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第3夜 冒険者と暴虐の破龍ヴェンテゴ
《03-6》
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††
雪の獣道をアリサ達のグループが走る。それを枝を渡って僕が追いかける。何度か追い越しそうになって、その都度彼等が走り去ってくのを待った。
やっぱ雪の上は走りにくいよね。
やがて彼等はそれを目の当たりにする。
すでに戦闘が始まっているのか、激しい戦いの音が聞こえてきた。これから始まる戦闘を前にして、アリサ達の顔が緊張と期待の入り混じった表情となる。しかしそれは甘かった。
現場に到着したアリサたちの顔から、血の気が失われた。
「GURUAAAAAAHHHHHH!!!」
凄まじい咆哮が耳をつんざき、アリサ達の身体を押し退けた。
「な、なんだ……あれわ……」
少し開けた雪原の惨状を見つめ、4人は立ち止まり、固まった。
血塗れの雪原と言えば良いだろうか。「ソイツ」の周囲随所に赤い肉の塊、原型の解らぬ破片が散らばっていた。
「気をつけろっ!!」
声が飛ぶ。聞き慣れた怒鳴り声が、アリサ達を正気に戻した。
その声はガリオンからだ。狩猟団の団長であるガリオンの姿が見えたことで、彼の声が聞こえたことで、アリサは少し安堵しているようだ。
でも彼も決して無事とは言えない。何よりも集まったはずの仲間たちが、僅かに3人しか居らず、皆一様に傷を負っていた。
「嘘でしょ……」
考えたくはなかった。真実と向き合いたくなかった。だけどそれが真実であり、そしてここは弱肉強食の魔の山なのだから。
餌食となった動かぬ骸、肉塊となった仲間の傍らに立つのは、紛れも無く怪物と言える。
赤い目を光らせ 白い森に陽炎のように立つ灰色の巨体、体躯は10メートル以上はあるだろうか。太く長い尻尾も入れたら、どれほど有るのだろう。完全な成獣の大きさだ。
人など一口で呑み込みそうな巨大な顎門を開き、無数の鋭牙を見せつけている。巨大な身体に比して飾りの様に小さな前足、それを補うかのような、太く逞しい脚が体を支え、太く長い尻尾がのたうち、雪を舞い上げている。
もし古代生物の知識があるならば、コイツの姿はティラノザウルス・レックスに酷似していると思っただろう。違うところといえば、頭の上に生える短いが鋭く尖った複数の角。こんな頭で突っ込まれたら、敵は穴だらけなっちまうだろう。
そして背中から尻尾に掛けて生えているギザギザとした棘のようなものだろうか。これもまた武器としては申し分ない。長い尻尾は先のほうが細く、まるで鞭のようでも有る。と言うかこいつは全身武器だらけってことだ。
そしてこいつが彼等狩猟団が探していた怪物、破龍の中の破龍。
暴虐の破龍の姿だ。
◇ ◇
ガリオンは強かった。倭人というのは人間以上の身体能力をもっているのか、それとも冒険者とはそうなのか。レベルが関係しているのか、僕にはそのあたりの理由は解らないが、少なくとも冒険者は普通の人間とは違う。
どんなアスリートにだって、5メートルの高さを垂直に飛び上がることは出来ない、どんな屈強な樵だって太さ50センチ以上ある大木を一撃で叩き切るなんて出来ない。
しかしガリオンはそれをやってのける。彼等は普通じゃない、ある種超人に近づいていると言っていいだろう。
既に超人と言える身体能力を、さらに魔力を使用して身体能力を上げている。オリンピック選手も真っ青の魔力ドーピングだね。
並のモンスターならそれで十分だろう、だけどそれよりもヴェンテゴは強い。
例えガリオンがLV.91の猛者であっても、暴虐の破龍のレベルには到達しない。
「GYAOOOOHHHHHHHHHH!」
破龍が吠えた。
衝撃波のような咆哮が大気を震わせる。
ガリオンが動く、同時にヴェンテゴの尻尾も動いた。鞭のようにしなり向かってくる尻尾を避けて跳び上がり、ヴェンテゴの胴体に赤い輝きを放つ両手斧を叩きつける。他のモンスターであれば一撃で叩き切れただろう。
だが──鋼の硬さを持つ甲虫さえも、一撃で叩き切る斧が弾かれた。
ヴェンテゴの皮膚は違う。全身を包む灰色の鱗は強靭であり、一切の刃を通さない。例えそれが魔力で強化された剣や斧であってもだ。ヴェンテゴの鱗は魔力で強化された"強化装甲鱗”なのだから。
僕がヴェンテゴを嫌うのは、こいつの凄まじい防御力が苦手だからだ。刃を通さない鱗、全身に魔法防御が施されたスケールメイルを纏ったティラノサウルスなんて、誰だって相手したくない。
それでもガリオンは健闘している。両手斧が斬りつけられた鱗が、損傷を受けているのだ。断ち切る事はできずとも、拉げたり剥がれ落ちたりしている。それだけガリオンは優秀な戦士だと云えた。
「このバケモノがぁ!!」
仲間が殺され、多少冷静さを欠いているのか、攻撃そのものはかなり荒っぽいが、無難にヴェンテゴからの攻撃を避けていた。
「迂闊に近づくな!こいつはでかいくせにやたらと動きが早い。」
ガリオンから檄が飛ぶ。
ガリオンと同じチームだった三人が、アリサ達が来たことを知り、威勢を上げて飛び込んでいく。
ドワーフのドリル機槍とは異なる、柄の部分が太く先端が3つに別れた槍、巨大な大剣、そしてアリサと同じ機械弩弓、それぞれが攻撃を開始した。
だがガリオンの一撃とは異なり、三叉の長槍の一撃も、大剣も効かない。多少は衝撃を与えているのかもしれないが、ヴェンテゴの鎧を剥がすことも貫くこともできていない。
そして機械弩弓から放たれる鉄の弾丸も、微かに衝撃を与えるだけだった。
かれらの武器は効かないのだ。なぜならレベルが違い過ぎる。
《名前: ヴェンテゴ 種族: 破龍種 Lv.118
生命力: 26,892 魔力: 522》
あのヴェンテゴは、LV.100を超えているんだ。僕が見た中でも最大レベルと言える。それはそのまま奴の強さに繋がる。
ガリオン達の武器も、僅かな衝撃を与え、微かなダメージを与える程度でしか無い。
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雪の獣道をアリサ達のグループが走る。それを枝を渡って僕が追いかける。何度か追い越しそうになって、その都度彼等が走り去ってくのを待った。
やっぱ雪の上は走りにくいよね。
やがて彼等はそれを目の当たりにする。
すでに戦闘が始まっているのか、激しい戦いの音が聞こえてきた。これから始まる戦闘を前にして、アリサ達の顔が緊張と期待の入り混じった表情となる。しかしそれは甘かった。
現場に到着したアリサたちの顔から、血の気が失われた。
「GURUAAAAAAHHHHHH!!!」
凄まじい咆哮が耳をつんざき、アリサ達の身体を押し退けた。
「な、なんだ……あれわ……」
少し開けた雪原の惨状を見つめ、4人は立ち止まり、固まった。
血塗れの雪原と言えば良いだろうか。「ソイツ」の周囲随所に赤い肉の塊、原型の解らぬ破片が散らばっていた。
「気をつけろっ!!」
声が飛ぶ。聞き慣れた怒鳴り声が、アリサ達を正気に戻した。
その声はガリオンからだ。狩猟団の団長であるガリオンの姿が見えたことで、彼の声が聞こえたことで、アリサは少し安堵しているようだ。
でも彼も決して無事とは言えない。何よりも集まったはずの仲間たちが、僅かに3人しか居らず、皆一様に傷を負っていた。
「嘘でしょ……」
考えたくはなかった。真実と向き合いたくなかった。だけどそれが真実であり、そしてここは弱肉強食の魔の山なのだから。
餌食となった動かぬ骸、肉塊となった仲間の傍らに立つのは、紛れも無く怪物と言える。
赤い目を光らせ 白い森に陽炎のように立つ灰色の巨体、体躯は10メートル以上はあるだろうか。太く長い尻尾も入れたら、どれほど有るのだろう。完全な成獣の大きさだ。
人など一口で呑み込みそうな巨大な顎門を開き、無数の鋭牙を見せつけている。巨大な身体に比して飾りの様に小さな前足、それを補うかのような、太く逞しい脚が体を支え、太く長い尻尾がのたうち、雪を舞い上げている。
もし古代生物の知識があるならば、コイツの姿はティラノザウルス・レックスに酷似していると思っただろう。違うところといえば、頭の上に生える短いが鋭く尖った複数の角。こんな頭で突っ込まれたら、敵は穴だらけなっちまうだろう。
そして背中から尻尾に掛けて生えているギザギザとした棘のようなものだろうか。これもまた武器としては申し分ない。長い尻尾は先のほうが細く、まるで鞭のようでも有る。と言うかこいつは全身武器だらけってことだ。
そしてこいつが彼等狩猟団が探していた怪物、破龍の中の破龍。
暴虐の破龍の姿だ。
◇ ◇
ガリオンは強かった。倭人というのは人間以上の身体能力をもっているのか、それとも冒険者とはそうなのか。レベルが関係しているのか、僕にはそのあたりの理由は解らないが、少なくとも冒険者は普通の人間とは違う。
どんなアスリートにだって、5メートルの高さを垂直に飛び上がることは出来ない、どんな屈強な樵だって太さ50センチ以上ある大木を一撃で叩き切るなんて出来ない。
しかしガリオンはそれをやってのける。彼等は普通じゃない、ある種超人に近づいていると言っていいだろう。
既に超人と言える身体能力を、さらに魔力を使用して身体能力を上げている。オリンピック選手も真っ青の魔力ドーピングだね。
並のモンスターならそれで十分だろう、だけどそれよりもヴェンテゴは強い。
例えガリオンがLV.91の猛者であっても、暴虐の破龍のレベルには到達しない。
「GYAOOOOHHHHHHHHHH!」
破龍が吠えた。
衝撃波のような咆哮が大気を震わせる。
ガリオンが動く、同時にヴェンテゴの尻尾も動いた。鞭のようにしなり向かってくる尻尾を避けて跳び上がり、ヴェンテゴの胴体に赤い輝きを放つ両手斧を叩きつける。他のモンスターであれば一撃で叩き切れただろう。
だが──鋼の硬さを持つ甲虫さえも、一撃で叩き切る斧が弾かれた。
ヴェンテゴの皮膚は違う。全身を包む灰色の鱗は強靭であり、一切の刃を通さない。例えそれが魔力で強化された剣や斧であってもだ。ヴェンテゴの鱗は魔力で強化された"強化装甲鱗”なのだから。
僕がヴェンテゴを嫌うのは、こいつの凄まじい防御力が苦手だからだ。刃を通さない鱗、全身に魔法防御が施されたスケールメイルを纏ったティラノサウルスなんて、誰だって相手したくない。
それでもガリオンは健闘している。両手斧が斬りつけられた鱗が、損傷を受けているのだ。断ち切る事はできずとも、拉げたり剥がれ落ちたりしている。それだけガリオンは優秀な戦士だと云えた。
「このバケモノがぁ!!」
仲間が殺され、多少冷静さを欠いているのか、攻撃そのものはかなり荒っぽいが、無難にヴェンテゴからの攻撃を避けていた。
「迂闊に近づくな!こいつはでかいくせにやたらと動きが早い。」
ガリオンから檄が飛ぶ。
ガリオンと同じチームだった三人が、アリサ達が来たことを知り、威勢を上げて飛び込んでいく。
ドワーフのドリル機槍とは異なる、柄の部分が太く先端が3つに別れた槍、巨大な大剣、そしてアリサと同じ機械弩弓、それぞれが攻撃を開始した。
だがガリオンの一撃とは異なり、三叉の長槍の一撃も、大剣も効かない。多少は衝撃を与えているのかもしれないが、ヴェンテゴの鎧を剥がすことも貫くこともできていない。
そして機械弩弓から放たれる鉄の弾丸も、微かに衝撃を与えるだけだった。
かれらの武器は効かないのだ。なぜならレベルが違い過ぎる。
《名前: ヴェンテゴ 種族: 破龍種 Lv.118
生命力: 26,892 魔力: 522》
あのヴェンテゴは、LV.100を超えているんだ。僕が見た中でも最大レベルと言える。それはそのまま奴の強さに繋がる。
ガリオン達の武器も、僅かな衝撃を与え、微かなダメージを与える程度でしか無い。
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