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第五夜 僕、街へ行く
《05-5》
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††
母さん、うちにも昔は猫がいましたね。綺麗な三毛猫だったと記憶しています。母さんはあまり好きではなかったようですが、僕はいつも猫と遊んでいた、と記憶してます。僕は特にあのフワフワとしてくねくねと動く尻尾が好きで、嫌がるのも構わずいじくり回していたような気がします。懐かしいです。
住み慣れたアルス山脈を背に、しんしんと降る雪の中を黒い巨馬に引かれた馬車が離れていく。
長いようで短かった3年。もし僕が普通に学校にいってたら、年が明け……明けるというか、明けたのか知らないけど、次の春には高校生なのかな。
かな?
100年以上眠ってたんだから、あれ?もうわかんないや。
ともかく、僕は多分高校一年生ってところだ。うん、それでいい、わけわかんないからそれで終了。
さて夜の雪原を奔り出した馬車は、およそ一昼夜で街に到着するという。普通の馬車なら2日ほどは掛かるらしいが、ブリオンという馬は体力があり、速度も早い。それに疲れ知らずと着ている。
云われて馬車から顔を出し、ブリオンを見ると、見ればみるほど大きな馬だ。でも僕の背丈の三倍はあるモンスターが、大人しく馬車を引いているのが僕には信じられない。
ビャクはメトゥ・シと契約したモンスターだからおとなしいけど、なんでこのブリオンが黙って倭人に従っているのか、ちょっと理解できない。あとで聞いてみよう。今はガリオンも安堵で疲れが来たのか、眠ってしまっている。
僕だってちょっと眠い。もう太陽は隠れているし、いつもだったらビャクの毛皮に包まってぬくぬくしながら寝ている頃だ。
気を張って頑張ってるのは、アリサただ一人だ。
どこまでも続く雪道は御者台に付けられたカンテラの僅かな明かりだけでも、 月明かりを雪が反射して十分に夜道を照らし出していた。そもそもこの巨馬がモンスター種でなら夜目も効くはずだから、夜の道も問題は無いのだろう。
御者台で手綱を握り巨馬を操るアリサは、ポンチョのような体をすっぽりと包む白いマントで体を覆い、吹き付けてくる風雪を凌いでいる。
「寒くないの?」
僕は幌の中から顔を出して、アリサに聞いてみた。
「ふふ、大丈夫だよ。」
アリサはこくりと頷いて応えた。
僕もアリサに借りたポンチョ風マントを羽織っている。確かにこのマントは温かい。どのような布で作られているのか知らないが、防寒機能に優れているとか言ってた。
外気の寒さを遮断し、体温を逃さない作りのようで、いつもの毛皮より格段に暖かい。
「このマントを羽織ってれば、寒さを遮断してくれるからね。」
笑みを浮かべてアリサは応える。
このマントも魔晶石が付いてるのかな、まあいいや。それよりも、あれは……
僕の目の前、御者台に座るアリサのお尻の辺りで、ゆらゆらと揺れ動く物があるんだ。マントからはみ出たそれは、獣毛に覆われた尻尾だ。
「……尻尾」
倭人はみんな獣耳と尻尾を持っている。男も女もだ。いつもは遠くから眺めているだけだけど、こんな近くで見るのは初めてだな。
僕の目の前には茶色の獣毛に覆われ、左右にうねうねと揺らめく尻尾がある。僕はそれをじっと凝視していた。
馬車に乗る前はドワーフを背負っていたり、雪道を急いでいたこともあるので、ついつい無視していたが、いまはゆっくりと観察できる。
獣の耳に尻尾とか、種族は倭人だけど、人というよりも獣人といった方が合ってないかな?
ふ~んと考えていると、馬車の揺れと共に左右に揺れる茶色い毛に覆われた尻尾が妙に気になる。
なんか面白いな。くねくねゆらゆらくねくねと。つい手を伸ばし、きゅっと握ってみた。
あああ、フワフワだぁぁ~~~♪
思わず頬ずりっ♪
すりすり~~♪
はぁ~~フワフワでビャクみたぃ~♪
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「え」
僕が至福を堪能してると、アリサが変な声を発した。
どうしたのかと顔をあげる間もなく、馬車が左右に蛇行して急停止してしまった。思わず前のめりになった僕は、ついアリサの体というか、お尻に抱き着いてしまった。
ぷりんとしてて、意外にボリューミー。
「な、なんだ、襲撃かっ!」
ガリオンが起きちゃった、それにアリサが顔を真っ赤にして振り向くと
「こ、このバカタレぇぇぇ!!」
頭に拳骨が落ちた。
ゴスッ!!
うえぇ、それもかなり思い切りだ。
「ぃてぇぇ!」
流石に痛い。アリサって、腕力もかなり強いっぽい。
「し、尻尾を断りも無く握るなぁぁ!」
顔を赤くしたアリサが、涙目で怒鳴っている。
「何事だ、アリサ。」
「んな、なんでもなぁい!」
ガリオンに向けて怒鳴ると、再びキッと睨みつけられた。
「…尻尾……ふっ、なるほどな。」
ガリオンがアリサと僕を見て、察したように苦笑すると、またゴロリと横になった。
「ご、ごめん……」
尻尾を握るのは失礼なことだったのか。知らなかったごめん。
アリサから離れて、まだ感触が残っている手を見つめた。握った感触はビャクに似てた。いや、この感触は山の中腹に棲むフロストウルフが丁度そっくりかも知れない。
「いいっ、二度と触るな、触ったら撃ち殺すからな!」
うわ、マジで殺気立ってる。まて、短機関銃を向けるなぁ!!
「はいっ。」
てかそこまで怒らなくてもよくない?
尻尾を握ったのがそんなに悪いことなのかなぁ。殺気を込めて怒らないで欲しいよ。目の前でふさふさした物がくねくねと動いてたら、握りたくなるよね。
はぁ……
まだ怒ってるかな……チラッ
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母さん、うちにも昔は猫がいましたね。綺麗な三毛猫だったと記憶しています。母さんはあまり好きではなかったようですが、僕はいつも猫と遊んでいた、と記憶してます。僕は特にあのフワフワとしてくねくねと動く尻尾が好きで、嫌がるのも構わずいじくり回していたような気がします。懐かしいです。
住み慣れたアルス山脈を背に、しんしんと降る雪の中を黒い巨馬に引かれた馬車が離れていく。
長いようで短かった3年。もし僕が普通に学校にいってたら、年が明け……明けるというか、明けたのか知らないけど、次の春には高校生なのかな。
かな?
100年以上眠ってたんだから、あれ?もうわかんないや。
ともかく、僕は多分高校一年生ってところだ。うん、それでいい、わけわかんないからそれで終了。
さて夜の雪原を奔り出した馬車は、およそ一昼夜で街に到着するという。普通の馬車なら2日ほどは掛かるらしいが、ブリオンという馬は体力があり、速度も早い。それに疲れ知らずと着ている。
云われて馬車から顔を出し、ブリオンを見ると、見ればみるほど大きな馬だ。でも僕の背丈の三倍はあるモンスターが、大人しく馬車を引いているのが僕には信じられない。
ビャクはメトゥ・シと契約したモンスターだからおとなしいけど、なんでこのブリオンが黙って倭人に従っているのか、ちょっと理解できない。あとで聞いてみよう。今はガリオンも安堵で疲れが来たのか、眠ってしまっている。
僕だってちょっと眠い。もう太陽は隠れているし、いつもだったらビャクの毛皮に包まってぬくぬくしながら寝ている頃だ。
気を張って頑張ってるのは、アリサただ一人だ。
どこまでも続く雪道は御者台に付けられたカンテラの僅かな明かりだけでも、 月明かりを雪が反射して十分に夜道を照らし出していた。そもそもこの巨馬がモンスター種でなら夜目も効くはずだから、夜の道も問題は無いのだろう。
御者台で手綱を握り巨馬を操るアリサは、ポンチョのような体をすっぽりと包む白いマントで体を覆い、吹き付けてくる風雪を凌いでいる。
「寒くないの?」
僕は幌の中から顔を出して、アリサに聞いてみた。
「ふふ、大丈夫だよ。」
アリサはこくりと頷いて応えた。
僕もアリサに借りたポンチョ風マントを羽織っている。確かにこのマントは温かい。どのような布で作られているのか知らないが、防寒機能に優れているとか言ってた。
外気の寒さを遮断し、体温を逃さない作りのようで、いつもの毛皮より格段に暖かい。
「このマントを羽織ってれば、寒さを遮断してくれるからね。」
笑みを浮かべてアリサは応える。
このマントも魔晶石が付いてるのかな、まあいいや。それよりも、あれは……
僕の目の前、御者台に座るアリサのお尻の辺りで、ゆらゆらと揺れ動く物があるんだ。マントからはみ出たそれは、獣毛に覆われた尻尾だ。
「……尻尾」
倭人はみんな獣耳と尻尾を持っている。男も女もだ。いつもは遠くから眺めているだけだけど、こんな近くで見るのは初めてだな。
僕の目の前には茶色の獣毛に覆われ、左右にうねうねと揺らめく尻尾がある。僕はそれをじっと凝視していた。
馬車に乗る前はドワーフを背負っていたり、雪道を急いでいたこともあるので、ついつい無視していたが、いまはゆっくりと観察できる。
獣の耳に尻尾とか、種族は倭人だけど、人というよりも獣人といった方が合ってないかな?
ふ~んと考えていると、馬車の揺れと共に左右に揺れる茶色い毛に覆われた尻尾が妙に気になる。
なんか面白いな。くねくねゆらゆらくねくねと。つい手を伸ばし、きゅっと握ってみた。
あああ、フワフワだぁぁ~~~♪
思わず頬ずりっ♪
すりすり~~♪
はぁ~~フワフワでビャクみたぃ~♪
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「え」
僕が至福を堪能してると、アリサが変な声を発した。
どうしたのかと顔をあげる間もなく、馬車が左右に蛇行して急停止してしまった。思わず前のめりになった僕は、ついアリサの体というか、お尻に抱き着いてしまった。
ぷりんとしてて、意外にボリューミー。
「な、なんだ、襲撃かっ!」
ガリオンが起きちゃった、それにアリサが顔を真っ赤にして振り向くと
「こ、このバカタレぇぇぇ!!」
頭に拳骨が落ちた。
ゴスッ!!
うえぇ、それもかなり思い切りだ。
「ぃてぇぇ!」
流石に痛い。アリサって、腕力もかなり強いっぽい。
「し、尻尾を断りも無く握るなぁぁ!」
顔を赤くしたアリサが、涙目で怒鳴っている。
「何事だ、アリサ。」
「んな、なんでもなぁい!」
ガリオンに向けて怒鳴ると、再びキッと睨みつけられた。
「…尻尾……ふっ、なるほどな。」
ガリオンがアリサと僕を見て、察したように苦笑すると、またゴロリと横になった。
「ご、ごめん……」
尻尾を握るのは失礼なことだったのか。知らなかったごめん。
アリサから離れて、まだ感触が残っている手を見つめた。握った感触はビャクに似てた。いや、この感触は山の中腹に棲むフロストウルフが丁度そっくりかも知れない。
「いいっ、二度と触るな、触ったら撃ち殺すからな!」
うわ、マジで殺気立ってる。まて、短機関銃を向けるなぁ!!
「はいっ。」
てかそこまで怒らなくてもよくない?
尻尾を握ったのがそんなに悪いことなのかなぁ。殺気を込めて怒らないで欲しいよ。目の前でふさふさした物がくねくねと動いてたら、握りたくなるよね。
はぁ……
まだ怒ってるかな……チラッ
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