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第弐章:ムロトー/ナイトフィーバー/レリGO

#053:恍惚な(あるいは、オーバーキル、オーバー!)

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「……続行不可能だろ。勝ち名乗りをあげてくれや」

 担架に乗せられリングから降ろされていくチャラ男を見やりながら、アオナギがセイナちゃんへと声を掛ける。その言葉で、はっと正気に戻ったかに見える黄の実況少女は、僕の方へ手を向け、

「勝者っ、ナンバー19!! KO勝ちっ、だよ!」

 何とかキャラを取り戻しつつ、そう言い放つのであった。か、勝った……わけのわからないまま。

「す、すさまじい持ちネタがあったものだねっ!! い、色々想像しちゃったけど、この名前である背景が、なんかもう、諸々深いって感じ? にしても元老院と段位者の評価がハンパない……」

 最後の方は絶句するかのようにセイナちゃん。いやぁ、名前名乗っただけなんですけどね。結果オーライ。と思うことにする。

「す、すいません……!!」
「棄権ー!! 棄権しますー!!」

 チャラ男チームの残り二人はというと、完全に目の前の惨劇にガタガタと震えながら萎縮しまくっているようで、早々に白旗を挙げたようだ。そのままそそくさとブース外へと早足で消えていく。

「……まで、二手をもちまして、チーム19の勝ちになりますっ」

 可愛らしく右手を宣誓のように高々と上げ、セイナちゃんはこの対局を笑顔でさわやかに締めくくるのであった。内容はぐどぐどだったけどね。

「や、やりました!! アオナギさんトウドウさんジョリーさんっ!!」

 興奮気味でリング外に飛び降り、面々に報告するものの、

「お、おうぅ……やったなあ」
「す、すっごぉぉいじゃなぁい」

 真顔の丸男とジョリーさんに一歩距離を取られた。なぜ引く?

「ここでの名前ネタはちょいともったいない気もするが、出し惜しみする場でもねえしな。まあ緒戦突破、おめでとさん。次の試合まで少し休もうや」

 一方のアオナギは不気味なほどの笑顔で僕の肩をぽんぽんと叩くと、さっさとブースを後にするのであった。僕もその後に続くが、後ろの二人が「チャラ男殺し……」「オーバーキル……」などひそひそ言っているのが気にかかる。なに? びびられてるの?

「あ、あのっ、ムロトさんっ!!」

 そんな複雑な気分の僕に背後から声が掛かった。振り向いた僕にびくっとなってる二人の間から、先ほどの実況少女、セイナちゃんが少しはにかんだような笑顔で歩み寄ってくる。何だろう? と、

「……今の対局、お見事としか言いようがなくてっ……あんな搦め手、はじめてでした!! 応援します!! がんばってくださいね!!」

 笑顔が眩しい。そしてそんな言葉もかけてもらえるなんて……さらにさらに両手で握手を求められ、恍惚となりつつある僕。よかった。ダメやっててよかった。まだ本名を名乗っただけだけどね。しかして、僕のテンションはこれで完全にやったるでーい方向へと振り切れてきたのであった。

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