悪魔の誕生【R18】

有喜多亜里

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07 ハリー視点*

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「おまえ、船長のこと、もうあきらめたのか?」

 食堂で通信技師にいきなりそう言われて、ハリーは思わずコーヒーを噴き出しそうになった。

「あきらめたって……何を?」

 自分の口元をナプキンで拭いながら、ハリーはどうにか平静を装った。

「いや、ちょっと前まで、あんなに船長船長騒いでたのに、今は本人前にしても、無理に話しかけようとしないからさ。やっぱり〝未確定〟のままで行くことにしたのかと」

 ――いや、逆に〝確定〟したからなんだけど。
 だが、たとえ相手が通信技師であっても、そのことは明かせない。ハリーの愛しい〝アル〟のために。

「うん、まあ……あんまりしつこくして、決定的に嫌われたくないし……」

 多少気は咎めたが、ハリーはそれらしいことを答えた。

「そうだな。それが賢明だな。船長もほっとしてるみたいだしな」

(ほっとしてる……)

 確かに、それはハリーも感じている。しかし、それは自分に〝真実〟を打ち明けたからであって――

(とは言えないよな)

 余計なことを言って、墓穴は掘りたくない。
 通信技師に別の話を振られるまで、ハリーは黙々とコーヒーを飲みつづけた。

   *

 通信技師に指摘されたとおり、今のハリーはミーティングのときくらいしか、船長とまともに言葉を交わしていない。
 が、それはあくまで人前では、だ。
 勤務時間が終わると、ハリーは自室でシャワーを浴びてから、小道具の携帯端末を持参して、船長室を訪ねる。
 船長はこのために、この時間帯を自分の仮眠時間に変更した。姑息だが、他に良案もない。とりあえず、ハリーは船長と二人きりになれればそれでいい。

「会いたかった!」

 自動ドアが閉まった瞬間、ハリーは携帯端末をソファに放り投げて、すでに立って待っていた船長に抱きついた。

「会いたかったって……毎日会ってるだろ……」

 呆れたように言いながらも、船長はハリーを抱きしめて、優しく髪を撫でてくれる。

「だって、二人きりじゃないし」
「それはそうだな」

 船長は苦笑いすると、ハリーの頭に手を添えたまま、貪るようなキスをした。

(ああ、好き。やっぱり俺、この人のこと大好き)

 ハリーはうっとりして、夢中でそのキスに応えた。
 もしかして、自分も船長に一目惚れしていたのだろうか。
 船長とは違って、自覚症状がなかっただけで。

   *

 船長室のベッドは、キングサイズだ。
 初めてキスした日も、ここに座らされて押し倒された。
 本当にいいのかと確認されてハリーが躊躇したのは、自分がまだシャワーを浴びていなかったからだった。
 だが、船長にはハリーが性行為を嫌がっているように見えたらしい。もう少しでまた逃げられてしまうところだった。だから、二回目以降は必ずシャワーを浴びてからここに来ている。
 ハリーはいまだに船長を名前で呼べずにいるが――やはり、恐れ多い――船長は二人きりでいる間だけ、ハリーを名前で呼んでくれるようになった。

「ハリー……」

 魅惑的な低音で囁かれると、それだけで腰くだけになってしまう。
 非常事態に備えて、船長は決して全裸にはならない。
 しかし、ハリーのほうはいつも、靴下まで脱がされてしまう。
 かなり理不尽に思ってはいるが、船長に全身を愛撫され、濡れた長い指で下の口をほぐされている間に、そんなことはもうどうでもよくなっている。

 ――早く欲しい。

 上の口でそう言うかわりに自分の両足を抱えこむと、船長はやっと下の口にハリーが望むものをくれる。

「あっ……」

 念入りにほぐしてもらっていても、入れられる瞬間は今でも痛い。
 だが、それさえ我慢すれば、あの悦楽を味わえる。

「ん……あっ、あ、あ、あ、あ……」

 ここを擦られるだけで、どうしてこんなにも感じてしまうのだろう。
 おまけに、船長はハリーの前の面倒も見てくれる。
 達するまで、喘ぎつづけるより他になすすべがない。

「あ、あ……あっ……!」

 船長の手の中で震えてイくと、ほぼ同時にハリーの中の船長もイく。

「あ……今日はいつもより多い感じ……」

 船長はばつの悪そうな顔をして、ハリーの口封じも兼ねたキスをした。

「そんな報告はしなくてもいい」
「じゃあ、これも?」
「何だ?」
「……〝愛してます〟」

 船長は不意を突かれたように目を見張ったが、赤くなって視線をそらせているハリーの髪を左手でそっと撫でた。

「その報告は俺もしなくちゃならないな。……ハリー。〝愛してる〟」

 ――ほんとにこれ、夢かもしれない。
 まだ身の内に船長を収めたまま、ハリーは汗で濡れている船長の胸に顔を埋めた。
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