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「ライナス殿下、少々お時間をいただけますか」
王宮の廊下で足を止めたアレクシスが、兄であるライナスに声をかける。
ライナスは不愉快そうに眉を寄せ、振り向いた。
「アレクシスか。……何だ、今は急いでいるんだが」
「手短に済ませます。兄上はセシリアを誤解している。彼女が行ってきた善行の数々や、最近の不正疑惑に関しても根拠に乏しい」
アレクシスの直球の指摘に、ライナスは険悪な表情を深める。
周囲には側近や護衛の騎士がいるが、空気は張り詰めていた。
「善行だと? バカバカしい。あれは悪役令嬢と噂されるような女だ。俺が何度も見てきた傲慢な態度を忘れたわけではないぞ」
「兄上は、その“悪役”の顔しか見ていない。周りの声に流され、マーガレットたちが広めた悪評を鵜呑みにしているだけだ」
ライナスの目がカッと見開く。
まさかアレクシスからマーガレットを名指しで非難されるとは思っていなかったのだろう。
「マーガレットは俺を支えてくれている。セシリアのように態度が悪い令嬢とは違う」
「ですが、そのマーガレットが裏でセシリアを陥れるための工作をしている可能性があります。改ざんされた文書についても、彼女の関与が疑われる」
「勝手な憶測を言うな!」
ライナスは声を荒げる。
周囲の人々が驚いたように目を向けるが、アレクシスは臆せず言葉を重ねる。
「僕には確証を得るための証拠が集まりつつある。そろそろ兄上も“セシリアの悪評”を盲信するのはやめたほうがいい」
「アレクシス、貴様こそセシリアに騙されているのではないのか。あの女は卑劣な手を使って第三王子を取り込もうとしているのだろう」
「彼女にはそんなことを考える余裕すらない。家門を守るために、あえて悪役を演じているだけだ」
ライナスはその言葉に軽く鼻を鳴らすが、その目はどこか揺れている。
今まで自信満々に否定していたが、アレクシスの強い口調に、一瞬だけ動揺を見せた。
「……だとしても、俺は信じない。もう婚約は解消したのだ。いまさら彼女が清廉潔白だとして、何になる」
「兄上は、王太子としての責任を考えてください。セシリアを誤解したまま切り捨てれば、周囲の貴族たちに与える影響は大きい」
アレクシスがそう警告すると、ライナスは煩わしそうに頭を掻く。
彼もまた、この状況が複雑になっていることを感じているのだ。
「……わかった。これ以上騒ぎを大きくしたくない。マーガレットの話も一度吟味しよう」
「ありがとうございます。これだけは言っておきますが、セシリアが本当に悪いなら、僕も彼女を庇ったりはしない。しかし、真実が違うのだとしたら――」
「もういい。わかったといっている」
苛立ちを抑えるようにライナスが手を振り下ろし、その場を去ろうとする。
アレクシスは黙って見送るしかなかったが、少なくとも兄に疑念を投げかけることはできた。
(これで少しはマーガレットを信じ切ることもないだろう。あとは証拠を示し、セシリアの潔白を明らかにするだけだ)
アレクシスは小さく息をつき、廊下の先へ歩み出す。
セシリアを救うための準備は、着々と進んでいる。
しかし、その裏ではマーガレットの陰謀がさらに形を帯びつつあった。
王宮の廊下で足を止めたアレクシスが、兄であるライナスに声をかける。
ライナスは不愉快そうに眉を寄せ、振り向いた。
「アレクシスか。……何だ、今は急いでいるんだが」
「手短に済ませます。兄上はセシリアを誤解している。彼女が行ってきた善行の数々や、最近の不正疑惑に関しても根拠に乏しい」
アレクシスの直球の指摘に、ライナスは険悪な表情を深める。
周囲には側近や護衛の騎士がいるが、空気は張り詰めていた。
「善行だと? バカバカしい。あれは悪役令嬢と噂されるような女だ。俺が何度も見てきた傲慢な態度を忘れたわけではないぞ」
「兄上は、その“悪役”の顔しか見ていない。周りの声に流され、マーガレットたちが広めた悪評を鵜呑みにしているだけだ」
ライナスの目がカッと見開く。
まさかアレクシスからマーガレットを名指しで非難されるとは思っていなかったのだろう。
「マーガレットは俺を支えてくれている。セシリアのように態度が悪い令嬢とは違う」
「ですが、そのマーガレットが裏でセシリアを陥れるための工作をしている可能性があります。改ざんされた文書についても、彼女の関与が疑われる」
「勝手な憶測を言うな!」
ライナスは声を荒げる。
周囲の人々が驚いたように目を向けるが、アレクシスは臆せず言葉を重ねる。
「僕には確証を得るための証拠が集まりつつある。そろそろ兄上も“セシリアの悪評”を盲信するのはやめたほうがいい」
「アレクシス、貴様こそセシリアに騙されているのではないのか。あの女は卑劣な手を使って第三王子を取り込もうとしているのだろう」
「彼女にはそんなことを考える余裕すらない。家門を守るために、あえて悪役を演じているだけだ」
ライナスはその言葉に軽く鼻を鳴らすが、その目はどこか揺れている。
今まで自信満々に否定していたが、アレクシスの強い口調に、一瞬だけ動揺を見せた。
「……だとしても、俺は信じない。もう婚約は解消したのだ。いまさら彼女が清廉潔白だとして、何になる」
「兄上は、王太子としての責任を考えてください。セシリアを誤解したまま切り捨てれば、周囲の貴族たちに与える影響は大きい」
アレクシスがそう警告すると、ライナスは煩わしそうに頭を掻く。
彼もまた、この状況が複雑になっていることを感じているのだ。
「……わかった。これ以上騒ぎを大きくしたくない。マーガレットの話も一度吟味しよう」
「ありがとうございます。これだけは言っておきますが、セシリアが本当に悪いなら、僕も彼女を庇ったりはしない。しかし、真実が違うのだとしたら――」
「もういい。わかったといっている」
苛立ちを抑えるようにライナスが手を振り下ろし、その場を去ろうとする。
アレクシスは黙って見送るしかなかったが、少なくとも兄に疑念を投げかけることはできた。
(これで少しはマーガレットを信じ切ることもないだろう。あとは証拠を示し、セシリアの潔白を明らかにするだけだ)
アレクシスは小さく息をつき、廊下の先へ歩み出す。
セシリアを救うための準備は、着々と進んでいる。
しかし、その裏ではマーガレットの陰謀がさらに形を帯びつつあった。
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