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<11> 狩人より冒険者だろ?

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††
 
 リステア大陸北東 アッシュの街。
 
 俺の名はニトロ、しがない【冒険者】だ。字はない、貧民街の出身だからな。

 聞くも涙、語るも涙の以下省略人生を送って、今ここに至る。
 
 冒険者なんて称号は無いって?い~じゃねぇか。この世の中ノリだよノリ、ノリで軽くいかねーとな。
 
 冒険者ってのはいつだったか、誰かが流行らせたんだよ。何となくゴロもいいし呼び方も良い感じじゃね?

 狩人《ハンター》とかさ、クラスチェンジして~の戦士《ウォリアー》だ~、魔法剣士だ~武闘家だ~なんて言う呼び方も悪くはないけど、冒険者の方が万能っぽいだろ?
 
 てな感じで、俺たちはそうしている。

 俺たちは5人組の【冒険者】で街から街へと、依頼をこなしながら旅をしている。旅の冒険者って奴だ。
 
 よけいにイカスだろ?
 
 この街にきたのは数日前、ちょっと大きな街だから少しはイケてる依頼があるかと思ったんだが、確かにあった。

 北の森でなにやら化け物が目撃されたらしい。
 
 なに化け物って言ったって、そこまでの奴じゃない。俺たちに掛かればウサギを狩るようなもんだ。ただな、その依頼を受けたいのだが、うん。なんか引っかかるんだよな。

 引っかかるといっても、ターゲットがなんかあるとか、そういうわけじゃない。実は訳ありだとか、そんなんじゃない。相手はただの亜人だ。ただちょっくら引っかかるのは、その強さ。

 もちろん俺たちに掛かればイノシシをどうやって倒そうかな、とかメニューを考える程度の問題だ。

 その程度の問題ではあるんだが、狩人組合《ハンターギルド》ってのは時折嘘を吐く。

 嘘と言っても些細なことだ、ターゲットの強さの認定を間違えているとか、出現数を間違えているとか、うん、そんなもんだ。
 
 そんな些細なことなんだが、狩る側からすれば、致命的脅威となる事もある。それが引っかかってるわけね。長年の勘って奴かもな。

 相手は討伐ランクAの、オーガウォリアーって奴だ。オーガ種の中でも上級種。こいつは名前の通り戦士《ウォリアー》系だから、魔法を使えないってのは助かるが、膂力がハンパ無い。
 
 若いオーガでも素手で人を殴り殺せる上に、戦士《ウォリアー》系は剣まで持ってやがるからな。
 
 できりゃ後一人攻撃主体の奴を仲間に引っ張り込んで、そいつを囮に……じゃなくて戦力を増強して、確実に依頼をこなしたいところだ。

 しかしまぁ、こうして酒場を見回したって、そんな奴はいない。だいいちターゲットを聞いただけで、みんなビビっちまうからな。
 
 討伐ランクAの亜人ってのは、戦略的な思考もしやがるからな。
 
 パンピーな冒険者なら、出来りゃ手出しなんざしたくないよな。でも俺達ゃマジモンの冒険者だ、強ぇ敵を倒してこその冒険者じゃねぇのか?

 ったく情けねぇ奴らばかりだ。
 
 と?
 
 見たことねぇ奴が入ってきたな。小汚いマントひっかけやがって、見るからに狩人《ハンター》て感じだよな。
 
 まったく洗練さが欠けているって言うか、なんていうか、田舎者?まさに
 
 THE田舎者
 
 だよな。
 
 だがありゃ絶対に流れの冒険者だ、それも凄腕のな、間違いねぇ。顔は餓鬼っぽいけど、奴の醸しだす気配が俺にビンビンと感じさせる。

 どこか異様な気配、相手を射殺しそうな視線。ぼさぼさの銀髪頭とその上に茶色のヌイグルミ……ヌイグルミぃ?
 
 おいっ!!
 
 何だそりゃっ!!恐ろしく似合わないぞ?
 
 俺の連れ達も酒場で呑んだくれてる奴らも、声を殺して笑ってるぞ。
 
「なんでもいい、飯とエールをくれ。」

 田舎者がバーテンに話しかけている。

 バーテンが胡散臭そうに見ているが、頭の上のヌイグルミを見て、余計に胡散臭そうに見てやがる。
 
 いやそれはわかる。理解する。俺もそうだから。
 
 それに見た目は小汚い行き倒れ風だからな。こいつ金を持っているのか、そんな目つきだ。気持ちは解るぜ~。
 
 カウンターに半銀貨が放られた。金は持ってそうだな。
 バーテンは半銀貨を摘み上げ、値踏みするように見てたのはいいが、そのままポケットにしまいこんだ。

 ん~こりゃトラブルの予感。不思議と口角が釣り上がっちまう。
 
 エールがカウンターに置かれる。奴はジョッキを掴むと、一気に半分ほど飲み干した。よほど喉が乾いていたか。
 
 エールを置くと、頭の上のヌイグルミがむくっと起きてカウンターに飛び降り、ジョッキを覗き込んでいる。
 
「えええええっ!」

 酒場が騒々しい。いやわかる。あれ生き物なのかよっ!見たこともないぞっ!
 
 全身もふもふしてて、なんとなく狼をプレスして潰したような顔して、なんじゃありゃ?
 
「悪いが、小さいコップに水をくれ。」
「お、おうっ!」

 奴がバーテンに頼むと、眼を向きながら頷いていた。
 
 うん、気持ちはわかる。誰もアレが生き物だとは思わないよな。
 
 グラスに水がくると、ヌイグルミみたいな生き物が、ぺたんとカウンターに座り、前足でコップを掴むと……
 
「「「「ええええええっ!」」」」

 また酒場が騒がしい。
 
 てか両手でコップ掴んで人間みたいに飲んでやがる。何じゃそりゃ~~。
 
 酒場の奴ら全員が固まるなか、白パンで肉と野菜を挟んだサンドイッチが出てくる。バーテン、よく仕事してるな!
 
 奴はサンドイッチを掴んで食べ始めるが、横でヌイグルミが「くぅくぅ」と泣いている。
 
「ハラ減ったか?」
 
 尋ねるとヌイグルミがコクリと頷いた。
 
 奴は保存袋をカウンターに上げると、中から1キロはありそうな生肉を取り出し、ヌイグルミの前に置く。するとヌイグルミが肉を両手でつかみ、ガバッと口を開くと肉にかぶりつきやがった。
 
「う、うぉう、」

 なんとも可愛らしい顔なのに、やたら迫力のある喰い方に、唸り声を漏らしちまった。
 
 肉に食らいつき、食いちぎり、バクバクと喰うヌイグルミは、なんともシュールだぜ。
 
 奴は奴でサンドイッチをがつがつとまあ、焦る様に頬張ってやがる。バーテンが驚きつつも蔑んだ目でみてるし、遠目で見ている奴らも、笑いを堪えてるぜ。
 
 なにせおかしな奴だ。
 
 旅の途中で飯を食わなかったのか、よほど腹を空かしてたようだ。俺にはその気持ちよく分かる。
 
 お前ら飯が食えないときの辛さ、知らねぇのか?ありゃ~きついぜ~。
 
 奴はそんな視線など構わず、あっというまに食い尽くしちまった。ヌイグルミも食べ終わると、その場でべた~と寝てしまった。
 
 だが奴や食べ足りないのか、すかさずバーテンを呼んで、お代わりを頼んだ。こりゃくるかな?
 
「……あ、か金が先だ。」

 きたー、完全ぼったくりモードになったバーテン。
 
 まったくよくやるぜ。エールとサンドイッチなら銅貨25枚か30枚ってところだ。
 
 おかわりしたって、お釣りが来るぜ。
 
 と呆れかえった瞬間、奴のマントが舞い上がった。いつの間にかバーテンの首に剣が当てられている。

 見事な早業だ、としかいえねぇな。周りの奴らもびっくりしてやがる。俺もちょっと驚いた。
 
 俺はただじっと様子を見ていた。
 
 止める気はない。
 
 今回はバーテンが悪い。殺されたって文句は言えねぇ。だから俺も黙ってみていたが、ついワクワクしてくるのが止まらねえ。
 
「おっさん、ガキと思って舐めるなよ。さっき渡した半銀貨で十分釣りが来るだろう?それともここでお前の首を落としてやろうか?」
「す、すまん、俺の勘違いだったな。算術が苦手でな。」

 けっけっけ、バーテンのヤロウ、全く白々しい言い訳をしやがる。馬鹿野郎、算術できない奴がバーテンやってんじゃねーよ。

「直ぐに持って来い、エールもな。」

 剣が引っ込むと、バーテンは慌てて引っ込み、震える手でエールを持ってくる。完全にビビってやがるな。

 あーこんなおもしれえ奴ほっとけるかってんだ。後ろで仲間が背中を掴んでたんだが、つい振りほどいちまった。

「よう兄ちゃん、随分と威勢が良いな。」

 奴の背後に近づいたんだが、案の定声をかけただけで、奴から殺気がにじみ出てきやがる。すげぇな。一瞬でも気を抜いたら、まじで斬り殺されそうだ。

「そう殺気立つなって。俺も流れの冒険者やってるニトロってんだ。よろしく頼むぜ。兄ちゃん」

 言いながら俺は奴の隣に座る。
 
「俺にもエールをくれ。」

 ビビってるバーテンに俺も注文する。ったく悪さなんてするから脅されんだっての。奴の視線を感じる。俺をちらみしてやがるな。

「兄ちゃん、おめえ、今日街に着いたのか?」

 しかしこうなんつーか、ビンビンに尖った奴だな。返答がなかったら引き上がるかな。

「……そうだ。」

 おお、答えやがった。視線は前を向いたままだが、こりゃいけるか?

「兄ちゃん、冒険者だろ。」
「…………俺は狩人《ハンター》だ。」

 俺をじろりと見て、何だこいつは、みたいな顔してやがる。
 
 ノリが悪いねぇ。やっぱ田舎モンだなぁ。ここは冒険者だって答えて欲しかったぜ。

 その上、俺は狩人《ハンター》だとばかりに、首の辺りのマントを引き下げ、ハンター認識票《ドッグタグ》を見せつけてきやがった。
 
「俺も狩人《ハンター》だが……自称冒険者ってやつだ。」

 俺も首に掛けてあるハンター認識票《ドッグタグ》を見せた。

「最近はハンターって言うより、【冒険者】っていうのが流行りなんだぜ?おめえは、なんか拘りでもあるのか?」

 おい、珍しいものでも見るように見てんじゃねーよ。ジト目でみてんじゃねーっての。
 
 なんかむかつくな。そんでまたぷいっとそっぽ向いて、サンドイッチを食べ始めやがる。
 
 ヌイグルミは煩そうに頭を上げて、黒いまん丸い眼を俺に向けると、ふわぁっとアクビをこいて、頭を下げやがった。
 
 腹いっぱいで眠いのかよ!ちんまいモフモフの癖して、1キロもある肉食うからだろ!おめえご主人より食ってるんじゃねーよ!
 
 ったくそのご主人も夢中で食ってやがるし、そーかいそんな腹減ってんのかよ。勝手に食ってろ。
 
 俺は勝手にしゃべる。

「まあいいや、今おもしれえ依頼が有るんだよ。だけどちょっとばっか危険でな。組合《ギルド》の話を鵜呑みに出来ねーんだ。よかったら俺らとパーティを組まないか。念のために戦力を補強しておきたいんだ。報酬は山分けでも1人金貨1枚にはなるぜ?」

 俺がくっちゃべるのを無視して、奴はサンドイッチの最後の欠片を口に突っ込み、エールで胃に流し込むと席を立った。
 
 ヌイグルミがむくっと顔を上げると、トトッとカウンターを走って跳び上がり、奴のマントにしがみつくと、藻掻きながらあたふたと頭の上に登っていく。
 
「──興味はない。」

 おーいっ、そりゃねーだろおいいい!金貨1枚だぞ?
 
 ったくマジかよ。
 
 こういう奴に限ってやたらと腕がいいんだよな。もったいねー是非誘いて~っ。
 
 だが俺も下手に安売りはしたくねぇ。報酬をもっと寄越せとか言われたらムカつくからな。

「連れねぇなぁ、まあ気が向いたら言ってくれ。今ん所他の奴らは二の足踏んでるからな。俺はニトロ。名前だけでも覚えておいてくれよな。」

 奴の背に向けて言葉を投げかけておいた。ほんとつれねーやつだな。
 
 俺が肩をすぼめて戻ると、仲間にほれみたことか、とどやされた。いいじゃねーか、ダメで元々ってやつだ。
 
 だがアイツはなんか訳ありっぽいな。ちょっと興味が湧いてきたー。

††
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