トリッパーズ!

有喜多亜里

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第一話 召喚・勇者・そしてチート

20 素振りのつもりだった

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「えーと……左手が上……だったか?」

 当たり前だが、木刀と剣とじゃ勝手が違う。ぶつぶつ言いながら剣の柄を両手で握り、バッターボックスに立つみたいに両足を広げてみた。

「へえ。君は左打ちだったんだ。投げるのは右?」

 からかうように皆本に訊かれたが、どうやって振るかに気を取られていた俺は、振り返らずにおざなりに答えた。

「右だな。手抜きしたいときは左」

 本当にこれでいいんだろうかと思いつつも、剣を何度か軽く振り、相変わらず影絵みたいな魔王城を見上げる。
 いつもの布団と比べて位置が高すぎる。下からすくい上げるように動かしたほうがよさそうだ。
 場外ホームラン狙いだな。そんな馬鹿なことを考えながら、軽い気持ちで剣を振ってみた。
 自分では、ちょっとした準備運動のつもりだった。
 でも、突風のような風切り音がして、俺は剣を振り抜いた格好のまま、しばらく固まっていた。
 確かに、木刀でもあんな音はしてたけど、これほどでかくはなかったような。
 やっぱり木刀と剣は違うんだな。そう思って剣を下ろしたとき、金属同士が激しくぶつかりあったような、キーンという甲高い音がした。
 時代劇のチャンバラシーンでよく聞く音だ。とっさに右手の剣を見たが、別に何ともなっていない。

「そっちじゃないよ」

 呆れたように笑う皆本の声がして、俺は左後方を振り返った。

「あっちだよ、あっち。魔王城」

 皆本が右の人差指で斜め前方を指す。再び前を向けば、さっきと同じところに魔王城はあったが、形はかなり変わっていた。

「あの魔王城……変形するのか?」
「あれから何に?」
「あー……人型ロボットとか?」
「それはそれで面白かっただろうけど、たぶんないだろうね。世界観的に」

 そんなやりとりをしている間にも、魔王城は変形しつづけていた。
 城の上半分が、左斜め下に向かって、少しずつ少しずつずれていく。
 まるで透明な巨人に切られてずらされている黒い切り絵みたいだ。最初の金属音以外何の音もしないから、本当にそんなふうに見える。そういえば、砦でもこの森でも、虫の声はまったく聞こえなかったし、今も聞こえない。
 しかし、何で突然あんなことに。
 さっぱりわからないまま見つめていると、魔王城の上半分がとうとう完全に下半分と分離した。と、城の背後にあったふざけた月が、一気に膨れ上がると同時に光量を増す。そのとき、視界の隅で何か黒いものが動いたような気がしたが、月のあまりの眩しさに目を閉じずにはいられなかった。

「順番を間違えたね」

 背筋が凍るような皆本の声が右後方から聞こえた。俺に言ってるんだろうか。おそるおそる瞼を開けたが、やっぱり明るすぎて半目になる。

「武村くんではなく、先に僕を片づけるべきだった。僕なら後でどうとでもできると思ってたかい? まあ、僕を先にしていても、こうなっていただろうけど」

 皆本は駐車場(ではないと思うが、そういうことにしておく)の右端に立っていた。俺が目を閉じている間に移動したんだろうが、その皆本の前には大木があり、そこにはとんでもないものが張りつけられていた。
 胸の真ん中を、皆本が持っていたはずの鞘で貫かれているアルガス。
 あそこ、たぶん心臓だよな? でも、アルガスは整った顔を歪めてはいるが、明らかに生きている。胸から出血もしていない……と思う。黒い服を着ているから、正直言ってよくわからない。
 だが、いちばんわからないのはこれだ。

 ――俺が目をつぶっている間に、いったい何が起こった?
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