16 / 28
第16話 挨拶
しおりを挟む
「へー。すごいね。こんな家があったんだ」
芽衣子が、本当に驚いたような顔をして言った。すると、悠花が、自分の手柄ででもあるかのように得意そうに、「そうでしょ。すごいの」と言った。
私は、はーっと息を吐き出してから、門を開けた。庭に何となく目をやると、木のそばに誰かがいた。胸がどきっとしたが、よく見ると母がゆるいワンピースを着て立っているだけだった。いちいち驚かせる人だ、と思った。
玄関を開けると、「ただいま」と言った。祖母が出て来て、
「薫ちゃん。お帰り。それから、二人とも、よく来てくれたわね。制服姿の子がこの家に来るなんて十年ぶりだから、何だかウキウキしちゃって」
十年ぶり。つまり、よっちゃんが亡くなった年ということか。
「おばあちゃん。左が皆川さん。右が楠瀬さん」
「お邪魔します」
二人が声を合わせて祖母に挨拶する。祖母は笑顔で、中にいざなった。祖母について歩き出した悠花に声を掛けた。
「悠花。ケーキ」
悠花は振り向くと、「あ、そうだった」と言い、私にケーキを渡した。そのまま台所に持って行く。遅れて祖母が台所に来て、
「良さそうな子たちね」
私は曖昧に笑むと、
「悪くはないと思います」
「安心したわ。薫ちゃん、ここに来たばっかりだから、大丈夫かしらって思ってて」
「ありがとう。私は大丈夫。それより、母さんかな」
「桐江ね。ま、仕方ないわよね。急には良くならないでしょう」
話しながら、準備をした。
居間に行くと、悠花は部屋を見回していた。芽衣子は、そんな悠花を面白そうに見ていた。
「はい。どうぞ」
悠花は、声を掛けられて、初めて私がいたことに気が付いたようだ。驚いた顔をして私を見た後、
「薫ちゃん。いつの間に。ああ。でも、本当にすごいわ、このお部屋。私、こういう所に来たことなくって、全部珍しくって」
「私も、最初はそうだった。もう慣れてきたけど」
「薫、お嬢様なんだね」
芽衣子が言った。私はすぐに首を振って、
「違う。この前まで、狭いアパートで暮らしてたんだから」
答えながらケーキやお茶を配ると、悠花の目が輝いた。そして、私を見ると、
「食べていい?」
「どうぞ」
「じゃ、いただきまーす」
ものすごく嬉しそうな顔をしている。そして、「おいしい」と何度も言っていた。
お茶が終わると、私は、
「おばあちゃん。ちょっと、この人たちをあちこち連れてってもいいかな」
「いいわよ。ま、個人の部屋は、薫ちゃんの部屋だけにしておいてくれれば」
「それはもちろん」
二人とともに、家の中を歩き回った。そして、私の部屋に辿り着いた。私は、いつもの通り、「お邪魔します」と声を掛けてから部屋に入った。それを聞いた二人も、「お邪魔します」と言って入ってきた。中に入るとすぐに悠花が訊いた。
「お邪魔します?」
「ああ。なんとなく。この部屋、私の叔母さんが使ってた部屋だから」
「そうなんだ。叔母さんは今は?」
「死んだ」
二人が驚いたような顔をした。それはそうだろう。
軽く説明しようとしたその時、壁のそばに置いた鞄が、勝手に倒れた。鞄を起こすと、またパタンと倒れた。私は溜息をつくと、
「ね。こういうことだよ」
「薫。こういうことって、何?」
芽衣子が、鞄を見つめながら言う。私は頷き、
「こういうこと。時々、彼女は私に何か訴えてくるんだ。でも、今のはきっと、『こんにちは』って挨拶してくれたんじゃないかな」
鞄は、倒したままにしておくことにした。
芽衣子が、本当に驚いたような顔をして言った。すると、悠花が、自分の手柄ででもあるかのように得意そうに、「そうでしょ。すごいの」と言った。
私は、はーっと息を吐き出してから、門を開けた。庭に何となく目をやると、木のそばに誰かがいた。胸がどきっとしたが、よく見ると母がゆるいワンピースを着て立っているだけだった。いちいち驚かせる人だ、と思った。
玄関を開けると、「ただいま」と言った。祖母が出て来て、
「薫ちゃん。お帰り。それから、二人とも、よく来てくれたわね。制服姿の子がこの家に来るなんて十年ぶりだから、何だかウキウキしちゃって」
十年ぶり。つまり、よっちゃんが亡くなった年ということか。
「おばあちゃん。左が皆川さん。右が楠瀬さん」
「お邪魔します」
二人が声を合わせて祖母に挨拶する。祖母は笑顔で、中にいざなった。祖母について歩き出した悠花に声を掛けた。
「悠花。ケーキ」
悠花は振り向くと、「あ、そうだった」と言い、私にケーキを渡した。そのまま台所に持って行く。遅れて祖母が台所に来て、
「良さそうな子たちね」
私は曖昧に笑むと、
「悪くはないと思います」
「安心したわ。薫ちゃん、ここに来たばっかりだから、大丈夫かしらって思ってて」
「ありがとう。私は大丈夫。それより、母さんかな」
「桐江ね。ま、仕方ないわよね。急には良くならないでしょう」
話しながら、準備をした。
居間に行くと、悠花は部屋を見回していた。芽衣子は、そんな悠花を面白そうに見ていた。
「はい。どうぞ」
悠花は、声を掛けられて、初めて私がいたことに気が付いたようだ。驚いた顔をして私を見た後、
「薫ちゃん。いつの間に。ああ。でも、本当にすごいわ、このお部屋。私、こういう所に来たことなくって、全部珍しくって」
「私も、最初はそうだった。もう慣れてきたけど」
「薫、お嬢様なんだね」
芽衣子が言った。私はすぐに首を振って、
「違う。この前まで、狭いアパートで暮らしてたんだから」
答えながらケーキやお茶を配ると、悠花の目が輝いた。そして、私を見ると、
「食べていい?」
「どうぞ」
「じゃ、いただきまーす」
ものすごく嬉しそうな顔をしている。そして、「おいしい」と何度も言っていた。
お茶が終わると、私は、
「おばあちゃん。ちょっと、この人たちをあちこち連れてってもいいかな」
「いいわよ。ま、個人の部屋は、薫ちゃんの部屋だけにしておいてくれれば」
「それはもちろん」
二人とともに、家の中を歩き回った。そして、私の部屋に辿り着いた。私は、いつもの通り、「お邪魔します」と声を掛けてから部屋に入った。それを聞いた二人も、「お邪魔します」と言って入ってきた。中に入るとすぐに悠花が訊いた。
「お邪魔します?」
「ああ。なんとなく。この部屋、私の叔母さんが使ってた部屋だから」
「そうなんだ。叔母さんは今は?」
「死んだ」
二人が驚いたような顔をした。それはそうだろう。
軽く説明しようとしたその時、壁のそばに置いた鞄が、勝手に倒れた。鞄を起こすと、またパタンと倒れた。私は溜息をつくと、
「ね。こういうことだよ」
「薫。こういうことって、何?」
芽衣子が、鞄を見つめながら言う。私は頷き、
「こういうこと。時々、彼女は私に何か訴えてくるんだ。でも、今のはきっと、『こんにちは』って挨拶してくれたんじゃないかな」
鞄は、倒したままにしておくことにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる