大佐隊に全面的に任せ、自分たちは「連合」の右翼を中央から遠ざけつつ殲滅することに専念すればいい。つまり、二回目の〝在庫処分〟のとき、〈旧型〉率いる無人砲撃艦群――ドレイク大佐隊内では〝〈旧型〉組〟と呼んでいる――がした仕事を、今度は自分たちがすればいい。
 元ウェーバー大佐隊と〝〈旧型〉組〟は、この方法で前回の三回目、今回の四回目を乗り切った。〈旧型〉の乗組員も戦闘中のフォルカスの罵詈雑言を聞き流すスキルを身につけたようである。
 たぶん、次回もアルスターは同じ作戦をとるだろう。結果だけ見れば、彼は成功しつづけている。見直す必要はまったくない。
 だが、次回も同じなら、司令官はアルスターに何らかの処罰を与えるはずだ。実際のところ、今すぐにでもそうしたいと思っているに違いない。ドレイクが一言でも同意すれば、喜んでそうするだろう。
 そんなことをイルホンが考えていると、まさにその司令官が映像通信を入れてきた。噂をすれば影。心の中でそう呟いてドレイクを見上げる。

「大佐。〝殿下通信〟です」

 通知音で予想はついていたのだろう。インカムを外しながら苦笑いする。

「あー、また殿下怒ってそうだなー。今回はどうやってご機嫌とろうかねー」
「別に、普通に会話するだけで、殿下の機嫌は勝手に直ると思いますが」

 つい正直にそう言うと、ドレイクは本気で驚いたような顔をした。

「何でさ?」
「さあ、何ででしょうね。とりあえず、艦長席に行ってください。殿下とお話することが、今の大佐の唯一最大のお仕事です」
「ええー」

 不満そうな声を上げながらも、長らく留守にしていた艦長席に戻っていく。〈ワイバーン〉乗艦時の自分が仕事らしい仕事をしていない自覚はあったようだ。

(しかし、大佐以外の〝大佐〟にこんな口を利いていたら、ただでは済まないだろうな)

 もっとも、ドレイク以外の〝大佐〟とは話す機会もないだろうが。イルホンは苦笑しつつ、〝殿下通信〟をつないだ。

 * * *

 案の定、アルスターは今回も戦い方を変えなかった。
 想定の範囲内ではあった。が、アーウィンの機嫌は戦闘開始直後から悪化の一途をたどりつづけ、粒子砲なしで戦闘終了となったときには、即刻アルスターに通信を入れて〝栄転〟を言い渡しそうな状態にまで陥っていた。

(まさか、あのアルスターがこうなっちまうとはな)

 口には出さなかったが、ヴォルフはこっそり嘆息した。
 あくまでアーウィンの側近という名のストッパーであるヴォルフは、宇宙戦も含めて戦闘に関してはほぼ素人である。しかし、そのヴォルフにも、アルスターの〝作戦〟が劣悪なものであることは、解説されずとも理解できた。「連合」と直接対峙しないだけならまだしも、わざわざ〈フラガラック〉のいる方向へと押しやっているのだから。
 それでも、粒子砲なしで全艦殲滅しつづけられているのは、左翼の〈旧型〉と右翼の〈新型〉および有人艦群が有能だからだ。特に右翼は回を重ねるごとに「連合」左翼の殲滅速度を上げており、一部左翼に〝出向〟したらどうかとヴォルフはひそかに思っている。
 右翼のダーナの指揮下に元マクスウェル大佐隊を置いたらどうかと言ったのはドレイクだ。だが、そのドレイクもアルスターが指揮する左翼がこうなってしまうとは予想していなかったのではないだろうか。
 しかし、アーウィンにはっきりそう問われても、相変わらずあの男はのらりくらりとかわしつづけている。本音はやはり左翼からアルスターを排除したいのだろうが――〝栄転〟までは望んでいないだろうとヴォルフは思っている――決して言質は取らせない。
 今回の映像通信でも、アーウィンはいきなり「あと一回だな」と切り出したが、艦長席のモニタの中のドレイクは飄々とした表情を崩さなかった。

『そうですね。あと一回です。……突撃艦、大丈夫ですか?』

 部外者が聞いていたら、質問の意味がわからず首をひねっていたことだろう。だが、もちろんアーウィンは〝在庫処分〟する旧型無人突撃艦の数のことだとすぐに察した。

「ああ、大丈夫だ。不足分は廃棄予定の船で補う。ついでに、新型の造船は打ち切って、もっと安上がりなものを造らせている」

 若干――ヴォルフや無人艦の遠隔操作中のキャルにしかわからない程度に若干――得意げなアーウィンの答えを聞いて、ドレイクはよくできましたとでもいうようににたりと笑った。

『ほう、そいつはいいですね。コストカットした分、他に回せる』

 ドレイクが言ったのはそれだけだったが、アーウィンの機嫌は目に見えてよくなった。期待どおりに褒めてもらえたのが嬉しかったらしい。
 ヴォルフは生ぬるい視線をアーウィンに注いだが、ずっと不機嫌でいられるよりはましだ。最近はそう割り切ることにしている。とりあえず、ドレイクがこの艦隊が勝利しつづけるために必要な策を講じている間だけは。

「そういえば、おまえはもう対応策は考えたのか?」

 アルスターのことはもう話題にもしたくなかったのか、アーウィンは薄く笑いながら、これまた部外者には理解不能なことを口にした。
 確か、一回目の〝在庫処分〟をしたときだった。そのとき、初めて粒子砲を使わずに〝全艦殲滅〟を成し遂げたが、ドレイクは今と同じ映像通信で、今後は粒子砲を使わないことを前提に編制を見直せ、自分も在庫があるうちに対応策を考えると、進言とは思えない進言をアーウィンにしたのだった。

『ああ、あれですか』

 当事者でも何の対応策かと問い返したくなりそうな言い方だったが、ドレイクはいかにもばつの悪そうな顔をして何度かうなずいた。

『次の出撃終わったら考えます。今は無理』

 もしも、ドレイク以外の〝大佐〟がこのような回答を返してきたら――そんな命知らずはドレイク以外いないとは思うが――アーウィンは即刻〝栄転〟にしていただろう。
 しかし、彼はさらに笑みを深めて、「そうか、今は無理か」と言った。

「確かに、アルスターがどうなるかわからなければ、いくらおまえでも考えようがないな」
『それに関してはノーコメントとさせてもらいますが、粒子砲なしの前提は不動です』

 無精髭を生やした中年男は、今日もまた愛想よく笑ってアーウィンの誘導尋問を退けた。
 ノーコメントということは、実質アーウィンの発言を認めたようなものだが、そう指摘すればノーコメントはノーコメントと言い張るだろう。今ではアーウィンもやっぱり駄目かと苦笑いするだけだ。

「しかし、たまには粒子砲も使いたいのだがな。いざというときに使えるように」
『それなら、宇宙塵の除去に使われたらどうですか? きっときれいに一掃できますよ』
「なるほど。そういう使い道もあったか」

 感心したようにアーウィンが自分の顎に手を添える。と、それまで泰然としていたドレイクが急にあわてだした。

『え、冗談ですよ? 今のは冗談ですよ?』
「いや、あれは戦闘の邪魔にもなるからな。撤収が終わったら、試しに撃ってみるか」
『いやいや、ほんとに冗談……ヴォルくん、そこにいるんだろ? 側近として殿下を止めろよ』
「冗談になってない冗談を言うおまえが悪いんだろ」

 身勝手なドレイクを、ヴォルフはカメラの死角から低く罵った。

「あと、ヴォルくん言うな」

 * * *

 通信士の暗い表情を見た瞬間、アルスター大佐隊・第二分隊第一班第一号副長フィリップスは、そばかすの目立つ顔をしかめた。
 金髪碧眼で中肉中背。とりたてて整った顔立ちをしているわけでもなく、外見だけなら護衛艦隊内のどこにでもいそうな男だが、人当たりがよくて機転も利くので、この第一号の中では言うまでもなく、下手をすると一班内で最も班員たちに頼りにされていた。しかし、フィリップス自身は〝副長〟という自分の立場を常にわきまえ、第一号艦長のサポート役に徹している。

「班長……アルスター大佐から映像通信です……」

 案の定だ。たまたま艦長席のそばに立っていたフィリップスは、その席にいる黒髪の男――第一号艦長にして第一班班長、そして第二分隊分隊長でもあるハワードに視線を戻した。
 つい先ほどまで笑いながらフィリップスと話していた彼は、長めの顔を歪めてすでに腹をさすっていた。最近のハワードは栄養剤がわりに胃薬を飲んでいる。

「今日はこれまででいちばんいい仕事したと思うが、また通信入れてきたのは褒めるためじゃないだろうな。……班長、出られるか?」
「出られなくても出るしかないだろ」

 元ウェーバー大佐隊所属第一班班長ハワードは苦く笑うと、艦長席に両手をついて立ち上がった。それを見届けてから、フィリップスはすばやく副長席に戻る。中央スクリーンに映し出されるアルスターに定位置で敬礼するために。
 フィリップスたちの前上官ウェーバーは、自分の気分だけで理不尽な命令を乱発し、上には媚びへつらい下には威張り散らすという、無能かつ有害な上官の典型のような男だった。ハワードが一班長でなかったら、隊は内部崩壊していたに違いない。ウェーバーがしたことでフィリップスが唯一評価してやれるのは、ハワードを一班長に任命したことくらいだ。
 それでも、ウェーバーの〝栄転〟を誰よりも強く願っていたのはハワードだった。だが、まさか部下を無駄死にさせて〝栄転〟になるとは、彼もフィリップスも予想だにしていなかった。
 あのとき、この艦に下されていた命令は、ドレイクの〈ワイバーン〉を出し抜いて旗艦をとることではなく、戦闘終了までウェーバーの乗艦を守りつづけることだった。しかし、それによってフィリップスたちは、上官命令を無視して生き残った隊員たちとはまた別の罪悪感を抱かされることになったのだった。
 経緯はどうあれ、ウェーバー大佐隊は二分割され、一班から五班はアルスター、六班から十班はダーナの隊に編入された。
 あの当時、ダーナではなくアルスターでよかったと、フィリップスたちは内心思っていた。ウェーバー大佐隊員たちにとって、アルスターとは唯一まともと思える砲撃担当の〝大佐〟だったのだ。
 実際、アルスターは多少くどいところはあったものの、ウェーバーのような公私混同はしなかったし、戦死した班長や副班長の後任には妥当な人間を据えた。
 だが、それは単にウェーバーがひどすぎたから相対的によく見えていただけの話だったのかもしれない。フィリップスたちがそう思いはじめたのは、ダーナ大佐隊にいた六班から十班もアルスターの指揮下に入ってからのことだった。
 〝元ウェーバー大佐隊〟から〝アルスター大佐隊・第二分隊〟に改名されたのは、正直言って複雑だったが、仕方のないことだとまだ納得できた。しかし、改名した直後から、アルスターは〝第二分隊〟を〝第一分隊〟より格下の隊としてあからさまに扱いだした。
 とにかく、何かにつけて〝第一分隊〟と比較する。ウェーバーのように感情にまかせて怒鳴りつけることはないが、なぜ〝第二分隊〟にはこれができないのかと、ねちねちとハワードを責める。それも決まってテレビ電話か映像通信で。
 〝第一分隊〟はもともとアルスターの隊だ。アルスターの気に入るように動けて当然だろう。フィリップスはよほどそう言い返してやりたかったが、軍隊において上官に口答えすることは許されない。ハワードもウェーバー大佐隊時代に培った忍耐強さと上官を怒らせない絶妙な対応能力を駆使して、何とかしのいでいた。
 だが、ダーナ大佐隊から転属されてきた元マクスウェル大佐隊員たちを、アルスターが問答無用で全員こちらに押しつけてきたとき、弱りに弱っていたハワードの胃はついに限界を超えてしまった。
 神経性胃炎。医療資格を持つ隊員はそう診断した。しかし、その病名をアルスターに知られてはいけないと、ハワードもフィリップスも即断した。
 おそらく、ハワードは〝第二分隊長〟の重圧に負けたと判断される。確かにその見解は間違ってはいない。常に自分は正しいと信じきっているアルスターの言動に耐えつづけることが、〝第二分隊長〟の仕事であるならば。
 そして、アルスターはハワードを解任し、別の人間を〝第二分隊長〟に任命するだろう。だが、それは新たな犠牲者を生むことに他ならない。ウェーバーの下で耐え抜いたハワードが音を上げたのだ。少なくとも〝元ウェーバー大佐隊〟の人間ではすぐに潰される。
 フィリップスたちにとって、〝ウェーバー大佐隊〟という隊名は、できるものなら最初から存在していなかったことにしてしまいたいほど、忌まわしい隊名だった。
 しかし、〝アルスター大佐隊・第二分隊〟よりはまだましだ。ハワードは〝元ウェーバー大佐隊〟として存続するために、胃炎をごまかしながら矢面に立ちつづけることを決意したが、それを見透かしたように、アルスターはあの作戦――〝第一分隊〟の安全のことしか考えていないと取られても仕方のないような作戦を得意げに披露した。
 フィリップスたちは驚き、絶望した。自分たちのためだけでなく、この艦隊のために、せめて作戦立案能力だけはまともであってほしかった。
 だが、上官命令にはもう逆らえない。〝元ウェーバー大佐隊〟は苦渋の思いで出撃し、アルスターの作戦どおりに動いた。
 しかし、その翌日、転機は訪れた。ドレイク大佐隊に転属された前八班長オールディスが、フィリップスたちにとっては救いとも言える情報を、現八班長ブロックを介して流してくれたのだ。

 ――殿下はあと三回、敵陣で旧型無人突撃艦の〝在庫処分〟をする(予定は未定)。このことはアルスター大佐には絶対に知らせるな(とドレイク大佐が言っている)。

 こんな極秘情報を携帯電話のメールで伝えさせるのか。フィリップスたちは唖然としたが、ドレイクならそれもありか(なぜ知っているのは考えるまでもない)とすぐに思い直した。少なくとも、彼はアルスターより信頼できる。アルスターが信頼できないことをわかっているのだから。
 前々回、前回、そして今回と、回を重ねるごとにアルスターの作戦は改悪されている。
 特に前回、〝元ウェーバー大佐隊〟を中央寄りに配置して、〝第一分隊〟の尻拭いをさせようとしたときには、もうこの古参の大佐は正気ではないのかもしれないとさえ思った。〝在庫処分〟のことを知らされていなければ、パラディン大佐隊に転属された元マクスウェル大佐隊の元班長のように、〝エスケープ〟を飲んで戦線離脱していたかもしれない。
 オールディスは――いや、ドレイクは、フィリップスたちには〝在庫処分〟の回数しか明かさなかった。だが、アルスターには絶対に知らせるなという一文が、その裏に秘められた意味を暗示していた。

 ――〝在庫処分〟が終わったとき、司令官はアルスターに何らかの処分を下す。

 冷静に考えてみれば、司令官はアルスター大佐隊の内部事情は知らないかもしれないが、戦闘時のアルスター大佐隊の動きは見ている。彼ならば、アルスターの〝作戦〟の危険性もすでに認識しているだろう。
 おそらく今、アルスターは猶予を与えられているのだ。
 〝在庫処分〟が終わるまでに、アルスターがあの〝作戦〟を改めればよし。そのまま続行、あるいはさらに改悪するなら、司令官はアルスターを切る。
 欲を言えば、司令官に就任した時点で、まともな〝大佐〟を砲撃担当にしてほしかったが、無人艦導入に反対しなかった者を残したら、あの顔ぶれになってしまったのだろう。おまけに、無能な〝大佐〟がいても勝てるほど、無人艦は優秀だった。有人艦がいなければ、もっと自由に動けていたに違いない。
 実に皮肉な話だが、窒息しかけていたこの艦隊は、「連合」の軍人だったドレイクによって、気道を確保されたのだ。その顕著な例が、右翼のダーナ大佐隊と元マクスウェル大佐隊だろう。今の彼らは水を得た魚のようだ。正直言って妬ましい。
 ダーナ大佐隊に残りたいと言ったオールディスたちの判断は正しかった。アルスター大佐隊に転属される前に、ドレイク大佐隊に転属願を出したところも。彼らのおかげでフィリップスたちは、戦闘面でも精神面でも、どうにか踏みとどまれている。

『ご苦労』

 ブリッジの中央スクリーンに、容貌だけはいかにも老練な〝大佐〟らしい、黒髪の男の上半身が映し出される。
 もちろん、フィリップスたちはその映像が表示される前に全員起立して、すぐに完璧な敬礼をしてみせた。いつものように、何も撤収中に映像通信など入れなくてもいいだろうと内心そしりながら。あのウェーバーでさえ、実戦のときにはこんな無駄なことはしなかった。

『今回も、殿下の粒子砲なしに全艦殲滅することはできた。しかしながら、戦闘時間は前回よりもさらに長引いてしまっている……』

 ――あんたの優秀な〝第一分隊〟のせいだろ。
 神妙な顔は崩さずに、心の中で冷笑する。
 しかし、きっとまたアルスターは、〝第二分隊〟――つまり〝第二分隊長〟ハワードのせいにするのだろう。艦長席は副長席の後方にあるため、今のハワードの表情は見られないが、たぶん、腹を押さえたいのを必死でこらえているに違いない。
 まったく説得力のない説教を続けるアルスターの顔を見すえながら、フィリップスは胸の内で呪詛のように同じ言葉を呟きつづける。
 ――あと一回、あと一回、あと一回……
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