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1.婚約破棄
しおりを挟む1.婚約破棄
いつものように、騎士団の訓練のために、訓練場の武器倉庫に足を踏み入れたときだった。
「シャーロット、少し時間いいかい?」
騎士団長のアルフレッドに、後ろから声をかけられた。
彼の青い目は、いつになく緊張をした光が宿っていて、長い脚をそわそわと動かし、落ち着かない様子。
なんだか、嫌な予感はした。
「いいけど、今から?朝の剣術の訓練の準備をしないといけないんだけど。」
私は、倉庫に並べられた、剣やこん棒などを手に取り、素っ気なく返事をした。
内心、心はざわざわと騒いでいる。
「今がいいんだ。まだ誰も来ていないから、ここでいい。耳だけ貸してくれるか?」
アルフレッドは相当焦っているようで、私の前に回り込み、もはや話しだしそうな体勢をとった。
仕方なく持っていた剣を置いて、アルフレッドの話を聞くように、頷いて了承する。
「シャーロット、こんなところで話すことではないけど、この件はできるだけ早く、はっきりとしておいたほうがいいと思うんだ。」
「この件?」
「僕たちの婚約の話だよ。実を言うとね、僕は、守るべき人を見つけたんだ。彼女は可憐で、小柄、君のように剣など使えるわけがなく、いつ、だれに壊されてしまうかわからない危うい花なんだ。だから、わかるだろう?婚約は破棄してほしい。」
アルフレッドは話したいことを一気に話すと、少し落ち着いて、喉をごくりと鳴らした。
「婚約破棄?」
私とアルフレッドの婚約は、幼い時にお互いに両親が決めたこと。
だけど、お互いにそれを受け入れて、ときには愛の言葉のようなものを、私にささやいたこともあったはずだ。
〝シャーロット、君は強く、美しい。私はあなたのようになりたいと頑張っている。”
剣を振り、がむしゃらに稽古をしていたときの、彼の言葉を思い浮かべてしまう。
だって、私は密かに、彼に頼っている部分や尊敬している部分がある。
アルフレッドと結婚をしようといつの日から決めていたのだ。
それなのに、こんな、訓練場の倉庫で、簡単に婚約破棄をされている。
「わかった。そのように母様には伝えておく。」
違う!こんなことを言いたいわけではないのに、私の口は勝手に動き、彼に告げてしまう。
「良かった。こんなにあっさりしているなんて、やっぱり君も婚約は意に反したものだったんだね。」
アルフレッドは、拍子抜けしたように肩を落とし、次には、ほっと安堵した表情になり、190センチある長身をそり返すように咳払いをした。
「もう少し、僕にすがってくれるかもしれないと思ったりした僕がバカだったよ。君は強い。だから、一人でも大丈夫だよ。」
アルフレッドは気を取り直してそう言うと、私の話をそれ以上は聞かずに、「さあ、訓練の準備をしないとな。」と口笛を吹きながら行ってしまう。
私はずいぶん、彼にとって強い存在に見られているようだった。
彼が好きなのだ、剣など一生持たず、か弱く、か細く、可憐で美しい女だった。
そう、私はなんとなく気づいていた。アルフレッドのタイプは、私の真逆の女であることを。
確かに私は、人に頼るということができない。加えて、負けず嫌いで、人に弱いところを見せることができない。
3歳の頃、父が戦争で死んでしまったときから、私は父のかわりになろうと、死ぬ気で剣の練習をやってきた。
誰かに弱いところを見せてしまえば、自分という牙城が崩れてしまうようで怖く感じるのだ。
でも、でも。
アルフレッドには、弱いところを少しは見せていたつもりだった。
例えば、訓練中に足をくじいてしまったときは、進んでアルフレッドを選び、医務室に連れていってもらった。
騎士団兵への剣術の訓練法についても、時々は相談をしていた。
両家の食事会のときには、苦手なピーマンがでてきたときには、アルフレッドに秘密を打ち明け、ピーマンを代わりに食べてもらったこともある。
私はアルフレッドを夫に認めていた。
だからこそ、騎士団長の選考会のときも、わざと彼に負け、私は副隊長にとどまったのだ。
アルフレッドは未来の夫だからこそ、私なりに彼を立ててきた。
それなのに、アルフレッドには全く伝わっていなかったようだ。
彼にとっては、私は弱点のない、強い女、鉄の心を持つ女で、一人でも生きいける女。だから、捨てても良い女なのだ。
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