悪魔の誕生【R18】

有喜多亜里

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05 ハリー視点

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 ――ついに言ってしまった。
 言い終えた瞬間、ハリーは船長の顔をまともに見ていられなくなってうつむいた。
 だが、今のハリーにとって最大の問題は、この船長が本当に自分を嫌っているかどうかである。
 ハリーの身を案じてはくれているようだが、それは単に船長としての責務からかもしれない。そうではなくて、個人的にどう思っているのかを知りたいのだ。

「いや……そんなことはないが……」

 かなりの間をおいて、船長はそう答えた。

(そうだよな。本当は嫌いでもそう答えるよな)

 ある意味、予想どおりの回答である。
 この質問をしたことをハリーは今になって後悔したが、言ってしまったものはもう取り消せない。捨て鉢な気分になって、さらに自分を追いこむような質問を重ねてしまった。

「じゃあ、嫌いじゃなかったら何ですか?」
「何って……」

 さすがに今度は船長も面食らったようだった。

(明日から、ミーティングのときにしか船長には会えないな……)

 ハリーが自嘲と共に思ったとき、船長が深い溜め息を吐き出した。
 思わず顔を上げると、船長は前屈みになって頭を抱えていた。

「どうして、俺がおまえのことを嫌っているなんて思ったんだ?」
「どうしてって……船長、俺のこと避けてるでしょう? 嫌いだから避けてるんじゃないんですか?」

 図星だったらしく、船長はその体勢のまま、しばらく固まっていた。

(やっぱり訊かなきゃよかった……)

 〝未確定〟のままなら、本当は嫌いじゃないかもしれないと思うこともできたのに。

(いや、まだ断言してないから、今のうちにここから逃げ出せば、〝未確定〟のままにできるかも)

 しかし、ハリーがそんな姑息なことを考えたのを見透かしたように、船長が重い口を開いた。

「おまえに誤解されたままでいるほうが辛いから、訂正しておく」
「……はい?」
「今まで俺がおまえを避けていたのは事実だ。だが、その理由はおまえのことが嫌いだからじゃない」
「じゃあ、何で……」
「……保身と現実逃避だ」
「は?」
「半年なら、何とか乗りきれると思ったんだがな……結局、二ヶ月も保たなかった」
「あの……船長……?」
「逆なんだ」

 相変わらずハリーを見ないまま、船長は言った。

「おまえのことを避けてたのは、おまえのことが好きだったからだ。……初対面から」

 ――これ、夢かな?
 ハリーは右手で左手の甲をつねってみたが、その痛さも幻覚のように思えて、確認にはならなかった。
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