高嶺の花と紅蓮の子

西園寺司

文字の大きさ
36 / 41

ヨハネ家メイド長の追憶

しおりを挟む
「ねえ、ハンナ。この墓地の端に集合墓なんてあったかしら。」

エレーナがポツリと呟く。

「え?どうしてそう思われるのです?」

「さっきリュード様が”彼らがいるのはこの墓地の端ですし。”と仰ってたの。でもこの墓地の端に集合墓があった記憶がなくて。」

「お嬢様…。あのお方には失礼かと存じますが、紅蓮の子の噂はご存知ですよね。」

俯きがちにハンナが答えた。

「紅蓮の子の噂なら知ってるわ。でも人によって違うし、冷静に考えたら有り得ないものも多いから鵜呑みにしないようにしてたんだけど…。それに本人の口から語られたわけじゃないもの。その噂で人に後ろ指を指すのっておかしな話だと思って。その噂と何か関係があるの?」

「お嬢様…。この墓地の端には戦などで亡くなった外国の騎士を弔う慰霊碑がございます。」

「確かにそれならあったわね。防衛隊長として花を手向けに行かれたのかしら。」

「お嬢様はどこまで噂のことを知っていらっしゃいますか。」

「うーん…。13年前、当時9歳だったリュード様が突然襲撃してきたフルーウェ国の大量の騎士たちを皆殺しにした挙句、一緒にいた数少ない味方も回復の見込み無しとして全員殺した、半狂乱になったリュード様が敵と味方が分からなくなって見境なく殺した…とか。でも自分だけは無傷で帰ってきた…。あとは噂する人によって違うから分からないわ。」

「お嬢様。それがいつの出来事か、日付までご存じですか?」

「いいえ、日付までは知らないわ。まさか…。」

「ええ、その日付が今日なのでございます。」

「そんな…。じゃあ、リュード様は…。」

「13年前の今日、自身が命を奪った方達を弔いに行かれたのかと存じます…。本当にリュード様がそんなにたくさんの命を奪ったかどうかは噂の域を出ませんが。」

「ど、どうして、ハンナは日付まで知ってるの?」

「前騎士団長のザンテ様が亡くなられた原因をお嬢様はご存じで?」

「突然の襲撃に遭って亡くなられたと聞いているわ。え?その襲撃って…。」

「さすがはお嬢様。ザンテ様が亡くなられた襲撃とリュード様が噂の元となった襲撃、これは同じものなのでございます。噂が一人歩きしてここまで大きくなってしまったのでしょう。」

「待って、9歳のリュード様と団長のザンテ様がどうして一緒にいるの?それに何故ハンナはそこまで詳しく知ってるの?」

「リュード様とザンテ様がどうして一緒にいたのかは私たちもわかりませんし、私が知っているのはここまででございます。当時、シュベルク様についていましたので、宮殿に帰っていらしたリュード様を見たのです。返り血だらけで、ボロボロで。絶望…といいましょうか…。幼い子供に似つかわしくない表情をしていらしたので、その時のことはよく覚えています。」

「そ、そんな。だとしたら保護されて然るべきじゃない。どうしてあんな酷い噂を…。」

「後のことは私もわかりません。まあお嬢様、お顔が真っ白です。申し訳ありません、喋りすぎました。ささ、馬車までもうすぐですよ。」

「え、ええ。」

混乱した頭を抱えながらエレーナは馬車に乗り込んだ。

「お嬢様、大丈夫ですか。出発しますよ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

処理中です...