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第壱章:室戸/ミサキの事情*

#013:面妖な(あるいは、なんてったって)

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「予選6組ではA級とか、B級1組とかの上位倚士らが出てくることは無い。シード権があって段位者は最低でも予選5組に組まれるからな。よって6組っていうのはシロウト枠ってこった。溜王戦だめおうせんは少々異質な倚戦で、全くの新顔がいきなりタイトルを奪取できる可能性も秘めている。すなわち才能ある者には常に門戸を広げているわけだ。その辺が伝統のある閏位戦じゅんいせんとは趣きが違う」

 はぁ、とか、ふぅん、とかしか言えてないけど、アオナギはそんな僕の薄いリアクションも気にせず説明を続けてくれているわけで。僕はその分、飲み食いに重きを置けているわけだけど、この店は肉でも魚でも焼きが絶妙だな!

「……さっきも言ったが、溜王戦は唯一のチーム戦だ。3名での参加が義務付けられている。その3名全員の段位を考慮して振り分けられる組が決まるわけだが、シロウト枠の6組に段位者とシロウトの混成チームが出場することは可能となっている。これに俺らがドンピタはまっているってわけだ。つまり相当のアドバンテージを持ってるから予選は楽勝と」

 アオナギはずっとビールと乾き物だけだ。おいしいのにこのフリット。

「……お二人とも、その段位者ってことですよね? 何かすごいなぁ」

 酔いも相まって、僕は心にもないことを口走った。まあ少しは持ち上げておかないとね?

「まあよぉ、俺っちは万年最下位のC2戦士だがよ? 相棒はいっときはA級一歩手前まで行った才気の持ち主なんだぜぇ」

 丸男は汚い音を立てながら付け合せのザワークラウトを咀嚼している。A級がどんなかは知らないけど、トップ10っていうからには相当なのだろうと思う。相当のベクトルがどう向いているのかは分からないし、分かりたくはないけど。でもそこまでの実力者の方なら、わざわざ一人シロウトを入れることも無かったんじゃないか? 予選はともかく、あくまで優勝を狙うんなら、ねえ。最強の三面子で挑むべきだと思うけど、何だって僕=シロウトと組もうと考えたのだろう。

「だがなぁ、ここ数年で変わったんだよ、この業界の流れが。もう俺らは主流じゃねえ。俺にしても、ここ何年かでズルズルとクラスを滑り落ちていって、前期でC1への陥落となっちまった。もう古い『ダメ』は受け入れられなくなっていやがるんだよ」

 アオナギは視線を下に落とし、少し吐き捨てるような、そんな口調で言った。

「ええと、流れっていうのはその、どう変わったんですか」

 少し淀んだ沈黙の空気を混ぜ返すため、僕はおずおずと聞いてみる。何というか、軽い相槌のつもりだった。しかし、

「流れか? 今のダメ業界の流れはなぁ……」

 アオナギが僕の方に首だけ振り向けて言い放った言葉は、またしても僕の人生のギアをひとつ組み換えることとなるわけであった。

「……『アイドル化』よぉ」

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