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第二章
第十六話 本音
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俯くワタルの顔を覗き込むように、和寿が見てくる。そして、ニヤッと笑ってから、
「何だよ、ワタル。下向いちゃって。オレがかっこいいからって、照れちゃってるのか? ワタルくん、可愛いね」
からかわれるように言われて、ワタルは、つい顔を上げた。そして、赤面したままで、小さく言った。
「違う……よ?」
何故か疑問形になってしまった。和寿は笑い出し、
「何だ、それ。面白いな、おまえ」
「えっと…じゃあ、言い直す。違います」
「違いませんね。オレはそう思ってる」
「自信過剰だね。そんな風だと、その内に南さんに嫌われちゃうよ」
南さん、と言う時、声が揺れてしまった。和寿はその名前を聞くと、急に表情を曇らせて、
「由紀、か。いや。その内、じゃなくて、もしかしたら、もう嫌われてるかもしれないよ。っていうか、それならそれで仕方ないって思ってる、っていうのかな」
その深刻そうな表情に、ワタルは、
「そんな。冗談で言ったんだよ。冗談。ごめん。僕がいけなかったです」
あわてて取り繕おうとしたが、和寿の表情は変わらない。
「前にさ、中村先生に言われたじゃん。伴奏断った後、絶対気まずいよねって。本当にさ、気まずくなるもんだね。前みたいに、気軽に声掛けたり出来ないんだよな、やっぱり。夏の発表会だってさ、何となく連絡しにくかったからってのもあるんだよ。
あれ? オレ、何でこんなことをおまえに語ってるんだ? ごめん。もう、彼女の話、しません」
「違う。僕が彼女の名前を出したからこうなったんだよ? 悪いのは僕です。冗談なんか言って、ごめん。反省してます」
頭を下げながら言うワタルに、和寿は天井を仰ぎながら、「あーあ」と言った。ワタルは、首を傾げて、「和寿?」と、名前を呼んだ。が、和寿は、ワタルの声が耳に入っていないようだった。
「だけどさ、オレは後悔してるわけじゃないんだ。ワタルと組んだからこそ、今日の試験、今までで一番いい演奏が出来たんだから。オレは正しかった」
ワタルに言うというよりは、自分に言い聞かせているみたいだった。
和寿は姿勢を正すと立ち上がり、バイオリンケースを肩に掛けた。ワタルが見上げると、和寿は無理矢理のように微笑んで、
「今日はここで解散しよう」
「うん。お疲れ様。今日の和寿、すごくかっこよかったよ」
つい、本当の気持ちを告げてしまった。ワタルは、しまった、と思い、何とかごまかそう、と思案して、
「あ、えっと、バイオリン弾いてる時、だよ?」
「はい、わかりました。オレはやっぱりかっこいいんだよな」
そこで、ようやく和寿の表情が、本当に和んだ。ワタルは、応とも否とも答えられず、和寿から視線を外した。和寿は、一瞬真顔になってワタルを見つめてきたが、
「ワタルは、本当に可愛いな。じゃあ、また」
ワタルを慈しむかのような表情でそう言うと、和寿は軽く手を振って食堂を出て行った。その姿を目で追いながら、ワタルは、うっかり口にしてしまった言葉を思い出して、頭の中で、「どうしよう」を繰り返していた。
「何だよ、ワタル。下向いちゃって。オレがかっこいいからって、照れちゃってるのか? ワタルくん、可愛いね」
からかわれるように言われて、ワタルは、つい顔を上げた。そして、赤面したままで、小さく言った。
「違う……よ?」
何故か疑問形になってしまった。和寿は笑い出し、
「何だ、それ。面白いな、おまえ」
「えっと…じゃあ、言い直す。違います」
「違いませんね。オレはそう思ってる」
「自信過剰だね。そんな風だと、その内に南さんに嫌われちゃうよ」
南さん、と言う時、声が揺れてしまった。和寿はその名前を聞くと、急に表情を曇らせて、
「由紀、か。いや。その内、じゃなくて、もしかしたら、もう嫌われてるかもしれないよ。っていうか、それならそれで仕方ないって思ってる、っていうのかな」
その深刻そうな表情に、ワタルは、
「そんな。冗談で言ったんだよ。冗談。ごめん。僕がいけなかったです」
あわてて取り繕おうとしたが、和寿の表情は変わらない。
「前にさ、中村先生に言われたじゃん。伴奏断った後、絶対気まずいよねって。本当にさ、気まずくなるもんだね。前みたいに、気軽に声掛けたり出来ないんだよな、やっぱり。夏の発表会だってさ、何となく連絡しにくかったからってのもあるんだよ。
あれ? オレ、何でこんなことをおまえに語ってるんだ? ごめん。もう、彼女の話、しません」
「違う。僕が彼女の名前を出したからこうなったんだよ? 悪いのは僕です。冗談なんか言って、ごめん。反省してます」
頭を下げながら言うワタルに、和寿は天井を仰ぎながら、「あーあ」と言った。ワタルは、首を傾げて、「和寿?」と、名前を呼んだ。が、和寿は、ワタルの声が耳に入っていないようだった。
「だけどさ、オレは後悔してるわけじゃないんだ。ワタルと組んだからこそ、今日の試験、今までで一番いい演奏が出来たんだから。オレは正しかった」
ワタルに言うというよりは、自分に言い聞かせているみたいだった。
和寿は姿勢を正すと立ち上がり、バイオリンケースを肩に掛けた。ワタルが見上げると、和寿は無理矢理のように微笑んで、
「今日はここで解散しよう」
「うん。お疲れ様。今日の和寿、すごくかっこよかったよ」
つい、本当の気持ちを告げてしまった。ワタルは、しまった、と思い、何とかごまかそう、と思案して、
「あ、えっと、バイオリン弾いてる時、だよ?」
「はい、わかりました。オレはやっぱりかっこいいんだよな」
そこで、ようやく和寿の表情が、本当に和んだ。ワタルは、応とも否とも答えられず、和寿から視線を外した。和寿は、一瞬真顔になってワタルを見つめてきたが、
「ワタルは、本当に可愛いな。じゃあ、また」
ワタルを慈しむかのような表情でそう言うと、和寿は軽く手を振って食堂を出て行った。その姿を目で追いながら、ワタルは、うっかり口にしてしまった言葉を思い出して、頭の中で、「どうしよう」を繰り返していた。
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