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05 ハリー視点
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――ついに言ってしまった。
言い終えた瞬間、ハリーは船長の顔をまともに見ていられなくなってうつむいた。
だが、今のハリーにとって最大の問題は、この船長が本当に自分を嫌っているかどうかである。
ハリーの身を案じてはくれているようだが、それは単に船長としての責務からかもしれない。そうではなくて、個人的にどう思っているのかを知りたいのだ。
「いや……そんなことはないが……」
かなりの間をおいて、船長はそう答えた。
(そうだよな。本当は嫌いでもそう答えるよな)
ある意味、予想どおりの回答である。
この質問をしたことをハリーは今になって後悔したが、言ってしまったものはもう取り消せない。捨て鉢な気分になって、さらに自分を追いこむような質問を重ねてしまった。
「じゃあ、嫌いじゃなかったら何ですか?」
「何って……」
さすがに今度は船長も面食らったようだった。
(明日から、ミーティングのときにしか船長には会えないな……)
ハリーが自嘲と共に思ったとき、船長が深い溜め息を吐き出した。
思わず顔を上げると、船長は前屈みになって頭を抱えていた。
「どうして、俺がおまえのことを嫌っているなんて思ったんだ?」
「どうしてって……船長、俺のこと避けてるでしょう? 嫌いだから避けてるんじゃないんですか?」
図星だったらしく、船長はその体勢のまま、しばらく固まっていた。
(やっぱり訊かなきゃよかった……)
〝未確定〟のままなら、本当は嫌いじゃないかもしれないと思うこともできたのに。
(いや、まだ断言してないから、今のうちにここから逃げ出せば、〝未確定〟のままにできるかも)
しかし、ハリーがそんな姑息なことを考えたのを見透かしたように、船長が重い口を開いた。
「おまえに誤解されたままでいるほうが辛いから、訂正しておく」
「……はい?」
「今まで俺がおまえを避けていたのは事実だ。だが、その理由はおまえのことが嫌いだからじゃない」
「じゃあ、何で……」
「……保身と現実逃避だ」
「は?」
「半年なら、何とか乗りきれると思ったんだがな……結局、二ヶ月も保たなかった」
「あの……船長……?」
「逆なんだ」
相変わらずハリーを見ないまま、船長は言った。
「おまえのことを避けてたのは、おまえのことが好きだったからだ。……初対面から」
――これ、夢かな?
ハリーは右手で左手の甲をつねってみたが、その痛さも幻覚のように思えて、確認にはならなかった。
言い終えた瞬間、ハリーは船長の顔をまともに見ていられなくなってうつむいた。
だが、今のハリーにとって最大の問題は、この船長が本当に自分を嫌っているかどうかである。
ハリーの身を案じてはくれているようだが、それは単に船長としての責務からかもしれない。そうではなくて、個人的にどう思っているのかを知りたいのだ。
「いや……そんなことはないが……」
かなりの間をおいて、船長はそう答えた。
(そうだよな。本当は嫌いでもそう答えるよな)
ある意味、予想どおりの回答である。
この質問をしたことをハリーは今になって後悔したが、言ってしまったものはもう取り消せない。捨て鉢な気分になって、さらに自分を追いこむような質問を重ねてしまった。
「じゃあ、嫌いじゃなかったら何ですか?」
「何って……」
さすがに今度は船長も面食らったようだった。
(明日から、ミーティングのときにしか船長には会えないな……)
ハリーが自嘲と共に思ったとき、船長が深い溜め息を吐き出した。
思わず顔を上げると、船長は前屈みになって頭を抱えていた。
「どうして、俺がおまえのことを嫌っているなんて思ったんだ?」
「どうしてって……船長、俺のこと避けてるでしょう? 嫌いだから避けてるんじゃないんですか?」
図星だったらしく、船長はその体勢のまま、しばらく固まっていた。
(やっぱり訊かなきゃよかった……)
〝未確定〟のままなら、本当は嫌いじゃないかもしれないと思うこともできたのに。
(いや、まだ断言してないから、今のうちにここから逃げ出せば、〝未確定〟のままにできるかも)
しかし、ハリーがそんな姑息なことを考えたのを見透かしたように、船長が重い口を開いた。
「おまえに誤解されたままでいるほうが辛いから、訂正しておく」
「……はい?」
「今まで俺がおまえを避けていたのは事実だ。だが、その理由はおまえのことが嫌いだからじゃない」
「じゃあ、何で……」
「……保身と現実逃避だ」
「は?」
「半年なら、何とか乗りきれると思ったんだがな……結局、二ヶ月も保たなかった」
「あの……船長……?」
「逆なんだ」
相変わらずハリーを見ないまま、船長は言った。
「おまえのことを避けてたのは、おまえのことが好きだったからだ。……初対面から」
――これ、夢かな?
ハリーは右手で左手の甲をつねってみたが、その痛さも幻覚のように思えて、確認にはならなかった。
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