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【05】始まりの終わり(中)
26 許せませんでした
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エリゴールが自動ドアの向こうに消えると、コールタンは深くうなだれて、大きな溜め息を吐き出した。
「ドレイク大佐……やっぱり俺は思い上がっていました……」
「何を今さら」
ちょうど激薄コーヒーを飲んでいたドレイクが、にやにや笑ってコールタンを茶化す。
「もしかして、自分は四班長のこと、〝わかってる〟って思ってたの?」
「うっ……まあ、それもありますが、あのクッキー缶にそれほどの意味がこめられていたとは……」
「いや、あれはほんとに単なる手土産のつもりだったよ。それをあの〝悪魔〟や四班長は〝招待状〟として利用した。さすが〝悪魔〟とそれに認められた男だな。特にあの〝悪魔〟――七班長が恐ろしい。あれは俺が今度は四班長を呼び出すことまで先読みして、左翼の入替を提案していったぞ」
「確かに、ヴァラクも恐ろしいですが、殿下と平気であんなやりとりできるあんたのほうが、はるかに恐ろしいですよ……」
「別に平気でしてはいないよ。一応気は遣ってるよ。殿下は〝最終兵器〟だからさ。うかつに〝お願い〟はできないんだ」
「なるほど。殿下は〝最終兵器〟。おっしゃるとおりです」
コールタンは真面目くさった顔でうなずくと、ローテーブルの上に散らばっているパラディンの飴を一つ摘み上げた。
それを見て、クルタナがすっと立ち上がり、コールタンが座っているソファの端に腰を下ろす。
おそらく、エリゴールが帰ったらすぐに移動したかったが、話が一段落するまで待っていたのだろう。いつまでもドレイクの隣にいたら、今度は何を手伝わされるかわからない。
「今までさんざん悩んできましたが、結局〝よかったね〟にはならなそうですね」
「そうだな。今頃、アルスター大佐は執務室で頭を抱えてるだろうな。自分ができることを続けようと思ったら、またメール一本で続けられなくなった」
「……本当に、〝よかったね〟にするつもりはあったんですか?」
飴をもてあそびながら、コールタンはドレイクをからかうように薄ら笑う。
「あったよ。さっき、四班長から元ウェーバー大佐隊の話を聞くまでは」
「そうですか。俺には〝よかったね〟にはできないことを再確認したように思えましたが」
「君はほんとに〝裏読み〟が好きだね。俺、君が思ってるよりたぶん単純よ?」
「でも、いつも〝つかみ〟はすごいですよね。会っていきなりエリゴールの急所をズバッと突いた」
「ああ、あれね。かわいそうに、あんな切られ方されても、まだ七班長が恋しいんだねえ。本当に罪作りだな、俺の〝弟〟」
「いや、寝た子を起こすようなことしたの、あんたでしょ」
確かにそのとおりだ。
イルホンが上官のかわりに心の中でエリゴールに謝罪していると、その上官が笑いながらコールタンに問い返した。
「コールタンくん。四班長が俺からの呼び出しにビビった理由、想像がつく?」
「そりゃ、あんたからいきなり呼び出されたら、俺だってビビりますよ。あんたに何言われるかわからなくて」
「おや、それはおかしいんじゃない? 何を言われるかわからないのに何で怖いの? 自分が言われたくないこと言われるかもしれないと思うから怖いんじゃないの?」
「あ……」
イルホンも、コールタンと一緒に声を上げそうになった。
そうだ。何を言われるかわからないなら困惑するだけだ。恐れる必要はまったくない。
「今の四班長にはね、自分が本当に四班長だったときにしたことを責められるのがいちばん痛いんだ。俺んとこには四班長が見捨てた元部下がいるから、それで責められるんじゃないかと思ってビビったんだよ。七班長に切られたのがよっぽど堪えたんだねえ。でも、だから今、元ウェーバー大佐隊にあれだけ同情できる。……一度切られた人間は、切られた人間の痛みがわかる」
諭すようなドレイクの解説を聞いて、コールタンは再びうなだれた。
「やっぱり、俺は思い上がっていました……」
「思い上がってるっていうより、読みが浅いんだよ、読みが。目のつけどころは悪くないのに」
「目のつけどころ?」
「自分の部下じゃなくなっても、四班長とはパイプ維持してたじゃない。四班長がどこに行っても、必ず自分の役に立つって見越してたからだろ?」
コールタンは苦笑いを浮かべると、あながち冗談でもなさそうにこう答えた。
「やっぱり、恐ろしい人ですね、あんたは」
「そうかい? でも、君はその恐ろしいところに利用価値を見出してるんじゃない?」
「そういうところが、マジで怖い……」
「またまた、心にもないことを」
「いや、マジですって」
「本気で怖いと思ってたら、俺に直接そう言えないよ。……コールタンくん。もし君がこの艦隊で生き残りたいと思っているなら、俺に気に入られることより、この艦隊のために尽力することを優先させたほうがいいよ。ここは『連合』が折れるまで〝全艦殲滅〟しつづけなけりゃならない。撤退は決して許されないんだ」
口調は軽いが、内容は重い。
コールタンは精悍な顔をこわばらせ、パラディンの飴を握りしめた。
「その『連合』から来たあんたに、それを説かれるのも複雑ですね」
「『連合』から来たからかえってわかるんだよ。〝絶対的恐怖〟。それがこの艦隊最大の武器だ。いくら軍艦の性能が上がっても、それを動かしてるのは人間だからな」
「……ドレイク大佐」
まるで護符のようにパラディンの飴を握ったまま、ふとコールタンは真剣な眼差しをドレイクに向けた。
「あんたがアルスター大佐を許せなかった、いちばんの理由は何ですか?」
コーヒーを飲みかけていたドレイクは、その手を止めて穏やかに微笑んだ。
「何だと思う?」
「また〝読みが浅い〟と怒られるかもしれませんが。……自分と自分の隊のことしか考えなかったからですか?」
「うーん……まあ、当たっていなくもないね」
ドレイクは曖昧に笑って、コーヒーを啜る。
「やっぱり浅かったんですね」
「いや、結局はそういうことになるんだけど。……アルスター大佐が殿下の信頼を裏切ったからだ」
一瞬、コールタンは青い目を見張った。が、すぐに笑って冷やかした。
「さすが、殿下に〝告白言い逃げ〟した人は言うことが違いますね」
「言ったろ。俺は殿下に仕えてる。殿下を失望させる人間は何があっても許せない」
「俺も殿下を失望させたら、あんたに切られてしまうわけですね」
「だから、こうして忠告してるんじゃない。あんたは切りたくも切らせたくもないからさ」
「ありがとうございます。でも、なぜでしょう?」
「コーヒー豆とカップ麺くれたから」
「あんたも物!?」
「まあ、それは半分冗談だけど」
「半分は本気!?」
「同僚の中に、せめて一人くらいは一緒に悪巧みできる仲間が欲しいじゃない。七班長はダーナのお守りで忙しいし」
「お守り……」
「まあ、そのうち、七班長くらい若く見えてパラディン大佐くらい美形な〝大佐〟が、護衛担当になってくれるよ」
「まだ言ってる!」
「だからそれまで、あんたが〈フラガラック〉の最後の〝盾〟だ。……〝告白言い逃げ〟二度と許すな」
それまでとは打って変わって、冷然とした声だった。
コールタンは新兵のように姿勢を正してから、決まり悪そうに笑った。
「重々肝に銘じておきます。ところで……ドレイク大佐」
「何?」
「その……このパラディンの飴……少しでいいから分けてもらえませんかね……」
遠慮がちなコールタンの申し出に、ドレイクは軽く噴き出した。
「コールタンくん、Mなだけでなくフェチ? パラディン大佐の使ってた椅子に座る前に、座面に頬ずりしたりしなかった?」
「うおおおお!」
コールタンは両手で頭を抱えて叫んだが、クルタナは助け船を出すどころか、呆れたような視線を注いでいた。
イルホンも同感だったが、一応他隊の〝大佐〟である。ドレイクはきっと許すだろうから、何に飴を入れて持ち帰らせようかと現実的なことを考えたのだった。
* * *
「噂以上の男前でしたね」
カップ麺の空容器を片づけながらイルホンが話を振ると、コールタンたちが帰ってもソファに居残っていたドレイクはへらりと笑った。
「ああ、四班長? いいね。俺的には六班長よりいいね。でも、パラディン大佐はトレードには絶対応じてくれないだろうね」
「それは絶対応じませんね。四班長も六班長も、それぞれ別の理由で応じないでしょう」
「俺が七班長だったら、四班長のほうが絶対いいけどなあ……」
「そこが〝兄弟〟でも違うところですね」
「俺は頭のいいクールビューティが好き! ……別に金髪だから好きなわけじゃないよ?」
「わざわざそう断るということは、それもポイントの一つに入っているということですね」
「まあ、俺の好みはともかく、アルスター大佐のおそらく最後の舞台は整った。そこに登るか登らないかはアルスター大佐しだいだ」
除菌タオルでローテーブルの上を拭いていたイルホンは、手を止めてドレイクを見た。
ドレイクは食後のコーヒーを悠々と飲んでいる。もちろん激薄だ。
「コールタン大佐も言ってましたけど……実は大佐は最初から〝よかったね〟にするつもりはなかったんじゃないんですか?」
「そんなことはないよ。俺は本当に〝よかったね〟にしたかったよ。でも、四班長から元ウェーバー大佐隊の話を聞いて、気が変わったんだ。ついでに、出撃前にもう一度だけアルスター大佐に会う気にもなった」
「……え?」
予想外のことを付け足されて、イルホンは灰色の目を見開いた。
ドレイクはコーヒーを持ったまま、どこか寂しげに笑っていた。
「イルホンくん。悪いけど、その片付けが終わったら、アルスター大佐にアポとってもらえる? できたら、明日の午前中がいい。今は冷静に話ができないだろ」
「会って何を話すんですか?」
「それは向こうの出方しだいだが。〝本音〟は話すよ。最後だから」
――最後。
思わず、イルホンは除菌タオルを握りしめた。
「連合」から亡命してきたドレイクに対して、アルスターはいろいろと親切に教えてくれた〝大佐〟だった。それなのに、今はこの艦隊の癌として切除されようとしている。
「いったい、何がいけなかったんでしょう?」
ついそう訊ねると、ドレイクは少し考えてから、静かに答えた。
「そうだな。しいて言うなら、俺がここに来たことかな。……今までと同じことができなくなった」
「ドレイク大佐……やっぱり俺は思い上がっていました……」
「何を今さら」
ちょうど激薄コーヒーを飲んでいたドレイクが、にやにや笑ってコールタンを茶化す。
「もしかして、自分は四班長のこと、〝わかってる〟って思ってたの?」
「うっ……まあ、それもありますが、あのクッキー缶にそれほどの意味がこめられていたとは……」
「いや、あれはほんとに単なる手土産のつもりだったよ。それをあの〝悪魔〟や四班長は〝招待状〟として利用した。さすが〝悪魔〟とそれに認められた男だな。特にあの〝悪魔〟――七班長が恐ろしい。あれは俺が今度は四班長を呼び出すことまで先読みして、左翼の入替を提案していったぞ」
「確かに、ヴァラクも恐ろしいですが、殿下と平気であんなやりとりできるあんたのほうが、はるかに恐ろしいですよ……」
「別に平気でしてはいないよ。一応気は遣ってるよ。殿下は〝最終兵器〟だからさ。うかつに〝お願い〟はできないんだ」
「なるほど。殿下は〝最終兵器〟。おっしゃるとおりです」
コールタンは真面目くさった顔でうなずくと、ローテーブルの上に散らばっているパラディンの飴を一つ摘み上げた。
それを見て、クルタナがすっと立ち上がり、コールタンが座っているソファの端に腰を下ろす。
おそらく、エリゴールが帰ったらすぐに移動したかったが、話が一段落するまで待っていたのだろう。いつまでもドレイクの隣にいたら、今度は何を手伝わされるかわからない。
「今までさんざん悩んできましたが、結局〝よかったね〟にはならなそうですね」
「そうだな。今頃、アルスター大佐は執務室で頭を抱えてるだろうな。自分ができることを続けようと思ったら、またメール一本で続けられなくなった」
「……本当に、〝よかったね〟にするつもりはあったんですか?」
飴をもてあそびながら、コールタンはドレイクをからかうように薄ら笑う。
「あったよ。さっき、四班長から元ウェーバー大佐隊の話を聞くまでは」
「そうですか。俺には〝よかったね〟にはできないことを再確認したように思えましたが」
「君はほんとに〝裏読み〟が好きだね。俺、君が思ってるよりたぶん単純よ?」
「でも、いつも〝つかみ〟はすごいですよね。会っていきなりエリゴールの急所をズバッと突いた」
「ああ、あれね。かわいそうに、あんな切られ方されても、まだ七班長が恋しいんだねえ。本当に罪作りだな、俺の〝弟〟」
「いや、寝た子を起こすようなことしたの、あんたでしょ」
確かにそのとおりだ。
イルホンが上官のかわりに心の中でエリゴールに謝罪していると、その上官が笑いながらコールタンに問い返した。
「コールタンくん。四班長が俺からの呼び出しにビビった理由、想像がつく?」
「そりゃ、あんたからいきなり呼び出されたら、俺だってビビりますよ。あんたに何言われるかわからなくて」
「おや、それはおかしいんじゃない? 何を言われるかわからないのに何で怖いの? 自分が言われたくないこと言われるかもしれないと思うから怖いんじゃないの?」
「あ……」
イルホンも、コールタンと一緒に声を上げそうになった。
そうだ。何を言われるかわからないなら困惑するだけだ。恐れる必要はまったくない。
「今の四班長にはね、自分が本当に四班長だったときにしたことを責められるのがいちばん痛いんだ。俺んとこには四班長が見捨てた元部下がいるから、それで責められるんじゃないかと思ってビビったんだよ。七班長に切られたのがよっぽど堪えたんだねえ。でも、だから今、元ウェーバー大佐隊にあれだけ同情できる。……一度切られた人間は、切られた人間の痛みがわかる」
諭すようなドレイクの解説を聞いて、コールタンは再びうなだれた。
「やっぱり、俺は思い上がっていました……」
「思い上がってるっていうより、読みが浅いんだよ、読みが。目のつけどころは悪くないのに」
「目のつけどころ?」
「自分の部下じゃなくなっても、四班長とはパイプ維持してたじゃない。四班長がどこに行っても、必ず自分の役に立つって見越してたからだろ?」
コールタンは苦笑いを浮かべると、あながち冗談でもなさそうにこう答えた。
「やっぱり、恐ろしい人ですね、あんたは」
「そうかい? でも、君はその恐ろしいところに利用価値を見出してるんじゃない?」
「そういうところが、マジで怖い……」
「またまた、心にもないことを」
「いや、マジですって」
「本気で怖いと思ってたら、俺に直接そう言えないよ。……コールタンくん。もし君がこの艦隊で生き残りたいと思っているなら、俺に気に入られることより、この艦隊のために尽力することを優先させたほうがいいよ。ここは『連合』が折れるまで〝全艦殲滅〟しつづけなけりゃならない。撤退は決して許されないんだ」
口調は軽いが、内容は重い。
コールタンは精悍な顔をこわばらせ、パラディンの飴を握りしめた。
「その『連合』から来たあんたに、それを説かれるのも複雑ですね」
「『連合』から来たからかえってわかるんだよ。〝絶対的恐怖〟。それがこの艦隊最大の武器だ。いくら軍艦の性能が上がっても、それを動かしてるのは人間だからな」
「……ドレイク大佐」
まるで護符のようにパラディンの飴を握ったまま、ふとコールタンは真剣な眼差しをドレイクに向けた。
「あんたがアルスター大佐を許せなかった、いちばんの理由は何ですか?」
コーヒーを飲みかけていたドレイクは、その手を止めて穏やかに微笑んだ。
「何だと思う?」
「また〝読みが浅い〟と怒られるかもしれませんが。……自分と自分の隊のことしか考えなかったからですか?」
「うーん……まあ、当たっていなくもないね」
ドレイクは曖昧に笑って、コーヒーを啜る。
「やっぱり浅かったんですね」
「いや、結局はそういうことになるんだけど。……アルスター大佐が殿下の信頼を裏切ったからだ」
一瞬、コールタンは青い目を見張った。が、すぐに笑って冷やかした。
「さすが、殿下に〝告白言い逃げ〟した人は言うことが違いますね」
「言ったろ。俺は殿下に仕えてる。殿下を失望させる人間は何があっても許せない」
「俺も殿下を失望させたら、あんたに切られてしまうわけですね」
「だから、こうして忠告してるんじゃない。あんたは切りたくも切らせたくもないからさ」
「ありがとうございます。でも、なぜでしょう?」
「コーヒー豆とカップ麺くれたから」
「あんたも物!?」
「まあ、それは半分冗談だけど」
「半分は本気!?」
「同僚の中に、せめて一人くらいは一緒に悪巧みできる仲間が欲しいじゃない。七班長はダーナのお守りで忙しいし」
「お守り……」
「まあ、そのうち、七班長くらい若く見えてパラディン大佐くらい美形な〝大佐〟が、護衛担当になってくれるよ」
「まだ言ってる!」
「だからそれまで、あんたが〈フラガラック〉の最後の〝盾〟だ。……〝告白言い逃げ〟二度と許すな」
それまでとは打って変わって、冷然とした声だった。
コールタンは新兵のように姿勢を正してから、決まり悪そうに笑った。
「重々肝に銘じておきます。ところで……ドレイク大佐」
「何?」
「その……このパラディンの飴……少しでいいから分けてもらえませんかね……」
遠慮がちなコールタンの申し出に、ドレイクは軽く噴き出した。
「コールタンくん、Mなだけでなくフェチ? パラディン大佐の使ってた椅子に座る前に、座面に頬ずりしたりしなかった?」
「うおおおお!」
コールタンは両手で頭を抱えて叫んだが、クルタナは助け船を出すどころか、呆れたような視線を注いでいた。
イルホンも同感だったが、一応他隊の〝大佐〟である。ドレイクはきっと許すだろうから、何に飴を入れて持ち帰らせようかと現実的なことを考えたのだった。
* * *
「噂以上の男前でしたね」
カップ麺の空容器を片づけながらイルホンが話を振ると、コールタンたちが帰ってもソファに居残っていたドレイクはへらりと笑った。
「ああ、四班長? いいね。俺的には六班長よりいいね。でも、パラディン大佐はトレードには絶対応じてくれないだろうね」
「それは絶対応じませんね。四班長も六班長も、それぞれ別の理由で応じないでしょう」
「俺が七班長だったら、四班長のほうが絶対いいけどなあ……」
「そこが〝兄弟〟でも違うところですね」
「俺は頭のいいクールビューティが好き! ……別に金髪だから好きなわけじゃないよ?」
「わざわざそう断るということは、それもポイントの一つに入っているということですね」
「まあ、俺の好みはともかく、アルスター大佐のおそらく最後の舞台は整った。そこに登るか登らないかはアルスター大佐しだいだ」
除菌タオルでローテーブルの上を拭いていたイルホンは、手を止めてドレイクを見た。
ドレイクは食後のコーヒーを悠々と飲んでいる。もちろん激薄だ。
「コールタン大佐も言ってましたけど……実は大佐は最初から〝よかったね〟にするつもりはなかったんじゃないんですか?」
「そんなことはないよ。俺は本当に〝よかったね〟にしたかったよ。でも、四班長から元ウェーバー大佐隊の話を聞いて、気が変わったんだ。ついでに、出撃前にもう一度だけアルスター大佐に会う気にもなった」
「……え?」
予想外のことを付け足されて、イルホンは灰色の目を見開いた。
ドレイクはコーヒーを持ったまま、どこか寂しげに笑っていた。
「イルホンくん。悪いけど、その片付けが終わったら、アルスター大佐にアポとってもらえる? できたら、明日の午前中がいい。今は冷静に話ができないだろ」
「会って何を話すんですか?」
「それは向こうの出方しだいだが。〝本音〟は話すよ。最後だから」
――最後。
思わず、イルホンは除菌タオルを握りしめた。
「連合」から亡命してきたドレイクに対して、アルスターはいろいろと親切に教えてくれた〝大佐〟だった。それなのに、今はこの艦隊の癌として切除されようとしている。
「いったい、何がいけなかったんでしょう?」
ついそう訊ねると、ドレイクは少し考えてから、静かに答えた。
「そうだな。しいて言うなら、俺がここに来たことかな。……今までと同じことができなくなった」
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