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第参章:ダメいっぱいの、愛にすべてを

#091:戦車な(あるいは、現実という名の非情)

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 どうするッ!! 選択肢は限られているッ!!

「……」

 酒のせいなのかそれ以外の何かなのか、強力な魅力を発する潤んだ瞳が僕の15cmくらい前まで接近している。これが夢でないのならッ!! うかつに行動すると多分に哀しい結末に引きずり込まれてしまうのだろう。そんなことくらい、僕の今までの人生を顧みればわかることだッ!!

 油断しては駄目だ。油断せずにこの場をモノにしたい。それにはどうしたらいいんだ……!? 僕の頭は対局の時よりもフル回転を始め出す。問題だ!! この世を司るモノの……企んでいることは何だ!?

3択―ひとつだけ選びなさい

 答え①本当のモテである。モテ王の室戸は行くしかない
 答え②丸男らが来てこの場をぶち壊して終わる
 答え③この諸々が猫田ちゃんの仕組んだことである。つまり僕は騙されている

 ……僕が最も懸念しているのは②だが、ここのボイヤスは結構広い間取りの店舗だ。所々目隠しの壁で遮られているので、例え探そうにもなかなかうまくいかないのでは。大丈夫だ。○をつけたいのは①だし、実際に①と信じて行くしかない。例え③のにおいがプンプンしていても!!

「……あ、猫……田さん……」

 間近にまで迫るほんのり上気した顔に、僕は上ずりながらも声をかける。なに? と声には出さずに小首をかしげた猫田ちゃん……猫田さんに、僕は……僕は自分の気持ちを……気持ちを伝え……る……んだ……

「じ、自分……は、あ、あなたのこと……が……」

 言え!! 言うんだ僕!! 微笑んだまま僕の言葉を待つ猫田さん……綺麗だ。そして神々しいまでに美しい……こんなに、こんなにまで愛おしい気持ちになったのは、初めて……ではないにしろ、あ、いや結構あったような気もするけど、いやそんな邪念は振り払えっ!! 千載一遇行くしかないんやぁっちゅうねん!!

「す、すきで」

 言いかけたその時だった。

「おい猫田」

 猫田さんの後ろからそう低いドスの利いた声が響き渡る。

「途中でいなくなったと思ったら、こういうことか」

 黒いタンクトップに真っ赤なシャツを羽織ったその人は、そのイメージカラーと突っ立てた黒髪&褐色の肌ですぐに誰か分かった。

「ミリア=ファ・桜田 (……さん)!!」

「YES,I AM!!」

 そうキメつつ、桜田さんは猫田さんの首根っこを掴むと、そのまま自分の目の高さまで引き上げる。

「……さ、桜田パイセン……」

 猫田さんが、やべえという顔で後ろを見やりつつ言う。

―答え④ ―答え④ ―答え④

「誰かと思えばムロトミサキだしよぉ。抜けがけは無しだって、さっきのミーティングでもあれほど!! あれほど釘差したばっかりだっつーのに、この泥棒猫はぁぁぁぁ」

 沸騰しそうな桜田さんの剣幕に僕も引く。

「ほれっ!! ムロトも行くぞっ、こっちで飲み直そうぜっ!!」

 猫田さんをぶら下げたまま、桜田さんは店の奥へとずかずか歩き出す。つ、付いていくしかなさそうだよね……この後に待ち受けるのはハーレムという名の天国なのかそれとも……?

 揺蕩っている……っ!! 未来はまだ揺蕩っている……っ!!(と信じたい)

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