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第一話 召喚・勇者・そしてチート
16 実は俺は賢かった
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「何かな……夢みたいで現実感ないんだよな……」
何となく、左手で剣を上げ下げしてみる。
木刀より軽くても重さはある。でも、それはここが夢の中じゃないっていう証拠にはならない。目が覚めてから夢だってわかったことは何度もある。
「あと俺、魔王に会ったことないし」
「それは僕だってないよ」
「じゃあ、何で魔王が怖いんだ?」
「一般論だよ」
皆本は溜め息をついて、赤い布張りの座席に背中を預けた。
ちなみに、俺たちの対面には座席はなく、南京錠つきの黒い木箱が据えつけられている。貴重品入れだろうか。にしては、妙にでかい。
「魔王って言われたら、普通の人間は怖いって思うだろ。ましてや、それと剣一本で戦えって言われたら」
「まあ、確かにそうだな。でも俺、一人じゃないし」
「僕は凡人だよ。当てにはまったくならないよ」
「いや、凡人ではないだろ……」
凡人だったらあそこまで毒吐けないだろ……と心の中で毒づいてから、皆本と二人きりになったら訊こうと思っていたことをふと思い出した。
「そういやおまえ、そんなにしゃべれるくせに、何で教室では誰ともしゃべってなかったんだ?」
「は?」
皆本は眉をひそめたが、すぐに「あーあー」と面倒くさそうにうなずいた。
「単にしゃべりたくなかっただけのことだよ。今は必要だからしゃべってる。君まかせにしていたら、話が前に進まない」
「あー……悪い。助かってる」
「いいよ、別に。人には向き不向きがある。元の世界に戻れるまで、僕は君の分まで口を動かす。君は僕にはできないことをする。とりあえず、そういうことにしとこうよ」
「おまえにできないこと? たとえば……何だ?」
「たとえば?」
少し考えるような顔をしてから、右の人差指で〝勇者の剣〟を指す。
「たとえばその剣。探し出したのは君だろ? まあ、君のことだから、適当に歩いて、適当に手に取っただけなんだろうけど」
「そ、そのとおりだけど! おまえだって、見つけようと思えば見つけられたんじゃないのか?」
「さあ。僕は剣を見つけようとは思わなかったからね」
肩をすくめた皆本は、左横に置いてある肩掛け鞄をぽんぽん叩いた。
「僕が選んだのはこれ。その剣を見つけたのは君。それより、今はこの先のことを真剣に考えたほうがいいと思うよ」
「この先?」
「具体的には、この馬車から降りろと言われた後のことだね。この世界の一日が僕らがいた世界の何時間に相当するかわからないけど、そう先のことではないはずだよ。あの御者さんも魔物が出歩かないうちに砦に戻りたいだろうからね」
俺は真剣に考えた。考えた結果、これしかないと思った。
「皆本」
「何?」
「口だけでなく、頭も俺の分まで動かしてくれ」
しばらく皆本は黙っていた。が、「ごめん。僕が馬鹿だった」と言った。
「人には向き不向きがあるんだった。武村くん。君は僕より賢いよ。世渡り的な意味で」
何となく、左手で剣を上げ下げしてみる。
木刀より軽くても重さはある。でも、それはここが夢の中じゃないっていう証拠にはならない。目が覚めてから夢だってわかったことは何度もある。
「あと俺、魔王に会ったことないし」
「それは僕だってないよ」
「じゃあ、何で魔王が怖いんだ?」
「一般論だよ」
皆本は溜め息をついて、赤い布張りの座席に背中を預けた。
ちなみに、俺たちの対面には座席はなく、南京錠つきの黒い木箱が据えつけられている。貴重品入れだろうか。にしては、妙にでかい。
「魔王って言われたら、普通の人間は怖いって思うだろ。ましてや、それと剣一本で戦えって言われたら」
「まあ、確かにそうだな。でも俺、一人じゃないし」
「僕は凡人だよ。当てにはまったくならないよ」
「いや、凡人ではないだろ……」
凡人だったらあそこまで毒吐けないだろ……と心の中で毒づいてから、皆本と二人きりになったら訊こうと思っていたことをふと思い出した。
「そういやおまえ、そんなにしゃべれるくせに、何で教室では誰ともしゃべってなかったんだ?」
「は?」
皆本は眉をひそめたが、すぐに「あーあー」と面倒くさそうにうなずいた。
「単にしゃべりたくなかっただけのことだよ。今は必要だからしゃべってる。君まかせにしていたら、話が前に進まない」
「あー……悪い。助かってる」
「いいよ、別に。人には向き不向きがある。元の世界に戻れるまで、僕は君の分まで口を動かす。君は僕にはできないことをする。とりあえず、そういうことにしとこうよ」
「おまえにできないこと? たとえば……何だ?」
「たとえば?」
少し考えるような顔をしてから、右の人差指で〝勇者の剣〟を指す。
「たとえばその剣。探し出したのは君だろ? まあ、君のことだから、適当に歩いて、適当に手に取っただけなんだろうけど」
「そ、そのとおりだけど! おまえだって、見つけようと思えば見つけられたんじゃないのか?」
「さあ。僕は剣を見つけようとは思わなかったからね」
肩をすくめた皆本は、左横に置いてある肩掛け鞄をぽんぽん叩いた。
「僕が選んだのはこれ。その剣を見つけたのは君。それより、今はこの先のことを真剣に考えたほうがいいと思うよ」
「この先?」
「具体的には、この馬車から降りろと言われた後のことだね。この世界の一日が僕らがいた世界の何時間に相当するかわからないけど、そう先のことではないはずだよ。あの御者さんも魔物が出歩かないうちに砦に戻りたいだろうからね」
俺は真剣に考えた。考えた結果、これしかないと思った。
「皆本」
「何?」
「口だけでなく、頭も俺の分まで動かしてくれ」
しばらく皆本は黙っていた。が、「ごめん。僕が馬鹿だった」と言った。
「人には向き不向きがあるんだった。武村くん。君は僕より賢いよ。世渡り的な意味で」
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