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<17> 森ガールならぬ森ボーイしてました

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 俺は女達と共に村に戻った。
 
 村の跡には、僅かだが亜人達から逃れ、身を潜ませていた村の人達が戻っていた。その中にもアマンダの姿は無かった。

 生きてたことを喜び合う人たち、でも俺は死んだ魚のような眼で見ていた。実はこの時期の記憶があまり残っていない、断片的にしか思い出せないのだ。

 覚えているのは、あんなにいた村人が、今は50人位しか残っていない。なにより俺の父も母もアマンダも……居ないこと。

 生き残った人たちと共に、死んでいった人達の墓を造り、弔いを終わらせたこと。
 
 アマンダの為には、穴を掘り弓とナックルを埋めて、小さな盛り土をしてやった。その上に以前アマンダが好んだ花を添え両親とアマンダの墓に誓ったことだ。
 
 両親を殺し、アマンダを殺し、村を滅ぼした奴を、あの魔族を必ず殺してやると。
 
 
 
 一ヶ月後、村がある程度再建されてきた頃。
 
「やっぱ行くのかい?」

 生き残った村人たちの前で、俺はコクリと頷いた。
 
「俺の家族を殺した奴ら、どうしても許せない。必ず仇を討つ。」
「あんたはまだ子供なんだよ?もっと大きくなってからでも良くないか?」

 家の世話や飯の世話をしてくれてたエリスが言う。
 
 俺はにっこりと笑い、首を振った。
 
「エリス、今日まで世話してくれて、ほんと有難う。すごく感謝してる。だけど大丈夫。俺はこれでも狩人《ハンター》だ、必ず……必ず仇は討ってくる。」
 
 俺はそう言って頭を下げた。

 少しばかりの金も貰った。少しばかりの備蓄ももらった。村がこんな状態なのに、皆は無理して俺に援助してくれた。村の人達には、感謝しか無い。
 
「絶対、絶対に死ぬんじゃないよ。生きて返ってくるんだよっ」

 エリスの声に俺は、心のなかで頷く。大丈夫、俺は不死だから、と。
 
 俺は村を後にし魔族を探し求める旅に出た。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 アスラとデュラハン、奴らがやはり魔族だと確信したのは半年後の事だった。
 
 とある森の中で元王都の傭兵だったとう、50代の男─ケィニッヒと出会った。
 
 当時俺は亜人や魔族を求め、森のなかを彷徨って暮らしていた。
 
 ケィニッヒはボロボロの恰好で、魔獣や亜人と素手で戦う俺を見つけ、興味をもったようだ。
 
 物乞いの様な恰好で魔獣を倒し、血肉をすする野生児、それが俺の第一印象だったらしい。
 
 ケィニッヒは俺を村外れの小さな家に連れて行った。
 
 一人住まいらしいケィニッヒの家は、十分な広さを持ち、俺は半年ぶりにまともな風呂に入った。
 
 川で水を浴びたりはしていたが、風呂にはいるのは本当に久しぶりだ。
 
 魔獣を喰らって、森の中や山の中で暮らしていた俺は、半分野生化していたのかもしれない。
 
 温かい湯が俺を人間に戻してくれた、そんな気がする。
 
 
 風呂から出た俺は、飯を食わされ、そこで俺の身の上を話した。村が魔族と亜人に襲われた事、大事な人達が殺された事。
 
 奴らを見つけ出して、絶対に仇を討つと。
 
 俺の話しを黙って聞いていたケィニッヒは、俺に色々と知恵を与えたくれた。彼から聞いた話は実に興味深かった。
 
 俺の村では話にもでなかったが、この世界には人間と対立する魔族が存在すると聞かされた。古の頃から魔族は人を襲い、人は魔族と戦ってきた。
 
 その最前線《フロントライン》が、魔大陸ノスフェラトゥにあると聞いた。今いる大陸はリステア大陸で、ケィニッヒが居る村はグランダム王国の南なのだそうだ。
 
 つまり魔族がうろつくノスフェラトゥの最前線《フロントライン》に向かうには、馬で行っても数ヶ月は掛かる。歩きでは2年ほどは掛かると云われた。
 
 ならば昼でも夜でも、スタミナが尽きるまで走ればいい。
 
 ケィニッヒに馬鹿だと云われたが、俺にはそれだけの力が有る。
 
「なんで魔族は人を襲う、何故人と戦うんだ。」

 俺はケィニッヒに尋ねた。しかし魔族の思考は彼にもよくわからないらしい。
 
「魔族ってのは何考えてるかさっぱり判らん。意思疎通が全く無いからな。」

 と顔を振る。
 
「人間を殺してみたり、喰らってみたり、また攫ってみたり、行動に一貫性が無い。」
「さらう?」

 俺は彼の言葉が気になった。
 
「ああ、あいつらは人を攫っていく。それがなんの為かは判らん。喰らう為かそれとも犯して弄ぶのか、孕ます為なのか。未だに謎だ。」
「……魔族が襲った場所から、攫われる、そういうことがあるのかっ?」
「あるぞっ、男でも女でも、死体が見つから無かった時は、大体攫われたと云われているしな、ま、真偽は判らんがな。」

 俺はこの時、ケィニッヒの言葉に一縷の望みを託した。アマンダが生きているかも知れないと。
 
 アマンダの死体は見つからなかった。だが埋葬するときに気づいたのだが、他にも何人かの村人の死体が無かった。あの時は亜人に食われたものだと思ったが、今考えると食われたのなら、身体の一部が少しは残っていてもおかしくない。

 食い散らかされた死体が散乱していたのに、何故指一本も残さずに喰らったのか。
 
 俺は村にも亜人の巣にも、アマンダの死体が無かった時点で、骨も残さず食われたと思っていた、思い込んでいた。

 だがよくよく考えれば、武器はあったが、アマンダの衣服の切れ端もハンター認識票すらも、とうとう見つからなかったんだ。

 まさか魔族が連れ去ることもあるとは、ケィニッヒからの情報は、俺にもう一つの目標と微かな希望を与えてくれた。
 
「で、小僧、お前は両親や村人、アマンダって娘の仇をとりたいのか。」
「ああ、絶対に仇を討つ。俺の生きるための糧、両親を殺しアマンダを喰らったか浚ったかした魔族を、何処までも追い詰めて殺す。もし……もしアマンダが生きているなら、必ず取り戻す。」

 アマンダは生きているかも知れない、ならばその可能性に賭ける。
 絶対に探しだしてみせる。例え魔族の慰み者になっていようと、生きているなら絶対救い出してみせる。

「そっか、だが道は険しいぞ?」
「構わない。俺の命が尽きるまで、俺は諦めない。」

 俺の揺るぎない決心を知ってか知らずか、ケィニッヒは何故かニヤニヤしていた。
 
 そしてエールを呑み、次に出た言葉は
 
「気に入った、俺んところで修行していけ。なに基礎的な部分だけだ、おめえに根性と才能があれば、そんなに長くはかからん。」

 ありがたい申し出だが、俺は直ぐに断った。
 修行なんてやってられるか、俺は今直ぐにでもあのアスラを見つけてぶっ殺して、アマンダを助けるんだ。

「まぁ待て小僧、魔族にはとんでもなくつええ奴が居る。そいつにぶち当たったら、手練の戦士だってあっという間に殺されちまうんだぜ。今のおめえが多少強くても、敵うわけが無いぞ?」

 そう云われると返す言葉がない。唇を噛み締め、何も言えなくなる。
 
 俺はあのアスラのような魔族に手も足も出なかった。良いように嬲られ引き裂かれ殺された。
 
 いままでは自分のステータスに甘えていた、いや村で暮らしていくのに必要な程度しか鍛えていなかったのだから、当たり前と言えば当たり前か。
 
「おめえは面白そうだ。ガキの癖してオークやオーガを殲滅したとか、それが本当なら、随分と戦士の才能があるじゃねぇか。どうだ、俺が鍛えあげてやる。それからでも遅くはねえぞ、それになんだ、おめえの女、魔族が食う気なら、既に死んでる。孕ませて魔族を生む苗床にするつもりなら、まだしばらくは生きてるはずだ。」

 苗床だと?やめろ、アマンダがそんなことに、エロ漫画状態になっているなんて、俺は気が狂いそうになる。
 
「やめろぉぉおぉ!」

 俺は激昂しテーブルに腕を撃ちつけた。途端に分厚い板で作られたテーブルが拉げ、あっさりと崩れてしまう。

「おおっすげぇな、小僧。」

 ケィニッヒは驚いているようだが、歯をむき出しに破顔して俺を見ていた。

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