最強と謳われた男、幼馴染に敗北す~魔王を倒した俺だったが、恋という感情が理解できないのは何故なのだろうか~

ガクーン

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恋に翻弄す

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 こうして家を追い出されたアイク。

 やはりまだミンファは来ていな……


「あっ、お客様。こちらへどうぞ」

 まさか、もう来ているのか……?


 先ほどのウェイトレスが戻ってきて、アイクを中へと案内する。


 オシャレとは程遠い俺でさえ、洒落ているなと感じる内装。

 カウンターとテーブルの2種類の席があり、俺が連れていかれたのは調理人を一望できるカウンター席側であった。


「……あれは」

 連れていかれた席には白いワンピース姿の女性が一人。


 トクン……

「何だ?」

 俺は女性の後ろ姿を見ながら心臓近くを手で押さえる。


 久方ぶりの心臓の鼓動を感じた。

 いつもは強敵との戦いの時に感じる事が多かった現象。


 俺の体が無意識に何かに備えろと警告を放っているのだろうか?


 アイクは周りを見渡す。

 危険な人物は見られない。その前に、魔王幹部レベルの敵じゃなければ俺の相手にはならんだろう。

 一応、警戒はしておこう。


「あれ? いつの間に来てたの?」

 その時。目の前にいた女性がアイクに気が付き、振り向く。


「っ! ミンファ……なのか?」

 いつもと違う雰囲気のミンファに呑まれるアイク。しかも、ミンファは普段しない化粧まで施しており、いつにもなく綺麗だと率直に感じた。


「もう、何言ってるの。私以外、あり得ないでしょ」

 彼女はふふっ、と笑う。


 トクン……トクン……

 またっ!

 先ほどよりも心臓の鼓動を繊細に感じ、動揺を見せる。


 ミンファの前だ。冷静にいかなければ。

 
「そ、そうだな」

「……変なの。ってか、そんな所に立ってないでこっちに座れば?」

「あ、あぁ」
 
 ミンファに誘導されるように隣の席に座る。


 いつも何を話していただろう。日常会話……というモノでも無かったし、ほとんどミンファから話題を振ってくれていたような気もする。

 二人は会話をすることなく、時は過ぎていく。

 そして、最初に沈黙を破ったのは。


「ねぇ、アイク」

「……なんだ」

「今日の私、どう?」

 アイクは言葉を詰まらせる。


 何故か言葉が出ない。

 ミンファはアイクの目をじっと見て、アイクの返答を待つ。


 ただ、いつも通りに返事をすればいいだけじゃないか。ただ、一言。綺麗だ、という言葉をかけるだけで。

 しかし、今のアイクにその言葉をかける勇気など持ち合わせていなかった。


「……ううん。何でもない。忘れて」

 ま、待て。

 ミンファは悲しそうに顔を逸らし、目の前にある飲み物に口を付ける。


 おい俺。一体どうしたんだ。何故ミンファの悲しむ姿を見て黙っている。

 何のために力を付けたと思ってるんだ。皆を守るため……いや、一番の理由は……

 その時。過去の思い出がよみがえる。


~~~

『ミンファ!』

『うぅ……アイク。お父さんが……お父さんが……』

 俺とミンファの父は既にこの世にいない。

 魔王の勢力に対抗する為の兵として戦場にかられ、とっくの昔に命を落としている。


 そうだ。この時。俺とミンファの父の訃報の知らせが届いた時に約束したんだ。


『……俺。決めたよ』

『……アイク?』

『強くなる。強くなって……君が笑っていられる世界を取り戻す』

『……ふふっ。何それ……』

 ミンファは枯れたであろう最後の涙を拭きとり。


『分かった。待ってる』

 アイクにとって忘れる事の出来ない、最高の笑みを浮かべてくれたあの時の笑顔を思い出す。


~~~

 彼女の笑顔を守るためにじゃないのか。


「ミンファ……俺」

 悲しそうなミンファを横顔を前に、アイクはようやく重い口を開こうとした瞬間。


「うわっ! この子。チョーかわいいじゃん」

「ホントだ!」

「ねぇ、お姉ちゃん。俺らと遊ばない?」

 横から3人組の男性がアイクを無視してミンファにちょっかいを出し始める。


「だ、誰? や、やめてください」

 ミンファは嫌そうに抵抗するが、3人は気にも留めず。


「いいじゃん。遊ぼうよ」

「あっちで俺達飲んでるから、一緒に……」

 相当飲んでいるようで、一人の男が無理やりミンファの手を握り、自分達への席へ連れて行こうとする。


「きゃあ、離して……」

 ミンファは抵抗するが男たちの方が力があり、このまま連れていかれるかと思われた時。


「おい」

「ほら、早くあっちに……」

 男の肩を掴み、無理やり動きを止めるアイク。


「イタッ! イタタタタ」

 すると男は痛そうに自分の肩を掴むアイクの手を掴み、引き離そうとする。


「おい! そいつに何を」

 もう一人の男は仲間を助けようとこぶしを握り、アイクに殴りかかる。


「お前らこそ。ミンファに何をしている」

 そんな攻撃をいとも容易く体を少し移動させるだけで避け、腹を殴る。


「ぐはっ!」

 その男は苦痛の表情で倒れ込み、もう一人のアイクに肩を掴まれた男は痛みからミンファの手を放し。


「やっと放したな」

 その瞬間、顔面にストレートをお見舞いする。


「ちっ! 何だよお前! お前こそこの子の何なんだよ!」

 仲間をやられ、我を失った3人目の男はアイクへと襲い掛かる。

 しかし、アイクは冷めた視線を送りながら避け様に男の頭を掴み。

「へっ?」

 男の体が円を描くように地面を離れ、アイクは男を地面へと叩きつけ。


「約束を誓い合った仲だ」

 言葉を吐き捨てる。


 その状況に周りの客は唖然。


 しまった。やり過ぎたか?

 ミンファの事でいっぱいいっぱいだったアイクはしでかした後に内心、焦り始める。

 
 くそっ。ミンファがいる前でやらかしてしま……

「兄ちゃん! よくやった!」

「かっこよかったよ!」

 アイクが想定していたのと反対に、周りから熱い歓声が飛び始める。


 この声は一体……っ! ミンファは?

 状況に混乱していたアイクは、ミンファの事が気になり後ろを振り向くと。


「んん……」

 顔を真っ赤にさせたミンファが両手で顔を覆っていた。


「……ミンファ? 顔が赤いぞ? それに怪我は……」

 さっきので怪我を負ったのか? 

 アイクはミンファの手を取り、怪我をしていないか体を確認してまわる。

 見たところ怪我は……


「だ、大丈夫だから!」

「しかし……」

 心配でミンファを見ていると。


「ちょっとだけ放っておいて」

「わ、分かった」

 これは本当に放っておいて欲しい時に見せる表情……やはり、やらかしてしまったか。


 顔を隠すミンファと、頭を抱えるアイク。


~ミンファの気持ち~

 もう、アイクの馬鹿……こんな所であんな恥ずかしい言葉……

『約束を誓い合った仲だ』

 だなんて……

 もう、バカバカバカ!


~一方のアイク~

 今から謝っても許してもらえるだろうか。

 いや、何かミンファの欲しいモノでも一緒に……

 しかし……

 すれ違う二人の感情。

 
『『『いや、この二人何してんの?』』』

 そして、客の二人に対しての呆れ。


 ミンファは真っ赤な顔を隠して体をもじもじとくねらせ。アイクはこの世の終わりだと言わんばかりに表情でその場を立ち尽くしている始末。

 こうして二人は心がすれ違ったまま、この場を後にするのだがそんな事、二人は知る由はないだろう。


 ここでもう一度言おう。最強の称号は『武』の頂に上った者のみ与えられるもの。そこまで到達するのに膨大な修行と折れない心が必要だ。

 だが、そんな者たちでさえ勝てないモノがある。


 それは……恋。

 そして世界最強と謳われる男、アイク・ゼルロック・シュタインもその例に漏れず、幼馴染のミンファに勝てない運命に生まれてきたのだ。



~終わり~
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