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魔法捜査課・過去の事件簿
(3)ランチタイム
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「レストランの事件を読み返してたら腹が空いてきたな」
アーネットは新調した時計を見る。午前11時28分を回ったところだった。
「レストランまで歩けば丁度いい時間になるんじゃないか」
そう言ってナタリーの顔を見る。要するに、賭けに負けたのだから約束どおり昼食代をおごれ、と言っているのだ。ナタリーは口を横一文字に結んで睨みつけた。
「次はそっちがおごる番だからね」
全く何も考えていなかった。ナタリー・イエローライト巡査と、アーネット・レッドフィールド巡査部長が二人だけでレストランで食事をするという意味を。
昼食と賭けの罰ゲームのノルマを消化するだけのつもりで、レストラン「アズライト」にやって来て席を取った二人は、そこでようやく周りから見るとデートに見えない事もない、と気が付いたのだ。
しかし互いにいい大人であるし、明らかに仕事のスーツを着ているので、単に外回り中に食事をしている風にしか見えないだろう、とタカをくくって、とりあえず運ばれてきたスコッチ・エッグにナイフを入れる。
「なんでわざわざこの店を選んだ」
アーネットはナタリーが決めた店が、そんなに安くない店である事を意外に思って訊ねた。値段だけではなく、もう一つ別な意味もある。ナタリーの返答は、素っ気なくもあり、鋭くもあった。
「安いものをおごるのは私のプライドが許さないからよ」
「なんかそういうの、変わらないな」
そうアーネットに言われて、ナタリーは小さく咳払いしつつビールで喉を潤した。
「それと」
グラスを置くと、少しだけ間を挟んでナタリーは言った。
「昔を思い出すのも、そんな悪い事じゃないわ」
そう言われて、アーネットに返す言葉はなかった。同じようにビールを傾け、窓の外に広がる空を眺める。
「食事っていえば、ブルーとジリアンってどういう食事したんだろうな」
アーネットが言うのは、ブルー達が先日デートに出かけた日の事を指していた。昼食代にささやかな資金援助をしたが、果たしてどういう店を選んだだろう。
「あの二人の事だから、屋台で買って公園とかで食べてたんじゃない?」
「そもそも、どういうデートコースだったと思う?」
「それよ。デート中に背中を壁に強打するってどういう事よ。私はまずそれを訊きたいわ」
デートの内容を全く知らない大人たちは、ブルーが職場に復帰したらデートの内容をきっちり報告させる、という方針で意見の一致をみた。
「なんか、あの二人って初々しくていいよな」
「アーネット。あなた最近、言動が本格的に親戚のおじさん化してるわ」
ナタリーは、新たに運ばれてきたポークステーキを口に入れながらアーネットを見る。
「それを言うなら、君だってブルーの学校の先生じみてきてるぞ。気付いてるかどうか知らんが」
「……」
実を言うと、少しだけ自覚はあるナタリーだった。小うるさい事は言いたくないのだが、ブルーを見ているとつい「指導」を入れがちになる。自分としては「素敵なお姉さん」のつもりで振舞いたいのだが、現実には学校の先生である。
「ちょっと、味が変わったかな」
アーネットは、小さめの声で言った。給仕に聞かれたら気まずい。
「最後に来たのは…」
そう言って、アーネットは押し黙ってしまった。ナタリーも同様である。
「変わるものよ、何だって」
先に口を開いたのはナタリーだった。
「元に戻る事だってあるさ」
「そうかしら」
「確証はないけどな」
捜査中の口癖を言われて、ナタリーは小さく笑った。
「そうね。確証なんてないわ」
デザートのプディングを片付け、甘ったるくなった舌をコーヒーで整えると、約束どおりナタリーが会計をして、二人はレストラン・アズライトを出た。女性が男性の分まで支払う事に、給仕は若干驚いていたようだった。
アーネットは新調した時計を見る。午前11時28分を回ったところだった。
「レストランまで歩けば丁度いい時間になるんじゃないか」
そう言ってナタリーの顔を見る。要するに、賭けに負けたのだから約束どおり昼食代をおごれ、と言っているのだ。ナタリーは口を横一文字に結んで睨みつけた。
「次はそっちがおごる番だからね」
全く何も考えていなかった。ナタリー・イエローライト巡査と、アーネット・レッドフィールド巡査部長が二人だけでレストランで食事をするという意味を。
昼食と賭けの罰ゲームのノルマを消化するだけのつもりで、レストラン「アズライト」にやって来て席を取った二人は、そこでようやく周りから見るとデートに見えない事もない、と気が付いたのだ。
しかし互いにいい大人であるし、明らかに仕事のスーツを着ているので、単に外回り中に食事をしている風にしか見えないだろう、とタカをくくって、とりあえず運ばれてきたスコッチ・エッグにナイフを入れる。
「なんでわざわざこの店を選んだ」
アーネットはナタリーが決めた店が、そんなに安くない店である事を意外に思って訊ねた。値段だけではなく、もう一つ別な意味もある。ナタリーの返答は、素っ気なくもあり、鋭くもあった。
「安いものをおごるのは私のプライドが許さないからよ」
「なんかそういうの、変わらないな」
そうアーネットに言われて、ナタリーは小さく咳払いしつつビールで喉を潤した。
「それと」
グラスを置くと、少しだけ間を挟んでナタリーは言った。
「昔を思い出すのも、そんな悪い事じゃないわ」
そう言われて、アーネットに返す言葉はなかった。同じようにビールを傾け、窓の外に広がる空を眺める。
「食事っていえば、ブルーとジリアンってどういう食事したんだろうな」
アーネットが言うのは、ブルー達が先日デートに出かけた日の事を指していた。昼食代にささやかな資金援助をしたが、果たしてどういう店を選んだだろう。
「あの二人の事だから、屋台で買って公園とかで食べてたんじゃない?」
「そもそも、どういうデートコースだったと思う?」
「それよ。デート中に背中を壁に強打するってどういう事よ。私はまずそれを訊きたいわ」
デートの内容を全く知らない大人たちは、ブルーが職場に復帰したらデートの内容をきっちり報告させる、という方針で意見の一致をみた。
「なんか、あの二人って初々しくていいよな」
「アーネット。あなた最近、言動が本格的に親戚のおじさん化してるわ」
ナタリーは、新たに運ばれてきたポークステーキを口に入れながらアーネットを見る。
「それを言うなら、君だってブルーの学校の先生じみてきてるぞ。気付いてるかどうか知らんが」
「……」
実を言うと、少しだけ自覚はあるナタリーだった。小うるさい事は言いたくないのだが、ブルーを見ているとつい「指導」を入れがちになる。自分としては「素敵なお姉さん」のつもりで振舞いたいのだが、現実には学校の先生である。
「ちょっと、味が変わったかな」
アーネットは、小さめの声で言った。給仕に聞かれたら気まずい。
「最後に来たのは…」
そう言って、アーネットは押し黙ってしまった。ナタリーも同様である。
「変わるものよ、何だって」
先に口を開いたのはナタリーだった。
「元に戻る事だってあるさ」
「そうかしら」
「確証はないけどな」
捜査中の口癖を言われて、ナタリーは小さく笑った。
「そうね。確証なんてないわ」
デザートのプディングを片付け、甘ったるくなった舌をコーヒーで整えると、約束どおりナタリーが会計をして、二人はレストラン・アズライトを出た。女性が男性の分まで支払う事に、給仕は若干驚いていたようだった。
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