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ルーファット王国の王宮、聡明で恐ろしく美形で麗しいといわれる王太子リンゼイはイライラとしながら歩いていた。
濡れたような漆黒の髪に紫紺の瞳、整いすぎて冷たい印象を与える顔は普段は甘やかな微笑を貼り付け理想の王子そのものであるが、その時はすれ違う王宮関係者が震え上がる程の冷気を醸していた。
午後の政務も粗方終えた休憩中に、母である王妃から呼び出され、婚約者の妃教育が全く進んでいない事を告げられたのだ。婚約者の話の節々から遅れているであろう事は予想していたが、母から告げられたのは予想を遥かに上回っていた。
今日も登城していると言われて、婚約者が講義を受けているはずの部屋を訪れると、講師しかおらず、婚約者は一時間程前に休憩に部屋を出たまま戻ってきていないと困り果てていたのだ。
政務に戻る道すがら婚約者の姿を探すリンゼイが歩く庭園を横切る渡り廊下から、庭園にいる婚約者の姿が見えた。
リンゼイの婚約者は、マリアンヌというスカーレット侯爵家の次女で、リンゼイが十二歳マリアンヌが十歳の時に婚約を結んだ。
可愛らしく無邪気だったマリアンヌは、そのまま可愛らしく華やかに成長し、今は十六歳になっている。
腰まである長いストロベリーブロンドをふんわりと軽く巻き、真っ白な肌に薄い空色の瞳の大きな目にグロスで艶めいた桜色の唇、華やかに見えながらも小柄で華奢な身体がどこか儚げな雰囲気を醸し出していた。
仲の良い取り巻きの令嬢達と庭園の隅で賑やかにしていて、マリアンヌはいつものように朗らかに華やかな笑いを振り撒いていた。
リンゼイはイライラと溜め息を吐きながらその庭園へと近づいていく。
近づくとその令嬢達の中に一人、飾り気のない質素なドレスを着た令嬢?がいる事に気づいた。
言葉がはっきりと聞き取れる距離まで近づくと、どうやら令嬢達がその令嬢?を嘲笑しているらしいと把握した。
地味だの愚鈍だのマナーも教養もない出来損ないといった言葉が聞こえる。マリアンヌはそれを聞きながら楽しそうに朗らかに笑っているのだった。
「随分と楽しそうにしているが、マリアンヌ、君は妃教育の途中だろう。母が全く進んでいないと嘆いていたが?」
令嬢達の背後から声を掛けると、マリアンヌがハッとしたように振り返ってリンゼイに駆け寄ってくると腕にしがみついた。
「ごめんなさい。お姉様が王宮に来たいと我儘を言われて案内をさせられていたんですぅ。すぐに戻りますわ」
目をウルウルとさせながらマリアンヌが甘えた声で言うと、取り巻きの令嬢達が口々にヒソヒソと、「マリアンヌ様に迷惑を掛けるなんて、本当に我儘な出来損ないですわよね」「王太子殿下の婚約者であるマリアンヌ様の手を煩わせるなんて」などと言っている。
「そんな事はいいから、マリアンヌは早く戻って君たちも早く帰るんだ」
リンゼイはさりげなくマリアンヌから手を振りほどくと、マリアンヌは「また後でお部屋にお伺いしますわね」と言って取り巻き達と立ち去っていった。
その間もずっと俯いたまま佇んでいた令嬢?は、顔を伏せたまま深く頭を下げると逃げるように足早に去っていった。
お姉様が我儘を、とマリアンヌは言っていたが、そうではないのであろう事はリンゼイは察していた。
俯いていたブルーブロンドの令嬢?がマリアンヌの姉、平民の使用人でももっと質のいい服を着ているのではないかと思うようなドレスを着た令嬢、そういえば一度もマリアンヌの姉を見た事がなかったな、と思いながら去っていく後ろ姿を見ながらリンゼイも執務室へと帰っていった。
濡れたような漆黒の髪に紫紺の瞳、整いすぎて冷たい印象を与える顔は普段は甘やかな微笑を貼り付け理想の王子そのものであるが、その時はすれ違う王宮関係者が震え上がる程の冷気を醸していた。
午後の政務も粗方終えた休憩中に、母である王妃から呼び出され、婚約者の妃教育が全く進んでいない事を告げられたのだ。婚約者の話の節々から遅れているであろう事は予想していたが、母から告げられたのは予想を遥かに上回っていた。
今日も登城していると言われて、婚約者が講義を受けているはずの部屋を訪れると、講師しかおらず、婚約者は一時間程前に休憩に部屋を出たまま戻ってきていないと困り果てていたのだ。
政務に戻る道すがら婚約者の姿を探すリンゼイが歩く庭園を横切る渡り廊下から、庭園にいる婚約者の姿が見えた。
リンゼイの婚約者は、マリアンヌというスカーレット侯爵家の次女で、リンゼイが十二歳マリアンヌが十歳の時に婚約を結んだ。
可愛らしく無邪気だったマリアンヌは、そのまま可愛らしく華やかに成長し、今は十六歳になっている。
腰まである長いストロベリーブロンドをふんわりと軽く巻き、真っ白な肌に薄い空色の瞳の大きな目にグロスで艶めいた桜色の唇、華やかに見えながらも小柄で華奢な身体がどこか儚げな雰囲気を醸し出していた。
仲の良い取り巻きの令嬢達と庭園の隅で賑やかにしていて、マリアンヌはいつものように朗らかに華やかな笑いを振り撒いていた。
リンゼイはイライラと溜め息を吐きながらその庭園へと近づいていく。
近づくとその令嬢達の中に一人、飾り気のない質素なドレスを着た令嬢?がいる事に気づいた。
言葉がはっきりと聞き取れる距離まで近づくと、どうやら令嬢達がその令嬢?を嘲笑しているらしいと把握した。
地味だの愚鈍だのマナーも教養もない出来損ないといった言葉が聞こえる。マリアンヌはそれを聞きながら楽しそうに朗らかに笑っているのだった。
「随分と楽しそうにしているが、マリアンヌ、君は妃教育の途中だろう。母が全く進んでいないと嘆いていたが?」
令嬢達の背後から声を掛けると、マリアンヌがハッとしたように振り返ってリンゼイに駆け寄ってくると腕にしがみついた。
「ごめんなさい。お姉様が王宮に来たいと我儘を言われて案内をさせられていたんですぅ。すぐに戻りますわ」
目をウルウルとさせながらマリアンヌが甘えた声で言うと、取り巻きの令嬢達が口々にヒソヒソと、「マリアンヌ様に迷惑を掛けるなんて、本当に我儘な出来損ないですわよね」「王太子殿下の婚約者であるマリアンヌ様の手を煩わせるなんて」などと言っている。
「そんな事はいいから、マリアンヌは早く戻って君たちも早く帰るんだ」
リンゼイはさりげなくマリアンヌから手を振りほどくと、マリアンヌは「また後でお部屋にお伺いしますわね」と言って取り巻き達と立ち去っていった。
その間もずっと俯いたまま佇んでいた令嬢?は、顔を伏せたまま深く頭を下げると逃げるように足早に去っていった。
お姉様が我儘を、とマリアンヌは言っていたが、そうではないのであろう事はリンゼイは察していた。
俯いていたブルーブロンドの令嬢?がマリアンヌの姉、平民の使用人でももっと質のいい服を着ているのではないかと思うようなドレスを着た令嬢、そういえば一度もマリアンヌの姉を見た事がなかったな、と思いながら去っていく後ろ姿を見ながらリンゼイも執務室へと帰っていった。
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