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砲撃のパラディン大佐隊編(【05】の裏)

50【悪魔の居場所編15】パラディン大佐親衛隊的戦い

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【パラディン大佐隊・執務室】

エリゴール
「大佐殿。昨日は自分の勝手な申し出を聞き入れていただいた上に、差し入れもしていただきありがとうございました。しかし、本当にもう差し入れはやめていただきたいのですが……」

パラディン
「どうして? 元ウェーバー大佐隊にバレないようにするのが大変なのかい?」

エリゴール
「いえ、そうではなく、大佐殿が大変なのではないかと……あれの支払いは大佐殿のポケットマネーでされているんでしょう? 殿下が司令官になってから、監査が厳しくなりましたから」

パラディン
「君、そんなことまで知っているのかい? まあ、確かに君の言うとおりだが、差し入れは私の君たちに対する感謝の表れだ。絶対にやめないよ!」

エリゴール
「なぜそれほどまで差し入れに執着を……とにかく、また十一班長と十二班長から連名の礼状を預かってまいりましたので、よろしかったらどうぞお受け取りください」

パラディン
「ふふ……本当によくできた子たちだよねえ……」

エリゴール
「大佐殿……それには本当に〝お礼〟しか書かれていないんですか?」

パラディン
「礼状なんだから、当たり前じゃないか……」

 ***

 パラディン大佐殿。
 昨日は出撃権と差し入れをありがとうございました。
 そのお礼と言っては何ですが、今回はメモリカードを同封いたしました。
 中身は、昨日の訓練中、エリゴール中佐が十一班の班長艦に映像通信を入れた際の録画映像です。
 会話の流れがわからなくなるため、あえて十一班長の声は残しましたが、お聞き苦しいようでしたら、お手数をおかけいたしますが、大佐殿のほうで消去してください。
 なお、いつものようにエリゴール中佐にはこの〝お礼〟の存在は極秘でお願いいたします。
 十一班、十二班一同、大佐殿のご健闘を心よりお祈り申し上げます。

 ***

 パラディン、またまた手紙を持ったまま、右手で自分の顔を覆う。

パラディン
「エリゴール中佐……」

エリゴール
「はい?」

パラディン
「二人に伝えてくれないか。……〝グッジョブ!〟と」

エリゴール
「え? 〝お礼〟の返事がそれですか?」

パラディン
「今はそれしか言葉が出てこない……」

エリゴール
「はあ……大佐殿がそうおっしゃるなら、そのとおり伝えますが……」

パラディン
「ところで、エリゴール中佐。昨日の最後の十一班。君が一班長だったらどう破っていた?」

エリゴール
「いつものことながら唐突ですね。そうですね……十一班が左右に旋回している間に〈オートクレール〉を撃ちます」

パラディン
「え……それだけ?」

エリゴール
「十一班が旋回して隊形を完成させるまでの間、どうしても〈オートクレール〉が無防備な状態になってしまう時間が生じます。だから十一班は、あれほどの速さと正確さで軍艦ふねを動かさなければならなかったんです。一班は十一班の動きにつられずにそのまま留まって、班長艦と副班長艦が〈オートクレール〉を横から狙いうちすればよかったんですよ。それこそ、あっというまに終了させられます」

パラディン
「しかし、十一班にあんな動きをされたら、一班も動かずにはいられないだろう」

エリゴール
「そうですか? 『〝一班は十二班のように攻撃してくる〟と十一班は読んでいる』と読めていれば、十一班が戦闘開始と同時に左右に旋回するのも予想がつくでしょう。旋回どころか隊形の完成まで許してしまった時点で、一班はもう負けていました」

パラディン
「読み合い合戦だね……」

エリゴール
「その点では、十二班も十一班の勝利に寄与しているわけです。一班に速攻以外の攻め方を教えたのは十二班ですから」

パラディン
「その十二班の攻撃は、どうすれば封じることができたんだい?」

エリゴール
「こちらは左右に旋回する前に速攻で班長艦・副班長艦を潰せれば。でも、十二班もそれはわかっていますから、旋回だけは十一班並みに速くしていました」

パラディン
「……君が元ウェーバー大佐隊にいたら、彼らは勝てていたかもしれないね」

エリゴール
「それはどうでしょうか。自分がこんなことを言えるのも、同じ元マクスウェル大佐隊員だからだと思いますが」

パラディン
「そうなのかな。でもまあ、君が〝十一班の五隻なら十二班の十隻を落とせる〟と言ったのは納得できたよ。十一班には副長ではない副長がいる……」

エリゴール
「ええ……特にあれは、なぜか元ウェーバー大佐隊よりも十二班に強い対抗意識を持っていますので……」

パラディン
「十二班にはそういう人材はいないのかい?」

エリゴール
「いたら今頃、大変なことになっていたと思います」

パラディン
「なるほど。班長だけでなく、班員も〝大人〟なんだね」

エリゴール
「幸いなことに……と言っていいのか悪いのか」

パラディン
「そういえば、十一班のあの隊形に名前はあるのかい?」

エリゴール
「名前ですか? さあ……たぶんないと思いますが。十一班に確認しておきますか?」

パラディン
「うん。そうして。それで、もしなかったら十一班でつけておいて。まあ、実戦では使える機会はなさそうだけど、とても芸術的だ。名前がないと、記録にも記憶にも残しておけないだろう?」

 ***

「おい、上司」
『何だ、部下』
「これからあと三十分間、追加で〝訓練〟できる余力はあるか? ただし、今度は俺らの班が大佐殿を守って一班と戦う。三十分間守り抜ければ、次の実戦、元ウェーバー大佐隊と一緒に俺らの班だけ出撃できる。もちろん、大佐殿の護衛としてだ」

パラディン
「やーん、エリゴール中佐、かっこいー! まるで自分が言われてるみたーい!」

モルトヴァン
「すごい……まるで〈オートクレール〉内に盗聴器をしかけていたかのような〝お礼〟……これでは差し入れは絶対にやめられない……!」

パラディン
「はっ、バックアップたくさんとっておかないと。十枚では足りないか?」

モルトヴァン
「充分すぎます」

 ***

【パラディン大佐隊・第十一班第一号待機室】

 エリゴールは第一号で仮眠をとっているため不在(医務室はすでに彼専用の仮眠室と化している)。
 ヴァッサゴは十二班にいるため不在(レラージュが怖いので、作戦会議と祝勝会のときくらいしか来ない)。
 ゲアプは非番のため不在(寝る間を惜しんで日誌執筆中)。
 レラージュは給湯室でコーヒーを淹れている。

ザボエス
「……〝グッジョブ!〟……」

ロノウェ
「とりあえず、満足はしてくれたんだな」

ザボエス
「エリゴールによると、差し入れは〝絶対にやめない〟そうだから、俺らはこれからもこの問題に悩まされるわけだ……」

ロノウェ
「もし、はずしたらどうなるんだ?」

ザボエス
「わからん……だが、怖い!」

ロノウェ
「こっちも〝絶対に負けられない〟な……」

ザボエス
「それにしても、映像通信の録画映像なんて、よく思いついたな」

ロノウェ
「ああ、レラージュがな。大佐ならあの映像に飛びつくんじゃねえかって」

ザボエス
「レラージュが? 何でまた?」

ロノウェ
「あの映像、よーく見てるとな。途中から大佐が物陰からじっとエリゴールを見てるんだ……」

ザボエス
「……ホラーだな」

ロノウェ
「レラージュが言うには、大佐はそれまで敬語を使わねえエリゴールは見たことがなかったから、驚くと同時に自分にもそんなふうにしゃべってもらいたいと思ったんじゃねえかって。だから、普段しゃべりのエリゴールの映像を贈ったら、喜んでくれるんじゃねえかってさ」

ザボエス
「……あのレラージュが、そんなことを……」

ロノウェ
「ああ。大佐が映ってるのはまずいからって、画像処理もしたぜ」

ザボエス
「画像処理?」

ロノウェ
「つまり、消した。大佐に贈ったのは画像処理済みのほうだ」

ザボエス
「……まあ、自分が映ってることに気づいたら、大佐も気まずいだろうしな……」

ロノウェ
「ああ、ほんとに、次は何を差し出したらいいんだ……」

ザボエス
「またおまえの副長に訊いてみろよ。あいつは大佐の気持ち、ものすごくよくわかるみてえだから」
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