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第弐章:ムロトー/ナイトフィーバー/レリGO
#081:追憶な(あるいは、ダーカーザンダークネス)
しおりを挟むあれほどの死闘を繰り広げた割に、次戦までに僕らに与えられた時間は1時間もなかった。
現在時刻14:40。そして本日の最終戦である6組予選決勝は15:30から開始されるとの告知を受けた。またどんな「ランダムルール」(いやがらせのような)が付与されるか読めないけれど、身体だけはきっちり休めておいた方がいいという判断。というか、休まざるを得ないほどの疲労が全身をみっちりと覆っているわけで。
僕らは再び観客席に上がり、各々樹脂製の座席の上に横たわるものの、その継ぎ目継ぎ目が身体に当たって地味にくつろげない。それでもそこに一度落ち着いてしまうと、もう動く気にはなれなかった。そのまま、仰向けよりはうつぶせの方がやや痛くないー、などと思いながら、もぞもぞと身体の向きを変えてみたりしている。
身につけているジョリーさん+オーリューさん特製のメイド服は、先ほどの熾烈な戦いの最中も、その存在を忘れてしまうほどに軽やかに体にフィットしていて抵抗を感じさせなかった。勝因はそこにもあったのかもしれない。そこは素直に感謝です。
「ジョリさんよぉ……決勝に上がってきたのってどこかわかってんのかい?」
丸男が冷たいペットボトルを、その謎メイクが崩れてぐずぐずになっている顔面に当てながら聞いている。
「わかるはわかったんだけどねぇん。全くの無名なのよぉん。それでも勝ち上がって来たってことは……何かムロっちゃんと同じような空気を感じていやな予感がするのよねぇ」
少し離れた所に座り、スマホで何やら見つつジョリーさんがそう呟く。僕と同じ空気……?
「確かにそいつはやな感じだな。何つーか、今まで通りにはいかないってわけかよ。元老院の思惑が絡みっぱなしの露骨な相手だったら逆に安心できたんだが」
アオナギも重力のままに体を突っ伏したまま、そう不安を煽るようなことを言いますけど!! ここまで来たんだからやるしかないでしょうよ!!
「ま、何にせよ、さっきみたいに体動かす系のやつが来たらやばいわな。俺ぁ今、股間から下が全部攣ってる状態だしよぉ」
でもアオナギが言う通り、僕らの体はボロボロだ。普段使ってない筋肉を酷使した感がありありと感じられる。明日は明日で痛さでろくに動けなさそうだ。このまま少しでも疲労を取らなくては……しかし。
そうこうしている内に早くも対局開始時間が迫ってきていた。鉛というか水銀みたいに感じる自分の体を何とか立ち上げると、僕らは決勝の舞台へと青息吐息で赴くのであった。
「ん予選っ、ん決勝っ!! つーいーに? 開始だこのやろおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」
疲れたカラダに突き刺さるハイトーンボイスの主は……いちばん最初、国歌を歌ってた辺りの実況をしていたと記憶している、ピンクの髪に、目に痛いLEDが色とりどりに光る衣装を身につけた電飾少女だった。何か、かなり久しぶりに見た気がする。
「実況はこの、ダイ・バルチュアがお送りするからしっかりついてこいやぁぁぁぁっ!!」
煽る煽る。ああーそう言えば最初もこんな感じだったっけ。名乗ったのはどっちがファーストネームか分からないけど、便宜上、ダイバルちゃんと呼ぶことにする。顔はピンクのつけまつげやら同色の濃いチークやら、テカる茶色に近い色のルージュやらで完璧に「つくられた顔」をしているけど、小作りな顔は引き込ませる魅力を放っている。電飾のごてごて付いたミニスカドレスのような衣装がわかりにくくしているけど、結構長身ですらりとした抜群のプロポーションだ。さすが実況少女たちを統べる存在 (たぶん)だけはある。
僕らと、対戦相手チームは、スポットライトを浴びながら、球場のダイヤモンド中央にいつの間にか設置されていたリングへと導かれる。あれ? 周りのアクリルっぽいパネルで仕切られてこそいないものの、これ初戦から使ってたやつじゃない? トップロープの上からリング内に降ろされた鋼鉄のアームの先には、もはや見慣れた「対局シート」が見て取れる。普通だ。それだけに僕にも何かいやな予感が押し寄せ始めていた。決勝……どうなるんだ?
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