悪役令嬢の長所はスタイルだけってあんまりですのよ!

神楽坂ゆい

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 王立アストリア学園は、貴族子女が集う格式高い学び舎。その庭園を歩くだけでも、高貴な花の香りが漂ってくる。

「……また、あれこれ言われているみたいね」

 

 伯爵令嬢レナータ・アロイスは、学園で“悪役令嬢”として知られている。
 その理由は単純だ。彼女が王太子ジルベール・フォン・クラレンス殿下の婚約者でありながら、噂によると公爵令嬢アメリア・ローゼンベルグをいびっているという。さらに高慢でわがままだと、あちこちで囁かれているのだ。

「お嬢様、そんな噂、気にする必要ございませんわ」

 

 レナータの側を歩くのは、幼いころから仕えている専属メイド、マリアナだ。彼女は有能で、いつも毅然とした態度でレナータを支えている。

「気にしていないわけではないけれど、事実と違うことばかりなのよね」

 

 実際のレナータは、理不尽な嫌がらせなど一度もしたことがない。
 むしろ、あまり余計な干渉をしないようにしているのだが、なぜか“悪女”のレッテルを貼られてしまっている。

「殿下との婚約も、私が取り立てて望んだわけではないのに。気づけば周囲が決めていた話よ」

 

 レナータにとって最初は憧れの王太子だったが、ほとんど顔を合わせる機会がなく、気づけば彼女に向けられる噂だけが膨れ上がっていた。

「お嬢様の真価をわかってくれないなんて、もったいないお話ですわ」

 

 マリアナが言葉を添えると、レナータはわずかに微笑んだ。
 しかしその笑みはどこか自嘲めいていて、いつもの堂々とした様子とは違う印象だ。

「私にも……何か取り柄があれば、もう少し胸を張れるのに。美しいわけでもない、魔法の才能が突出しているわけでもない。私のいいところって、何かしら?」

 

 自問するレナータだが、周囲を見渡せばもっと優秀な令嬢や華のある少女が多い。特に“ヒロイン”と呼ばれている公爵令嬢アメリアは、天使のごとき美貌で評判を集めている。

「レナータ様は、ご自分の良さに気づいていないだけです。例えば、スタイルの良さなど……」

 

 不意にマリアナが口を滑らせた瞬間、レナータは思わず立ち止まった。
 スタイル――あまりほめられる機会のないレナータだが、その点だけは兄や周囲からも評価された記憶がある。

「スタイル……確かに、ドレスを着ると似合うと褒められたことがあったわね」

 

 思いがけないキーワードが脳裏に焼き付く。
 美というと、ただ顔立ちだけが注目されがちだ。しかし、体型や姿勢、艶やかな髪や肌も、立派な“美”の要素だ。

「もしかして……私、そこを伸ばせばいいのかも?」

 

 レナータの瞳に微かな光が差す。
 “悪役令嬢”の運命に流されるだけではつまらない。まずは自分を磨く――いっそ徹底的に“美”を目指すのはどうだろうか。

「マリアナ、手伝って。私、本気で自分の強みを探したいの」

 

 その瞬間、レナータの胸には小さな炎が灯る。
 王太子の婚約者である以前に、自分自身を好きになるための挑戦を始めようと、心の中で強く決意したのだった。
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