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第壱章:室戸/ミサキの事情*

#022:愚鈍な(あるいは、天切りのムロ)

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「何……だと?」

 カワミナミさん宅で何発かの衝撃を受けての二日後、またしてもしつこく出席を迫る迷惑LINEに導かれ、僕は渋谷まで繰り出してきたのだけれど……

「あのクソ男女にストーキングののち拉致られただとう!?」

 雑踏の中でも丸男の声はよく響く。頼むから物騒な単語はやめてくれぃ。

 火曜午後四時、渋谷ハチ公像前。三限を終えた僕は約束時間ギリギリにこの待ち合わせ場所に辿り着いたわけで。

 待っていたのはまあ、例の二人であり、アオナギはいつもの長袖Tシャツにぐずぐずジーンズ、そして今日はその上に合皮でございというような黒い革ジャンをだらしなく羽織っている。

 一方の丸男はどこで売っているのか、赤いというか紅いに近い巨大な革ジャケットとパンツ(こちらも完全合皮)に身を包んでいて、その下には何かの絵柄があるんだろうが伸びに伸びきっているため判別不能な黒いタンクトップを着ている。そして二人とも何故かグラサン装備と。ハチ公より目立つ目印だ。

「立ち話もなんですし、とりあえずコーヒーでも飲みませんか。行き先はどっち方面です?」

 僕はなるべく口を動かさず、周囲一間にしか届かない夜盗の声色でその合皮ブラザーズに移動を促す。周りの人々にあまり関係者だと思われたくないから。知り合いがいるかもしれないし。

 井の頭通りを闊歩する二人の後を何気なく他人の振りでついて行きながら、僕は近くのカフェを検索する。何かの撮影かと思われたのか、行き交う人たちのシャッター音が次々と響き渡るけど。早くこの未確認生物たちを人の目から匿わないと。

「……しかし河南の野郎が少年に接触してくるとは、迂闊だったぜ」

 目的地の途中にあった「チンパンコーヒー」という名前に反して洒落たカフェに避難した僕と以下2名だったが、当の二人はオーダーを僕に任せると、何を思ったかオープンテラスの方にどかりと座っていた。そしておそらく訳わかってない外国人観光客と写真に収まったりしている。全員分のコーヒーを運んで来た僕はこの時点で疲労感を隠し得ない。

「尾けられてたのかよぉ、室戸ちゃん」

 小さく見えるカップを口に持っていきながら丸男が問う。見ると今日も指先の空いた革手袋をしていた。何の用途だ。

「まあ……そう言うと語弊があるかもですが、レビーズで僕らを見かけたらしく……その、少し僕と話がしたかったそうです」

 歯切れ悪く僕は答えるが、

「少年。やけに野郎の肩を持つじゃねえか。まさかとは思うが奴と組みたいなんて言い出すんじゃねえよな?」

 アオナギには見透かされている。しがらみが無ければそうしたいのは山々だけど、この二人の裏切り者への制裁がどの程度のものか正直予測不能なので、僕は激しく首を振って否定するばかりなのであり。

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