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07 ハリー視点*
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「おまえ、船長のこと、もうあきらめたのか?」
食堂で通信技師にいきなりそう言われて、ハリーは思わずコーヒーを噴き出しそうになった。
「あきらめたって……何を?」
自分の口元をナプキンで拭いながら、ハリーはどうにか平静を装った。
「いや、ちょっと前まで、あんなに船長船長騒いでたのに、今は本人前にしても、無理に話しかけようとしないからさ。やっぱり〝未確定〟のままで行くことにしたのかと」
――いや、逆に〝確定〟したからなんだけど。
だが、たとえ相手が通信技師であっても、そのことは明かせない。ハリーの愛しい〝アル〟のために。
「うん、まあ……あんまりしつこくして、決定的に嫌われたくないし……」
多少気は咎めたが、ハリーはそれらしいことを答えた。
「そうだな。それが賢明だな。船長もほっとしてるみたいだしな」
(ほっとしてる……)
確かに、それはハリーも感じている。しかし、それは自分に〝真実〟を打ち明けたからであって――
(とは言えないよな)
余計なことを言って、墓穴は掘りたくない。
通信技師に別の話を振られるまで、ハリーは黙々とコーヒーを飲みつづけた。
*
通信技師に指摘されたとおり、今のハリーはミーティングのときくらいしか、船長とまともに言葉を交わしていない。
が、それはあくまで人前では、だ。
勤務時間が終わると、ハリーは自室でシャワーを浴びてから、小道具の携帯端末を持参して、船長室を訪ねる。
船長はこのために、この時間帯を自分の仮眠時間に変更した。姑息だが、他に良案もない。とりあえず、ハリーは船長と二人きりになれればそれでいい。
「会いたかった!」
自動ドアが閉まった瞬間、ハリーは携帯端末をソファに放り投げて、すでに立って待っていた船長に抱きついた。
「会いたかったって……毎日会ってるだろ……」
呆れたように言いながらも、船長はハリーを抱きしめて、優しく髪を撫でてくれる。
「だって、二人きりじゃないし」
「それはそうだな」
船長は苦笑いすると、ハリーの頭に手を添えたまま、貪るようなキスをした。
(ああ、好き。やっぱり俺、この人のこと大好き)
ハリーはうっとりして、夢中でそのキスに応えた。
もしかして、自分も船長に一目惚れしていたのだろうか。
船長とは違って、自覚症状がなかっただけで。
*
船長室のベッドは、キングサイズだ。
初めてキスした日も、ここに座らされて押し倒された。
本当にいいのかと確認されてハリーが躊躇したのは、自分がまだシャワーを浴びていなかったからだった。
だが、船長にはハリーが性行為を嫌がっているように見えたらしい。もう少しでまた逃げられてしまうところだった。だから、二回目以降は必ずシャワーを浴びてからここに来ている。
ハリーはいまだに船長を名前で呼べずにいるが――やはり、恐れ多い――船長は二人きりでいる間だけ、ハリーを名前で呼んでくれるようになった。
「ハリー……」
魅惑的な低音で囁かれると、それだけで腰くだけになってしまう。
非常事態に備えて、船長は決して全裸にはならない。
しかし、ハリーのほうはいつも、靴下まで脱がされてしまう。
かなり理不尽に思ってはいるが、船長に全身を愛撫され、濡れた長い指で下の口をほぐされている間に、そんなことはもうどうでもよくなっている。
――早く欲しい。
上の口でそう言うかわりに自分の両足を抱えこむと、船長はやっと下の口にハリーが望むものをくれる。
「あっ……」
念入りにほぐしてもらっていても、入れられる瞬間は今でも痛い。
だが、それさえ我慢すれば、あの悦楽を味わえる。
「ん……あっ、あ、あ、あ、あ……」
ここを擦られるだけで、どうしてこんなにも感じてしまうのだろう。
おまけに、船長はハリーの前の面倒も見てくれる。
達するまで、喘ぎつづけるより他になすすべがない。
「あ、あ……あっ……!」
船長の手の中で震えてイくと、ほぼ同時にハリーの中の船長もイく。
「あ……今日はいつもより多い感じ……」
船長はばつの悪そうな顔をして、ハリーの口封じも兼ねたキスをした。
「そんな報告はしなくてもいい」
「じゃあ、これも?」
「何だ?」
「……〝愛してます〟」
船長は不意を突かれたように目を見張ったが、赤くなって視線をそらせているハリーの髪を左手でそっと撫でた。
「その報告は俺もしなくちゃならないな。……ハリー。〝愛してる〟」
――ほんとにこれ、夢かもしれない。
まだ身の内に船長を収めたまま、ハリーは汗で濡れている船長の胸に顔を埋めた。
食堂で通信技師にいきなりそう言われて、ハリーは思わずコーヒーを噴き出しそうになった。
「あきらめたって……何を?」
自分の口元をナプキンで拭いながら、ハリーはどうにか平静を装った。
「いや、ちょっと前まで、あんなに船長船長騒いでたのに、今は本人前にしても、無理に話しかけようとしないからさ。やっぱり〝未確定〟のままで行くことにしたのかと」
――いや、逆に〝確定〟したからなんだけど。
だが、たとえ相手が通信技師であっても、そのことは明かせない。ハリーの愛しい〝アル〟のために。
「うん、まあ……あんまりしつこくして、決定的に嫌われたくないし……」
多少気は咎めたが、ハリーはそれらしいことを答えた。
「そうだな。それが賢明だな。船長もほっとしてるみたいだしな」
(ほっとしてる……)
確かに、それはハリーも感じている。しかし、それは自分に〝真実〟を打ち明けたからであって――
(とは言えないよな)
余計なことを言って、墓穴は掘りたくない。
通信技師に別の話を振られるまで、ハリーは黙々とコーヒーを飲みつづけた。
*
通信技師に指摘されたとおり、今のハリーはミーティングのときくらいしか、船長とまともに言葉を交わしていない。
が、それはあくまで人前では、だ。
勤務時間が終わると、ハリーは自室でシャワーを浴びてから、小道具の携帯端末を持参して、船長室を訪ねる。
船長はこのために、この時間帯を自分の仮眠時間に変更した。姑息だが、他に良案もない。とりあえず、ハリーは船長と二人きりになれればそれでいい。
「会いたかった!」
自動ドアが閉まった瞬間、ハリーは携帯端末をソファに放り投げて、すでに立って待っていた船長に抱きついた。
「会いたかったって……毎日会ってるだろ……」
呆れたように言いながらも、船長はハリーを抱きしめて、優しく髪を撫でてくれる。
「だって、二人きりじゃないし」
「それはそうだな」
船長は苦笑いすると、ハリーの頭に手を添えたまま、貪るようなキスをした。
(ああ、好き。やっぱり俺、この人のこと大好き)
ハリーはうっとりして、夢中でそのキスに応えた。
もしかして、自分も船長に一目惚れしていたのだろうか。
船長とは違って、自覚症状がなかっただけで。
*
船長室のベッドは、キングサイズだ。
初めてキスした日も、ここに座らされて押し倒された。
本当にいいのかと確認されてハリーが躊躇したのは、自分がまだシャワーを浴びていなかったからだった。
だが、船長にはハリーが性行為を嫌がっているように見えたらしい。もう少しでまた逃げられてしまうところだった。だから、二回目以降は必ずシャワーを浴びてからここに来ている。
ハリーはいまだに船長を名前で呼べずにいるが――やはり、恐れ多い――船長は二人きりでいる間だけ、ハリーを名前で呼んでくれるようになった。
「ハリー……」
魅惑的な低音で囁かれると、それだけで腰くだけになってしまう。
非常事態に備えて、船長は決して全裸にはならない。
しかし、ハリーのほうはいつも、靴下まで脱がされてしまう。
かなり理不尽に思ってはいるが、船長に全身を愛撫され、濡れた長い指で下の口をほぐされている間に、そんなことはもうどうでもよくなっている。
――早く欲しい。
上の口でそう言うかわりに自分の両足を抱えこむと、船長はやっと下の口にハリーが望むものをくれる。
「あっ……」
念入りにほぐしてもらっていても、入れられる瞬間は今でも痛い。
だが、それさえ我慢すれば、あの悦楽を味わえる。
「ん……あっ、あ、あ、あ、あ……」
ここを擦られるだけで、どうしてこんなにも感じてしまうのだろう。
おまけに、船長はハリーの前の面倒も見てくれる。
達するまで、喘ぎつづけるより他になすすべがない。
「あ、あ……あっ……!」
船長の手の中で震えてイくと、ほぼ同時にハリーの中の船長もイく。
「あ……今日はいつもより多い感じ……」
船長はばつの悪そうな顔をして、ハリーの口封じも兼ねたキスをした。
「そんな報告はしなくてもいい」
「じゃあ、これも?」
「何だ?」
「……〝愛してます〟」
船長は不意を突かれたように目を見張ったが、赤くなって視線をそらせているハリーの髪を左手でそっと撫でた。
「その報告は俺もしなくちゃならないな。……ハリー。〝愛してる〟」
――ほんとにこれ、夢かもしれない。
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