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愛の方舟
7 嗚咽と撤回と約束
艦内時間十九時三十分。
食堂で洗い物を再開する前に、エドは白いジェラートが盛られた器をウィルの前に置いた。
「ほら、これがおまえが明日の朝食べるはずだったデザートだ。ちなみに既製品じゃないぞ。俺の手作りだ」
この男が作るものは、日を追うごとにどんどん高度になっているような気がする。すでに、かつてこの軍艦にいた正式なコックの腕前を超えているのではなかろうか。
「ジェラート……だよね? 何のジェラート?」
「匂い嗅いだらすぐにわかる。答え合わせは洗い物が終わった後で」
エドは悪戯っぽく笑うと、再び厨房に戻っていった。
ウィルがこれを食べ終われば、また新たに洗い物が発生するのだが、それはそれとして、途中で放り出していったという洗い物のほうを先に片づけたかったらしい。
それとも、先ほどの夕食のときのことを覚えていて、ウィルが気がねなく食べられるように、もっともらしい理由をつけて厨房に行ってくれたのだろうか。
真実はわからなかったが、正直、エドがそうしてくれて助かった。少しだけ寂しさも感じたけれど。
「匂いって……俺、あんまり鼻が利かないんだよな……」
独りごちながら、正体不明のジェラートをスプーンですくいとる。
ウィルより鼻の利くレオは、走り回って疲れてしまったのか、右隣の椅子の上で丸くなって眠っていた。もっとも、レオが起きていたとしても、何の匂いか教えてもらうことはできないが。
とにかく、ジェラートの載ったスプーンを鼻に近づけ、匂いを嗅いでみる。
(あ……これ、桃だ)
桃は香りが強くて特徴があるので、鼻音痴気味のウィルでもわかる。だからエドも匂いを嗅げばすぐにわかると言ったのだろう。
(桃のジェラートなんて初めて見た。エド、やっぱり運び屋になる前に、コックをしてたことがあるんじゃないのかな)
実際、エドにそう訊いて即座に否定されたが、やはり思ってしまうことを思いつつ、ようやくスプーンを口の中に入れると、甘くて冷たい桃の味が舌の上に広がった。
食べる前からわかっていたが、エドの料理はどれもうまい。しかも、ウィルが何も言わなくても、好きなものばかりを出してくれる。時々、体にいいとわかってはいても嫌いなものを、巧妙に混入したりもするが。
夢中になって食べつづけていると、マグカップを持ったエドがウィルの向かいの席に座った。
緊張したが、夕食のときほどではなかった。慣れてきたのかもしれない。
「答えはわかったか?」
テーブルに片肘をついてエドが笑う。
「うん。桃……だよね?」
断言できるほどの確信は持てなくて、ウィルは疑問形で答えた。
「正解。より正確に言うと、白桃だがな。そんなわけで、おまえが気になってしょうがなかった今夜のデザートは、白桃のジェラートでした。そんなんでも、けっこう手間かかってるんだぜ」
「そうなんだ。作り方は俺にはさっぱりわかんないけど、こんなにうまいジェラート食べたのは初めてだ。何か俺、この軍艦にエドが来てから、少し太ったような気がする」
「今までが痩せすぎてたんだよ。レオにはちゃんと時間どおりに餌やってたくせに、自分の分はめんどくさくなると平気で抜いてただろ」
「え、何でわかった?」
ぎくりとして肩を揺らすと、エドは呆れたように溜め息をついた。
「食料庫の在庫記録を調べりゃ見当はつく。あそこは食料を外に持ち出しただけで、いつ何がどれだけ減ったか勝手に記録されちまうんだ。知らなかっただろ?」
「うん、知らなかった。何かもう、俺よりエドのほうがこの軍艦のことよく知ってるよね。あんなとこに開閉装置があったなんて、俺、今日初めて知った」
「俺だって今日、おまえが閉じこめられてから調べて初めて知ったよ。そもそもおまえ、何の用があってあんなとこに行ったんだ?」
エドの口調には怒りのようなものがこめられている。ウィルは思わず目を泳がせた。
「えーと……何か急に星が見たくなって……前にも何度かあそこに行ったことがあったから、つい……でも、まさかあんなことになるなんて……」
「あの隔壁は、たとえば外から衝撃を受けて窓が壊れたときなんかに勝手に下りるように設計されてた。おまえ、あそこで何かしたか? 窓を殴ったとか蹴ったとか」
「そんなことしてないよ。今まで窓に触ったこともない。レオを抱いて外を見てたら、急に下りてきたんだ。レオが気づいてくれなかったら、一緒に閉じこめられてたかもしれない。もちろん、すぐに逃げ出そうとしたんだけど、壁が下りるスピードのほうが速くって……俺はもう間に合いそうになかったから、隙間からレオを逃がして、エドを呼んできてくれるように頼んだんだ」
エドはコーヒーを飲みながらウィルの話を聞いていたが、ふと彼を見つめるとしみじみと言った。
「おまえ、レオがいて、本当によかったな」
嫌味だったのかもしれないが、ウィルは心から同意した。
「うん。俺もそう思う」
そのレオはすっかり熟睡しているらしく、自分の名前を出されても、まったく目を覚まさなかった。
(そういえば、午後にもよく寝てたっけ)
レオの寝顔を見ながらそう考えたとき、その間にエドから告白されたことまで思い出してしまい、ウィルはあわててジェラートの残りを食べた。
「ということは、やっぱりあれは誤作動だったのかもしれないな。……さっきも言ったが、今後は絶対、立入禁止区域には入るなよ。今回はたまたまどうにかなったが、次もそうできるとは限らないんだからな」
「うん……ごめん。もう二度と行かない」
ひたすら申し訳なくて、ウィルは深くうつむいた。
もしも今回、レオまでウィルと一緒に閉じこめられていたら、エドは明日の朝食の時間になるまで、ウィルたちがあそこにいることに気づかなかったかもしれない。隔壁が誤作動を起こしてしまったのは不運だったが、それ以外は本当に幸運だったのだ。
「まあとにかく、おまえを無事に助け出せてよかった。開閉装置まで壊れてるとわかったときには、一瞬頭ん中が真っ白になった」
これ以上責めるのも酷だと思ったのか、エドは自分から話題を変えてくれた。
「エドでもそんなことってあるんだ」
ほっとして、すっかり冷めてしまったコーヒーを飲む。
「俺、今まであせったり、あわてたりしてるエドなんて見たことないよ」
「そりゃそうだ。おまえのそばにいるときには、俺にはあせったりあわてたりする必要はいっさいないからな」
さらりと返されて、思わずむせそうになった。
「それってどういう……?」
「おまえさえ無事でいてくれれば、俺には後のことはどうだっていいってことだ。この先、万が一おまえが俺より先に死ぬようなことがあったら、この軍艦、自爆させてやるから」
真顔で言いきるエドに、ウィルは心底あせった。
「そんな……エドは生きてよ。レオの面倒見てあげてよ。エデンに放して、餌をあげるだけでいいから」
「おまえには悪いが、俺はおまえのいないこの軍艦の中に一秒だっていたくないし、レオのために一人で生きる気もこれっぽっちもない。俺にレオを道連れにされたくなかったら、意地でも俺より長く生きろ。おまえはレオがいれば――」
そう言いかけたエドは、ウィルの顔を見て切れ長の目を丸くした。
「ウィル……おい、なんで泣いてるんだ?」
「だって……」
それ以上何も言えなくて、両手で顔を覆い、嗚咽する。
「畜生! 俺の標準装備にペンライトはあっても、ハンカチはないんだよ!」
エドは厨房に走っていくと、未使用のタオルを持って戻ってきて、ウィルの左横からそれを差し出した。
しゃくりあげながらも、ウィルはタオルを受け取り、広げないでそのまま顔に押しつけた。
「嘘つき……俺のそばでは、あせったりあわてたりしないって言ったくせに……」
「突然おまえに泣かれたら、いくら俺でもあせってあわてる。急にどうした? 何が気に食わなかった?」
「俺だって……もう一人になりたくないよ、エド……」
エドは虚を突かれたようにウィルを見下ろしたが、タオルで顔を覆っているウィルには当然わからなかった。
「確かに、この軍艦でたった一人の人間になったときには、レオのためにも絶対死ねないって思ったよ。MACじゃレオの面倒は見きれないだろうし、レオもMACには懐かないだろうし。でも、エドがこの軍艦に来て、一人じゃなくなって、MACにはもう頼れなくなった。もし今、エドがいなくなったら……俺にはもう、レオのためだけに生きていける自信がない……」
「ウィル……」
「エドに会う前だったら、今までどおり、一人でも耐えられた。でも、もうエドに会っちゃったから……エドに好きだって言われちゃったから……もしまた一人にされたら、今度は余計につらいよ、エド……」
「ウィル……悪かった」
そんな声と共に、背中からそっと抱きしめられて、一瞬、確実にウィルの心臓は止まった。
「俺以上におまえのほうが、もう一人になんかなりたくないよな。わかってたはずなのに、ひどいことを言った。ウィル、許してくれ」
「別に、そんなに謝んなくても……」
エドにこれほど謝られたのは初めてだったので――おまけに背中から抱かれてもいたので――ウィルは激しくうろたえた。
「じゃあ、許してくれるか?」
「うん。でも、そのかわり、今さらすごく身勝手なこと、エドに頼んでもいい?」
「身勝手なこと?」
怪訝そうに訊ね返されたが、恥ずかしくて何も答えられない。
「いいよ。いくらでも言えよ。それでおまえが許してくれるなら、俺は何でもする」
苦笑まじりのエドの返事を聞いて、今だけはこのタオルは絶対に顔から外せないとウィルは思った。
「本当に勝手なんだけど……もう一度だけ、俺に『恋人として付き合ってくれないか』って訊いてくれる?」
エドは呆然としてウィルの真っ赤な耳を見つめた。が、普段の彼からは考えられないほど全開の笑顔になると、ウィルの柔らかな髪に頬を寄せた。しかし、その表情の変化もウィルには見ることはできなかった。
「それなら、何回でも、何百回でも言ってやる。――ウィル、愛してる。この軍艦の中にいる間はもちろん、この軍艦を降りた後も、ずっと俺の恋人でいてくれ」
驚きのあまり、ウィルはタオルから少し顔を離してしまった。
「エド……さっきとセリフが全然違う」
「でも、意味は同じだろ。で? おまえはこれに、今度は何て答えてくれるんだ?」
――また『友達のままでいてくれ』って答えたら、いくらエドでも怒るだろうな。
再び顔に押しつけたタオルの中で、ウィルはひそかに笑った。
「軍艦を降りても、レオとも一緒にいられるようにしてくれる?」
「俺が宇宙でいちばん好きな動物はおまえだが、その次に好きなのは実は猫科なんだ」
ウィルの耳許で、エドは甘く囁いた。
「どんな手を使ってでも、おまえが今までどおりレオと一緒にいられるようにしてやる。だから、おまえはずっと俺のそばにいろ」
ここまで言われたら、もうエドを拒む理由など見つからなかった。
「うん……わかった。さっきの返事は撤回する。俺ももう、エドとは友達じゃなくて、恋人として付き合いたいから……」
それだけ言うのに、ウィルはたぶん、その先一生分の勇気を遣った。
「本当にいいのか?」
真剣な声で、エドが念を押してくる。
「エドこそ、本当に俺でいいの?」
「おまえだからいいんだ」
一転して笑った気配がした、その次の瞬間、左のこめかみに軽くキスされた。
反射的に顔を上げようとしたが、エドに頭を押さえつけられて、簡単に阻止されてしまった。
「これからいつもの日課をすべてこなしたら、午前〇時に、一人でエデンまで来てくれないか?」
ウィルのいちばん好きな高さの低音が、耳の中で響く。
「恋人として、初デートしよう」
「え……」
ついにウィルがタオルから真っ赤な顔を上げたときには、エドはテーブルから回収した食器類を手に、厨房に向かって歩いていた。
(いったい、いつのまに……)
ウィルは時々、エドはあの伝説の戦闘集団〝ニンジャ〟の末裔なのではないかと思っている。その気になれば、足音を立てずに歩くこともできるのではないだろうか。この軍艦の中ではその必要がないからしていないだけで。
(まあ、それは今は置いといて、〝いつもの日課〟って言われてもな……これから部屋に帰ってシャワー浴びて、日誌書くくらいしかないんだけど)
日誌と呼んではいるが、実際は個人的につけている、覚え書きのような日記だ。この軍艦に乗艦してから現在まで、一応毎日何かしら書いてはいるものの、本当にとりたてて書くことがないと思った日には、「特になし」の一行だけで済ませていた。
(今日は書くネタがありすぎて困るな。昼にはエデンで中華料理食べさせてもらって、午後にブリッジにクッキー持っていったら告白されて、夜には隔壁に閉じこめられたけど助けてもらって、結局、恋人として付き合うことになって……)
今日起こった出来事を頭の中で列挙していくうちに、ウィルはある共通点に気がついて、また赤面してしまった。
(何だ。全部エドがらみじゃないか)
そういえば、エドがこの軍艦に来てからは、日誌に「特になし」と書いた日は一日もなかったような気がする。同時に、エドの名前を書かなかった日も。
(もう俺、エドがいなかったら、夜も日も明けないな)
そもそも、宇宙船の中で、夜も昼もないけれど。
「レオ。部屋に戻るよ。起きて」
隣の椅子の上で丸くなっているレオに声をかけると、少し身動ぎはしたものの、相変わらず目を覚ます様子はない。
(今日はよっぽど疲れてるんだな。いつもだったら名前を呼んだらすぐ起きるのに)
ライオンだったら絶対に無理だが、レオは子猫ほどの大きさしかないキツネネコである。ウィルは自分の涙とそれ以外とを吸ったタオルを上着のポケットに突っこんでから、レオを起こさないように両腕で静かに抱き上げた。
あのときは、おまえは一人でも生きられるだろうとエドに突き放されたような気がして、子供のように大泣きしてしまったが、いま冷静に考えるととても恥ずかしい。人前で泣いたことなど、家族が死んだとき以来だ。
「じゃあ俺、部屋に戻るね」
食堂を出る前に、厨房で片づけをしているエドに声をかけると、彼は鷹揚に笑って手を上げた。
「おう。いいか、〇時だぞ。一分でも遅れたら、おまえの部屋まで迎えにいくからな」
「うん、わかった」
いつもならその頃には寝ているが、確かにそんな時刻でもなければ、エドと二人きりで会えそうもない。
(問題は、そのときレオが寝ていてくれるかどうかなんだけど)
今度はゆっくり歩いて食堂を出ながら、今日の日誌には自分が泣いたことだけは書かないでおこうとウィルは思った。
* * *
【MAC、ハッキングの進捗状況はどうだ?】
笑ってウィルを見送ったエドは、彼が食堂を出ていったとはっきりわかったとたん、いっさいの表情をなくした。
「現段階で約一割といったところだ。明朝には七割は支配下におけるだろう。しかし、おまえの手を借りなければ完全には無理だ」
【それならいくらでも手を貸す。とにかく早急に、この軍艦のすべてを掌握できるようにしろ。あそこがあんたの支配下にあれば、すぐにウィルを助け出してやれた。整備工場の天井に二箇所も穴を開けることも、落ちてきた天井で機械をいくつか壊しちまうこともなかったんだ】
「本当に、おまえはウィルのことしか考えていないんだな」
淡々とエドは呟いた。
【そうしたのはあんたのくせに、今さら何を言ってやがる。俺はウィルのために生かされてるんだろ? ウィルにもしものことがあってみろ。さっき本人に言ったとおり、あんたごとこの軍艦を自爆させてやる】
「できるのか? おまえに」
【できないのか? あんたには】
エドは苦笑いを浮かべて厨房を出た。スイッチが勝手に動いて照明が消えた。
「エドワード・リー。私はおまえを傀儡にしたつもりでいたが、逆に私がおまえに支配されているようだ。私がおまえを動かすより、おまえに私が従ったほうが、確実に物事を早く解決できる。現に、おまえはたった数週間で、もうウィルの心をつかんでしまった。ウィルと二人きりになれる機会さえあれば、もっと早くにそうできていたんだろう。……なぜレオを殺さなかった?」
【MAC。あんたのしたことはデタラメだらけだが、二つだけ俺が評価してることがある。あれだけの数の船員の中からウィルを選び出したことと、ウィルからレオを奪わなかったことだ。……レオを殺すだと? 馬鹿を言うな。あのキツネネコはウィルの精神安定剤だ。言葉を話す人間より、何もしゃべらない動物のほうが、慰めになることもある】
「ウィルのためにそう割りきれるところが、私とおまえの決定的な違いだな。私が今までレオを殺さなかったのは、単にレオが常にウィルのそばにいたからだ。かと言って、下手にレオに毒餌など食べさせたら、私がウィルに嫌われる。それが怖くて何もできなかった」
【ああ、確かにあのレオの缶詰の中身はまともだったな。だからあえてレオを殺さなかったんだと思ってたんだが、実は殺せなかっただけだったのか。まあ、結果オーライだ。今後もウィルとレオはセットで死守する】
「この軍艦を降りてもか?」
【降ろしてくれるのか? あんたが】
「猶予はまだ一年ある。その間に最善策を考えろ。おまえが」
【あんた、俺に従ってるわけじゃなくて、面倒事を丸投げしてるだけだろ。それも支配の一種じゃないのか。……とにかく今、俺が最優先で考えたいのは、これからどうやってウィルを口説くかなんだ。あんたはハッキングに専念してろ】
「もう口説いただろう?」
【肝心なことはまだ何一つさせていただいておりません。あんた的に言うと、目的達成まで進捗率五割ってとこだ】
「あそこまでしてまだ五割か」
【失敬な。あそこまでしたからこそ五割だ。ゲイじゃない男相手に、力業使わないで正攻法でいくと、その分、手間暇かかるんだよ。力ずくでいいなら、今日ブリッジに一人で来たときに十割にできた。でも、その後のフォローの面倒くささを考えて、あのときはそのまま帰した。俺もあんたと同じで、ウィルに嫌われるのは何より怖い】
エドが食堂を出ていくと同時に、食堂の照明はいっせいに消えた。
この現象は、エドが食事当番のときにしか起こらない。
【さてと。まずは医務室で探し物してからシャワー浴びるか。実は艦長室も使ってるって知ったら、ウィル、怒るかな?】
「そのことよりも、医務室で何を探そうとしたのかのほうが、知ったら怒ると思うが」
【船員の個室を荒らし回るよりましだろ】
エドは独り言をやめると、医務室のある方向に向かって歩き出した。
食堂で洗い物を再開する前に、エドは白いジェラートが盛られた器をウィルの前に置いた。
「ほら、これがおまえが明日の朝食べるはずだったデザートだ。ちなみに既製品じゃないぞ。俺の手作りだ」
この男が作るものは、日を追うごとにどんどん高度になっているような気がする。すでに、かつてこの軍艦にいた正式なコックの腕前を超えているのではなかろうか。
「ジェラート……だよね? 何のジェラート?」
「匂い嗅いだらすぐにわかる。答え合わせは洗い物が終わった後で」
エドは悪戯っぽく笑うと、再び厨房に戻っていった。
ウィルがこれを食べ終われば、また新たに洗い物が発生するのだが、それはそれとして、途中で放り出していったという洗い物のほうを先に片づけたかったらしい。
それとも、先ほどの夕食のときのことを覚えていて、ウィルが気がねなく食べられるように、もっともらしい理由をつけて厨房に行ってくれたのだろうか。
真実はわからなかったが、正直、エドがそうしてくれて助かった。少しだけ寂しさも感じたけれど。
「匂いって……俺、あんまり鼻が利かないんだよな……」
独りごちながら、正体不明のジェラートをスプーンですくいとる。
ウィルより鼻の利くレオは、走り回って疲れてしまったのか、右隣の椅子の上で丸くなって眠っていた。もっとも、レオが起きていたとしても、何の匂いか教えてもらうことはできないが。
とにかく、ジェラートの載ったスプーンを鼻に近づけ、匂いを嗅いでみる。
(あ……これ、桃だ)
桃は香りが強くて特徴があるので、鼻音痴気味のウィルでもわかる。だからエドも匂いを嗅げばすぐにわかると言ったのだろう。
(桃のジェラートなんて初めて見た。エド、やっぱり運び屋になる前に、コックをしてたことがあるんじゃないのかな)
実際、エドにそう訊いて即座に否定されたが、やはり思ってしまうことを思いつつ、ようやくスプーンを口の中に入れると、甘くて冷たい桃の味が舌の上に広がった。
食べる前からわかっていたが、エドの料理はどれもうまい。しかも、ウィルが何も言わなくても、好きなものばかりを出してくれる。時々、体にいいとわかってはいても嫌いなものを、巧妙に混入したりもするが。
夢中になって食べつづけていると、マグカップを持ったエドがウィルの向かいの席に座った。
緊張したが、夕食のときほどではなかった。慣れてきたのかもしれない。
「答えはわかったか?」
テーブルに片肘をついてエドが笑う。
「うん。桃……だよね?」
断言できるほどの確信は持てなくて、ウィルは疑問形で答えた。
「正解。より正確に言うと、白桃だがな。そんなわけで、おまえが気になってしょうがなかった今夜のデザートは、白桃のジェラートでした。そんなんでも、けっこう手間かかってるんだぜ」
「そうなんだ。作り方は俺にはさっぱりわかんないけど、こんなにうまいジェラート食べたのは初めてだ。何か俺、この軍艦にエドが来てから、少し太ったような気がする」
「今までが痩せすぎてたんだよ。レオにはちゃんと時間どおりに餌やってたくせに、自分の分はめんどくさくなると平気で抜いてただろ」
「え、何でわかった?」
ぎくりとして肩を揺らすと、エドは呆れたように溜め息をついた。
「食料庫の在庫記録を調べりゃ見当はつく。あそこは食料を外に持ち出しただけで、いつ何がどれだけ減ったか勝手に記録されちまうんだ。知らなかっただろ?」
「うん、知らなかった。何かもう、俺よりエドのほうがこの軍艦のことよく知ってるよね。あんなとこに開閉装置があったなんて、俺、今日初めて知った」
「俺だって今日、おまえが閉じこめられてから調べて初めて知ったよ。そもそもおまえ、何の用があってあんなとこに行ったんだ?」
エドの口調には怒りのようなものがこめられている。ウィルは思わず目を泳がせた。
「えーと……何か急に星が見たくなって……前にも何度かあそこに行ったことがあったから、つい……でも、まさかあんなことになるなんて……」
「あの隔壁は、たとえば外から衝撃を受けて窓が壊れたときなんかに勝手に下りるように設計されてた。おまえ、あそこで何かしたか? 窓を殴ったとか蹴ったとか」
「そんなことしてないよ。今まで窓に触ったこともない。レオを抱いて外を見てたら、急に下りてきたんだ。レオが気づいてくれなかったら、一緒に閉じこめられてたかもしれない。もちろん、すぐに逃げ出そうとしたんだけど、壁が下りるスピードのほうが速くって……俺はもう間に合いそうになかったから、隙間からレオを逃がして、エドを呼んできてくれるように頼んだんだ」
エドはコーヒーを飲みながらウィルの話を聞いていたが、ふと彼を見つめるとしみじみと言った。
「おまえ、レオがいて、本当によかったな」
嫌味だったのかもしれないが、ウィルは心から同意した。
「うん。俺もそう思う」
そのレオはすっかり熟睡しているらしく、自分の名前を出されても、まったく目を覚まさなかった。
(そういえば、午後にもよく寝てたっけ)
レオの寝顔を見ながらそう考えたとき、その間にエドから告白されたことまで思い出してしまい、ウィルはあわててジェラートの残りを食べた。
「ということは、やっぱりあれは誤作動だったのかもしれないな。……さっきも言ったが、今後は絶対、立入禁止区域には入るなよ。今回はたまたまどうにかなったが、次もそうできるとは限らないんだからな」
「うん……ごめん。もう二度と行かない」
ひたすら申し訳なくて、ウィルは深くうつむいた。
もしも今回、レオまでウィルと一緒に閉じこめられていたら、エドは明日の朝食の時間になるまで、ウィルたちがあそこにいることに気づかなかったかもしれない。隔壁が誤作動を起こしてしまったのは不運だったが、それ以外は本当に幸運だったのだ。
「まあとにかく、おまえを無事に助け出せてよかった。開閉装置まで壊れてるとわかったときには、一瞬頭ん中が真っ白になった」
これ以上責めるのも酷だと思ったのか、エドは自分から話題を変えてくれた。
「エドでもそんなことってあるんだ」
ほっとして、すっかり冷めてしまったコーヒーを飲む。
「俺、今まであせったり、あわてたりしてるエドなんて見たことないよ」
「そりゃそうだ。おまえのそばにいるときには、俺にはあせったりあわてたりする必要はいっさいないからな」
さらりと返されて、思わずむせそうになった。
「それってどういう……?」
「おまえさえ無事でいてくれれば、俺には後のことはどうだっていいってことだ。この先、万が一おまえが俺より先に死ぬようなことがあったら、この軍艦、自爆させてやるから」
真顔で言いきるエドに、ウィルは心底あせった。
「そんな……エドは生きてよ。レオの面倒見てあげてよ。エデンに放して、餌をあげるだけでいいから」
「おまえには悪いが、俺はおまえのいないこの軍艦の中に一秒だっていたくないし、レオのために一人で生きる気もこれっぽっちもない。俺にレオを道連れにされたくなかったら、意地でも俺より長く生きろ。おまえはレオがいれば――」
そう言いかけたエドは、ウィルの顔を見て切れ長の目を丸くした。
「ウィル……おい、なんで泣いてるんだ?」
「だって……」
それ以上何も言えなくて、両手で顔を覆い、嗚咽する。
「畜生! 俺の標準装備にペンライトはあっても、ハンカチはないんだよ!」
エドは厨房に走っていくと、未使用のタオルを持って戻ってきて、ウィルの左横からそれを差し出した。
しゃくりあげながらも、ウィルはタオルを受け取り、広げないでそのまま顔に押しつけた。
「嘘つき……俺のそばでは、あせったりあわてたりしないって言ったくせに……」
「突然おまえに泣かれたら、いくら俺でもあせってあわてる。急にどうした? 何が気に食わなかった?」
「俺だって……もう一人になりたくないよ、エド……」
エドは虚を突かれたようにウィルを見下ろしたが、タオルで顔を覆っているウィルには当然わからなかった。
「確かに、この軍艦でたった一人の人間になったときには、レオのためにも絶対死ねないって思ったよ。MACじゃレオの面倒は見きれないだろうし、レオもMACには懐かないだろうし。でも、エドがこの軍艦に来て、一人じゃなくなって、MACにはもう頼れなくなった。もし今、エドがいなくなったら……俺にはもう、レオのためだけに生きていける自信がない……」
「ウィル……」
「エドに会う前だったら、今までどおり、一人でも耐えられた。でも、もうエドに会っちゃったから……エドに好きだって言われちゃったから……もしまた一人にされたら、今度は余計につらいよ、エド……」
「ウィル……悪かった」
そんな声と共に、背中からそっと抱きしめられて、一瞬、確実にウィルの心臓は止まった。
「俺以上におまえのほうが、もう一人になんかなりたくないよな。わかってたはずなのに、ひどいことを言った。ウィル、許してくれ」
「別に、そんなに謝んなくても……」
エドにこれほど謝られたのは初めてだったので――おまけに背中から抱かれてもいたので――ウィルは激しくうろたえた。
「じゃあ、許してくれるか?」
「うん。でも、そのかわり、今さらすごく身勝手なこと、エドに頼んでもいい?」
「身勝手なこと?」
怪訝そうに訊ね返されたが、恥ずかしくて何も答えられない。
「いいよ。いくらでも言えよ。それでおまえが許してくれるなら、俺は何でもする」
苦笑まじりのエドの返事を聞いて、今だけはこのタオルは絶対に顔から外せないとウィルは思った。
「本当に勝手なんだけど……もう一度だけ、俺に『恋人として付き合ってくれないか』って訊いてくれる?」
エドは呆然としてウィルの真っ赤な耳を見つめた。が、普段の彼からは考えられないほど全開の笑顔になると、ウィルの柔らかな髪に頬を寄せた。しかし、その表情の変化もウィルには見ることはできなかった。
「それなら、何回でも、何百回でも言ってやる。――ウィル、愛してる。この軍艦の中にいる間はもちろん、この軍艦を降りた後も、ずっと俺の恋人でいてくれ」
驚きのあまり、ウィルはタオルから少し顔を離してしまった。
「エド……さっきとセリフが全然違う」
「でも、意味は同じだろ。で? おまえはこれに、今度は何て答えてくれるんだ?」
――また『友達のままでいてくれ』って答えたら、いくらエドでも怒るだろうな。
再び顔に押しつけたタオルの中で、ウィルはひそかに笑った。
「軍艦を降りても、レオとも一緒にいられるようにしてくれる?」
「俺が宇宙でいちばん好きな動物はおまえだが、その次に好きなのは実は猫科なんだ」
ウィルの耳許で、エドは甘く囁いた。
「どんな手を使ってでも、おまえが今までどおりレオと一緒にいられるようにしてやる。だから、おまえはずっと俺のそばにいろ」
ここまで言われたら、もうエドを拒む理由など見つからなかった。
「うん……わかった。さっきの返事は撤回する。俺ももう、エドとは友達じゃなくて、恋人として付き合いたいから……」
それだけ言うのに、ウィルはたぶん、その先一生分の勇気を遣った。
「本当にいいのか?」
真剣な声で、エドが念を押してくる。
「エドこそ、本当に俺でいいの?」
「おまえだからいいんだ」
一転して笑った気配がした、その次の瞬間、左のこめかみに軽くキスされた。
反射的に顔を上げようとしたが、エドに頭を押さえつけられて、簡単に阻止されてしまった。
「これからいつもの日課をすべてこなしたら、午前〇時に、一人でエデンまで来てくれないか?」
ウィルのいちばん好きな高さの低音が、耳の中で響く。
「恋人として、初デートしよう」
「え……」
ついにウィルがタオルから真っ赤な顔を上げたときには、エドはテーブルから回収した食器類を手に、厨房に向かって歩いていた。
(いったい、いつのまに……)
ウィルは時々、エドはあの伝説の戦闘集団〝ニンジャ〟の末裔なのではないかと思っている。その気になれば、足音を立てずに歩くこともできるのではないだろうか。この軍艦の中ではその必要がないからしていないだけで。
(まあ、それは今は置いといて、〝いつもの日課〟って言われてもな……これから部屋に帰ってシャワー浴びて、日誌書くくらいしかないんだけど)
日誌と呼んではいるが、実際は個人的につけている、覚え書きのような日記だ。この軍艦に乗艦してから現在まで、一応毎日何かしら書いてはいるものの、本当にとりたてて書くことがないと思った日には、「特になし」の一行だけで済ませていた。
(今日は書くネタがありすぎて困るな。昼にはエデンで中華料理食べさせてもらって、午後にブリッジにクッキー持っていったら告白されて、夜には隔壁に閉じこめられたけど助けてもらって、結局、恋人として付き合うことになって……)
今日起こった出来事を頭の中で列挙していくうちに、ウィルはある共通点に気がついて、また赤面してしまった。
(何だ。全部エドがらみじゃないか)
そういえば、エドがこの軍艦に来てからは、日誌に「特になし」と書いた日は一日もなかったような気がする。同時に、エドの名前を書かなかった日も。
(もう俺、エドがいなかったら、夜も日も明けないな)
そもそも、宇宙船の中で、夜も昼もないけれど。
「レオ。部屋に戻るよ。起きて」
隣の椅子の上で丸くなっているレオに声をかけると、少し身動ぎはしたものの、相変わらず目を覚ます様子はない。
(今日はよっぽど疲れてるんだな。いつもだったら名前を呼んだらすぐ起きるのに)
ライオンだったら絶対に無理だが、レオは子猫ほどの大きさしかないキツネネコである。ウィルは自分の涙とそれ以外とを吸ったタオルを上着のポケットに突っこんでから、レオを起こさないように両腕で静かに抱き上げた。
あのときは、おまえは一人でも生きられるだろうとエドに突き放されたような気がして、子供のように大泣きしてしまったが、いま冷静に考えるととても恥ずかしい。人前で泣いたことなど、家族が死んだとき以来だ。
「じゃあ俺、部屋に戻るね」
食堂を出る前に、厨房で片づけをしているエドに声をかけると、彼は鷹揚に笑って手を上げた。
「おう。いいか、〇時だぞ。一分でも遅れたら、おまえの部屋まで迎えにいくからな」
「うん、わかった」
いつもならその頃には寝ているが、確かにそんな時刻でもなければ、エドと二人きりで会えそうもない。
(問題は、そのときレオが寝ていてくれるかどうかなんだけど)
今度はゆっくり歩いて食堂を出ながら、今日の日誌には自分が泣いたことだけは書かないでおこうとウィルは思った。
* * *
【MAC、ハッキングの進捗状況はどうだ?】
笑ってウィルを見送ったエドは、彼が食堂を出ていったとはっきりわかったとたん、いっさいの表情をなくした。
「現段階で約一割といったところだ。明朝には七割は支配下におけるだろう。しかし、おまえの手を借りなければ完全には無理だ」
【それならいくらでも手を貸す。とにかく早急に、この軍艦のすべてを掌握できるようにしろ。あそこがあんたの支配下にあれば、すぐにウィルを助け出してやれた。整備工場の天井に二箇所も穴を開けることも、落ちてきた天井で機械をいくつか壊しちまうこともなかったんだ】
「本当に、おまえはウィルのことしか考えていないんだな」
淡々とエドは呟いた。
【そうしたのはあんたのくせに、今さら何を言ってやがる。俺はウィルのために生かされてるんだろ? ウィルにもしものことがあってみろ。さっき本人に言ったとおり、あんたごとこの軍艦を自爆させてやる】
「できるのか? おまえに」
【できないのか? あんたには】
エドは苦笑いを浮かべて厨房を出た。スイッチが勝手に動いて照明が消えた。
「エドワード・リー。私はおまえを傀儡にしたつもりでいたが、逆に私がおまえに支配されているようだ。私がおまえを動かすより、おまえに私が従ったほうが、確実に物事を早く解決できる。現に、おまえはたった数週間で、もうウィルの心をつかんでしまった。ウィルと二人きりになれる機会さえあれば、もっと早くにそうできていたんだろう。……なぜレオを殺さなかった?」
【MAC。あんたのしたことはデタラメだらけだが、二つだけ俺が評価してることがある。あれだけの数の船員の中からウィルを選び出したことと、ウィルからレオを奪わなかったことだ。……レオを殺すだと? 馬鹿を言うな。あのキツネネコはウィルの精神安定剤だ。言葉を話す人間より、何もしゃべらない動物のほうが、慰めになることもある】
「ウィルのためにそう割りきれるところが、私とおまえの決定的な違いだな。私が今までレオを殺さなかったのは、単にレオが常にウィルのそばにいたからだ。かと言って、下手にレオに毒餌など食べさせたら、私がウィルに嫌われる。それが怖くて何もできなかった」
【ああ、確かにあのレオの缶詰の中身はまともだったな。だからあえてレオを殺さなかったんだと思ってたんだが、実は殺せなかっただけだったのか。まあ、結果オーライだ。今後もウィルとレオはセットで死守する】
「この軍艦を降りてもか?」
【降ろしてくれるのか? あんたが】
「猶予はまだ一年ある。その間に最善策を考えろ。おまえが」
【あんた、俺に従ってるわけじゃなくて、面倒事を丸投げしてるだけだろ。それも支配の一種じゃないのか。……とにかく今、俺が最優先で考えたいのは、これからどうやってウィルを口説くかなんだ。あんたはハッキングに専念してろ】
「もう口説いただろう?」
【肝心なことはまだ何一つさせていただいておりません。あんた的に言うと、目的達成まで進捗率五割ってとこだ】
「あそこまでしてまだ五割か」
【失敬な。あそこまでしたからこそ五割だ。ゲイじゃない男相手に、力業使わないで正攻法でいくと、その分、手間暇かかるんだよ。力ずくでいいなら、今日ブリッジに一人で来たときに十割にできた。でも、その後のフォローの面倒くささを考えて、あのときはそのまま帰した。俺もあんたと同じで、ウィルに嫌われるのは何より怖い】
エドが食堂を出ていくと同時に、食堂の照明はいっせいに消えた。
この現象は、エドが食事当番のときにしか起こらない。
【さてと。まずは医務室で探し物してからシャワー浴びるか。実は艦長室も使ってるって知ったら、ウィル、怒るかな?】
「そのことよりも、医務室で何を探そうとしたのかのほうが、知ったら怒ると思うが」
【船員の個室を荒らし回るよりましだろ】
エドは独り言をやめると、医務室のある方向に向かって歩き出した。
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