電子魔術の夜-タブレットマギウス-

電子の歌姫

日常

　学校が終わり、ユラはいつものように教室でテンカからの連絡を待っていた。
　ペット捜索や聞き込み程度の仕事なら、いつもメールで連絡が来る。
　それを確認してすぐ動くのがいつもの段取りだ。
　この間の事件のように所謂「ワケあり」な事案などはあまり無く、あったとしても大体は彼女に回って来ない。
　この数週間ユラは少し退屈していた。
　モノカ嬢の事件は危険だったが、初めての電書魔術を使ったワクワク感やスリルが楽しかった。
　今まで出会うことのなかった非日常に、ユラは魅了されていた。
　今日の依頼はなんだろう、電書魔術を使うような大きい事案だと良いな、でも命の危機はもう遠慮したいかな…。
　そんな事を考えながらスマホと睨めっこをしていた。
　すると、大きな着信音が鳴った。
　着信元はテンカであった。
　ユラは直ぐに電話を取った。

「もしもし」
「アオイ君、今日の依頼なんだが…」
「もしかして『ワケあり』ですか？」
「話が早いね。そう、『ワケあり』だよ」

　ユラは心の中で落ち着け、と繰り返した。
　ワケありでも、私の出番はないかもしれない。
　前みたいな事が起きる可能性は低い。
　だってうちみたいな小さな事務所にそんな依頼が早々来るわけがない。

「アオイくん？」
「す、すみません…」
「今日この後事務所に来てくれるかな？」
「はい、直ぐ行きます」
「じゃあまた後で」

　電話を切ると、思わずニヤケてしまう。
　ユラは顔を押さえながら教室を後にした。