元RTA王者、異世界ダンジョンに挑戦す~前世の記憶を頼りにダンジョンを攻略していただけなのに、何故か周りが俺を放っておいてくれません~

ガクーン

文字の大きさ
1 / 18

ダンジョンRTA元王者。異世界に転生す

しおりを挟む
「よし! 手ごたえあり!」

 食い散らかされたカップラーメンの空容器やエナジードリンクが部屋のあちこちに散乱し、汚部屋と化している場所で、一人喜びの雄たけびを上げている者がいた。

「2100回目? それとも2101回目だったっけ? やり過ぎて覚えてないけど……過去一の走りなのは間違いない」

 確かな手ごたえを感じながら隈が濃い目をゴシゴシとこする、その男の名は冥利蓮。

 暗い部屋の中で2画面のモニターに顔を近づけ、デカデカとロード中と表示のある画面をこれでもかと凝視し、ゲームの記録を今か今かと待ちわびる。

「ってか、世界最速でないと困るぞ! この為に入手困難なアイテムや課金素材を湯水のごとく使ったんだ。頼む。頼むぞ……お、おぉ……」

 既に疲労困憊の蓮は短く息をしながら画面と睨めっこを繰り返していると、突如ロード中の画面が再度動き出し、宝箱が散乱した報酬画面へと切り替わる。

「こい……」

 ワンクリックで結果は表示される。


 このワンクリックで……

 蓮は目をつぶり、神に祈るように両手を合わせ。

「神様仏様……」

 報酬画面のロードが終了し、目をつぶりながらマウスに手を置き、そっとクリック。そして、待望のクリア時間が表示されるその瞬間。


『NEW RECORD! おめでとうございます! グリード様のお名前を殿堂へと記録しますか?』

 大音量で無機質な機械音声が鳴り響く。


 NEW RECORD? 

 ……しゃあ。よっしゃあ!

 NEW RECORD それは新たな世界新記録が樹立されたという事を意味する。


「おぉ……! しゃあっ!」

 蓮はその音声を耳にした瞬間、椅子から飛び降り、天に向かってガッツポーズを繰り出す。


「これでやっと全サーバーランキング1位……長かった……本当に」

 蓮が長年プレイしてきたこのゲームはもう、十数年も前に発売された古いゲーム。しかも、その当時。かなりの人気があり、攻略法も長い年月をかけ、確立されてきたゲームでもあった。

 俺が挑戦し続けたこのダンジョンは通称、ラストダンジョンとも呼ばれ、最難関ダンジョン。鬼畜ダンジョンとしても名高いステージだった。

 このステージの最速RTA記録は随分前に更新されて以来、今まで一度もその記録が破られなかった為、理論値記録だと思われてきたが……

 蓮は先ほどの走りを振り返る。

 あんなギミックが隠されていたなんて。

 そうして俺はそのギミックを活用し、自分独自の攻略法を確立し、ようやくタイムの縮める事に成功。


「これでこのゲームも最後か」

 先ほどの興奮は何処へやら。しんみりとした表情でその場に佇み、ゆっくりと自分の席へ戻ろうとしたその時。


「なっ……」

 蓮は大きく体勢を崩し、床に倒れ込む。


「な、なんだ……」

 はじめは軽い眩暈かと思い、近くにあった物を頼りに立とうと思った蓮だったが、上手く立てず再度床に衝突する。


「くっ……」

 手が思うように動かない。なんか、力が抜けていくような感覚というか。

 これまでに経験した事のない症状に驚きを隠せない蓮。


 手だけじゃない……体全体が痺れて、思うように動かなくなってきた。

 これって……やばい。早く救急車を……


「だれ……か……」

 精一杯の力で叫ぶが、虫が鳴くよりも小さい声しか出ない。


 駄目だ。声も……

 とうとう小さな声さえも出せなくなり、視界まで曇ってきた蓮。


 世界記録出したかと思ったらすぐこれかよ。

 思考までもが危うい状況になってきても蓮は考える事を止めず、これまでの事を思い返す。


 まぁ、ここ最近碌な睡眠取ってねぇし自業自得か。

 そして、想いは親へ。


 ……親には迷惑かけたな。二十歳にもなって仕事もせず、ゲームばっかやってきた俺だ。

 人間関係に嫌気がさしていた学生時代。ゲームに逃げ、碌に就活どころか、バイトすらやらなかった。


 もしかしたら、俺がいなくなって清々するって言ってるかもな。

 症状が深刻化し、もう厳しいだろうなと本能的に理解する蓮。


 あぁ、これで終わりか。

 そして、最後に蓮が思った事。それは……


 つまんない人生だったが、唯一、あのゲームに会えたことだけは良かったと思える。

 まだやりたかったな。ブレイブダンジョンクエスト。


 冥利蓮。ブレイブダンジョンクエストでの別名、グリード。

 数多くのダンジョンでNEW RECORDをたたき出し、ブレイブダンジョンクエスト界では神として称えられていたほどに強く、そして上手かった存在。


 そんなブレイブダンジョンクエスト元RTA王者は誰にも看取られる事無く、21歳という若い歳でこの世を去った……はずだった。


~~~

「ここは……どこだ?」

 先ほどまで自室で倒れ込んでいたはずの冥利蓮の目の前に広がるのは、活気あふれる街の光景。


「安いよ安いよ! 今朝取れた新鮮な物ばかりだよ!」

「新しい武器が入荷したよ! ダンジョンに行く前にどうだい!」

「おい、誰かメルミンダンジョンに一緒に行ってくれる……」


 おいおい。一体どうなってるんだ……

 明らかに日本とは思えない街並みに、聞きなれない単語。いや、言ってる事は分かるんだが。

 蓮はボケっとその場に立ち尽くしながら状況把握に努め始める。


 俺って……死んだのか?

 もし、仮に死んでいなかったとしよう。それなら俺は今、病院にいるはずだ。

 しかし、明らかに病院とかけ離れた場所いる今現在の状況をどう説明するんだ?

 もしかして、新手のドッキリか?

 数々の状況を考えるが、やはり一番ピンとくるのは。


 ……転生と言うやつでは?

 もうお馴染みの転生。蓮も人並みには小説や漫画が好きだったため、今自分が置かれている状況を瞬時に理解した。


 それにな……

「明らかに異世界ですって格好の奴らが……うん?」

 その時、蓮の目にある人物達が映る。

 あれは……

 蓮が思わず見てしまった理由。


「……まさかな」

 蓮の奥底から湧き上がる興奮。


 見覚えのある服装。そして、よくよく町のあちこちを見てみると、俺が知っているあのゲームと類似する点が多々ある。


 もしかしたら。いや、そうであってほしいという感情の元、蓮はひどく興奮した様子で近くにいた人に話しかける。


「あの!」

「うん? どうしたんだい?」

「この町の名前って何ですか!」

「ははっ! そんな事も知らずにこの町に出稼ぎにきたんかい?」

 話しかけた老人は大笑いし、蓮の肩に手を乗せ。

「ほら。あれを見てごらん」

「あれ?」

 老人が指さす方を目にする。

 するとそこには大きな文字で一言。


「あ、あぁ……」

 蓮の目からは大粒の涙。

「おいおい。泣くほど嬉しいのかい?」

「えぇ、とても……」

 蓮が不気味な程の笑みを浮かべ、涙する訳はただ一つ。


 だって……この世界に来れたんだからな!

 生前、蓮が文字通り、死ぬ気でプレイした伝説のダンジョンRTAゲーム。


『ブレイブダンジョンクエスト』

 知る人ぞ知る玄人向けのRTAゲームとして有名で、蓮も青春をほとんど全て捧げたと言っても過言では無いほどにプレイしつくしたゲームだ。


 さっきは冒険者らしき人物たちの格好を見て、ブレイブダンジョンクエストに出てきた装備に似てるなって思っただけだったけど、あの看板を目にした瞬間に、疑いが確信に。


 そんな、蓮の目に映る看板にはこう書かれていた。


『ブレイブタウンへようこそ』と。


 ブレイブタウン――ブレイブダンジョンクエストに登場する最初の町。ブレイブダンジョンをプレイするプレイヤーなら誰もが最初に訪れる場所になっており、序盤から終盤まで大変お世話になる町でもあった。


 ブレイブタウンにいるって事は、俺もプレイヤーの一人に選ばれているはず。


 蓮はニヤリと深い笑みを浮かべ、プレイヤーとしての最初の通過儀礼。


「ステータス、オープン」

 自身のステータス確認へと移ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

処理中です...