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トビオリ
2(改訂版)
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親に厳しく育てられた子ほどグレやすく、家族に何らかの問題があったり、生活するのが大変だった子ほど将来成功している人が多いと僕は思っている。
人間は嫌なことや、大変なことがあると、それと相反することをして打ち消そうとするのではないだろうか。
物体も同じだ。物体は力を受けると、それと同じ力で打ち消そうとする。このことを物理の世界では「作用反作用の法則」というらしい。習ったばかりだったのでよく覚えている。
この法則は物理的な意味で成立するものだが、僕は人間の精神の世界でも成立すると思っている。
もし目の前の死神(仮)が本物の死神だとしたら、人の命を奪いすぎた過去があり、それを後悔し、今は死のうとする人間を見過ごせないのではなかろうか。きっとそうだろう。
想定外の一言に驚きすぎて、口を開けたまま思考が停止…ではなくフル回転させた僕は、この考えにたどり着いた。
だとしたら余計なお世話だ。僕は死にたいのだから。
僕は一応確認した。
「あの…死神…ですよね?」
僕は死神(仮)の姿を上から下にながめながら尋ねた。
「はい!よくわかりましたね!」
逆にそれ以外あるかっ!と心の中でツッコんだ。当てられた死神(仮)はなぜか嬉しそうだった。僕は自分のお尻を気遣いながら、おそるおそる立ち上がった。
「じゃあ聞きますけど、死神って普通、人の命を取りにくるんじゃないんですか?」
「まあ、そうなんですけど…」死神(仮)は渋々答えた。
「もしかして昔、たくさんやんちゃ(殺)してたから、今は反省して丸くなったとでも?」僕は問い詰めた。
「そんな、殺人だなんて滅相もございません。アリ一匹殺したことないんですから。」と謙遜しながら答えた。
「絶対嘘だ~気づかないうちに一匹くらいは」
「浮いてるので。」
「あっ…」
よくよく考えてみると、今僕がいる場所は屋上の端っこで、なおかつ外側を向いている。僕の目の前にいる時点で下には何もないのだから落ちて当たり前なはずなのだ。
僕の頭の中から(仮)が消えた。
「それに私、宗教上、無益な殺生は禁じられておりますので。」
「仏教徒なんですか?!死神なのに?!」
今まで生きてきた中で、死神が現れたことが一番驚愕だったのに、ものの数秒で超えてきた。
「死神だって仏様に頼るときだってありますよ。」
今度は完全に思考が停止した。
「そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」
はっ、と我にかえり死神の話に耳を傾けた。
「もう一度言います。死ぬのをやめてくれませんか?」
「嫌です。」
僕は食い気味に返事をした。
「早い!なんでですか?」死神は返答のスピードに驚きつつ、困惑していた。
「自殺をするのだって、簡単に決めたわけじゃありません。長い時間をかけて悩み、苦しみ、出した答えだったんです。これしか方法はなかった。だから、たとえ死神に止められたって、引き下がるわけにはいかないんです。」
僕はあの日からの時間を思い出しながら、揺るがぬ思いを伝えた。
「だったらなおさらダメです。死なせません。」
「一体何でなんですか?死神ですよね?早く殺してくださいよ!」
僕は感情のままに死神に詰め寄った。
「たっ、たしかに、私達死神は昔、あなたの言う通りたくさんの命を奪ってきました。でも、最近変わったんです。」
「変わった?」
「あなたは百年前の日本の人口を知っていますか?」
「一億人いくかいかないくらい?」
「五千万人をきってました。」
「?!」予想外の少なさに僕は驚いた。
「百年で二倍以上増えたという計算になります。この増加率はとんでもありません。」
「人口の増加はいいことなんじゃないんですか?」
「確かにメリットもあります。しかし、あまりに急激な増加は大きなデメリットを起こします。食料不足です。食料が足りなくなると、人々は奪い合い、やがて戦争が起こります。今の時代、核戦争ともなればあっという間に人類は滅んでしまうでしょう。そうならないために人口を調節し、この地球上の生物の種の調整を行なってきたのが死神なんです。」
「ふーん。」
ここで一番驚くのが正解なのだろうが、あれと比べてしまい、リアクションはそんなに大きくできなかった。
「だから余分な命を奪ってきたと、ならいいじゃないですか!僕のもどうぞ。」自分を召し上がれと言わんばかりにお辞儀をした。
「死なせませんよ。今までは変わる前です。変わるのはここから。私達死神はこの地球上に生命が誕生した時から存在しています。そして、世界各国に、散らばっています。そんな中、近年、今までになかったことが起こってしまいました。私の配属されているこの日本で、人口が減り始めたのです。今までは増えすぎた人口を減らすことでバランスを保とうとしていたのですが、逆になるとどうしたらよいのかわからなくなってしまい、初めて「D20」が開催されました。」
「『D20』?」よくわからない単語に耳が引っかかった。
「『Death twenty 』デス。」
僕は仮面の下、今絶対ドヤ顔だろうなと思いながら聞き流した。
「ゴホン、世界各国の大死神様二十名がこれからのことについて話し合われる会議で日本の問題が挙げられました。すると、他の国でも同じようなことになっていることがわかったんです。そこで長時間の会合の結果、対策が決まりました。それが自殺の撲滅です。なぜ人口が減るのかということで、原因が、これからの日本を引っ張り、子どもを増やすはずの若者が、体は健康であるはずなのに自ら命を絶ってしまうからではないかという結論にいたったんです。だったら自殺者を止めようということで、私が配属している『日ノ本自殺撲滅運動交渉課』が発足されたんです。まあ私は昨日配属されたばかりなんですけどね。以上より、私の前では死なせませんよ。」
自信満々に鎌を振りかぶりポーズを決めていたが、そのポーズは絶対命を救う側ではないと思った。そして僕は反論した。
「だったら死ぬ人を減らすんじゃなくて、赤ちゃんを増やせばいいじゃないですか?」
「それができないんです。死神は死を司るのが仕事、死んだ者の生前の行いの整理、死んだ時の状況整理、など死に関するものしか扱わないんです。実は、この作業で一番めんどくさいのが自殺者の対応なんです。殺人や病死なら、生きてる人たちが色々調べてくれてまとめやすいんですけど、自分から死んでる人たちは自分を殺した理由は自身しかわからないんです。それを聞き出さないとこの後転生先などの書類を作成するのが大変なんです。なので、自殺者を減らすのは死神の仕事を減らすことにもつながるので一石二鳥なんですよ。」
「Zzz…Zzz…」
「寝てるんですか?!せっかく一昨日、徹夜で覚えたのに!」
死神は少し残念がっていた。だがこれは僕の作戦だ。寝ていてよろけるフリをしてそのまま飛び降りよう。何としても自殺してみせる。
僕はすぐに作戦を実行した。よろけつつ飛び降りようとしたそのとき。
「死なせませんよ!」
[グサッ]
死神は持っていた鎌を大きく振りかぶって僕の腹に突き刺した。
「ぐはっ、」
なんだ、結局殺すんじゃん、と思いながら、よろけて、最初に尻をついた場所と同じ場所に倒れた。
これでようやくあいつらの顔を見なくて済む。そう思いながら僕は静かに目を閉じた。
目の前は真っ暗だったが、手足が動く感覚はある。少し冷たい風も肌で感じられ、耳には野球部の掛け声が入ってくる。野球部の掛け声?
僕は眼を開けた。空はオレンジ色だった。起き上がると、目の前にはやっぱり「ザ・死神」な死神がいた。
「あなたは死んでなんかいませんよ。」
僕はわけがわからなかった。
「でも、思いっきり腹が刺されて…」
お腹を確認してみたが、傷一つなかった。
「なっなんで?」
「できれば奥の手は使いたくなかったんですがねぇ。」
「奥の手?」
死神が不敵な笑みを浮かべているような気がした。
「この鎌は元々、触れた者の未練を断ち切り、気持ちよくあの世へ行ってもらうための道具なのですが、逆もまたできるのです。」
「ぎ、逆?」
「未練を断ち切るのではなく、未練をつなぎとめるのです。」
死神はここぞと言わんばかりに鎌を見せびらかした。
「つまりですね、あなたは自力で未練を断ち切らないと死ねない体になったのです。」
「残念でしたね死神さん!僕には未練なんてないんですよ!」
そう言いながら僕は、屋上から飛び出した。
はずだった。
「うわぁ!」
僕の体は確かに宙に出た。が、落ちるより先に、背中から思いっきり引っ張られる感じがした。まるで、ピストルの合図でスタートした綱引きの真ん中に自分の背中がくくりつけられているようだった。
一日で、三回も尻をついた日は今までになかっただろう。
「だから言ったじゃないですか。あなたは本当の意味で未練を断ち切らないと死ねませんよ。」
「クッッソ…」
まさか自殺を死神に止められるとは思ってもみなかった。一刻も早くこの世界から去りたいのに。自分のお尻がヒリヒリしているのを感じた。
「大人しく生きてください。生きてればいいことありますから。」
死神の口からこんな言葉が出てくるとは数十分前の僕には想像できなかっただろう。強引には死ねないとわかった僕は作戦を変えた。
「死神さん、その鎌カッコいいですねー」
「そっ、そうですか?」
「いかにも忌々しいオーラがなんとも言えないアクセントを醸し出してますよ。そこの黒を基調とした持ち手がクールですねー。」
「そうなんです!ここにはこだわってまして。」
「いいなー持ってみたいなー。死神さんみたいにかっこよく振りかざしたいなー。ダメですか?ダメですかね?」
「えーオーダーメイドだしなー。分割まだ残ってるし。」
「そこをなんとか。ちょっとだけ。一振りだけ。」
「一振り?しょうがないなぁ。じゃあちょっとだけ…ってあぶねーー!渡すところだったー。」
「チッ。」
僕は死神の鎌で自分の未練を断ち切ろうとしたが、あと一歩のところで死神に感づかれてしまった。
「貸してください!死にたいんです。」
「ダメです!死なせません!」
「死ぬ!」
「死なせない!」
「死ぬ!」
「死なせない!」
「死ぬ!」
「死なせない!」
「しっ!」
「なせない!」
僕はじっと死神の仮面の目であろう部分を強く凝視した。
「あーもうわかりました!あなたには負けましたよ。自殺を認めます。特例ですよ。死神公認です。」
「よっしゃー!」
「ただし条件があります!」
「条件?」
死神はローブの中から本を取り出し、僕に渡した。
「この本に書いてある内容を全てこなし、てください。一週間以内で。」
その本の表紙には『誰でも一週間で最高のエンディングへ~終活の極意~』と書かれてあった。
人間は嫌なことや、大変なことがあると、それと相反することをして打ち消そうとするのではないだろうか。
物体も同じだ。物体は力を受けると、それと同じ力で打ち消そうとする。このことを物理の世界では「作用反作用の法則」というらしい。習ったばかりだったのでよく覚えている。
この法則は物理的な意味で成立するものだが、僕は人間の精神の世界でも成立すると思っている。
もし目の前の死神(仮)が本物の死神だとしたら、人の命を奪いすぎた過去があり、それを後悔し、今は死のうとする人間を見過ごせないのではなかろうか。きっとそうだろう。
想定外の一言に驚きすぎて、口を開けたまま思考が停止…ではなくフル回転させた僕は、この考えにたどり着いた。
だとしたら余計なお世話だ。僕は死にたいのだから。
僕は一応確認した。
「あの…死神…ですよね?」
僕は死神(仮)の姿を上から下にながめながら尋ねた。
「はい!よくわかりましたね!」
逆にそれ以外あるかっ!と心の中でツッコんだ。当てられた死神(仮)はなぜか嬉しそうだった。僕は自分のお尻を気遣いながら、おそるおそる立ち上がった。
「じゃあ聞きますけど、死神って普通、人の命を取りにくるんじゃないんですか?」
「まあ、そうなんですけど…」死神(仮)は渋々答えた。
「もしかして昔、たくさんやんちゃ(殺)してたから、今は反省して丸くなったとでも?」僕は問い詰めた。
「そんな、殺人だなんて滅相もございません。アリ一匹殺したことないんですから。」と謙遜しながら答えた。
「絶対嘘だ~気づかないうちに一匹くらいは」
「浮いてるので。」
「あっ…」
よくよく考えてみると、今僕がいる場所は屋上の端っこで、なおかつ外側を向いている。僕の目の前にいる時点で下には何もないのだから落ちて当たり前なはずなのだ。
僕の頭の中から(仮)が消えた。
「それに私、宗教上、無益な殺生は禁じられておりますので。」
「仏教徒なんですか?!死神なのに?!」
今まで生きてきた中で、死神が現れたことが一番驚愕だったのに、ものの数秒で超えてきた。
「死神だって仏様に頼るときだってありますよ。」
今度は完全に思考が停止した。
「そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」
はっ、と我にかえり死神の話に耳を傾けた。
「もう一度言います。死ぬのをやめてくれませんか?」
「嫌です。」
僕は食い気味に返事をした。
「早い!なんでですか?」死神は返答のスピードに驚きつつ、困惑していた。
「自殺をするのだって、簡単に決めたわけじゃありません。長い時間をかけて悩み、苦しみ、出した答えだったんです。これしか方法はなかった。だから、たとえ死神に止められたって、引き下がるわけにはいかないんです。」
僕はあの日からの時間を思い出しながら、揺るがぬ思いを伝えた。
「だったらなおさらダメです。死なせません。」
「一体何でなんですか?死神ですよね?早く殺してくださいよ!」
僕は感情のままに死神に詰め寄った。
「たっ、たしかに、私達死神は昔、あなたの言う通りたくさんの命を奪ってきました。でも、最近変わったんです。」
「変わった?」
「あなたは百年前の日本の人口を知っていますか?」
「一億人いくかいかないくらい?」
「五千万人をきってました。」
「?!」予想外の少なさに僕は驚いた。
「百年で二倍以上増えたという計算になります。この増加率はとんでもありません。」
「人口の増加はいいことなんじゃないんですか?」
「確かにメリットもあります。しかし、あまりに急激な増加は大きなデメリットを起こします。食料不足です。食料が足りなくなると、人々は奪い合い、やがて戦争が起こります。今の時代、核戦争ともなればあっという間に人類は滅んでしまうでしょう。そうならないために人口を調節し、この地球上の生物の種の調整を行なってきたのが死神なんです。」
「ふーん。」
ここで一番驚くのが正解なのだろうが、あれと比べてしまい、リアクションはそんなに大きくできなかった。
「だから余分な命を奪ってきたと、ならいいじゃないですか!僕のもどうぞ。」自分を召し上がれと言わんばかりにお辞儀をした。
「死なせませんよ。今までは変わる前です。変わるのはここから。私達死神はこの地球上に生命が誕生した時から存在しています。そして、世界各国に、散らばっています。そんな中、近年、今までになかったことが起こってしまいました。私の配属されているこの日本で、人口が減り始めたのです。今までは増えすぎた人口を減らすことでバランスを保とうとしていたのですが、逆になるとどうしたらよいのかわからなくなってしまい、初めて「D20」が開催されました。」
「『D20』?」よくわからない単語に耳が引っかかった。
「『Death twenty 』デス。」
僕は仮面の下、今絶対ドヤ顔だろうなと思いながら聞き流した。
「ゴホン、世界各国の大死神様二十名がこれからのことについて話し合われる会議で日本の問題が挙げられました。すると、他の国でも同じようなことになっていることがわかったんです。そこで長時間の会合の結果、対策が決まりました。それが自殺の撲滅です。なぜ人口が減るのかということで、原因が、これからの日本を引っ張り、子どもを増やすはずの若者が、体は健康であるはずなのに自ら命を絶ってしまうからではないかという結論にいたったんです。だったら自殺者を止めようということで、私が配属している『日ノ本自殺撲滅運動交渉課』が発足されたんです。まあ私は昨日配属されたばかりなんですけどね。以上より、私の前では死なせませんよ。」
自信満々に鎌を振りかぶりポーズを決めていたが、そのポーズは絶対命を救う側ではないと思った。そして僕は反論した。
「だったら死ぬ人を減らすんじゃなくて、赤ちゃんを増やせばいいじゃないですか?」
「それができないんです。死神は死を司るのが仕事、死んだ者の生前の行いの整理、死んだ時の状況整理、など死に関するものしか扱わないんです。実は、この作業で一番めんどくさいのが自殺者の対応なんです。殺人や病死なら、生きてる人たちが色々調べてくれてまとめやすいんですけど、自分から死んでる人たちは自分を殺した理由は自身しかわからないんです。それを聞き出さないとこの後転生先などの書類を作成するのが大変なんです。なので、自殺者を減らすのは死神の仕事を減らすことにもつながるので一石二鳥なんですよ。」
「Zzz…Zzz…」
「寝てるんですか?!せっかく一昨日、徹夜で覚えたのに!」
死神は少し残念がっていた。だがこれは僕の作戦だ。寝ていてよろけるフリをしてそのまま飛び降りよう。何としても自殺してみせる。
僕はすぐに作戦を実行した。よろけつつ飛び降りようとしたそのとき。
「死なせませんよ!」
[グサッ]
死神は持っていた鎌を大きく振りかぶって僕の腹に突き刺した。
「ぐはっ、」
なんだ、結局殺すんじゃん、と思いながら、よろけて、最初に尻をついた場所と同じ場所に倒れた。
これでようやくあいつらの顔を見なくて済む。そう思いながら僕は静かに目を閉じた。
目の前は真っ暗だったが、手足が動く感覚はある。少し冷たい風も肌で感じられ、耳には野球部の掛け声が入ってくる。野球部の掛け声?
僕は眼を開けた。空はオレンジ色だった。起き上がると、目の前にはやっぱり「ザ・死神」な死神がいた。
「あなたは死んでなんかいませんよ。」
僕はわけがわからなかった。
「でも、思いっきり腹が刺されて…」
お腹を確認してみたが、傷一つなかった。
「なっなんで?」
「できれば奥の手は使いたくなかったんですがねぇ。」
「奥の手?」
死神が不敵な笑みを浮かべているような気がした。
「この鎌は元々、触れた者の未練を断ち切り、気持ちよくあの世へ行ってもらうための道具なのですが、逆もまたできるのです。」
「ぎ、逆?」
「未練を断ち切るのではなく、未練をつなぎとめるのです。」
死神はここぞと言わんばかりに鎌を見せびらかした。
「つまりですね、あなたは自力で未練を断ち切らないと死ねない体になったのです。」
「残念でしたね死神さん!僕には未練なんてないんですよ!」
そう言いながら僕は、屋上から飛び出した。
はずだった。
「うわぁ!」
僕の体は確かに宙に出た。が、落ちるより先に、背中から思いっきり引っ張られる感じがした。まるで、ピストルの合図でスタートした綱引きの真ん中に自分の背中がくくりつけられているようだった。
一日で、三回も尻をついた日は今までになかっただろう。
「だから言ったじゃないですか。あなたは本当の意味で未練を断ち切らないと死ねませんよ。」
「クッッソ…」
まさか自殺を死神に止められるとは思ってもみなかった。一刻も早くこの世界から去りたいのに。自分のお尻がヒリヒリしているのを感じた。
「大人しく生きてください。生きてればいいことありますから。」
死神の口からこんな言葉が出てくるとは数十分前の僕には想像できなかっただろう。強引には死ねないとわかった僕は作戦を変えた。
「死神さん、その鎌カッコいいですねー」
「そっ、そうですか?」
「いかにも忌々しいオーラがなんとも言えないアクセントを醸し出してますよ。そこの黒を基調とした持ち手がクールですねー。」
「そうなんです!ここにはこだわってまして。」
「いいなー持ってみたいなー。死神さんみたいにかっこよく振りかざしたいなー。ダメですか?ダメですかね?」
「えーオーダーメイドだしなー。分割まだ残ってるし。」
「そこをなんとか。ちょっとだけ。一振りだけ。」
「一振り?しょうがないなぁ。じゃあちょっとだけ…ってあぶねーー!渡すところだったー。」
「チッ。」
僕は死神の鎌で自分の未練を断ち切ろうとしたが、あと一歩のところで死神に感づかれてしまった。
「貸してください!死にたいんです。」
「ダメです!死なせません!」
「死ぬ!」
「死なせない!」
「死ぬ!」
「死なせない!」
「死ぬ!」
「死なせない!」
「しっ!」
「なせない!」
僕はじっと死神の仮面の目であろう部分を強く凝視した。
「あーもうわかりました!あなたには負けましたよ。自殺を認めます。特例ですよ。死神公認です。」
「よっしゃー!」
「ただし条件があります!」
「条件?」
死神はローブの中から本を取り出し、僕に渡した。
「この本に書いてある内容を全てこなし、てください。一週間以内で。」
その本の表紙には『誰でも一週間で最高のエンディングへ~終活の極意~』と書かれてあった。
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